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ハンカチパン

料理教室に行くと手伝ってくれる小柄な3人のインド人がいる。材料などを用意してくれたり、買い出しを手伝ってくれたりしてくれるのだが、毎回料理が出来上がる頃合いにとても美味しいロティを焼いてくれるのである。その料理教室は定期的に開催しているので毎回違うタイプのロティを食べることができ、参加してくれるお客さんは大喜びである。ある料理教室で一人のインド人がルマーリロティという薄いロティを焼いてくれた。小麦粉と小麦の全粒粉を混ぜ水で程よい硬さまで捏ねたらさっと伸ばし、手の上でみるみる薄く生地を伸ばしていった。パッと上に生地を放り生地をより薄く、丸くしていくのである。見事な手さばきにお客さんはうっとりしている。そしてそのルマーリロティの美味しさは、今まで食べたどのロティよりも美味しかった。

料理教室が終わってから、私はそのロティ名人のインド人にルマーリロティの作り方を教えてくれと頼んでみたが、なかなか教えてくれない。何度かお願いをしてようやく教えてくれるようになったがまずはクレープを焼けるようになれというのでひたすらにクレープを焼き始めた。全然うまくいかない。たまにロティ名人が見に来るが何も言わずに去っていってしまう。「いつルマーリロティの作り方を教えてくれるんだい?」と聞いてみるとニコニコしながら何処かにいってしまう。ロティ作りの奥深さを肌で感じながら目が覚めた。

目を覚ましてから、夢だったことに気がつくのにしばらく時間がかかった。

クレープを焼いている感じが手に残っている。ルマーリロティが食べたい。

ロティというのはインドでよく食べられている平たいパンのことである。小麦の全粒粉と水だけで捏ねて伸ばして焼くだけといったシンプルな作り方の「チャパティ」、それを油で揚げた「プーリー」。パンジャーブ州でよく食べられているコーンの粉で作る「マキキロティ」、チリパウダーなどを一緒に練りこんだラジャスタン州などでよく食べられている「ミッシロティ」、南インドでよく食べられているクロワッサンのような「パラタ」、タンドール窯で焼いた「タンドーリロティ」、米粉や野菜、スパイスが練りこまれた「アッキロティ」、サフランが入ったちょっと甘めの「シーマル」、チーズが入った「チーズクルチャ」。ちょっと思い出すだけで様々な種類のロティが出てくる。一番食べられているのがシンプルな「チャパティ」であろう。そして先ほど夢に登場したのは「ルマーリロティ」。ルマーリというのはハンカチという意味でハンカチのように薄いロティということである。ムガール帝国の王族たちは実際に食事が終わったあとにルマーリロティで油ぎった手や口を拭いたのだとか。ロティはいつからインドで食べられているかはわからないが、アフリカから伝わってきた説。ペルシャから来た説。インダスの時代に作られた説など色々とあるがサンスクリット語のお皿を意味する言葉からロティと名付けられたのが面白い。

実際にチャパティやロティを手でちぎってスプーンやフォークのようにおかずやカレーをそれですくい口に運んだり、カレーやおかずを上にのせて皿代わりにもする。

皿にもスプーンにもフォークにもナフキンにも食事にもなる。

ロティがあるからインドでは手で食すのかもしれない。

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