ようこそ切手沼へ。現在開催中の『美しき凹版切手の世界』展@切手の博物館に行ってきた。
100円でおつりがくる芸術品、切手。3cm程度の小さな紙の中に、豊かな世界が広がっている。『美しき凹版切手の世界』展で見た切手たちには、凹版印刷ならではの繊細さと、彫刻職人の「精緻に彫ったるでぇ」という硬派な誇りが同居していた。切手は美しく、鑑賞に値する。手紙を書く機会もなかなかない現代だが、「鑑賞物としての切手」は強くおすすめしたい。
今回の展示のテーマである「凹版(おうはん)印刷」というのは銅版画の技法で、彫って凹んだ部分にインクをつけて印刷する技術である。非常に細やかな線の印刷が可能という特徴があるため、必然的に、精緻な高い技巧を凝らした美しい切手が多く誕生している。
凹版印刷は、偽造防止の観点から、切手だけでなく紙幣や証書類でも用いられている。現在はオフセット印刷が主流となっているが、フランスなどでは現在も凹版切手が数多く発行されているそうだ。フランスといえば、凹版彫刻家の巨匠ピエール・ガンドンが切手界では有名だが、彼が手がけた切手、通称「ガンドンのマリアンヌ」も展示されていた。
そもそも「切手」というモノ自体が美しい。
大きく出力しても全く違和感のないレベルのグラフィックを、わざわざ小さく印刷しているのだ。それにより、何とも言えない密度を持つモノになっている。ペラペラで羽根のように軽いのに、存在に質量を感じるのである。もちろん、余白を生かしシンプルな線画が描かれた切手もたくさんある。しかし、私が惹かれるのはやはり「密度高すぎィ!!!」と声をあげたくなるようなデザインだ。
多様なテーマ性にも注目したい。
切手の大きさは万国郵便連合によると原則1.5~5.0cm以内と規定されているが、この小さな小さな面の中はもはや無限の世界。日本はもちろん世界中で無数のデザインがつくられている。
切手は1840年にイギリスで誕生した郵便システムで、世界で最初につくられた切手は、イギリスのビクトリア女王の横顔をデザインしたものだ。切手の制度は瞬く間に世界へと広がり、豊かな自国を内外に広くアピールする手段として活用されてきた。自国の美しい風景を描いたもの、偉人を描いたもの、産業を描いたもの、他にも、芸術作品、歴史的な出来事、記念日、建築、植物や動物などの自然、歌などのエンターテインメント、オリンピックなどのイベント等々、挙げればキリがないほどいろんなテーマの切手が存在している。国ではないが、国連も国際的なテーマで切手を発行している。
先日、切手ショップで出会ったおじさんは、音楽に関する切手を集めていると言っていた。ショパンなどの音楽家や、バイオリンなどの楽器、ビートルズなどのアーティスト、オペラの一場面など色々あるそうで、おしゃれなテーマだなと思った。私は猫の切手を物色しに訪れていたのだが、なかなか素敵な切手を手に入れたので、またの機会にご紹介したい。
切手に関しては本当に奥が深く、とても一回では書ききれないので、「美しい切手シリーズ」として今後も適宜アップしていきたいと思う。切手沼に足を踏み入れてみたくなった人が現れたら幸いである。
ちなみにこれは、かわいいのが売っていないから自作した切手帳。切手収集家の方々から「ばっかもーん!!」という声が聞こえてきそうだ。切手の大敵は湿度である。「ど素人がつくった空気入りまくりの切手帳など、切手帳とは呼べぬ!」という感じだと思うが、気に入っている。
学芸員さんの解説動画がクセになる。
切手の博物館「美しき凹版切手の世界」展WEBサイトこちら。
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