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『きのう生まれたわけじゃない』田端上映レポート2

シネマ・チュプキ・タバタ2回目のイベントは、3月3日ひな祭りの日に行ないました。登壇したのは、七海役のくるみさんと、トリ子役で美術も担当した住本尚子さん。二人は撮影以来の再会です。今日のチュプキはほぼ満席。うれしいですねー!
くるみさんの自己紹介は「今日家を出て歩いているときにアナグマに会いました」!  これには場内もクスクス笑い。そんななごやかな空気のなかでトークは始まりました。

 住本「きちんとした役をやることが初めての私は、あんな大人数のスタッフに囲まれてすごく不安だった。くるみちゃんは連日あの状態を経験して、どんな気持ちだったのだろうと聞きたかったんです。でも、カッコいいなあ、すごいなあって思ってて」
くるみ「ありがとうございます。映画は初めてだったんでずっと緊張してたけど、スタッフの皆さんや監督がすごく優しかったし、住本さんが自然体でいてくれたので、撮影は楽しかったです」
住本「そうなんだ……。演劇は経験してるわけだけど、映画は舞台と違いますか?」
くるみ「一番大きいのは、撮るシーンの順番が映画の話のとおりじゃないから、新鮮というか難しかったです。七海の気持ちが落ち込んでるシーンのあとが明るいシーンだったりすると、難しかった」
住本「七海は自分を持ってるように見えてたけど、セリフを言うときに、感情とかを考えながらやってた?」
くるみ「そんなに考えてたわけじゃないけど。家族も撮影前に相談にのってくれたりした。私と七海は少し似てるところはあるけど、違ってる。私より七海の方が強いというか。……自分に直接何かがあったわけじゃないんだけど、私は中学の1学期以降学校に一度も行かなかったんです。ポスターになった冒頭のシーン、中学の下校時間で道を生徒が帰っていく途中だった。で、撮影してるから見られる。それがすごく怖くて泣いてしまって、監督たちに心配かけたんです。そういうとき、七海は泣かないかなあと思った。学校に行きたくないのはあるけど、そこで泣く感じじゃないのかなあって」
住本「この映画のなかで不安で泣いてる人いないですね……」

くるみさん

 住本「トリ子の〈きのうの自分を守っちゃダメ〉というセリフ、自分じゃなかなか言えないけど、印象に残るセリフ、多いですよね。くるみちゃんの好きなセリフは?」
くるみ「監督が詩を書いてるから、自分のセリフだけじゃなくて印象に残る言葉があると思う。トリ子さんの〈きのうの自分を〉もよく思い出す。やっぱり〈ゆうかんな女の子じゃなくて、ゆうかんな人になる〉は好きですね」
住本「私も好き! 福間さんの映画のセリフってすごく詩だし、会話っぽくないものも多いけど、生活の中で思い出すことが多い。〈人間やめられねー〉もね。人間やめられねーってどういうことかっていつも考える」
くるみ「この映画は人間の弱い部分も出てくるけど、人間のいい部分とかやさしい部分とかもあると思うから、それも含めて、人間やめられねーかな? あのシーン撮るとき楽しかった」
 くるみ「監督はその場その場で台本になかったことを取り入れたり、追加したりがわりとあって、柔軟にシーンが変わることもあった。休憩のときに私がやってたガッツポーズ、あれを監督は見てて、橋の上の寺田とのシーンで、あれやろう!って言われた(笑)。それとトリ子さんと長靴持ってやるやつ、楽しかった! そういうときも、住本さんてすごく自然体で」
住本「私もすごく楽しかった! 七海とは友だちだから、みたいな感覚?」
くるみ「あのシーンは何回か撮り直した気がする」
住本「こだわりの長靴ダンスだったよね。あれも即席で、ゴダールの『はなればなれに』のダンスっぽくとか言われた気がするけど、でも長靴でどうしていいかわからない(笑)。そんな機敏に動けないし、初めてやるから、結果あんな感じで。OKって言われて、おおこれでOKかって! あれで二人の関係性が映ってる気がした。トリ子は年上だけど七海の友だちで、ちょっと教える感じ?」
くるみ「七海が最後に、高校行くなら農業高校って言うのもトリ子さんの農業手伝ったからだしね」
住本「あれも、台本でトリ子が農業をやるのは決まってたけど、七海が将来どうするのかはまだ決まってなかった気がする。農業は案にはあったけど、他にも清掃員とかあって……。農業を学ぶっていうのは、福間さんの未来への希望みたいなものがある気がしてた。トリ子のシーンは、けっこう大事なところが多い。七海に大事なこと言ってるよね。やってるときは大事なシーンだとは思ってたけど。完成してみると、自分に残る映画になってると思った」 

住本尚子さん

さて、場内からの質問がありました。
Q「後半の飛ぶシーン、くるみさんはあのときどういう状態だったんですか? 撮影方法とそのときの気持ちを教えてください」
くるみ「あれは、脚立をハシゴのように横に寝かせて、その間に入って、タオルを敷いてそこに腕の脇を置いて、スタッフに持ち上げてもらったんです」
住本「人力?」
くるみ「そう、それで体が浮くかたちになるんですよ。私が〈うわー〉って言うリアクションが死ぬほど下手だったんです、マー君は上手だったんだけど。私のせいで何回も撮り直して、申し訳なかったんです」場内大爆笑!
住本「大変だったんだねー」
くるみ「思い出した。撮影しょっぱなが、あの見えない犬だったんだけど、何もわからなくて、えー、見えない犬⁉︎。そしたら監督が、連日現場に来てた母に〈すいません、お母さん、犬やってくれますか〉って」場内またもや大爆笑!
住本「影の役者がいたんだ、あの犬には! 見えないものって難しいよね。だってもう一人の七海だってね」
くるみ「人の心が読めるというのも難しい。でも人の心がわかるから、七海はあんだけ強いってことかな」

あっという間に時間がすぎました。最後に二人は、みなさんに挨拶しました。
住本「チュプキで音声ガイドや字幕をつけてもらえて、本当にありがたいです。今日来ていただいた方とトークを共有できて楽しかったです」
くるみ「この映画はいろんな印象的な言葉があるので、自分が気になった言葉や好きな言葉を持ち帰ってもらいたいです。私はこの映画を優しいお話だと思っているので、それが優しい方に届いてうれしいです」

くるみさんも住本さんも、これまで聞く機会のなかった撮影中の胸の内を話してくれて、とても貴重なトークとなりました。お二人に感謝です。
そして、その雰囲気をつくってくださった観客の方々と、チュプキのスタッフのみなさんにムーチャス・グラシアスを送ります!

 シネマ・チュプキ・タバタでの上映は3月12日まで続きます。
3月9日(土)15:55からの上映後には、今泉役の今泉浩一さんと本作プロデューサーの福間恵子がトークします。
『きのう生まれたわけじゃない』を、ぜひチュプキで体感してください!