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タロットカードを“読んで”いると、勝手にアート思考が鍛えられる。

『ハウ・トゥ アート・シンキング』という本を持ってレジに向かったお兄さんに、「あっ!ついでにタロットカードも買ってみてください!本屋さんに売ってるんで・・・!」と声をかけようかと思ったが、どう考えても怪しい女になってしまうので、心の中で叫ぶにとどめた。

昨今、アート思考なるものをしばしば耳にする。アート思考とは何ぞと調べてみても、人によって定義が様々だ。要するに、自分なりのものの見方や考え方を持つことが大事だ、ということのようだが、そんな世の中に対して、私は「ならタロットカード買えばいいのに」と思うのだ。

タロットというと「占い」のイメージが強いが、私が思うに、タロットカードの面白さは「寓意画として、自分で絵を“読む”」ということにある。寓意というのは「ある意味を、直接には表さず別のものごとに託して表すこと」で、イソップ物語など、教訓を含んだ童話などによく用いられる表現技法だ。
数字と記号だけのトランプカードと違って、タロットは1枚1枚異なる絵が描いてある。その絵を見て、自分はどこに注目して、何に気づいて、どんな意味を見出したのかを、自分の言葉で表現する。自分で引いたカードをきっかけに思考を深めていく過程そのものがとても楽しく、まさにそれはアート思考の筋トレ的な行為なのである。

というわけで、タロットカードの話をするが、占い要素はゼロである。占いかと思って来てくださった方、ごめんなさい。

そもそもタロットカードって何ぞ

トランプは54枚あるが、タロットカードは78枚もあり、22枚の「大アルカナ」と56枚の「小アルカナ」で構成されている。「大アルカナ」は「愚者」や「塔」「吊るされた男」などの寓意画が描かれたカードで、「小アルカナ」はさらに「棒」「金貨」「剣」「聖杯」の4種に分かれており、それぞれ14枚ずつで構成されている。(大アルカナだけで売られていることも多い。)

大アルカナ
小アルカナ。エースや、クイーン、キングなどがあって、トランプ感ある。

起源は諸説あるが、現存する最古のタロットカードは、15世紀半ばの北イタリアで製作された「ヴィスコンティ・スフォルツァ版」だそうだ。ヴィスコンティ・スフォルツァ版…呼び方がかっこいい。占いのためにつくられたものではなく、トランプの延長線のような感じでゲームアイテムとして使われていた。その遊びのひとつとして占いに使うこともあっただろうね、という感じらしい。貴族や富豪のために画家が手描きして作製していた。羨ましい。
16世紀頃から木版画の量産品が出回るようになり、庶民も手にすることができるようになり、ヨーロッパ全土へ普及した。この頃も、主な用途はゲームだった。ギャンブルなんかにも使われて「風紀を乱す!」という理由から何度も禁止令が出たという。

本格的に占いに使われるようになったのは、18世紀以降。エッティラという占い師が占いのためにめっちゃ意味づけをして厳かな感じにしたタロットを開発したのがはじまりのようだ。そこからだんだん占い色が強くなり、なんやかんやあって20世紀に入り、現在のタロットカードの祖となる「ライダー・ウェイト版」が誕生する。それまでは、小アルカナはトランプのように単調な数札だったが、小アルカナにもすべて絵柄を与えるという創作を加えた。ライダー・ウェイト版は一世を風靡し、現在でもタロットといえばこれを指す場合が多い。
そして1972年、イギリスで「アルフレッド・ダグラス版」と呼ばれるタロットカードが出現する。ライダー・ウェイト版に準拠しつつも、まったくのオリジナルデザインも入れ込まれた、シンプルで強い色彩のデザインだった。これ以降、自由なアイデアを盛り込んだオリジナルデザインのタロットカードがたくさんつくられるようになった。

コレクションアイテムとしての価値

タロットカードについての説明が長くなってしまったが、要するに、あるテーマに沿って描かれた78枚もの絵柄がセットになっている大変お得なカードなのである。

浮世絵風の絵柄や、映画『007 死ぬのは奴らだ』の小道具としてつくられた007タロット、はたまた、ダリが描いたタロット、荒木飛呂彦先生が描いたタロットなど、いろんなクリエイターが描いているタロットもあり、集めずにはいられない。
同じものを集めると、ものを視る解像度が上がる。違いがわかるようになるからだ。同じ「タロットカード」でも、本当に多種多様なものがあり、素晴らしいと感じるものとイマイチだなと感じるものが出てくる。その線引きが自分の中でハッキリしていくたびに、審美眼が養われる。順番を自由に変えられる小さな画集、といった感じで、何回見ても発見があるのでとても楽しい。

ポンピドゥー・センターで買った、アーティストオラクル。オラクルカードはテーマフリーの絵札でタロットカードではないんだけど、お気に入り。
マテーラのお土産でもらった、ダリのタロットカード画集。かっこいいからカードも欲しい〜〜。

タロットカードを自分なりに“読む”

12「吊るされた男」

話をアート思考に戻すと、例えばこの「吊るされた男」のカード、何が描いてあるだろうか?「いや、吊るされた男やん。」と思ったあなた、他に目についたもの、気づいたことはないですか?自分なりの見方ができるようになるには、まず「よく視る」ことが大事だと思うんです。視て、気づく。偉大なアイデアも、小さな気づきから生まれているもの。

例えば私だったら、「なんで頭光ってんの?聖人?いやよく見たら服の色超派手じゃね?靴どうなってんの?真ん中の切り込みみたいなの何??縛られてる足は片方だけ。こんなテキトーなくくりつけ方されてるのに、めっちゃ姿勢いい・・。木(?)が真っ直ぐT字になっている。シンメトリーな感じで葉っぱがついてるなあ。右下にヘビみたいな線が・・・あ、これは画家のサインか。ていうかこの人めっちゃアルカイックスマイルしてないか?悟りをひらいているのかもしれない。まさかこれは・・・自らおこなっている修行・・・?」みたいなことを思う。
数字に目が行く人もいるだろうし、葉っぱの状態が気になる人もいるかもしれない。「THE HANGED MAN」という文字に注目する人もいるだろう。占いじゃないから、正解も不正解もない。自由に勝手に“読む”のが、頭の体操にもってこいだ。

ここで終わってもいいし、さらに考えて思考を深めてもいい。先ほどの続きを考えてみると、「側から見たら変なことをしているように見えても、本人にとっては重要な意味を持つ行動なのかもしれない。パッと見の印象で相手を決めつけないで、その人のことを知るように心がけたいものだなぁ。」などと、教訓的なものを得られるかもしれない。

今回は特にすごいアイデアが出たわけではないが、自分なりにこの絵を解釈することができた。「このカードはこういう意味!」という解説本もあるが、それはだいたいライダー・ウェイト版で占いをすることを目的とした本なので、別に気にしなくて良いと思う。それよりも、自分が見てどう思ったのかが大事だ。自分はどこに注目して、何に気づいて、どんな意味を見出したのか。そしてそれを、自分の言葉で表現してみる。アート思考の筋トレにもなるタロットカード、ぜひお気に入りを見つけてみてほしい。

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