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BHブログ『アラビカ種の起源』
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⇧エチオピアのオモ渓谷
シングルオリジン
植物のほとんどは、植物全体の進化を通して発展していくため、ある種の植物が別の種と区別されるようになった時を正確に特定することは不可能です。ですがアラビカコーヒーの場合、アラビカ種全体の起源は単一の植物にまで遡ることができるようです(スカラブリーニら、2020)。アラビカの2つの親種、コフィア・カネフォラとコフィア・ユーゲニオイデスは、通常交配できるものではありません。交配が成功するためには、アラビカは各親から1セットの染色体ではなく2セットの染色体を得る必要があります。これは倍数性と呼ばれる稀な出来事です。
野生でも、アラビカ種の遺伝的多様性は非常に低いことから、この倍数性の出来事は1度だけであったとされています。スカラブリーニらによると、この出来事はおそらく10,000年から665,000年前のどこかで発生したと推測しています。進化論的にはごく最近のことです。この1種類の植物が、現在のエチオピアと南スーダンの多雨林高原に広がるアラビカ種全体を生み出しました。
コーヒーが栽培され始めたとき、アラビカの遺伝的多様性はさらに減少しました。コーヒーの木はエチオピアからイエメンに持ち込まれ、イエメンで最初に栽培され、栽培用の限られた遺伝子プールが作られました。その後、一握りのコーヒーの木がイエメンから密輸され、2種の品種 (ティピカとブルボン)が作られました(アンソニーら、2002)。今日栽培されているアラビカの大部分は、これら2つの品種から系統を引いています。遺伝子プールが非常に限られているため、コーヒー生産者は葉さび病などの病気のリスクにさらされています。
コーヒーの木はケニアなどの他のアフリカ諸国でも成長していることがわかっていますが、このようなコーヒーの木はローカルで栽培されている植物と似ている点があることから、元は野生ではなく人間の媒介の結果としてその地域で野生化し「帰化」したことを示唆しています(シャリエ & ベルトゥ、1985) 。
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ボマ高原
野生のアラビカ種が最も集まっているのは、エチオピア南西部の高地にあるカファの雲霧林です。野生のコーヒーの木は、南スーダンの国境を越えて、ボマ高原と呼ばれる地域でも見られます。ここのコンディションはエチオピア南西部と非常に似ていますが、ボマ高原のアラビカ種が自ら繁殖したかどうかは議論の余地があります。ボマ高原とエチオピアの雲霧林を隔てるアラビカ種が育たない低地の一帯があるため、南スーダンのアラビカ種の集まりは、野生ではなくエチオピアからこの地域に移動する人間によってもたらされた可能性があると考えられていました。
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ボマ高原で成長しているアラビカ種についてはほとんど知られていません。この研究の前に、1941年以来南スーダンから品種は集められていませんでした。CATIE(熱帯農業研究訓練センター)の遺伝子バンクで残っている3つの品種は、2種類のRume Sudan と1種類のBarbuk Sudanです。南スーダンでは、主に地産地消のために少量のコーヒーが生産されていますが、近年は南スーダンでのTechnoServeプロジェクトの結果として少量のコーヒーが輸出されるようになりました(Smith2015)
スーダン品種の遺伝的起源
ボマ高原で育つ植物が本当に野生の品種であるかどうかを確認するために、クリシュナンら(2021)は、DNA指紋法を使用して、エチオピアで見つかった野生の品種や世界中で栽培されている品種を比較しました。彼らは、野生のスーダンの品種に特有の1つのDNAマーカーを発見しました。これにより、スーダン品種がエチオピアのアラビカ種とは遺伝的に異なり、真に野生の個体群であることが判明しました。これによりエチオピアではなく南スーダンが、全てのアラビカコーヒーノキを生み出す1本の木が生えた場所であった可能性が生じました。
ですが、「最初のアラビカの木がどこで成長したかを正確に判断することはほとんど不可能です。」とコーヒー植物学の世界的専門家であり、発表された研究の著者の1人であるKew Gardensのアーロン・デイビス博士は言います。アラビカ種が出現して以来、この地域では多くの気候変動があり、かつて野生のアラビカ種が育つ森林ははるかに広い地域を覆っていたかもしれないと彼は言います。「アラビカ種の正確な起源は、エチオピア南西部、または南スーダンである可能性がありますが、さらに南にある可能性もあります」。コーヒーの種は鳥や小さな哺乳類によって長距離に広まった可能性があると彼は説明します。「エチオピアでは、コーヒーの種が詰まった哺乳類や鳥の糞がよく見られ、時には糞の中で発芽することさえあります。」
野生のスーダン品種と、他の3つの品種にのみ存在する2番目のDNAマーカーが見つかりました。CATIEに収容されているRume Sudanの品種のうちの1つと、Scott Agricultural LaboratoriesにあるSL-17とSL-14の2品種です。 CATIEのもう一方のRume SudanとBarbuk Sudanには、このマーカーはありませんでした。
3つの「スーダン」品種はすべて、CATIEに持ち込まれる前にケニアの植物育種プログラムで使用されました。研究者たちはスーダン品種のDNAマーカーを持っていたRume Sudanの品種は、ある時点で他の品種と意図せず他家受粉したことを示唆し、現代の野生のスーダン品種がそのユニークなマーカーを持っていない理由として説明しています。 CATIEの他の2品種(1つはRume Sudan、もう1つはBarbuk Sudanとラベル付けされている)は、他家受粉によってさらに希釈された可能性があると著者は説明しています。または、そのラベル自体が誤っていてスーダン品種ですらない可能性もあるとのことです。
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脅威にさらされている品種
南スーダンの野生のコーヒーが絶滅の危機にあることを考えると、CATIEのスーダン品種が別の品種と混ざってしまっているかもしれない可能性や誤ったラベルが付けられているかもしれない可能性があるという事実は、由々しき事態です。気候変動のリスクを考慮に入れると、南スーダンの野生のアラビカは、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストの基準に従って「絶滅危惧種」と見なされます。著者らは、この地域の野生のアラビカを育てることができる森林の80%以上が失われたと推定しています。
南スーダンで野生の品種が最後に得られた70年前と比較して、ボマ高原の野生のコーヒーの個体数は悪化しています。Barbuk周辺に残っている森では、著者は成熟した木や苗木をほとんど見つけることはできませんでした。また、Rumeにおいては完全に森は失われていました。「もし栽培されているすべてのアラビカコーヒーノキの「Rume」の継承が妥協されることとなると…Rumeの遺伝的多様性は、仮にあったとしても元の形ではもはや存在しなくなるでしょう」と著者は述べています。
スーダンで野生のコーヒーの遺伝的多様性が失われることは悲劇です。アラビカ種の遺伝的多様性は、すべての作物の中で最も乏しいとされているものの1つです。そのため、野生のコーヒーはブリーダーにとって大変重要です。病気や気候変動などによる脅威に負けないようにするために、野生のコーヒーはブリーダーが新しい特性をコーヒーの木に取り入れることを可能にしています。将来もコーヒーを楽しみ続けるためには、アラビカ種の起源であり得る野生植物を守ることが必要とされています。
BHブログ「アラビカ種の起源」終わり