便太郎のおもひでぽろぽろ【第12話】 ジャパニーズビジネスマン爆誕!
江寧路と武定路のビルにある某旅行会社。
中国語不問。
性別年齢不問。
日系企業向けの営業。
使用期間三カ月。
基本給500元。
使用期間後給料は完全歩合制。
「この条件で1週間考えてください」
「やる気があるなら来週から働いても良いですよ」
上海人の社長は、いっさい質問せずに、
それだけ一方的に話すと面接は終了した。
「あの…」
「三カ月間月500元では生活出来ません!」
「使えなかったらすぐクビでいいので使用期間無しで即給料完全歩合でダメですか?」
「良いですよ!」
「なら明日から働きます!」
「良く考えて!」
「考えました」
「明日からお願いします」
「あなたその格好では営業出来ませんよ!」
「スーツ持って無いの?」
「何も持って無いです…」
「今から買いに行きましょう。」
当時、襄阳路+淮海中路にシャンヤンマーケットと呼ばれる巨大な偽物市場があったのだ。
そこに連れて行かれた。
スーツ上下、革靴、カバン、ワイシャツ、ネクタイ、名刺入れ、腕時計、一式合計2,000元也!来月の給料で返せば良いからと言って、準備完了。
あっという間に24時間働けるジャパニーズビジネスマンが爆誕したのであった!!!
しかしこの上海人社長は良く俺なんか雇う気になったよね。
自分で言うのもなんだが、こんな得体の知れない怪しい日本人…
しかも2,000元も給料前借りさせてくれてスーツまで準備してくれるとは…
普通考えられない。
とにかく、未だ住所不定ではあるものの、
無職からの脱出に成功したのである。
翌朝、キャプテンの6階大広間のドミトリーでスーツに着替えた。
スーツなんて何年振りに着ただろう?
あれは10年以上前(2004年当時から)大江千里の武道館コンサートの設営と警備のバイト依頼だなぁ。
とただの田舎者だった若き日に思いを馳せつつ、
なんで今上海にいるんだろう?
人生って不思議。
キャプテンから河南中路駅まで徒歩10分。
朝のラッシュでもう既に乗れる状態では無い地下鉄2号線で、南京西路駅下車。そこから徒歩20分で会社到着。
これはかなりシンドイ通勤。
ぐうたら生活が染み付いていてて、今後続くであろうこの通勤ラッシュに耐えられる自信を出勤初日に消失してしまった…
ビルの入り口には所狭しと自転車が並んでいる。
タバコ臭いエレベーターで12階へ向かう。
7,8階がチケットの発券センターになっていて、
その発券センターにぶら下がるように、
小さな旅行代理店を名乗る会社が沢山入居している。
私が入社した会社もそのうちの一つである。入社とはいうものの労働契約書の取り交わしも無く、この時点では、はっきりいって不法就労だった…
社長,財務1名、チケット予約発券担当2名、チケット配達員1名。
そして営業1名(オレ)の6名の小さな会社であります。
社長は日本語ペラペラだが、カタコトの日本語話せるチケット担当が1名。私を除く全員が上海人という構成。
朝事務所に到着。
自己紹介して、社長からチケット予約から発券の業務説明を受ける。
「あなたの仕事は日系企業を訪問して航空券を売る。」
「そして企業契約を取る事です。」
「とにかく毎日会社訪問する事。」
「事務所に居てもお金は稼げません。」
その後、実際に日系企業が入っているビルを浦東、虹橋の順番に周りビルの場所を覚えさせらた。こうして初日は終了。
翌日からアポ無し飛び込み営業開始!
つづく。
【こぼれ話】
このシャンヤンマーケットについてですが、いけいけどんどんの中国で、2008年に北京オリンピック誘致が決まり、2010年上海万博も開催が決定し、名実共に国際都市の仲間入りする上海でいつまでも発展途上国のようにコピーブランドを堂々と売っているマーケットが観光名所のひとつとあっては面子がつぶれると考えたのでしょうね。あっという間に閉鎖され更地になってしまったのでした。
ただ、場所は閉鎖されたが、浦東とか豫園の近くに分散されて、コピーブランド品自体がなくなる事はありませんでした。
S級品の偽ブランドは、偽物市場の近所にある民家に隠し部屋があり、そこにずらりと並んでいる。
普通に家族が食事してるリビングを抜け、土足でズカズカ入っていくのである。これがめちゃくちゃ面白い。生活感ありというかごくごく普通に生活している民家の一室。その一室だけが異空間なのだ。
ただね。ひやかしで入ると出るの大変なので、買う気が無い人は入らない方がいいのである。買わないと出さないよっていう無言の圧力を少なからず感じるのだ。
一度、ひやかしの日本人をアテンドして連れて行ったが、何も買わないので、脱出するのに苦労したおもひでがぽろ程度ある。それ以降、買う気が無い人を連れて行くのをやめた。
がはは。