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SF・短編 #1-2 闇の中へ

どうもビビビです。本日はグレッグ・イーガン日本オリジナル短編集「しあわせの理由」ピックアップ第一弾、「闇の中へ」をご紹介します。

ページ数は85ページでとってもライトに、でも内容はぎっちり。ただ、初見ではどういう状況設定なのかめっちゃわかりにくい。状況がわかるとストーリーがさらに面白くなりますので、今回はそれに絞ってお話ししたいと思います。

あらすじ

この世界線には10年ほど前から謎のワームホールが出現する。それは平均して数十分存在した後、次の1秒後には世界のどこかに再出現する。それは完全に真っ黒な球体で中心にコアを持っている。それにとらわれた人々が生き残る手段は、ワームホールが消えるまでにコアにたどり着くこと。ランナー<進入者>と呼ばれる特殊な訓練を受けた志願者たちは、ワームホールの中に取り残された人々をコアに導くために闇の中へと走りこんでいく。


ワームホール

この物語に登場するワームホールは、他作品に出てくるワームホールとは少し違っています。端的に言うと、バグっている。一般的にみんなが思い浮かべるワームホールと言えば、1つの時空ともう1つの時空をつなぐトンネルのようなものですが、このワームホールは一つの地点に入り口と出口が同時に出てきてしまっている。しかも、入り口が半径1キロほどの球体、出口がその中心にある半径200mほどの球体。出口は作中「コア」と呼ばれ、どうやら外側の現実世界よりほんの少しだけ未来に位置しているらしい。ワームホールは外にある現在の世界と、ほんの少し未来のコアをつないでいて、そこには ❝ 微小な時間 ❞ が流れている。

つまり、こういうこと↓

闇の中へ解説A

作品中で語られる有力な仮説としては、

❝ 昨今人気の仮説は、未来の文明がワームホールを作って、はるかな過去の標本採集をおこない、太古の生物のサンプルを自分たちの時代にもっていって研究しようとした、というものだ。そして未来人は失敗をやらかした。ワームホールの両端がともに、くびきを逃れたのだ。ワームホールは縮んで変形し、おそらくは地質学的スケールの時代を橋渡しする壮大な時間のハイウェイだったものから、光速で原子核を横断するのに要するより短い時間をつなぐゲイトウェイになった。❞  

だそうです。つまり以下のような事件が起きたのではないか、という仮説です。

闇の中へ解説B

どんな現象が起こる?

この空間の中で最も顕著で致命的な特徴は、コアに向かってしか進むことが出来ないということ。なぜなら、コアは未来で、吸入口は過去だからです。

なるほど。なんだそのすげぇアイディア。

あ、すいません。そして、光も過去から未来の方向に進んで行くらしく、過去は見ることが出来るが、未来は真っ暗な霧に包まれたままで、見ることができません。(一番根幹の部分なのですが、ここの記述は少しあいまいなので、詳しい人教えてください。)つまり、助かりたければ全く先の見えない闇の中に走りこんでいくしかないということ。

そうしなければ、薄く引き伸ばされた時間の中で、体内の循環運動機能が落ちて脱水症状に見舞われ、最終的には死んでしまいます。

そしてもっと最悪なのが、自分とコアの間に障害物があれば、一貫の終わりということです。もがけばもがくほど、物理的な壁と、戻ることのできない過去に挟まれて、圧死してしまいます。

もしこれらを免れたとしても、ワームホールが消える瞬間にはまた別の形でワームホール内全ての人に平等に死がもたらされます。


主人公について

上記のような状況から人々を救うのが主人公が所属するランナー<進入者>と呼ばれる志願者の団体です。町ごとに支部があり、ハイテク技術を使って自力ではコアに向かうことが出来ない子供などを中心に救助に向かいます。科学教師である主人公は常に統計と確率を天秤にかけながら、このワームホールが消失するまでに自分がどれだけの人を救えるのか冷静に判断し続けます。この異空間が次の瞬間に消失する可能性は、どの時点においても、フィフティーフィフティーなのです。

本作はそんな主人公の、ある夜の出動のお話です。


まとめ

「SF・短編 #1-1 しあわせの理由」で私が勝手に設定した「自分とはどこに存在するのか」というテーマに対するこの物語のアンサーは「今ここ」ということになります。人は過去を振り返ることは出来ても、戻ることは出来ませんし、未来は見通すことができない闇の霧で覆われています。今の自分ができることは、ただ頭を働かせて走り続けることだけなのです。

ラストもとてもよくできているので、ほんとはここもネタバレ込みで書きたい…いや、でも、それは読んだ人のお楽しみなのです。

いや、既に相当ネタバレしてんじゃんと思われるかもしれませんが、この設定を事前に知っていたからといってストーリー自体の驚きや興奮や感慨深さが失われたりはきっとないでしょう。なんせ、もう、めっちゃ臨場感があってハラハラするんですから!是非皆さん読んでみてください。

次回は「SF・短編 #1-3 愛撫」です。





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