【Tap06】鍵屋醸造所(神奈川)
ブルワー(醸造家)に転身する前は、音楽活動を行なっていた鍵屋醸造所の佐藤学さん。なぜか酒づくりの世界にバンドマンは珍しくありませんが、佐藤さんはイギリスに渡って活動していた本格派です。
「26歳の時、当時のバンドメンバーと一緒にアーティストビザを取得して、イギリスへ渡りました。向こうは投げ銭の文化が根強いので、どうにか音楽で食べていけるのではないかと考えたのがきっかけです」(佐藤さん)
ひとまず現地の和食店に職を求め、タイ人に寿司の握り方を習うというレアな体験をしながら、4年ほど音楽に打ち込んだ佐藤さん。その間、現地のレーベルとの付き合いが始まるなど、異国での挑戦は順調に見えましたが、アーティストビザが切れたのを機に日本へ戻る決意をします。
帰国当時、すでに30歳。社会人として再スタートするにあたり、佐藤さんが目をつけたのはパニーニ(イタリア発祥のサンドイッチ)でした。すると、JR新川崎駅近くにパニーニの生産拠点として開いたショップが大成功。そこで今度はこの店舗をイギリスで馴染んだパブの業態にアレンジすることに。
「イギリスではどんな田舎でも街に必ずひとつはパブがあり、地域の人々の社交場として機能しています。人と人が出会い、酒を奢り合う。そんな空間が日本に作れたら面白いなと考えました」(佐藤さん)
他方では、日本でもブームを迎えていたクラフトビールへの関心を高めていた佐藤さん。同じ川崎市内の風上麦酒製造の閉鎖を知ったことから、交渉の末、醸造所をまるごと引き継ぐことになりました。これが鍵屋醸造所の始まりです。
以降、順調にファンを増やしてきた鍵屋醸造所は、最近、新工場を増設。いま川崎で最も勢いのあるブルワリーのひとつと言えるでしょう。
〈Text By Satoshi Tomokiyo〉
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