
#38【サステナ先進国】イギリス生活ってどんな感じ?”修士×チャリティ転職”のキャリア事情
海外で活躍する20代の日本人女性にフォーカスするポッドキャスト番組『海外ではたらく私たち20’s』。今回のゲストは、上智大学を卒業後、The London School of Economics and Political Science (LSE)の修士課程に進学し、現在はロンドンのチャリティー団体にてサステナビリティ担当のオフィサーとして都市開発や環境政策のプロジェクトに携わる、Marinaさん(26)です。この記事ではイギリス移住後の現在のお話や将来のキャリアプランをお伺いし、多様な選択肢と挑戦する勇気をお届けします。
自己紹介
はじめまして、Marinaです。
幼少期は転勤族として広島・岡山・長野を経て3歳から静岡県で過ごし、静岡県の公立高校を卒業しました。その後、上智大学の総合グローバル学部に進学し、The London School of Economics and Political Science (LSE)(地理学部・環境と開発専攻)修士課程を修了。現在は転職を経て、ロンドンのチャリティー団体に勤務し、サステナビリティ担当のオフィサーとして都市開発や環境政策のプロジェクトに携わっています。
静岡県育ちで、全く海外と接点がなかった私がなぜイギリスで働くことになったのか。後編ではイギリス移住後の現在のお話や将来のキャリアプランについてお話しします。
このエピソードを通じて、私のような田舎の公立高校出身の人でも、帰国子女や私立校出身の人と同じように、海外で夢を描いても良いのだと思えるきっかけになれば幸いです。

イギリスでのファーストキャリア
イギリスの大学院を卒業した後は、サステナビリティに特化した不動産向けのコンサルティングファームに入社しました。世界中に物件を持つ不動産投資会社がクライアントなのですが、彼らが保有する物件を国際的なサステナビリティ基準に近づけるためのサポートを行う企業です。
私自身はアーバンコンサルタントというポジションで戦略部門に所属していました。日本人であることを強みに、ヨーロッパに本社を構えるクライアントのアジア太平洋地域の物件に携わることが多かったです。タイムゾーンや使用言語も多岐にわたる案件が多く、とても越境的な仕事だったと感じています。その他、ESGスコアの開発やカーボンクレジットのリサーチ業務なども行っていました。

新卒1年半で転職に挑戦した理由
前編でもお話しした通り、新卒で入社した企業は就職難の中で採用してくださったということもあり、何とか拾っていただいたという感覚が強かったんです。しかし、私の興味ある領域は国際協力や公益性を重視する仕事。業界としては大きくかけ離れていないものの、前職のコンサルティングファームは営利組織であったため、次第に自分が目指す方向性とのギャップを感じるようになりました。
また、会社自体の経営が傾いていたタイミングでもあり、ロンドンの本社で大規模なリストラがあったんです。私は日本支社への異動という選択肢を提示されましたが、イギリスで働き続けたかったため、この条件を受けることはできませんでした。ちょうど1年半働いたタイミングで様々な出来事が重なり、「これを機に自分のやりたい仕事に転職しよう」と決心したんです。
当初興味のあったシンクタンクなどでのリサーチ業務は新卒採用を受け付けておらず、インターン生としての採用は無給であるケースも少なくありませんでした。私自身、学生時代は返済不要の奨学金をいただいていましたが、それでも不足した分は現在も借金として残っていたり、ロンドンの生活費がとても高いことから、金銭面の妥協ができない状況でした。そのため、1社目では興味分野よりもスキルを上げることにフォーカスし、経験を積んだタイミングで前職の経験を活かして、当初から興味のあった領域に挑戦しました。

チャリティー団体で働くやりがい
転職先の現職は、イギリス全土で約7万戸のソーシャルハウジングを運営するチャリティ団体です。ロンドンの家賃相場は1部屋20万円ほどですが、その支払いが難しい方に向けて、割安で住宅の販売や賃貸を行う団体になります。日本の公営住宅に近いイメージですが、完全無料ではなく、低所得層だけど政府の公営住宅に入居する条件には当てはまらない方が主な利用者です。私はその中のサステナビリティチームに所属し、プロジェクトマネジャーのポジションで働くことが多いです。
イギリスのサステナビリティにおける動向として、近年は組織の形態を問わず、通常業務に加えて二酸化炭素排出量の削減などに取り組む動きが活発です。私たちの団体においても、7万戸の住宅をイギリス政府が掲げるエネルギー効率の水準まで引き上げることが求められています。しかし、低所得者向けの住宅は安価なガスの使用率が高いなど、エネルギー効率が悪い物件が多く、政府が求める水準には届いていないのが現状です。
そこでサステナビリティチームでは、エネルギー料金を上げずに政府の水準を達成するにはどうすれば良いか、という課題に取り組んでいます。例えば、建物の断熱性を高める改修プランを検討したり、ソーラーパネルの導入を提案したりなど、コストを抑えて二酸化炭素排出量を削減するためのさまざまな施策を打ち出しています。
サステナビリティを追及すると、どうしても高価になり、エリート層に向けた施策が多くなることが課題でした。私たちの仕事では、そこから取り残されてしまった人々と向き合いながら、多様なバックグラウンドを持つテナントの方々の状況を踏まえ、経済面や健康面を考慮しながら進めることが求められます。きめ細かいコミュニケーションとサポートが求められるサービスですが、利用者にどこまでも寄り添い、社会を良くしようと頑張る仕事はやりがいに溢れとても楽しいです。

昇給してチャリティ団体に転職
チャリティ団体と聞くと、無給のボランティアや非営利のイメージを抱く方も多いのではないでしょうか。
しかし、前編でもお話ししたように、イギリスでは経験が最も重視されるため、経験さえあれば政府機関、民間企業、チャリティ団体問わずにお給料が支払われます。また、転職=昇給が一般的なので、私自身も前職のコンサルティングファームから昇給する形でチャリティ団体に転職しました。私の団体の場合は、政府からいただく補助金と住居者の賃料で経営しています。日本ではボランティアのイメージが強いかもしれませんが、イギリスではチャリティ団体も1つのキャリアの選択肢として捉えられているので、友人の半数以上はチャリティやNGO団体、政府機関に就職しています。

日本とイギリスの”サステナビリティ”の違い
このような背景には、政府の予算の組み方の違いや、文理問わず修士号や博士号が評価される文化が影響していると思います。ロンドンにはサステナビリティの修士号を持つ方も多く、街全体が世界の金融のハブとして機能するダイナミックさがあることで、気候変動に関する先進的な政策を打ち出す土壌があったのだと思います。
仮に日本で公益性×サステナビリティに就職する場合、環境省などに選択肢が限られてしまいます。ヨーロッパはサステナビリティに関わる仕事が多く存在することもあり、民間企業、シンクタンク、政府機関など、さまざまな組織が存在します。たとえば、クライメイトファイナンスという分野を1つとっても、ステークホルダーはファンドやデベロッパー、プランナーなど、多岐にわたります。日本でもSDGsやESG投資などの認知度が高まっていますが、一過性のトレンドとして捉えられている側面も否めないですよね。サステナビリティの修士を取得した私にとっては、イギリスのように専門性が求められる場所でキャリアを描いた方が成長に繋がると感じました。

ロンドンの暮らしとカルチャーショック
イギリスに移住してから4年が経ちましたが、ロンドンは多様性のある都市で、個人を尊重する雰囲気がとても心地よいです。大学院でも、私の専攻に関しては、クラスの8割がイギリス以外の出身者でした。多様なバックグラウンドを持つ友人ができたことは貴重な経験です。
また、ロンドンは街がコンパクトで自転車があればどこにでも行けるのがお気に入りです。公園や緑も多くてリラックスできます。食に関しては、私自身がベジタリアンということもあり、オーガニックの選択がしやすい点は有り難いですね。
反対に気候は悩みの種ですね。曇りと雨が多く、秋から春にかけて寒い時期がかなり長く続きます。また、医療制度のアクセスのしにくさは不便です。医療費は基本的に無料なのですが、その反面予約が取りづらく緊急性が低い場合は、診察をしてもらうことが難しい状況です。特に歯科治療は保険が効かないので、日本に帰国したタイミングで検診に行くことが多いです。
実は先日帰国したタイミングで検診を受けたのですが、婦人科系の問題が見つかり、先生から手術を推奨されたんです。イギリスの保険制度でも治療は可能ですが、友人のお話を聞く限り手術も半年待ちとのことで。その間に何かあったら怖いと思い、日本での手術を決めました。
このような現状は、患者としては不便ですが、医者の過労を防ぐという側面もあります。医療費が無料であることにより、患者数に対して医師や看護師が不足している中、重要性が低い症状に対するこのようなスタンスは致し方ない気もします。日本は医療制度が整備されていますが、医療従事者の過重労働が問題として挙げられているので、どちらの制度が望ましいのかは難しいところですよね。

国際機関でのキャリアを目指して
最後に、今後の展望についてお話しします。
私は高校生の頃から、国際協力や開発に興味がありました。同じ分野に関心がある人は知っているかもしれませんが、日本にはJPO派遣制度というものがあります。これは日本の外務省を通して国連などの国際機関などに35歳以下の若手人材を派遣する制度で、派遣期間終了後に正規採用される可能性もあります。応募には修士号と2年間の職歴が求められるのですが、今年JPO試験の受験資格を満たすことができました。
どこかのタイミングで受験に挑戦し、国際機関を経て気候変動や都市開発の分野でキャリアを築きたいと考えています。
読者への応援メッセージ
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
前編でもお伝えした通り、私は大学生までパスポートも作ったことがなく、海外との接点が全くありませんでした。それでも、今の私はロンドンで働いています。
もし海外で挑戦してみたい想いがあるのであれば、「お金がない」「知識がない」を理由に諦めないでください。私自身、奨学金を利用するなどしてここまでやってきました。探せば道は開けると信じているので、自分が興味のある方向へ勇気を持って進んでいってください。誰でも挑戦できる、というメッセージが皆さんに伝わっていれば嬉しいです。

🔗 MarinaさんのSNS
番組:海外ではたらく私たち20's
『海外ではたらく』に挑戦する20代の日本人女性をゲストに招き、日本社会の固定観念を覆し続ける彼女たちから、海外で働くまでのストーリーや現地でのリアルな体験談、将来のキャリアを伺う番組です。日本で生まれ育った彼女たちが異国でチャレンジする姿を通じて、リスナーの皆さんに多様な選択肢と挑戦する勇気をお届けします。毎週月曜日 朝7時配信
X(旧Twitter)
制作:BIAS
BIASは、固定観念が人々の可能性を狭めている現状への問題意識から、固定観念が覆る瞬間を創造し、「バイアスを超えた可能性を」目指すプロジェクトです。現在は、BIASの第1弾コンテンツとして、Podcast番組「海外ではたらく私たち20’s」の制作に注力しています。
いいなと思ったら応援しよう!
