永久凍土の煉獄

或る社會學者、襲撃さる

数ヶ月前、ある界隈を震撼させた事件が最悪の結末を迎えた。

当時の記憶としては、「暴力で言論を封じ込めようとするなー!」とイキり散らしていた連中がいた一方で、「その程度の覚悟すらなく一方的に言葉の暴力を使っていたのか」「これだから社会学者は」という醒めた意見を持つ人間も多かった。
(そしてフェミニストは宮台のアンチフェミ発言を持ち出して「刺されてざまーみろ!」と溜飲を下げていた。例え意見が全く合わない相手であろうと最低限の礼儀は必要であろう、ああいう外道にはなりたくないものだ。)

自分は「その程度で宮台が死ぬわけねーだろ。時間が経てばケロッとした顔で戻ってくるわ、そして自分をネタにするよ」と多少楽観的な意見を述べていた。

楽観的かもしれないが、宮台教授ならこれをネタにまた新たな文章を出してくれるに違いない、という邪悪な期待感を持たせてくれるのはこれまでの実績の為せる業か。


終わりなき日常≒終わりなき地獄

さて、宮台教授を一躍有名にしたのは90年代半ばの「終わりなき日常を生きろ」という言葉だ。

しかし、その終わりなき日常が永遠の地獄に変貌したのが宮台教授を襲撃した犯人にも該当する就職氷河期世代、ロスジェネと言われる世代だ。
何の因果か、安倍氏暗殺を「世直しだ」と評してテロリズムを肯定するかの如き発言をした宮台教授が、安倍氏を襲撃した暗殺犯と同い年の人間からテロリズムの標的となり襲撃される皮肉。

個人的には彼らの被害者意識に閉口する事は非常に多い。彼らのモンスタークレーマー気質には、仕事で幾度となく泣かされた。「職業選択の自由」を盾にして、一部職業を蔑視する彼ら独特の就業観については腹立たしささえ覚える。
宮台教授は彼らをさして「寄る辺なき世代」と評したが、その寄る辺というのは個人的感覚では目視できるモノ、カネのように見える。

自業自得的な部分も垣間見える宮台教授だが、三浦展や内田樹より余程マシではある。

(中間共同体を破壊するファスト風土化を半ば推奨しておきながら、今度は中間共同体の必要性を説き出す三浦展とかいうマッチポンパーにとって、地域社会は社会実験のモルモットくらいの感覚なんだろうか?それとも単に自分の言葉に対する記憶がないのだろうか。ましてや内田樹は完全に「世田谷自然サヨクの象徴」として、上野千鶴子と同じように口を開けば矛盾だらけであっという間に炎上する痴識人枠に成り下がった。)

物心ついた頃から希望あふれる未来を見ていた彼らにとって、大人になってからの日常は「終わりなき地獄」とさしては変わらなかったのだろう。
その地獄に垂れ下がった蜘蛛の糸を登り生き残ったサバイバー以外は今だに生き地獄に取り残されたままだ。


最早、金を渡すだけでは解決しない。

私は当初、彼らに対して「経済戦争の傷病手当」という形の金を渡せばある程度の歯止めにはなると思っていた。(そういう意味で反緊縮路線を支持していた側面は多いにある。化けの皮が剥がれた今は到底その気持ちにはなれないが。)
しかし、宮台教授を襲撃した果てに自死を選んだこの男は、それなりの財産を持っていた人間だった。

就職氷河期世代支援がことごとく空振りに終わるのは、行政側の認識から対策が常に二歩(5〜10年)ほどテンポが遅れているからでもある。
(これは認知→調査→現状把握→対策案の叩き台を提示→対策案の決定→予算概算提示→予算承認→実施という日本の行政システム上の問題が大きい。最も、このようにまどろっこしい状態になったのはこの世代の「税金の無駄遣いはやめろ」という民意なので自業自得、彼らの世代がアレルギーの様に嫌う「自己責任」というヤツなのだが)

そして何より、彼らの学習性無力感を除去するのは骨が折れる作業だが、コロナ後の今は拗らせすぎて修復不能な状態だ。

つまり、「終わりなき地獄を生き続ける就職氷河期世代への対策として、金を積んでソフトランディングする」というフェイズは残念ながら終わってしまった、ハードランディングで解決するしかない方向性に向かいつつあるという事だ。
事実、去年辺りから世相が「シルバーデモクラシー」やら「役立たずには公金投入不要論」などの貴方植松さんですか?みたいな畜生意見が観測気球の様にチラホラと出始めている。
世の中の変化に敏感にならざるをえなかった彼らの一部は、既にそれなりの覚悟を決めているようだ。

我が国は民意主義国家である(決して民主主義国家ではない)
そして、「何某の事業に公金を支出するのは不謹慎だ!」という民意が横行する国家でもある。

純粋な善意により構成された民意に従い、彼らを経済的に処刑する「安楽死法案」が可決されたとしても、驚きはしない。
(最も私は大反対する。統治の根幹が崩壊するからだ)

その時、我が国は幕末明治から祖先が営々と築き上げてきた東洋唯一の先進国にして民主主義国家という権威を喪失する事となる。

国民を粗末に扱う国家にとっては、先進国という権威は文字通り『ムダ』でしかないのだから。


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