【イベントレポート】12月27日 ゲスト:町屋良平さん、金子由里奈さん
ポレポレ東中野でロングランを続けてきた『きのう生まれたわけじゃない』は、いよいよ最終日前日となりました。今日のトークゲストは、小説家の町屋良平さんと映画監督の金子由里奈さんです。福間健二は、町屋さんとは詩の場所で直接に出会い、金子さんの作品『眠る虫』を絶賛したという間接的な出会い、そういう関係のお二人です。
お二人にとって福間映画の魅力は、どこにあるのでしょうか。
今日3回目の『きのう生まれたわけじゃない』を観た金子さんは言います。
「また初めてみる感覚で、通りすぎて浸透していく。記憶のように、はっと画が浮かんだり音が出たりする印象で、町屋さんの文章にもそれがあるって思います」
町屋「僕は以前の特集でほとんどの福間作品を観てます。新作は試写で一度観て、今日初めて映画館で観たんですが、何か特別なものになる気がした。映画館で観たときの記憶の装置が『眠る虫』を観たときも同じだったけど、記憶を一緒につくった、体験した、そんな感じになるんですよね」
金子「記憶をつくっていく感じですよね。七海と寺田の最後のシーン、人と人が出会うことで波紋が起きて豊かさが生まれ、人間の何でもいい部分をずっと見せられてる、一つ一つのささいな何でもなさ、それがいいですよね」
町屋「人が普段は行かない、人間の奥のところに運んでくれる。七海を見ながら、自分の子どものころのことが思い出される。そして一般的には、30代、40代には目的があるけど、七海も寺田もマー君も、それはまだわからない。その豊かさが、映画を観て取り戻せる」
金子「何回観ても取り戻せる、毎回新鮮な発見があるんです。自分が見えてる世界、普遍的なものにポエジーがある。タイトルそのものがポエジーですよね」
町屋「福間さんが新作を撮るというころ、僕は映画撮影をテーマにした小説を書いていたので、現場を見学させてほしいと連絡したんです。そうしたら、いま撮影してるから来てくれと、三日月書店の撮影のときに行ったんです。それで、ついでに出てくれと言われてちょこっと出演したんです」
金子「現場でどういう演出をしてるのか気になりますよね。烏骨鶏のところとか、そういう自由さがきっとあると」
町屋「三日月書店の撮影では、基本的にはあまり指示とかしなくて、シーンが切れていて、小説に近い感覚。とても不思議でした」
金子「現場は気概があるけど、福間さんの映画は日常の延長というか、いざない方が自然だから、それはつくり方が影響してるんでしょうね」
町屋「福間さんの佇まいというか、疲れさせないところ、いつのまにか入っていける感じが大きいと思う。福間さんと自分はすごくちがう、それは映画を見ても感じる。「平地と湖」だとすれば平地には土がある。そこから失われた部分が充されて、元気になる」
金子「わたしも元気になるんです。筋肉がほぐれていく感じ。会ったことはないのに、福間さんに会った気になる」
町屋「若者の作品に共感し、『眠る虫』もやられた!って言ってた。年齢に関係ない若さを持ってる。詩人で、ものすごい読書家で、批評家としての目が鋭い。だけど、人をこわばらせない。でもゆるすぎるとダメなわけで、すごい批評の力だと思う」
金子「七海と寺田の関係も、性別や俗姓を感じさせない。七海と岬も、寺田とムイも、七海とマー君も」
町屋「マー君の親が逮捕されたとか、七海の境遇も実際にあるもので、リアリティはフィクションの外にある。そういう意味で福間映画は、隣にあるものとして観れるのだと思う」
金子「七海が〈ゆうかんな女の子〉から〈ゆうかんな人〉になると言うところ。これが大きな魅力ですよね。キャラクターが行き着くところ、トリ子の言葉を自分の言葉として、七海に言わせた福間さんのホン。すばらしいです」
町屋「終盤、七海が人の心が読めなくなって、そのあと〈人間やめられねー〉とみんなで言う。これ、心に焼きつきました」
金子「大人になって、特別な力がなくなっていく。子どものときは何かを飛び越えられた。でも、それはもう1回できるんだと。だから、人間やめられねー、と」
お二人の話を聞きながら、福間健二の生き方のテーマ「絶えず新しく生まれていたい」が、確実に受けとめられていることを感じて、胸が熱くなりました。
町屋さん、金子さん、ほんとうにありがとうございました!
そして、今日駆けつけてくださった観客のみなさんに、心からお礼申し上げます。
翌12月28日、ポレポレ東中野での最終日は、キャストによる舞台挨拶で締めました。満席近いお客さまのあたたかい声援を受けて、感無量のキャストの笑顔は新しい年へとつながれて、この作品にいっそうの希望の光を注いでくれることでしょう。
『きのう生まれたわけじゃない』に出会ってくれたみなさん、トークゲストとして語ってくれたみなさん、そしてポレポレ東中野のスタッフのみなさん、ありがとうございました!
2024年は、京阪神3館一斉公開からスタートします。
京都 出町座 1月19日(金)〜
大阪 シネ・ヌーヴォ 1月20日(土)〜
神戸 元町映画館 1月20日(土)〜
関西のみなさん、元気にお目にかかりましょう。
どうぞよろしくお願いいたします!