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【イベントレポート】特集12月7日『パラダイス・ロスト』ゲスト:千浦僚、福間恵子、岩井秀世

さて、第6作『パラダイス・ロスト』は、2020年3月、まさにコロナの恐怖が世界に蔓延しはじめた頃に公開となり、各地での上映もきびしい状況がありました。時代はまさに「パラダイス・ロスト」の世界になった印象さえありました。
今日のトークは、福間監督が不在ということと、本作が一番最近の映画ということもあって、ここまでを少し俯瞰して語ろうということになり、「身内」の3人が登壇することになりました。映画文筆者で特集作品すべての解説を執筆してくださった千浦僚さん、『パラダイス・ロスト』以来の宣伝を担う岩井秀世さん、そしてプロデューサーであるわたし福間恵子です。

千浦「若い頃から福間さんの映画批評をずっと読んで影響されてきたので、今回の解説を書くのも、ここでお話しするのも、光栄だけれど荷が重い気持ちもある。解説依頼されて、書きはじめて、こりゃ大変だと気がついた。福間さんは、自分の作品に対してもすごくいい文章を書いているので、それを越えるものは書けないと途方に暮れた。でも、福間さんと同世代ではなく、自分の世代から書けることを目指して書きました。
僕は、大阪で映写技師として働いていて、ピンク映画も見始めた頃に、福間さんの『ピンク・ヌーヴェルヴァーグ』という本が出て、それを参考書のように読んだ」
岩井「僕もちょうど同じ頃にこの本と出会った。この本の力は大きくて、ピンク映画をある意味一般性へと持っていったし、四天王と呼ばれた4人の監督にとっても非常に貢献したと思う」
千浦「明日上映する作品は、福間健二さんのルーツ的な十代から二十歳前後の活動として、自主製作の『青春伝説序論』と、若松孝二監督で脚本・主演した映画。映画にかかわりながら、詩も書いて、90年代には映画の本を何冊も出していた。それを知らずに買って読んでたら、いろんなところに福間健二の名前があった」
福間「批評を書く人間が映画を撮ることには、大きなハードルがあったと思う。だから第1作で、故石原郁子さんがほめてくれたときは、本当にうれしかった」

千浦僚さん

岩井「今日の映画のなかにも〈ゼロからはじまる自分に会いに行く〉という言葉があるけど、映画の紹介者であり若松プロ経験者であり、また詩人としてのキャリアもありという、多面的なすごい人だったけど、映画を撮るときはまっさらになって、そんなキャリアもかなぐり捨てるみたいな感じで、果敢な試みを毎作続けていることを、改めて全作見て強く感じましたね」

千浦「僕は東京の試写室で映写技師として『岡山の娘』を見て、やっぱり福間さんは、ゴダール、精神の意味においてゴダールだと思った。リアルタイムで入ってきたときのゴダールには、街場的なもの、ストリート的なものがあって、見た人や実践者は喧喧諤諤してたと思うけど、まさにその、生きた生々しいゴダール魂が『岡山の娘』にあると思った。おもちゃ箱にいっぱいモノを詰めこんでるという感じ。映画が一個の容器のような、そこに表現の情報量もたくさんあってという。その勢いはすごかったですよね。
『パラロス』の冒頭、和田光沙さんのヒロインが村八分的になったのを夫が救うところ、ストップモーションかけてる感じ、あれにゴダール魂を感じるんですよ。作り手のイメージが通りのいいものにしようってところに収まってない感じ。映写する側には、これ事故か!なんてびっくりするところ、そこにゴダールがある」
岩井「なんか運動神経というか、映画の神経という感じはしますよね。ここ、ストップモーションでいこうとか、無音でいこうとか、潔さがある気がしますよね」
福間「悩んで悩んで出てくるものの中に、長い間大きな刺激を受けたゴダールが、身体に染みついているんでしょうね」

岩井「福間さんの映画って、毎回新しい挑戦を作品ごとに続けていて、それがすごく面白いんだけど、パラロスに関しては死者の目線で引っ張ることなんか、見てる我々が死者になって生の世界を見ているみたいな錯覚をさせるほどの大胆な構成ですよね」
千浦「ところで、劇中に異質な映像で入る室野井さんのことを説明してください」
福間「古い友人で、舞踏家というかダンサーの室野井洋子さんです。『急たど』『わたしたちの夏』『パラロス』の3作に出演してもらった。彼女は2017年に亡くなったけど、パラロスに出てもらう約束をしていたので、今回は映像で出演してもらった。あれは、廃墟となったトンネルの中でろうそくの光だけで踊った、それを撮影した友人から借りたものです。彼女の死は、わたしたちには衝撃だったけど、その半年後に健二が敬愛していた首くくり栲象さんが亡くなった。そこから福間監督のなかに本作の構想が生まれたんです」

日本のみならず世界の映画の生き字引のような千浦さんの話は、どこまでも羽根を伸ばし時代を越えて止まるところを知りません。福間健二から受けとったものを、これからも書き継いで、語り継いでいってもらいたい、そう願ってやみません。

千浦僚さん、岩井秀世さん、いいお話をありがとうございました!
そして貴重なトークに参加くださったみなさんに感謝します。

Not Born Yesterday 福間健二監督特集1969-2023は、12月22日までつづきます。2週目に入って上映回数の少ない作品もあります。チラシやHPでプログラムをご確認ください。
新作『きのう生まれたわけじゃない』で初めて福間映画に出会った方も、これまでの作品を何度でも見たいという方も、ぜひポレポレ東中野に足をお運びください!