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再生医療ってなんだろう? (3) -新しい分野の研究は天才的なひらめきに支えられている!?(前編)-

こんにちは、ビビです。暑い休日は、お家でまったり紅茶☕️と焼き菓子🍪をいただくのが日課です(別名、引きこもり)。最近のお気に入りの音楽は、Blossom Dearie。優しい声と音楽に癒されています。既に秋が待ち遠しいです・・・🫠 

さて、シリーズ3回目(前編&後編)は、再生医療分野の研究についてです。ヒトの体は恐ろしいほど多様な細胞が絶妙なバランスで支え合うことで成り立っています。これを再生しようという研究は、多くの研究者の絶妙なひらめき💡で支え合っているのかもしれません。
ちょっとでも興味を持ってもらえるようにご紹介できたら嬉しいです🌱


🦠臓器移植を目指す研究者

再生医療といえば、細胞塊や細胞シートの技術を用いた治療法の開発が進んでいますが、臓器移植を目標にしている研究者も多いです。
現在も、臓器機能障害を抱えた多くの患者が、最後の治療手段として臓器移植を待っています。しかしながら、ドナー臓器の提供数は絶対的に不足しており、これに変わる治療方法が必須な状況は、ずっと変わっていません。もし、臓器を作り出すことができれば、医療は大きく変わってくるのではないでしょうか。

細胞から機能する臓器を生み出す研究。中世であれば、神の領域かもしれません。宇宙の神秘と同じくらい細胞の中の神秘も未だ謎に満ちています。研究者はこれらの謎と日々向き合い、天才的なひらめきで研究を進めています。

臓器を作り出すには、生体内での発生の過程に倣って複数のステップを辿っていく研究が必要です。この発生過程が解明されれば、ステップを短縮する技術が見つかるかもしれません。もちろん、全く異なる手法をとる研究者もいます。では、具体的にどんな研究が進んでいるのか、見ていきましょう。

🦠生体内で機能する臓器

臓器形成の研究は、肝臓が比較的進んでいるようです。肝臓は例外的に再生能力が高く、2/3が切除されたとしても再生できます。このため、再生医療の最初のテーマとして適しているのかもしれません。
ちなみにですが、肝臓が再生する際、肝血管を流れる血流量が増え、圧力による刺激が高まります。これが引き金となり、細胞内のカルシウムイオンが流出し、TGF-β1の濃度が低下します。TGF-β1は、肝細胞増殖阻害因子なので、結果として肝臓の再生につながります。
ちょっと横道にそれましたが、肝臓を最初の臓器研究に選ぶのは興味深いです。

2013年には、横浜市立大学の研究グループがヒトのiPS細胞から機能的な肝臓を作り出す研究成果を報告しました。まず、ヒトiPS細胞から、①肝細胞一歩手前の「前駆細胞」、②細胞同士を繋ぐ「間葉系細胞」、③血管を作る「血管内皮細胞」の3つを作ります。この段階では肝前駆細胞はシート状に培養されますが、その後、3つを共培養することにより立体的な肝臓の原基となります。さらに、これをマウスに移植することで、ヒト肝機能を持つ臓器が形成されました。

肝臓一つを見ても、肝細胞だけでは臓器は成り立たず、周囲の臓器との連携、
特に血液を輸送する血管との連携は臓器を構成する細胞の生存のためにも必須である

この研究グループは他の臓器でも研究を続け、立体的な培養には、①様々な細胞に分化できる「間葉系細胞」の存在、② 物理的な外部環境=細胞が接する「周囲環境の適切な硬さ」の2つが必要であることを報告しています。
この続報の中で、マウスの細胞をヒト間葉系幹細胞と共培養して、肝臓だけでなく、膵臓、腎臓、腸、肺、心臓、脳などさまざまな器官の立体的な原基を作り出しています。また、先の報告と同様に、この原基をマウスに移植することで、血管網を構築させること、機能的な組織を自律的に形成させることにも成功しています。
マウス膵β細胞株からこの手法を用いて作製した膵組織が、糖尿病に対して血糖降下作用を示すことや、マウス腎臓細胞から作製した腎組織は尿産生機能を持つ糸球体様構造を自律的に形成することもできたようです。
生体外で機能を持つまで成熟した臓器を形成させなくても、原基を生体に移植することで自律的に血管を作り出し、生体内にある様々な因子を血液から受け取ることで、臓器として成熟させることができるのは、とても興味深いですね。

これとは別の方法で、立体的な臓器を作り出す研究をしている研究者もいます。
先ほどの研究でも、肝臓を立体的に培養するためには、肝細胞以外にも骨格となる間葉系細胞の存在が必要であることが指摘されていましたが、別の方法でこの骨格を獲得した研究があります。脱細胞化です。
この手法はボストンの研究者から2008年にラットの研究として初めて報告され、最近、日本の研究者がブタでも確立しました。ラットよりも大きく、ヒトにより近いサイズの臓器で成功させたということは大きな成果です。
まず、ブタの肝臓を摘出し、コラーゲンなどの骨格となる成分を残して、細胞を排除します。出来上がった骨格に、かつて血管があった場所から肝細胞と血管内皮細胞を注入し、生着させることに成功しました。これを肝機能に障害を持つブタに移植すると、肝機能を改善することも確認しています。血管を作る枠が初めから形成されているので、血管構築がしやすいのかもしれません。
いずれの場合も、血管の構築が重要な鍵となっているかと思います。

🦠小さな臓器 「オルガノイド」

Spheroidは単一種の細胞の塊なので、生体に近い機能を持った臓器を模倣することを考えると複数の細胞種での培養を目指したくなるのが研究者かもしれません。
例えば、脳を見ると、神経細胞を見るだけでも複数種、おまけにグリア細胞も必要です。また、大脳皮質などの層構造も作り出さなければなりません。

脳の一部を拡大しても、神経細胞のだけでなく、
グリア細胞などの多彩な細胞が複雑な構造を作り出している

オルガノイドを作るには、まず脳を構成するそれぞれの細胞を作り出す必要があります。まず、多能性幹細胞を浮遊条件で培養し、培養肉と同様に、培地の成分や培養条件を変えることで各細胞へ分化させます。ここでは、筋細胞でなく、神経細胞やグリア細胞などの脳を構成する細胞へ、ですけど。
分化した細胞が組織を構成するには、適所へ移動して成熟する必要がありますが、外から人工的に細胞ひとつづつに指令を与えることは物理的に不可能です。ところが、そのような指令がなくても、これらの細胞は自発的に、時には適所に移動して、組織を構成していくのです。これは本当に興味深い現象です。全貌はわかりませんが、後で「方向性」のところで触れる司令塔細胞の話も少し絡んでいるのかもしれません。

脳オルガノイドの形成は、それだけでも神経ネットワークの研究推進に大いに役立つ研究成果ですが、脳の機能は異なる脳領域を結ぶ高次のネットワークで支えられています。この領野間の複雑な連携を、脳オルガノイド間に軸索の束を形成させることで作成し、より生体に近いネットワークモデルを作り出した東京大学の研究チームがいます。この神経組織モデルを「コネクトイド」といいます。このモデルでは、単独の脳オルガノイドより、複雑で同期した神経活動が見られ、より本来の脳に近い機能を持つと考えられています。

他にも小腸、胃、大腸、膵臓、肝臓、腎臓など、多くの臓器でオルガノイド研究は進んでいます。その中で、潰瘍性大腸炎患者に対する腸上皮オルガノイドの移植が開始されました。これは、まだ臨床研究段階であり、移植後の患者さんの状態を綿密に観察、検査していくことで、本当に効果が認められるのか、医薬品の承認を目指した治験よりも、ずっと慎重に評価されます。また、今回の試験は自家細胞を用いたオルガノイドを移植しています。他家細胞よりも製造過程でのコストが嵩むと言われており、乗り越えなければならない課題はまだいくつもあります。ただし、この臨床研究で病状の改善が見られれば、これらの課題を解決するための研究も進んでいくことが期待できるかもしれません。

🦠次回は最終回…….

今回紹介したオルガノイドを使って、さらに進められている研究を紹介したいと思いますので、お楽しみに!
このお話はポッドキャストでもお届けしています。お時間のある時にぜひお聴きくださいね!

サイエンマニア
133. 生きた細胞を食料や医薬品に?今ホットな再生医療分野について語る!
134. 再生医療の実験現場とは?着替えと技術とやりがいがスゴすぎる

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