現代2Pick技術論(後編)
本noteは下記の続きとなる。文中で用いられる言葉の定義については前編を参照いただきたい。
第3章 プレイ段階
Pick段階を終え、デッキの内容をしっかりと覚えたらいよいよ試合になる。分岐がほとんどないまま一方的な展開で勝つ・負ける試合もあるが、大体の試合では試合中に多くの分岐が発生し、自分や相手の取った選択肢によって試合内容が決まる。この内相手の取った選択肢についてはこちらからあまり干渉できないため、自分が100点に近い選択肢をいかに取り続けられるかについて日夜探求していくことが醍醐味だ。
この章では、私が重要であると考えているプレイ段階の技術についてまとめていく。
3-1 勝ち筋
2Pickで勝つための勝ち筋の通し方は2パターン存在する。それは、フィニッシャーを安着させることに照準を合わせるパターンと細い攻め札を針の穴を通すように決めるパターンだ。以下にそれぞれについて解説していく。
フィニッシャーを安着させることに照準を合わせるパターンは、フィニッシャーを安着させるまでの間に継続的に有利を広げていくようなプレイングが必要となる。基本的なプランにはなるが、進化権の使い方・打点の許容など相手との多くの駆け引きが発生する。特に、相手の動きに対するケアについては非常に重要だ。ケアできる部分はできるだけ全てケアを行う、つまり負け筋を減らすことが勝ち筋を通すことに繋がる。
細い攻め札を針の穴を通すように決めるパターンは、主に自分が不利である場面や、デッキに明確なフィニッシャーが取れていない時などに必要となる。このプランでは進化権や手札のカードを効率的に打点変換する重要性がある。ケアできる部分をあえてケアせず、ある程度の割り切りを行って自身の動きを通し切ることが勝ち筋を通すことに繋がる。
3-2 進化権
近代環境とは異なり、現代環境では能動的に進化権を使いリードを作り上げていくことが重要となる。そのためには、進化権の効果的な使い方を理解しておくべきだ。また、温存すべき場面では温存を行い、温存すべきでない場面では「もったいない」という意識をなくしてしっかりと進化権を使っていくべきだ。
進化権の使い方は主に3通りあり、それぞれについて説明を行う。
3-2-1 起点作り
1つ目は自分の盤面を強化し、打点レースにおいて優位性を築くための足掛かりとする方法だ。これは自分の盤面を形成しながら相手の盤面を除去を行うという最もシンプルかつ基本となる進化権の使い方だ。この方法で起点を作った後にさらに優位を拡大させ、フィニッシャーへ繋げていくことが勝ち筋として目指すべき方向性となる。
また、起点作りを行うタイミングについても重要となる。相手よりも先に起点を作りその起点を潰されないように立ち回れるのが最善であるが、相手も起点を作りたいと考えるのは当然だ。相手よりも効果的な起点を作れるか、相手に起点を作らせないような動きにできないかについて考えた上で起点を作る必要がある。
3-2-2 盤面除去
2つ目は相手の盤面を除去するために用いる方法だ。これは相手に主導権を握られている状態から自分に流れを引き寄せるための進化権の使い方となる。理想は相手の盤面を全て捌き切って自分の盤面が形成されていることだが、そうならないことが一般的だ。なので、この後の強い動きのために耐える目的となる進化権という認識を忘れずに持つべきだ。
また、この進化権の切り方は「切らされている」進化権であるため多用するべきでない。普段から多用しているということはクラスの特徴やPick段階の認識を間違えている可能性が非常に高いため、プレイ段階より前を見直す必要がある。
3-2-3 打点変換
3つ目はいわゆる「顔進化」のために用いる方法だ。これは進化権を2点分の打点として換算し、生み出した打点からリーサルを狙っていくための進化権の使い方となる。この方法は一般に攻めの強いクラスが得意とするもので、有利を優勢・勝勢へと持ち込む動きとなる。また、相手に押し込まれている際にワンチャンスの勝ち筋を通すための進化権の使い方ともなる。
ただしこの「顔進化」には大きなデメリットが存在する。それは、対面から想定以上の回復や除去が飛んできてしまい打点計算が合わなくなる可能性があること、対面が攻め合いに持ち込んできた際にこちら側よりも相手の攻めのほうが強く速度負けするかもしれないことだ。
回復や除去については、対面のクラスが今の環境でどの程度回復や除去を重視して取っているのかについて理解を深めた上で行えば解決しやすいだろう。ただしワンチャンスを通すための顔進化であればある程度の回復や除去を割り切る必要があり、細い攻めを通せるかどうかの勝負となってくる。
一方で攻め合いについては、これまでの相手の動きをもとに相手がどのような勝ち筋を見据えているかを探り、相手の想定される強い動きに対して進化権を今ここで切るべきかどうかについて考慮する必要がある。この判断を行うためには大局観が必要となり、様々な状況を経験することによって蓄積されたデータから答えを導き出すこととなる。
3-3 先攻・後攻
先攻・後攻それぞれに存在するメリット・デメリットを理解することで、デメリットを解消しメリットを活かしていくプレイングに繋がり、それが勝ちへの道筋となる。以下に先攻・後攻の特徴についてまとめる。
3-3-1 先攻
こちら側から能動的に動いていき、相手の対応を後手後手にしたところでフィニッシャーを押し付けてそのまま勝つ流れが理想的な動きとなる。しかし、攻めを強くするためや相手からの動きに対応するために有用である進化権が少ない。よって、今後の展開や現状を把握し吟味して進化権を使う必要がある。
また、ロングゲームとなった際、後攻よりもリソースが少ないためリソースの管理について繊細な感覚が求められる。リソース札を切ることは自分の動きが弱くなることに繋がるため、いかに動きの強さを落とさずにリソースを確保できるかを常に考えてプレイ方針を組み立てるべきだ。
3-3-2 後攻
先攻の動きに対して対応を行い、相手との差を少しずつ詰めていき最終的に有利を築いて勝ち筋を通し切る流れを作っていくことが重要となる。ロングゲームまで持ち込めば先攻に対してリソース勝負に持ち込んだり、カウンターを決めたりすることが可能になるので、相手からの攻めをいかにいなし、自分からの流れを作っていけるかにかかってくる。
3-4 マリガン
あまり重要視されることが少ないが、私が非常に重要だと考えるのがマリガンについてだ。マリガンの役割は「今後のゲーム展開を決定づける」ものであり、マリガンを軽視するということは今後の展望を考えていないことと同義だ。今一度マリガンについて十分に見直していただきたい。
マリガンは、1)序盤のマナパスを防ぐ、2)中盤に確実に使いたいカードを確保する、3)キーカードを探しに行くという3つの目的に沿って行う必要がある。それぞれについて以下に示していく。
3-4-1 序盤のマナパスを防ぐ目的
序盤のマナパスを防ぐことは、お互いに進化権が使えるようになる中盤戦に差し掛かる前に差がつくことを防ぐことになる。序盤でついてしまった差は中盤以降拡大されることが必至となるため、何としても防がねばならない。
近年では3コスト3/3のカードが増加傾向にあるため、2パスしたとしても3/3のカードで相手の2コストのカードを上踏みすれば、顔2点の損失で済むことが多くなっている。そのため、重要なことは2パスよりも3パスを防ぐことであり、マリガンを行う前の時点で3コスト3/3のカードが見えている場合、または2-3-2で書いたように低コストのカードを多くPickしている場合は、2)や3)の目的に沿ってマリガンを行うことを強く推奨する。
3-4-2 中盤に使いたいカードを確保する目的
お互いが序盤をそつなくこなし、いよいよ中盤戦に差し掛かったところで状況が大きく変わることが多い。なぜかと言うと、中盤戦はお互いに進化権を使って攻撃の起点作りを行う局面となるためだ。相手の起点に対する回答がなく防戦一方となってしまっては、相手の要求をそのまま飲むような展開になり押し切られることが想像に難くない。逆に、自分から能動的に起点を作り相手を後手後手へと押し込めれば、自分の行いたい動きがスムーズに行えるようになり優位を広げることが容易となる。そのため、勝つためには中盤戦を制する必要がある。
中盤戦を制するために、自分から起点作りを行えるようなカードをマリガン時点から確保しておくことで、序盤戦のゴールとして起点作りのためのカードをプレイできるような状況を作るという明確な目標を立てることができる。ただし、中盤戦よりも前に差がついてしまうと一度ついてしまった差を取り返すことが難しいため、序盤から不利にならないことは中盤戦を考える上で前提となる。
3-4-3 キーカードを探しに行く目的
中盤戦で広げることのできたリードをそのまま勝ちへと直結させるためにはキーカードが必須となる。また、相手に主導権を握られた場合に主導権を奪い返すためにもキーカードが必要不可欠だ。そのため、キーカードはなるべく早く引いておく必要があり、序中盤が円滑に動けるのであればマリガン時点から持つという選択も十分魅力的だ。ただし、この目的のためにマリガンを行う場合、注意すべき点が2点ある。
1点目は、序中盤でどうしても弱い行動しか行うことができず相手に想定以上の優位を築かれてしまった場合、もはやキーカード1枚で覆せるような状況ではないことがほとんどという点だ。あくまでも中盤までに起点作りから土台作りを行い、最善のタイミングを見計らってプレイを行うことができなければ、キーカードの最大バリューを引き出すことは難しい。
2点目は、相手がキーカードの安着を防ぐことを意識してプレイングをする可能性が高いことを考慮すべき点だ。自分がプレイングをする際に意識することは相手も同様に意識するはずで、簡単にキーカードをプレイできるだろうという安易な考えは持ってはいけない。繰り返しにはなるが、キーカードを最も強く使うためには序中盤からしっかりと優位を作っていくか、相手の動きに食らいついて楽な展開にさせないことが非常に大切だ。
3-5 大局観
大局観は、「相手が次にどのような動きをしてきて、それに対して自分はどのような対処ができるか」といった思考が前提となる。この思考が積み重なっていくことで、現在の状況を把握し、客観的な判断によって自分が有利・不利であるかを決定付ける。そして、それらの結果をもとに今後のプレイングの指針を明確にするものだ。
正確な大局観は、今までカードゲームに対してどのように向き合ってきたかという態度や、自分の思考をアウトプットできるかという能力によって養われるものである。大局観を養うことは非常に難しいことで、何も考えずただ数をこなしたり、強い人の配信をただ見ていたりするだけでは得られない。では、大局観を養うためには何が必要か。
それは、常日頃から「論理的思考」ができているかどうかだ。これができていれば、自分がどうしてそのように考えたかの説明が容易にできる。また、その思考を他人の思考とぶつけることで、より深い部分での議論を行うことが可能となり、知識として頭に定着する。
この蓄積された知識が自分の中での大局観を形成し、自分のプレイングに対してより説得力を持たせる。このようにして作られた正確な大局観に沿うプレイングを行うことによって、100点に近いプレイングを行える頻度が増加し、その結果として勝率の上昇へと繋がる。
つまり、論理的思考が大局観を形成し、大局観の形成が勝ちへと繋がるため、論理的思考を育むことが勝利への道しるべとなる。これは2Pickに限らず、他のカードゲームやボードゲームなどにも通ずるものである。
論理的思考は、「なぜ」と「なぜなら」を対応させて考えることを意識することで育まれる。「〇〇と考える。理由は△△だ。」といった形式で簡潔に考えることを頭に定着させることが重要で、それを見た・聞いた人全員がその思考は論理的に正しいと判断できるものが論理的思考だ。これを繰り返し行うことによって「言語化能力」も向上し、他人との円滑な議論へと繋がっていく。
3-6 運の要素
2Pickは麻雀に似ている。配牌やツモ(引いたカード)から選択を繰り返していき、勝敗が決まるゲームだからだ。ツモ(カード)の格差は自分たちにはどうにもできないものであるが、一方でより理想的な手牌(デッキ)を組んだり、効率的な打牌選択(プレイング)をしたりという点は自分の力によるものだ。しかしながら、もし完璧な選択をしたとしても相手のツモ(カード)のほうが良ければ自分は負けることになる。
運の部分のみで決着がついてしまうゲームは残念ながら一定数あるが、それに怒ったり嘆いたりしても何も起こらない。重要なことは運の格差が少ない時に実力で差をつけることや、相手の運が良くてもプレイングで捲れるような試合でしっかりと勝ち切ることだ。
まとめ
・リーダー順位とその理由についてきちんと見直そう。
・各クラスのクラス性能について考え、長所と短所を抑えよう。
・デッキバランス、大局観は他人と擦り合わせて精密化しよう。
・マリガンの段階から今後のゲーム展開は決まる。マリガン指針を明確にしよう。
・常に勝ち筋を見据え、防戦一方とならないよう、進化権を効率的に使って起点作りや盤面制圧を行おう。
・何をしても負ける試合は存在する。実力で勝てる試合を少しでも多く拾えるようにしよう。
おわりに
この記事を執筆するにあたり、内容の確認および推敲を行ってくださったGATのメンバーに感謝申し上げます。現在GATは公募中ですので、よろしければ是非応募のほうお願いします!
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