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特別編:オーストラリアから見た日本の文化とナッジ(Matsen de Kortさん)

今回は特別編!

ポリシーナッジデザイン合同会社で、2023年1月〜3月の間ボランティアとして参加してくださったオーストラリア出身のMatsenさんへのインタビューです。ナッジや行動科学の視点からみた日本とオーストラリアについて、身の回りの経験からお話ししてくださいました。

日本人にとっては当たり前すぎるあれやこれも、他の文化の方から見ればナッジ!? さまざまな気づきがある内容ですので、ぜひご覧ください!



Matsen de Kort(マッツェン・デ・コート)
オーストラリア出身。心理学学士号取得。2020年11月よりALTとして英語の教育活動に従事。

ー自己紹介をお願いします。

私はマッツェンと言います。オーストラリア出身で、2020年11月にALT(Assistant Language Teacher)として来日しました。来日する前には、さまざまな仕事をしたあと、大学の心理学科を優等で卒業しました。卒業論文では、「バイリンガル家庭で育った2~4歳の子どもたちは、モノリンガル(単一言語を使う)家庭の子どもたちとは違う数の数え方を体験するかどうか」についてをテーマとしました。

同時に、応用心理学にも関心を持っており、特に行動経済学は人間の問題を解決するためのスマートな方法だと思い、興味を持っていました。特に、ナッジ介入によりピーク時の電力消費量が40%削減されたというセイラーとサンスティーンの論文を読み、これはすごいことだと思いました。


ーALTとして来日することになった経緯は?

日本に来る直前まで、オーストラリアのブリスベンの兄の家に住み、レストランの手伝いをしていましたが、その頃パンデミックが起こりました。大学を卒業したばかりなのに、COVIDの影響で観光関係の仕事がほとんどなくなっていて、なにか新しいことをしようと思っていたときに、日本のJETプログラム(語学指導等を行う外国青年招致事業 The Japan Exchange and Teaching Programme)に出会いました。私自身、ずっと日本の歴史と文化に興味があったので、JETはまさに自分にぴったりだと感じました。新しい言語を学べること、新しい文化を直接体験できることに魅力を感じ、すぐに日本に行くことを決めました。

ーポリシーナッジデザイン(PND)でボランティアをしようと思ったきっかけは?

ALTの仕事は楽しくて面白いのですが、大学時代から持っていた人間の行動や心理学への関心は尽きることがなく、さらに深めたいと考えていました。また、JETプログラム終了後、母国に戻ったら政策デザインに関わりたいと考えていたので、ナッジに関連する経験を積めればと思っていたところ、日本でもナッジに関する経験を積めればと思い、インターネットで検索してPNDを見つけました。PNDの取り組みをいくつか調べ、早速植竹さんに連絡を取り、ボランティアを受け入れてもらえるかどうか確認しました。

ー弊社での活動として、Matsenさんにはたくさんの日本語記事を英語記事に翻訳していただきました。
ところで、行動科学や心理学に関連することで、日本に来て印象に残ったこと、海外と違うと思ったことはありますか?

まず、人前での振る舞いがオーストラリアと違います。例えば、日本人は道路を渡るときにきちんと待つなど、とても安全で、電車の中では静かにし、公共の場では他の人の邪魔をしないようにすることが共通認識になっています。

これらはすべて、絶妙なプロンプトや文化的な背景によって強化された行動だと思います。私は、このような微妙な文化的影響自体が、円滑な社会のための指針として機能していると感じました。


日本の電車(イメージ)


ー日本独自のナッジや、世界に紹介したいと思ったナッジはありましたか?

PNDのプロジェクトの1つの、ゴミを捨てる前に正しく分別することを推奨するラベルは、世界共通だと思いました。

また、マインクラフトのような面白いデザインのゴミ箱は、ゴミをポイ捨てするのではなく、ゴミ箱に捨てるように人々を惹きつけるために役に立つと思いました。

また、日本のトイレでは、必ずと言っていいほど「いつも清潔に、丁寧にお使いいただきありがとうございます」という張り紙を見かけます。オーストラリアでは見たことがありませんが、これは清潔さを保ち、衛生基準を尊重するよう、押しつけがましくない方法できちんと促しているのだと思います。よく目につく場所に設置されています。

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ー日本ではあまり見かけないが、海外ではよく見かけるナッジがあれば教えてください。

オーストラリアでは、スピードを出している車が多いのですが、生活道路に入る角にはあえて背の高い茂みを設けて、車が出てくるかどうかをわかりづらくしています。これにより、角を曲がるときに車は速度を落とさざるを得なくなり、安全性が高まったということがありました。

また、オーストラリアのバーやサッカーの試合会場の男性用トイレでは、小便器の中に小さな的が描かれていることがあります。これはトイレで効果的に狙いを定めるためのさりげないナッジだと思いますが、日本ではあまり見かけないですね。


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ー今後、日本で取り入れたら良いと思うナッジや、日本で普及させたいナッジはありますか?

外国人が日本の文化を理解しやすくするためにナッジを取り入れることは有益だと思います。
例えば、日本では、建物の入口にたいてい「玄関」があり、小さな段差とスリッパがあります。これは、日本人にとってのナッジで、玄関を見たら靴を履き替えるタイミングだとすぐにわかるのです。意外に思われるかもしれませんが、外国人にはこのような感覚がありません。靴を脱ぐという文化を知らない場合は、玄関の段差にしか目がいかず、その意味するところをじっくり考えることはないでしょう。


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そのほかには、温泉でのルールがあります。日本を訪れる多くの外国人は、温泉に入るときは裸にならなければならないことはよく理解していますが、体を洗うための小さなタオルを持ったり、そのタオルは温泉に浸けてはいけないというルールは理解していない可能性があります。

私も、2011年に初めて日本を訪れたときには、このタオルは大事なところを隠すためのものだと思っていました。今思うとちょっと恥ずかしいですね(笑)。

こういった温泉のルールは、多くの温泉に看板や説明書きはあるものの、観光客の注意を引くことはなく、また看板があったとしても日本語だけで書いてあることがほとんどです。

もし、このような日本ならではの文化やルールを、文化的に理解してもらうだけではなく、衛生面できちんと守ってほしいなら、利用者に対して、求められる行動を理解してもらうようにするもっと良いナッジがあるのではないかと思います。

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ーマッツェンさん、大変貴重なお話をありがとうございました!


<後記>

今回は、ポリシーナッジデザイン合同会社のボランティアとして広報などに従事してくださったオーストラリア出身のマッツェンさんにインタビューしました。

日本人にとって当たり前の「玄関」や「温泉」のルール、あえて見えづらくすることでスピードを落とすことを促すなど、普段の生活の中でのさまざまな行動を促すナッジについてお話いただきました。

個人的にインタビューの中で特に印象に残ったのは、「玄関」です。改めて振り返ってみると、日常生活において自宅以外でも靴を脱ぐ機会は案外多いことに気づかされました(例えば、学校や病院・歯医者など)。

あまりにも当たり前すぎて、「ここで靴を履き替えてください」と書いてあることの方が少ないので、公共の場で靴を脱ぐ文化のない方にとっては謎の段差に見えているという点はとても新鮮でした。

温泉についても、多言語対応に加えて、イラストやピクト、アイコンなどで直感的にルールを示すことで、誰にとってもわかりやすく、快適に利用することにつながるかもしれないと感じました。

これは、インバウンドなど外国人観光客と接する場面や、地域での異文化共生においても役に立つ考え方のように思います。

ルールというのは日常になりすぎると暗黙の了解になり、そのルールを守らない人に眉を顰めることもあるかもしれませんが、ただ単に気づいていない・知らない・わからない可能性もあります。

そのような場合、人間に共通する心理学の知見に基づいたナッジ、Easy, Attractive, Social, Timelyの各要素を取り入れてみてはいかがでしょうか。

(構成・聞き手:ポリシーナッジデザイン合同会社 植竹香織)


★Matsenさんにより翻訳された英語Blogはこちらからご覧いただけます。
https://medium.com/@nudgejapan

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