ホラー・映画 #3
どうもビビビです。今回は「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」を取り上げたいと思います。時間はたったの81分で、疲れた休日でもさっくり見られます。この映画の特徴は、なんといっても登場人物のリアリティ。確かにホラーには違いないのですが、企業戦士の諸兄には、登場人物の置かれた状況に同情して、ほろりとしてしまう所もあるのではないでしょうか。
この作品はPOV手法とモキュメンタリーの草分け的存在として1999年にアメリカで制作されました。技法ついては検索すれば詳細な説明がたくさん出てくるので、説明は割愛します。
あらすじ
1994年のハロウィンが迫る10月、映画学科の3人の学生がメリーランド州バーキッツヴィルの森で、その地に残る「ブレアの魔女伝説」のドキュメンタリー撮影中に消息不明となる。1年後森の中の小屋から1つのバッグが見つかり、中から発見されたフィルムから今回の映画が編集され放映された。
登場人物は、気も押しも強い監督のヘザー、落ち着いたイケメンのカメラマンジョシュア、今回初めて一緒に仕事をする無口な音響のマイク。最初の10分ほどはみんなで和気あいあいと町の人々にインタビューを行う姿が映し出されるが、森に入って2日目の朝、ヘザーが少し迷ったけど大丈夫、と言い始めたあたりからじわじわと空気が悪くなっていく。
見どころ
この映画の見どころは、超自然的な現象への恐怖はもちろんですが、何より壊れていく人間を見る恐怖。役者陣の演技が(ほとんど演技ではないかもしれない)凄すぎるので、ぜひ字幕で見てもらいたいです。あとは、真夜中に様々な出来事がテントの周りで起きるのですが、ヘザーが暗闇に向かってカメラを回し続けるところですね。ほんとに怖い。何か映ってしまう前にやめてくれと何度も思う。最後にたどり着く家も、真っ暗な窓がぽっかりと口を開けていて、白い壁との対比が背筋を刺激します。
リアリティについて
この映画が超大ヒットした理由は、公開前から入念なマーケティングが行われ、観客たちがこの映画は本物のドキュメンタリーだと思い込んでいたため、というのも大きな要因です。(CMなどを打つのではなく、カフェなどで行方不明者捜索のチラシを配ったりしたそう)公開後は、役者の親御さんにお悔やみの手紙が届くほど、世間の人々はこの映画のリアリティに欺かれたようです!マーケティングがセットになっていたからこそ、この映画は歴史に残る傑作と言われるようになったのですが、もちろん中身に説得力がなければここまでのヒットにはならなかったと思います。ではそのリアリティの源泉はどこにあるのでしょうか?私が思うポイントは以下の3つです。
1.実在の場所
2.大事なところが映らない
3.本物の疲労と絶望
1.実在の場所
メリーランド州バーキッツヴィルは実際に存在する場所で、今でもホラー愛好家たちがこの映画の聖地として巡礼に来るようです。映画の冒頭のインタビューでも、↑Googleマップの墓地は出てきていました。当時はあまりの人気で観光客が押し寄せ、こんな事になるなら実際の地名を使用したりしなかったのに、と監督が嘆くほどだったとか。
2.大事なところが映らない
視覚的には、これが1番効いてるかな、と思います。後発のクローバーフィールド(2008)なんかもPOVとモキュメンタリーをうまく使っていて面白いのですが、決定的瞬間が映りすぎていて、ちょっと白けてしまう所があるんですよね。そういうちょっとした違和感に敏感な人にも、この映画は応えてくれます。ガチ逃げしている時は、ブレブレでほぼ何も映っていません(笑)物語的に必要なシーンにはそれなりの理由付けがされた上で、バッチリ映っています。ご都合主義の演出臭さがないので、理屈っぽい人でも物語に入り込めます。
3.本物の疲労と絶望
眠れない、重い荷物と歩き詰めの疲労感、自力では打開できない問題、空腹、孤独。それらがもたらすものは、思考停止と絶望感です。皆さん、似たような状況、体験した事ありませんか。そう、デスマーチです…!デスマを経験した人なら、このリアリティが分かるはず。本当にもう、2週間終電ダッシュをした後の徹夜4日目辺りに大きい追加修正が来たりすると、勝手に呼吸が浅くなって嗚咽が漏れてくるんですよね…。でも、やるしかないから、とりあえずPCの前に座る。この、PCの前に座る、という行為が監督のヘザーにとっては、カメラを回し続ける事だったわけです。彼女は仲間になんと言われようとカメラを離しません。ドキュメンタリーを完成させたいという欲求を通しているふりをして、ドキュメンタリー映画の監督という役割にしがみつき、自我を保とうとしているからです。もう他の手段を考えるだけの思考力はなく、彼女は破滅に向かっているとは理解しながらも、唯一自分を保てる手段を手放すことが出来ない状態になっていきます。そしてマイクも、夜の森でジョシュアを探して走り回るという、側から見れば自殺行為に近い行動をやめることができない。思考力が落ちた人間に出来ることなんてのは、目の前のタスクをやり遂げる事だけです。それが正しいか正しくないかは、もう自分とは切り離された世界のことになってしまう。そして目を背けることも出来ず、ただただ、大きな渦が自分を飲み込んでいく気配だけを感じるのです。
❝ 怖くて目を閉じられない 開けてるのも怖い ここで死ぬんだわ ❞
このような、演出とは思えない恐ろしいレベルのリアリティがこの映画では繰り広げられます。冒頭で「疲れた日でも81分なのでサクッと見られます」とお伝えしましたが、精神的に疲れている場合は観ないのが吉です。確実にヒッパられます。
ちなみに、役者さんは実際にテントで寝泊まりし、シャワーも浴びず、ほとんどパワーバーのみで全8日の撮影日程を乗り切ったようです。その間の撮影の指示は全て人を介さない方法で、次の行き先と、見せ合うことを禁止された各個人あての簡易な演技の指示が記されたメモが、指定された地点に置いてあるのみ。しかも、夜な夜なスタッフがテントまで脅かしに来る。(それは逆に笑える出来事だったようですが、まとまった睡眠は中々取れない) つまり、この映画は一部においてはノンフィクションなのです。本物の疲労、本物の睡眠不足、本物の空腹に、本物の孤独。いや、監督鬼やな。クランクアップの打ち上げでみんな心から笑えたんか疑問になるほど過酷やん?
まとめ
モキュメンタリーとしてはほんとに最高峰だと思います。これを観ずして2000年以降のPOVは語れません。ちょっとでも気になった方は是非ご鑑賞を。ただし、心が元気な時に。壊れていく人間を見るのは、怪物を見るよりも、時としてずっと恐ろしいことですから。