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【レポート】『きのう生まれたわけじゃない』2024年1月 京阪神公開!

新しい年2024年の『きのう生まれたわけじゃない』は、京阪神から始まりました。コロナ禍での公開となった前作『パラダイス・ロスト』に引き続いて、京都/出町座、大阪/シネ・ヌーヴォ、神戸/元町映画館の3館です。
 
★出町座 1月19日・20日
先陣を切って1月19日(金)から公開の出町座に、まずは向かいました。京阪線の始発駅、出町柳を降りて橋を二つ渡って、出町枡形商店街が見えてくると、昭和にタイムスリップした気分になります。そのなかにある出町座の看板は、それにマッチした芝居小屋のようないでたち。けれどもドアを開けるとそこは、映画の本に囲まれたおしゃれなカフェ。コーヒーのいい香りが迎えてくれました。スタッフのみなさんと代表の田中誠一さんにご挨拶、4年ぶりです。
 
出町座では、スクリーンの舞台ではなく3階にあるフリースペースで、19日と20日の2回にわたって、福間恵子が田中さんとトークしました。
「福間監督は、『きのう生まれたわけじゃない』を最後まで完成させてから逝ったけれど、この作品がどんなふうに受け入れられるのかとても心配だった。でも、東京上映を好評で終えられて、こうして関西で無事上映できることに感慨があります」と、お礼を伝えました。

福間恵子プロデューサー@出町座

 客席には、なんと下関から北川透さんがいらしていて、福間健二の詩集デビューの話をしてくださいました。詩人で文芸評論家の北川さんは現在88歳。豊橋で活動していた60年代に「あんかるわ」という詩誌を出していて、そこに小詩集として大量の詩篇を送ってきた健二の初めての詩集を、71年から72年にかけて3部まとめて出版することに。新人の詩集だから売れないだろうと値段を高くしたところ、すぐに売り切れて印税が出せることになったという。初めて聞く話だった。健二にとって北川さんは、尊敬する詩人であり評論家で、影響を受けた存在だ。二人が頻繁に交わした手紙のやりとりを、わたしも見てきた。そして、2007年撮影の福間監督第2作『岡山の娘』の準備中に、偶然岡山の朗読会に来ていた北川さんに、主人公が文学について質問する場面で出演してもらった。
「文学をやる上で一番大切なのは、弱い心、何にでも傷つきやすい心を持ち続けること」。
この北川さんの言葉は『岡山の娘』の人物たちのモチーフとなり、すべての福間映画に通じるものとなったのです。
 
思いがけない人が遠くから映画を見に来てくれて、知らなかった福間健二を語ってくれる。そういう場面に立ち会えることの感動は、劇場に足を運ばなければ得られないものだ。京都に来てよかった。
北川透さん、京都のみなさん、出町座のみなさん、ほんとうにありがとうございました!


★シネ・ヌーヴォ 1月20日
出町座に別れを告げて、京阪出町柳駅から約1時間でシネ・ヌーヴォのある九条駅に到着。上映前には間に合わなかったけど、この速さ、近さには毎回びっくり!
九条にあるヌーヴォは、立地もたたずまいも、どこか下町の映画館という風情で、これまた心がなごみます。山崎紀子支配人にご挨拶。山崎さんの笑顔に会うために九条に来た! そんな気持ちにさせてくれるシネ・ヌーヴォです。
ヌーヴォでは福間監督特集上映も今日から1週間開催です。
 
上映終了して、本作出演・美術の住本尚子さん、福間映画4作編集の秦岳志さん、福間恵子の3人でトークしました。
国分寺市から豊中市に引っ越して10年近くになる秦さんは、都立大時代に福間監督第1作『急にたどりついてしまう』にスタッフとして参加。チラシのスチールは秦さん撮影で、そのころの少年のような姿は劇中に残っている(誰も気づいていない!)。
「大学に入ったものの、七海と同じように行きたくない。福間先生の英語の授業を受けていて、英文に転部して、やっと学生になった。僕にとって福間先生は、自分が映画に進むきっかけを作ってくれた恩師でもあるんです」と秦さんは言います。
恵子「健二のホンのつながりはわかりにくいから、編集は大変だったでしょう?」
秦「最初はまあ苦労したけど、だんだん福間先生の呼吸がつかめてくると、おもしろくなりましたよ」
恵子「秦さんがいなかったら、福間映画はどうなっていただろうと思う。特集予告編は秦さんでなければ作れなかった傑作で、新作も含めた福間映画のエッセンスが見事に出ています!」

右から秦岳志さん、住本尚子さん、福間恵子プロデューサー@シネ・ヌーヴォ


住本さんは、休暇をとって従姉妹の住む大阪にこのタイミングで来ていたので、この日初日の元町映画館での『きのう生まれたわけじゃない』上映前の舞台挨拶をしてくれたのでした。そして九条へ。
「元々は本作の美術を依頼されて引き受けた。その打ち合わせをしてるうちに、福間さんからトリ子役もお願いされたんです。えーっ! と思ったけれど、福間さんの映画は好きだったので、やってみようと。でも本当に私でいいのかと悩んで、福間さんに話したら、ぼくも迷うことだらけだけど、どこかに自分が出せたらそれでいいかな、と言われてほっとした」と住本さん。
恵子「〈長靴ダンス〉は、住本さんのアイデアですよね?」
住本「あれは〈ゴダール的に〉とだけ言われて、それって何だろうって考えましたが、あのようになったんです!」
本篇ラスト近くの、トリ子と七海が落ち合って自然に身体が動いていくシーン、このラッシュを見たとき監督は、トリ子はやっぱり住ちゃんだった! そう言ったのを思い出しました。
 
今夜の客席は笑顔が多くて、さすが大阪なのか、ヌーヴォなのか、ありがたいことに、とてもリラックスできました。大阪出身の正木佐和さんのお母さまも来てくださいました。
ご来場くださったみなさん、ヌーヴォのみなさん、ありがとうございました!
 
 
★1月21日/元町映画館
曇りが続いた2日間でしたが、神戸に来てやっと空が明るくなってきました。元町映画館はJ R元町駅から歩いて6分、元町通りのアーケードの中にあります。よく迷子になった福間監督も、ここなら大丈夫だったね。着いてすぐに劇場正面の写真を撮っていると、ゑでぃまぁこんが到着。お二人も入れた写真も撮れました! 次々に懐かしい友人、知人がやってきます。そして、いまや元映の顔ともいうべき石田涼さんにご挨拶。石田さんの人懐っこさは、旧友に再会したような気持ちにさせてくれます。
 
上映終わって、ゑでぃまぁこんミニライブの準備の間にちょこっと挨拶しました。前作『パラダイス・ロスト』上映に来てくれたゑでぃまぁこんとの出会いが、『きのう生まれたわけじゃない』劇中音楽へとつながったことを話しました。元町映画館が結んでくれた縁です!
今日は、ゑでぃまぁこんのお二人に、キーボードの円香さんが加わって3人でのライブです。

ゑでぃまぁこん@元町映画館


劇中曲「たびをする」もエンディングテーマ「皇帝の海」も、わたしはこの機会に初めてライブで聴くことができたのです。場内に響きわたる声と音は、本篇最後に七海と寺田がつかんだ小さな希望をそのままわたしたちの身体に沁みこませてくれるものとなって、映画を2倍楽しむことができました。そして生の声をとおして届いた「皇帝の海」の詩は、福間監督がここから物語の後半を構想したことに気づかせてくれたのです。そうか、そうだったんだ! 涙がほろほろと出てきました。
「皇帝の海」の詩をここに掲載させてもらいます。

皇帝の海

震えていた  
「君はまだ 鳥になれない」
氷の上で 朽ちてゆく  
真っ青の空 
自由を知らずに 追いかける  
あの道を
「どこへ行くの」
 
考えていた 遠い日を  
綿毛飛ばして
揺れる草や 木漏れ日が  
美しい海へ
大きく空を吸って 飛び降りる  
鳥になる

わたしはここに 
すべてがここに
 
遊泳  
遊泳

ゑでぃまぁこん、ありがとう! すばらしい演奏に感謝です!
ご来場くださったみなさん、元町映画館スタッフのみなさん、ありがとうございました!
その後の打ち上げは総勢16名。にぎやかで愉しすぎる元町の夜はいつまでも続きました。


『きのう生まれたわけじゃない』、出町座とシネ・ヌーヴォでの上映はまだまだ続きます。
出町座 2月15日まで https://demachiza.com/movies/14330
シネ・ヌーヴォ 2月9日まで http://www.cinenouveau.com/schedule/schedule2.html
どうかお見逃しなきよう!
 
文責:福間恵子