見出し画像

現世利益|2022-07-13

今日は、うでパスタが書きます。

安倍晋三・元首相を射殺した容疑者が宗教団体である統一教会への恨みを供述しているということから、世はにわかにカルトをめぐる論争で賑わしくなってきました。
古めの人間である私などからすると90年代はオウム真理教による紛う方ない無差別テロをピークとする「カルトの時代」で、ネットでも多くの証言があるように大学にはサークルや研究会に身をやつしたリクルーターが潜入しており、「自己啓発セミナー」のなかにもそういったものが紛れ込んでいたというような話を聞いております。

しかし90年代というのはたしかにひとびとが精神世界に惹かれうる素地を提供していたようにも思います。いわゆる平成バブルが崩壊し、有能で将来に希望を抱いていたようなひと、つまりは大学生から大卒の社会人を中心としたいわゆる中間層を形成するはずだったひとたちが大きな約束を反故にされ、また別の「約束」を求めた時代であったといってもいいと思います。
僕は大学へ入学するためにそのちょうど真ん中あたりに東京へ出てきたわけですが、当時はとにかく朝のラッシュ時に電車へ飛び込んで死ぬ中年男性が多いということで、本当にダイヤが毎日のように混乱を来しているという、そういう嫌な空気を覚えています。

僕の周りは決して何を代表するようなサンプルにもならないひとびとで常に満たされているわけですが、それは当時もそうで、しかしそれにしても「早稲田大学に来たわりには就職決まらない先輩多くね?」という気がしましたし(結局私も決まりませんでした)、まぁまぁフリーターみたいな生き方もまだギリギリ選択肢には入っていた時代なので「とりあえずバイトから」といって働き始めるひとも少なくなかった(私もそうでした)のですが、しかしそれでも非正規雇用のありかたが社会問題になるのはまだそのあとのことで、社会保険はないのが当たり前という状況を見るにつけ「これはこの世代が40代になる頃には世の中は大変なことになる、この大きな社会不安が生み出すものは、端的には麻原彰晃かアドルフ・ヒトラーに違いない」と思っていたので私は時代が熱狂をもって迎えた安倍晋三という宰相のことをずっと強い警戒心をもって見ておりました。
ところで安倍晋三が首相の座に返り咲いた頃の「日本を取り戻す」というスローガンの、主語はいったいなんだったのでしょうか。この手の「何が言いたいのか分からない」言辞を弄して論理的な追求を逃れつづけたのが安倍晋三という政治家であったことは、どのような死によっても修正されるべきではありません。

オウム真理教はとにかくコトが大きかっただけに様々な分析が加えられ、またそれにも関わらず権力へ接近することができなかったためタブー視されることがなく、何が起こったのかについて私たちの知見がおおいに高められる希有なケースとなりました。
多くのひとが驚き、おそらくいまだに納得いっていないことのひとつに「なぜあれほど優秀なリーダーたちがバカげたファンタジーのような教義にコロッと騙され入信したのか」というものがあると思うのですが、これについて私は「本人たちは教団がデタラメであることを理解していたが、一般社会でやっていくよりもそこでポジションを占める方がまだ目があるという打算の結果、素人集団に過ぎない教団でその辣腕を振るうことを選んだ」という説明がもっともしっくりくると思っております。これは、その時代の空気を実際に吸って大人になった私自身の実感です。関西の高校から現役で東大の理科いくつだかへ進学した同級生も、里帰りした機会にたまたま電車で乗り合わせましたら「俺もアプローチがあればコロッと入っていただろうなと思うぐらい、この先のビジョンに手応えを感じられない。非常な危うさを感じる」というようなことを言っていたのを覚えています。

最近の出来事にまつわり、統一教会という団体のことを知るにつれていまさら脅威を覚えているひとも多いと思いますが、その実態は海外では純然たるカルト教団の指定を受けている創価学会が可愛らしく思えてくるレベルです。
創価学会については「政教分離の原則から、公明党との関係が糺されなければならないのではないか?」と漠然とした不快感を覚えている方がわりあい多いのではないかと思っていますが、私自身は創価学会については特に好きでもない代わり、充分に公然なので然るべく警戒を怠りなければよしという考えを持っています。
私は四国に住んでいた祖母の妹ふたりがともに創価学会の支部の重鎮で、なおかつ生命保険の外交員だったのでそのふたつのペルソナを両輪にしてどちらでも爆発的な成功を収めていたという話を聞いて育ったこともあり、もともと創価学会を「その程度の団体」と甘く見ているところもあるかもしれません。うちにも祖父が死ぬまで聖教新聞と公明新聞が無料で届いていましたし、おかげさまで生命保険の勧誘なんかはすべて「身内から買ってますので」で断っておりました。
ふたりの大叔母はあまり宗教の話を私たちの前ではしませんでしたが、実の弟にあたる大叔父がガンを患ったときに電話してきて「ミキプルーンがよく効く」みたいな話をして本人から「殺すぞ」と言われたこともあると聞いていますが、まぁその程度です。

ここから先は

1,515字

¥ 100

期間限定!PayPayで支払うと抽選でお得

九段下・Biblioteque de KINOKOはみなさんのご支援で成り立っているわけではなく、私たちの血のにじむような労働によってその費用がまかなわれています。サポートをよろしくお願いいたします。