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自作小説 #1 お題「宇宙の果てには何があるのでしょう」で始まり、「世界は限りなく優しい」で終わる物語を書いて欲しいです。と言われた結果

おはようございます。あるいはこんにちは。もしかしたらこんばんは。とある蛹です。

はじめに

みなさんはTwitterでよく見かけるアプリメーカーのひとつに、「あなたに書いて欲しい物語」というものがあるのを知っていますか?

始まりと終わりの1文、そして文字数だけが決められていて、ランダムで変わるそれらのお題に合わせて物語を作るというものです。
最近私の周りでそれがちょっとしたブームになり、私も挑戦したのです……。

ですが!

ほんの暇つぶしに、楽しいなぁと思いながら書き進めていたら、あっという間に指定された文字数を超え、ツイートすると29個が連なる長い長いツリーを作りあげてしまう……という衝撃の事態に陥ってしまいました。

さすがにこれをTwitterに放流するわけにはいかない……そこで、今回noteで発信しようと思い至ったわけです。

それでは、すごい作品ではありませんが、興味のある方は読んでやってくださいm(_ _)m

自作小説

お題「宇宙の果てには何があるのでしょう」から始まり、「世界は限りなく優しい」で終わる物語

宇宙の果てには何があるのでしょう。
耳朶を打つ女性の柔らかな声。いつの間にか再生していた音楽が終わり、イヤホンからは知らない動画の音声が垂れ流されていた。
勉強の合間に、少しだけ休憩するつもりが気付かないうちに寝てしまっていたようだ。机に伏せていた身体を起こし、変な姿勢のまま固定してしまった痛みに顔を歪めつつ、左耳からイヤホンを抜く。
新鮮な空気が入り込む清々しさと共に、右から偏って聞こえる声に違和感を覚えた。節々が痛む身体を慎重に伸ばしつつ、右耳からもイヤホンを引っこ抜く。それによってふつりと聞こえなくなった声は染み込むような声色で心地よかったが、長時間イヤホンをしていた気持ち悪さを我慢してまで聴きたいものでもない。

しかし、掴みの一声であろう台詞はなぜか耳に残った。
宇宙の果て……そんなものを想像したことはなかった。宇宙は限りなく広く、そして暗く、そこには永遠の深淵があるのみで、ちっぽけな学生に過ぎない私がその果てについて考えるのは無駄な気がしていたからだ。

今の私の世界は限りなく狭い。井戸の中の蛙であることを自覚しているが、大海へ出ていく方法がわからない。井戸の中が世界の全てだと思っている蛙の方が幸せだとすら思う。広い世界を想像できるが故に、焦りに支配されてしまっている。
私は何が好きなんだろう。何がしたいんだろう。何ができるんだろう。
私がやりがいを持ってできることを、私にしかできない特別なことを、夢を見つけて、心が動かされる瞬間を、ずっとずっと求めている。

人には様々な扉が開かれている。やろうと思ってできないことはきっとない。それは望ましいことではあるが、だからこそ正しい選択がわからない。
なんでもできるという自由は、綿で鼻を塞がれているかのような息苦しさと共にある。
自由は私の未来を保証してはくれないし、私の居場所を示してもくれない。

大海へ出ていくための登竜門はここだと直感していた。方法がわからない、というのは言葉を補って“自ら決定的な1歩を踏み出す”方法がわからない、というのが正しい。私が自分の進む方向を定めること。それだけのことがどうしてもできない。踏み出した足を受け止めてくれる地面はあるのかと、不安で不安で仕方がない。

こんな私が宇宙という広大な空間に思考を飛ばすのは分不相応ではないか、と思う。それも果てについてだ。自分のことすら満足に理解できていないのに、そんな大きなスケールで見ることなどできやしない。
好奇心を持って解き明かそうとする顔も知らない誰かに、憧憬を抱くと共に嫉妬する。未知に情熱を燃やすことができる人は凄い。私にはない熱だ。枯渇しているエネルギーだ。

今こうして頑張っている勉強も、何のために頑張っているのかと考え出すと虚しくなる。
机の上にある開かれたノート、押さえていた手を失って閉じている教科書、問題を解きながら無造作に手ではらった結果散らばったままの消しカス、無意識のうちに倒れ込んだ身体で雑に退けられたシャーペンと消しゴム……そういった努力の痕跡が一気に色褪せて見えて、思わず目を伏せた。
目的も見つけられていないのに、宙ぶらりんの自分を許してあげるために勉強する。この努力に自分が納得できる指向性を持たせることは、きっとまだ難しい。

机から落ちそうで落ちない絶妙なバランスを保ったスマホは、ずっと映像を流し続けている。挿しっぱなしのイヤホンは机に広がったまま微動だにせず、ぼんやりと眺めていると静かな物体でしかない。でも耳に近付けると薄ら音が聞こえるのだ。イヤホンとはそういうもので、行動に移さなくてもそれはほぼ約束されている。最初からそう決められて、明確で絶対なる価値を持って作り出されたこの無機物にも嫉妬してしまいそうになる。

誰にも聞こえない音が自慢げにイヤホンの中で再生されていることが私にだけわかる、静寂そのものの部屋に、コンコン、とノックの音が響いた。
靄がかかったようだった頭が一気にクリアになる。悪い事をしていた訳ではないのに心臓がどくどくと音を立てた。咄嗟にシャーペンを握りしめながら、片手で教科書を荒々しく捲る。
「な、なに?」
つい勉強していたと取り繕ってしまう浅ましさを感じながら返事をすると、ドアが開かれひょこっと頭が覗く。
「お姉ちゃん、勉強頑張ってる?」
そういって入ってきたのは、椅子に座った私と同じくらいの位置にポニーテールの頭がくる3つ離れた妹だ。
もしも彼女の方が姉だったのなら、覗き込んだノートに書かれた内容と教科書の内容が違うということに気付いたかもしれない。ほんの少し安堵しながら、自然体を心掛けて教科書を捲り、こっそりノートの内容に合わせておく。
「うん」
「そっかぁ、偉いね!すごく難しそう」
「そうでもないよ」
シャーペンの芯が出ていないことに気付いたので、そっと数回ノックする。
「邪魔になっちゃうね。もうそろそろご飯だって言いにきたの。頑張って!」
ふわりとはにかむ妹に、心がじわりと温まる。罪悪感が滲まないように意識しつつ、同じように笑顔を返した。
「ありがと」

彼女が部屋を出ていってから、未だに画面が明るいままのスマホが鮮やかに目についた。慌てて動画を止め、電源を切る。イヤホンも抜いてケースにしまう。
勉強中だということにしてしまったのだ、嘘を本当にしなくてはならない。私は改めて机に向き直った。
さっきまでのモヤモヤした気持ちは、妹の笑顔に癒されたからなのかするべきことができたからなのかは不明だが、嘘のように鎮まっていた。

だんだん集中力が保てなくなってきたタイミングで、またノックの音がする。
「どうぞ」
今度は動揺せずに返事をすると、顔を覗かせたのは母だった。
「ご飯できたから呼びにきたよ」
もうそろそろ、と妹は言っていたが彼女が部屋に来てから1時間ほど経っていた。ただ様子を見に来たかっただけなのかもしれない。
「わかった。わざわざありがとう」
シャーペンの芯をトン、と机に軽く当てて収め、消しゴムと一緒に筆箱に仕舞う。
ノートと教科書を閉じながらふとドアへ顔を向けると、母はじっとこちらを見つめていた。
「ど、どうしたの?」
「んーん。最近頑張ってるね。今日はあんたの好きなハンバーグにしたからね」
素っ気ない言い方だが最後ににこりと微笑むと頬にえくぼが出来て雰囲気が和らぐ。私は母のこの笑顔が好きだった。

やった、と笑みを浮かべて母と一緒に1階へ降り、ダイニングテーブルに並んだ好物に更に頬を緩ませる。すでに着席していた妹に急かされながら椅子に滑り込み、みんなで夕食を食べる。父はまだ仕事から帰っていないので、後で余りを冷蔵庫に入れておくらしい。
いつもは面倒くさいと言ってなかなか作ってくれないハンバーグがお皿に山を作っていた。心の奥まで染み込んでくるような、愛情のこもった優しい母の味。お店のものに比べれば焼きすぎて固かったり形が不格好だったりするけれど、これこそ私の好きなハンバーグだった。


寝る準備を終えて、また机に向かう。
無心でペンを動かし数時間が経った頃、コンコン、と控えめな音が鳴った。
「はい」
眠気を堪えてぽやぽやと返事をする。そっとドアが開かれて、入ってきたのは父だった。
「どうしたの?」
仕事から帰ったばかりなのかネクタイも外していないスーツ姿で、下がり眉な顔立ちを抜きにしても疲れた様子だった。

「いや…まだ勉強してるのかと思って」
最近あまり話していなかったためか、久しぶりに聞く父の声に若干ハッとさせられる。優しくゆっくり、独特なテンポで喋る父は身体に響く低音の持ち主だ。
「もう少ししたら寝るよ」
「そうか」
おしゃべりな性格ではない父はそう答えると視線を彷徨わせる。
「……それは?」
助け舟を出すつもりではないけれど、手に持った盆の存在を忘れているようだったので声をかける。湯気を立てるお茶が入った湯呑みが1つ。大方母がきっかけ作りに渡したのだろう。
「ああ、そう、これを渡しに来たんだ。母さんから」
「ありがとう」
話題が見つかって嬉しそうな顔をしたかと思えば、誤魔化すように表情を作ってお茶を手渡してくれる。不器用な父の姿に思わず笑みが溢れた。

手に湯呑みの熱がじわりと届き、そこから心も身体も解れるように感じた。
少し冷まそうと息を吹きかけていると、ぎこちなく父が口を開いた。
「最近…頑張りすぎてないか」
父がそんなことを口にするのは予想外で、思わず声が洩れた。
「えっ?」
「何を焦っているのかわからないが、無理をするなよ」
見透かしたような言葉だった。目的も夢もなく、勉強をひたすら頑張ることで不安を紛らわす私の様子に、見ていないようでいてちゃんと気付いていたのだと伝わる言葉だ。

「……勉強していた方が、楽なの」
言うつもりのなかった言葉が、自然と口から出ていた。
「別に止めるつもりはない。無理のない範囲で勉強もすればいい。……ただ、世界にはもっと色んなものがあるってことを言いたかったんだ」
言葉を探すように父は殊更ゆっくりと話す。
「父さんも母さんも、お前が幸せならそれでいいんだ。勉強は手段で、ゴールじゃない。……ゴールが見つからなくても、不安にならなくていい。ゆっくりでいいんだ。色んな経験をして、楽しく生きて、その先に掴めばいい。掴まなくてもいい。大事なのは常に“今”だよ」

語るように、父が珍しく長々と話したそれを説教とは思わなかった。偉そうだとも、綺麗事だとも思わず、ただまっすぐに言葉が心に届いた。
明確な答えを用意してくれた訳ではないのに、それは手の中の湯呑みよりも温かく、凝り固まった不安をすっと溶かす不思議な力を持っていた。
父が、こんなにも素直に愛をくれる人だとは思っていなかった。不器用で、少し気が弱くて、頼りにするのはいつも母の方で、柔らかい空気のような人だと思っていた。

「……うん」
私の小さな声にも透き通るような響きがあった。
父はそれを聞いていっとう優しく微笑んで、部屋を出ていった。

それからすぐに勉強をやめた。なんとなく、今日はもういいやとすんなり思うことができた。

ベッドに入って暗い天井を見つめていると、様々なことが浮かんで消える。
無邪気な妹のはにかんだ顔。全てを包み込むようなあったかい母の味と、くっきりと母の頬に浮かぶえくぼ。そして父がくれたまっすぐな愛情と、久しぶりに見た優しい優しい満面の笑み。

宇宙なんて壮大なことは私にはわからない。まして果てのことなんて、想像すらおこがましいような気がしてしまう。
でも、もっと小さな確信ならば持つことができる。私は今日気付いたのだ。私には大切にしているものがあって、私も大切にされている。だから少なくとも、私にとっては。

世界は限りなく優しい。

おわりに


ここに辿りついた皆様、最後まで読んでくださってありがとうございますm(*_ _)m

いかがでしたでしょうか?

本来これは1680字と指定されたお題だったのですが、4000字を超えてしまいました…笑

少しだけ主人公についてのお話を。
高校受験、大学受験、テスト期間、あるいはなんでもない日。成績優秀な子かもしれないし、落ちこぼれの子かもしれない。
どれだけ頑張っても尽きることの無い不安感は私にも経験があります。だれでも、いつでも将来への不安に駆られますよね。
だからあえて言及しませんでした。いろんなパターンから楽しんでいただけたらいいなと思います。

少しでもよかったなと感じてもらえたら嬉しいです。
自己満足ですが書き上げることができてホクホクの、とある蛹がお送りしました〜(*´▽`*)ノ))

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