見出し画像

タワー・オブ・テラー Ⅰ

1899年12月31日、アメリカ・ニューヨーク市に堂々とそびえる宿泊施設「ホテルハイタワー」にて、オーナーである「ハリソン・ハイタワー三世」という人物が謎の失踪を遂げると言う事件が起きた。
事件が起きたのは、12月31日から1月1日へと日付の変わるちょうど0:00分のこと。ハイタワー三世を乗せたエレベーターが緑の光と共に落下。
落下したエレベーターからは彼の被っていた帽子と「呪いの偶像」と呼ばれている「シリキ・ウトゥンドゥ」という偶像だけが見つかった。

時は流れ1912年、すっかり廃墟となったホテルハイタワー。
しかしこのホテルに芸術的かつ歴史的な価値を見出す1人の女性がいた。
この女性はホテルハイタワーを後世に語り継ぐべく、市民団体「ニューヨーク市保存協会」を立ち上げる。
その後、協会はホテルハイタワーの素晴らしさと、ハイタワー三世の失踪の謎を人々に伝えるべく、「ホテルハイタワー・ミステリーツアー」を開催する。
そして我々も、このミステリーツアーに参加することとなり、呪われたホテルへと足を踏み入れるのであった…。


と、言うことで!
今回はタワー・オブ・テラーのBGS(バックグラウンドストーリー)についてお話ししていきたいと思います。
タワー・オブ・テラーは東京ディズニーシーのニューヨークエリアに存在する、パークでも1、2位を争う人気アトラクションです!
先述したプロローグはタワー・オブ・テラーの導入も導入。我々ゲストが「なぜホテルハイタワーに足を踏み入れることになったのか…」を簡単にまとめさせていただきました。
ここからはタワー・オブ・テラーの出来事を時系列順に整理した上で、ストーリーを詳しくお話ししていこうかと思います。
これを読めばタワー・オブ・テラーの見え方がガラッと変わると思うので、最後まで楽しんで読んでいただけたらと思います!


1.登場人物

①ハリソン・ハイタワー三世

ハリソン・ハイタワー三世の肖像画

ホテルハイタワーの創立者かつ探検家。
大富豪で頭脳明晰だが、非常に傲慢な性格で、自分の手に入れたいものは無理矢理にでも手に入れようとする。
「ムトゥンドゥ族」という部族から、呪いの偶像「シリキ・ウトゥンドゥ」を手に入れたが、その後自身のホテルのエレベーター内で謎の失踪を遂げてしまう…。

②シリキ・ウトゥンドゥ

ハイタワー三世の失踪後、書斎に飾られたシリキ・ウトゥンドゥ

呪いの偶像と呼ばれている木彫りの人形。
落下したエレベーターから見つかったが、以降はニューヨーク市保存協会の管理のもと、ホテルハイタワー内に保管されている。
「シリキ・ウトゥンドゥ」とはスワヒリ語で「災いを信じよ」という意味。

③コーネリアス・エンディコット三世

コーネリアスさん。いかつい…

ハイタワー三世とは因縁の仲にあり、彼を目の敵にしていた。
実は、あの東京ディズニーシーにある豪華客船「S.S.コロンビア号」を所有する『U.S.スチームシップカンパニー』という造船会社の社長でもある。

④ベアトリス・ローズ・エンディコット

ニューヨーク市保存協会の演説中のベアトリス

コーネリアス・エンディコット三世の娘。
幼い頃からハイタワー三世のことを「憧れの人物」としていた。
そして彼女こそが「ニューヨーク市保存協会」の会長である。

⑤アーチボルト・スメルディング

荷揚げ作業中の肖像画

ハイタワー三世の執事。
20ヶ国語以上を操り、執筆や描画も得意とする。
ハイタワー三世の探検にも同行し、数々の歴史的価値のある物を強奪持ち帰ってきている。
ハイタワー三世の失踪後は行方不明となっているが…

⑥マンフレッド・ストラング

ニューヨーク・グローブ通信社で働く記者。
ハイタワー三世の隠された悪事を暴こうと日々奔放していた。

⑦キジャンジ(ムトゥンドゥ族)

ムトゥンドゥ族という部族の族長。
シリキ・ウトゥンドゥを所持・崇拝していたが、ハイタワー三世に強奪されてしまう。

2.ストーリー

時は1835年、ハイタワー家に1人の男の子が誕生した。
彼こそがこの「タワー・オブ・テラー」の実質的な主人公であるハリソン・ハイタワー三世である。

ハイタワー家は大富豪の家系であり、もともとニューヨークの一等地に「大邸宅」という立派な屋敷を持っていた。

そんなハイタワー三世が12歳になった1847年、彼は「スノッティングトン校」という寄宿制の学校に入学する。
そこでハイタワー三世は、2つ下の学年にいる、1人の男の子と出会うわけなのだが、その人物とは…後にあの「S.S.コロンビア号」を作り上げたコーネリアス・エンディコット三世なのだ。

停泊中のS.S.コロンビア号


しかし、もともとハイタワー家とエンディコット家はニューヨーク市内でも仲が悪かった。
それが原因なのか、ハイタワー三世はエンディコット三世に執拗な嫌がらせを行う。厳密には「物凄く酷いイタズラ」とされているが、それは最早、イジメといっても過言ではないだろう。
だが、そんな堂々とした嫌がらせが長く続くわけもなく、結果として教師にバレてしまい、ハイタワー三世は学校を退学させられてしまう。

ーーーそれから時は流れ、ハイタワー三世が33歳になった1868年。ここで彼の後の人生を作り上げた重要人物と出会うことになる。

それはハイタワー三世が、兵役によりアビシニア遠征を行った時のこと。
突如、イギリス軍に所属していた「ある男性」が、軍から脱走を図る事態が起こる。
この男性、実はハイタワー三世の後の従者となる「アーチボルト・スメルディング」なのだ。
ハイタワー三世は、そんなスメルディングに声をかける。
脱走したスメルディングはハイタワー三世と話していく中で、彼のカリスマ性に惹かれ「従者」としてついていくこととなった…。

1875年、40歳になった彼は、自身の趣味である「世界中の価値のあるもの」の収集に力を入れ始める。
つまり、ここから数々の略奪冒険に出かけることになるのだ。
まず彼が向かったのが「アジア遠征」である。
訪れたのは日本を始めとして中国、モンゴル、カンボジアなど。
日本では鎧や日本刀といった伝統品を略奪しており、カンボジアでは寺院の一部を破壊して持ち帰って来ている。

カンボジア遠征で破壊し持って帰ってきた寺院の一部。
もともとあった銅像を破壊し、自身の肖像画を飾っている…


しかし、カンボジアに訪れた際、ハイタワー三世に悲劇が起こる…。

なんと、ハイタワー三世は捕虜として原住民に捕まってしまうのだ。
そして、執拗な拷問を受けた結果、ストレスのあまり40歳という若さにしてハイタワー三世は白髪となってしまう。

しかし彼の「世界を手中に収めたい」という傲慢さと野心は折れることはなかった。
なんとか無事に生還した彼だが、その後も度重なる遠征を繰り返していった。
(遠征の内容はかなりボリューミーなので、次の機会にお話しします…)

ーーその後、ハイタワー三世の遠征は1892年まで絶え間なく行われたが、1886年のある時、彼は一つの計画を進める。
それが「ホテルハイタワー創設計画」だ。
彼は世界中から集めた貴重な品々を世間に発信(自慢)したいと考えたのだ。それは彼自身の持つ、「世界は全て自分のものである」という思想を世間に伝え、承認欲求に似た物を得たいと考えていたからなのだろう。
そしてニューヨークの一等地に存在する、代々受け継がれて来た「大邸宅」を増改築しホテルを建てることとした。事業の拡大と客寄せという意味では、ニューヨークの港町にホテルを建設するという計画は理にかなっていると言える。

そんな思惑のもと、ホテルの建設にあたってハイタワー三世は、ある著名な建築家に設計を依頼した。
それがロシア人建築家の「オスカー・キルノフスキー」という人物だ。

図面をもっている人物がオスカー・キルノフスキー

彼は、早速自身の思い描くホテルを構想し、ハイタワー三世に設計書とデザインを提示する。
しかし、提示されたデザインを見てハイタワー三世は激怒。「自分の理想としているホテルとは程遠い!」として、オスカー・キルノフスキーを即刻解雇してしまう。
そして自分の思い描くホテルを自らデザインし、そのままホテルの建設を行うこととする。
ちなみにホテルハイタワーは世界中のあらゆる建築様式が組み込まれており、ここにも彼の我儘な思想が繁栄されてるとも言えよう…。
そして1889年、ホテルの建設が開始された。
しかし、着工が行われていく中、またもやハイタワー三世の我儘が爆発する。

それは「自室が狭い」というもの。
ちなみにホテルハイタワーの13階〜14階は彼の自室として設計されているが……なんとそれでもまだ部屋が欲しいとの要望を出し始める。
しかし、建築はかなり進んでおり、設計書の見直しは不可能な時点まで来ていたため、彼は最終手段として最上階の左右に対照的な部屋を増築させてしまう。
それが今のあのような姿になっているのだが、実はあの形はハイタワー三世の我儘により成されたものなのだ。

ハイタワー三世の我儘で出っ張っちゃった…

ーーーそして3年後の1892年1月24日、ホテルハイタワーはグランドオープンを果たすことになる。
オープンの際、最上階が左右に飛び出ている形の理由を問われたハイタワー三世は

「あれはもともとハンマー型として設計したものだ!」

と後付けの理由を述べている。
ハンマーというのは権力の象徴ともされており、実はハイタワー三世は「世界をハンマーで打ち砕く」という意味合いと権威の象徴を「ハンマー型」と比喩しているのだろう。

ハイタワー三世はホテルのグランドオープンに伴い、完成披露パーティーを行った。
このパーティーは、市長や市議会議員といった政治家や、数多くの著名人を招待したうえ、ハイタワー三世は象に乗って登場し、自らを「パークプレイスの竜」などと自称して練り歩くという、まさにカオスそのものだった…。

とにかく莫大なお金をかけて取り行った完成披露パーティーだったが、実はこのホテルの建設やこのパーティーの資金というのは、ハイタワー三世が支出したものではない


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ここで、ストーリーの本筋からは逸れる話になりますが、ハイタワー三世の悪行を少し紹介しておくことにします。
実はこのホテルの5階には「ファラオ探検家クラブ」という会員制の秘密組織が、会議を行う会場が設けられているんです。

5階がファラオ探検家クラブの会議場となっている

この会議場は、夜はオークション会場となり、ハイタワー三世が世界で略奪した品々を競売にかけては売り払うということが行われていました。
そしてなんといっても、この秘密組織の会員は、市長や政治家等で構成されているのです。
……ここまでお話しすればお分かりですね?
そう、このホテルの建設資金、そして豪華絢爛な完成披露パーティーは、ハイタワー三世が市長や政治家たちから受け取った裏金で作られたものなんです!
つまり市民の血税が使われたホテルであるということ。
こんなものが世間に知れ渡った暁には、とんでもないことになるでしょう…。

さて、話をもとに戻すことにします。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ホテル完成から程なくして、ハイタワー三世は遠征を再開することとなる。
次の行き先はアフリカの秘境コンゴ川。
ここにはフランス人のガイドと、自分の部下30人、もちろん従者のアーチボルト・スメルディングも引き連れ、遠征に向かうこととなった。

今回の遠征はコンゴ川ということもあり、ボートを使用して探検を行ったのだが、この探検の途中で、複数の原住民族からの攻撃に遭い、なんと8人もの部下が犠牲になってしまう。
しかし、ハイタワー三世たちは、そのまま逃げるようにどんどんコンゴ川の奥地へと進んでいく。

ーーそしてどれほどか進んだところで、原住民族たちからの攻撃がピタッと止んだことに気づいた。
ガイド曰く、ハイタワー三世たちが今いる場所、それは「ムトゥンドゥ族」という部族の領地にあたるそう。
コンゴ川では、このムトゥンドゥ族は大変恐れられており、「呪術的なものを扱う」「ムトゥンドゥ族と関わったものは命を落とす」などと言われていたのだ。

…実はこの時、攻撃していた部族は、森の中に緑色の光を見たことで、「ここからはムトゥンドゥ族の領地だ」と気づき、攻撃を止めたのだ。
当然、フランス人ガイドもそのことを知っており、ハイタワー三世に撤退を要求するが、彼がそれを受け入れるはずもなく、どんどん奥に進んでいくこととなる。

ーーー程なくしてムトゥンドゥ族の住処に到着したハイタワー三世たち。
しかし、到着してみると意外や意外、族長を始め、部族全体が歓迎ムードだったのだ!

ハイタワー三世も「恐れられていたのはただの噂話」として、歓迎されるがままに振る舞われるのであった…。
このムトゥンドゥ族の族長である「キジャンジ」という人物から、自分たちの暮らしや部族のこと等々を説明され、様々な現地料理を振る舞ってもらい、ハイタワー三世たちは大層歓迎された。
しかしハイタワー三世は、族長の話の中に登場した、「部族が行なっている偶像崇拝の文化」に特に興味を示し、あまつさえ「その崇拝している偶像が欲しい!」と言い出したのだ…。

当然族長であるキジャンジは拒否。
しかし、欲に駆られたハイタワー三世は、なんと族長の目を盗んで、その偶像を盗み出してしまう。
ここまで読んでいただいているということは、既にお察しのことと思うが、その偶像こそ「シリキ・ウトゥンドゥ」なのだ。

コンゴ川遠征時の記事の切り抜き。
族長のキジャンジとシリキ・ウトゥンドゥを持ったハイタワー三世。


シリキ・ウトゥンドゥを盗んだハイタワー三世たちは、大慌てで船にもどる。
ムトゥンドゥ族も、自分たちの崇拝している偶像が盗まれたとあって全力で追いかけてくる。
しかし、そんな逃走劇も束の間。
すぐにムトゥンドゥ族は追いかけるのを止めてしまう。
むしろ、シリキ・ウトゥンドゥを盗まれたことに対して、喜んでいるようにも見えた。

…それもそのはず。
実は、このシリキ・ウトゥンドゥという偶像には、必ず守らなければならない8つの掟が存在するのだ。
その掟は下記のとおりである。


1.崇拝すること
2.燃やさないこと
3.閉ざされた場所にしまわないこと
4.おろそかにしないこと
5.馬鹿にしないこと
6.譲渡しないこと
7.放置しないこと
8.なにより恐れること


以上の掟を「1つでも破れば」必ず災いが降り掛かると言われている。(こんなの全部守れないよ…
実はシリキ・ウトゥンドゥは、今まで数々の部族の手に渡って来たのだが、その部族は繁栄を極め、後に必ず滅亡しているのだという。そんな偶像に恐れを成したムトゥンドゥ族だったが、「譲渡しないこと」という掟のせいで、手放すことができなかったのだ。

しかしそんな中、何も知らないハイタワー三世が現れ、まんまとシリキ・ウトゥンドゥを盗み出してくれた。
掟には「譲渡しないこと」とされているが、「盗まれてしまえば譲渡したことにはならないだろう」と考えたムトゥンドゥ族によって、ハイタワー三世はシリキ・ウトゥンドゥを「盗まされた」ことになる。
だからムトゥンドゥ族は喜びを隠せなかったのだろう。
まぁ…結局のところムトゥンドゥ族は滅んでしまうのだけれど…。


ーーーそんなこととは知らず、ハイタワー三世はシリキ・ウトゥンドゥを「略奪してやった!」と自信満々に帰路につく。
道中、今まで襲って来た部族の集落を抜けていくことになるのだが、シリキ・ウトゥンドゥを持っているハイタワー三世を見るなり、全員歓迎ムードに…。

そんな中、とある部族の「盲目の老人」から、シリキ・ウトゥンドゥについての言い伝えを聞かされる。
それは、この偶像がかつて「シリキ」という名の雷を操る伝説のシャーマンによって生み出されたこと。破ってはならない8つの掟があることなど、様々な言い伝えを聞かされた。

しかし、ハイタワー三世はこの話を鼻で笑った。
「馬鹿馬鹿しい!」…と。

すると次の瞬間、ハイタワー三世たちの乗っていた船の1つに、落雷が直撃する。

ハイタワー三世は「たまたまだろ!」と楽観視していたが、従者のアーチボルト・スメルディングだけは、盲目の老人の話を半ば信じていた。

そんなハイタワー三世は、シリキ・ウトゥンドゥを「略奪品を保存するための木箱」に詰め、コンゴ川を抜けニューヨーク市に向かっていたのだが、帰りの船旅は過酷を極めた。
とてつもなく強い嵐が、突如ハイタワー三世たちを襲ったのだ。
こんな嵐は、今までに経験したことがないほどに強かった…。
あわや転覆寸前というところまで船が傾いた時、従者のスメルディングがあることを思い出す。
それは、ハイタワー三世が、シリキ・ウトゥンドゥを大事に木箱に詰めていたことだ。

掟のひとつ「閉ざされた場所にしまわないこと」

このことを思い出したスメルディングは、すぐさまシリキ・ウトゥンドゥを木箱から取り出した。
ーーすると、あんなに強かった嵐がピタッと止まり。
穏やかな海へと姿を変えたのだ。
スメルディングのこの行動のおかげなのか、それともたまたまなのか……無事、ハイタワー三世たちはニューヨーク市に帰還することができた。


ーーーーそして、1899年12月31日。
昼の12時を回ったところで、ハイタワー三世によるコンゴ川遠征についての記者会見が開かれた。
呪いの偶像である「シリキ・ウトゥンドゥ」も例外なくお披露目されることとなったが、ここで記者であるマンフレッド・ストラングが質問する。

ストラング「ハイタワーさん、それは呪いの偶像だと言われていますよね?」

ハイタワー三世「フンッ、呪いの偶像だと?馬鹿馬鹿しい!」

ハイタワー三世の言葉に会場からは笑いが起こる。当然、誰も呪いの偶像なんてものは信じていないからだ。
しかし、ストラングだけは違った。彼はその後、矢継ぎ早に呪いの偶像について質問を行ったが、この行動がハイタワー三世の機嫌を損ね、会場から追い出されてしまう。

記者会見でハイタワー三世に質問するマンフレッド・ストラング


ーーその日の夜19時、ホテルハイタワーの4階にある「アトランティス・ボールルーム」という舞踏場において、コンゴ川遠征の帰還パーティーが行われる。
そしてこのパーティーには、昼間の会見で会場から追い出されてしまっていたマンフレッド・ストラングの姿が!
彼はハイタワー三世の悪事を追い続けるという執念により、このパーティーにウエイターに変装して潜入していたのだ。
ストラングはハイタワー三世をマークするように、舞踏場内を動き回った。

ウエイターに変装したマンフレッド・ストラング



ーーそして時刻は23時45分を回ろうとしていた時、ハイタワー三世が、従者であるアーチボルト・スメルディングと共に会場を後にするのを目撃する。
ストラングも足早に彼らのあとを追った。

どうやらハイタワー三世は、シリキ・ウトゥンドゥを最上階の自室に飾るため、エレベーターに乗り込もうとしているようだ。
ストラングはハイタワー三世に近づき、持っていたワイングラスを受け取るついでに、2人の会話を盗み聞きする。


ハイタワー三世「お前にはここで客人の接待をしろ!」

スメルディング「自室について来ても良いと仰ったではありませんか…」

ハイタワー三世「いや、やはりお前にはここに残ってもらい客人の接待をしてもらいたいのだ」

スメルディング「しかしご主人様… くれぐれもご注意ください…。その偶像は呪いの偶像と呼ばれていますゆえ……必ず敬意をお払いください!」

ハイタワー三世「ハハハ!ならその馬鹿げた呪いの正体とやらを見てやろうではないか!」


これが、ウエイターに扮したストラングが最後に聴いた、ハイタワー三世の言葉だったと言う。
そしてストラングは後に重要な証言をしている。
「ハイタワー三世がエレベーターに乗る際、口に咥えていた葉巻を手に取り、シリキ・ウトゥンドゥの頭部に押し付けた」と。
そう、この瞬間、ハイタワー三世は破ってはならない掟の一つ、「燃やさないこと」を破ってしまうのだ。

そして…時刻が0時00分を回ろうとした時、ホテル全体を緑の光が包み込み、轟音とハイタワー三世の悲鳴と共にエレベーターが地上1階まで落下してしまうのだった。

ハイタワー三世がエレベーターに乗っていたことを知っていたスメルディングとストラングは、慌てて1階のエレベーター前まで駆けつけた。
しかし、そこで彼らが見たものは、落下の衝撃で大破したエレベーターとハイタワー三世の被っていた帽子、そして呪いの偶像シリキ・ウトゥンドゥのみだった。
肝心のハイタワー三世は、突如として姿を消してしまったのだった…。

大破したエレベーター。落下の衝撃を物語っている…。


この一連の失踪事件は、瞬く間に世界に発信された。
それは日本においても例外なく報道されたものだった。

後にニューヨーク市保存協会により展示された当時の新聞の切抜き。日本でも報道されていたことが伺える。


〜第2部〜

1899年に起きた「ハイタワー三世失踪事件」から、時は遡り1883年4月15日。
ニューヨーク市において造船業として名を馳せていた大企業「U.S.スチームシップ・カンパニー」の社長「コーネリアス・エンディコット三世」のもとに、一人の女の子が誕生した。
その少女の名は「ベアトリス・ローズ・エンディコット


1892年1月24日、ベアトリスが8歳の時に、ニューヨーク市にあるホテルハイタワーにて、とあるパーティーが開かれていた。
それが、あのホテルハイタワーオープン記念パーティーなのだが…
まだ幼かったベアトリスは、贅を凝らしたパーティーに感激を受けたと同時に、悠々と象に乗り、自身を「パークプレイスの竜」と自称するハリソン・ハイタワー三世に対し、感動と憧れを抱くことになる。


ーーーそして5年の月日が流れ、1897年2月2日。
エンディコット家に1人の男性が訪ねてくる。
その男性とは、後にハイタワー三世失踪事件を目の当たりにする「マンフレッド・ストラング」である。

冒頭でも話したとおり、ハイタワー三世とコーネリアス・エンディコット三世は超絶仲が悪く、さらにはハイタワー三世は、幾度となくU.S.スチームシップ・カンパニーの事業を邪魔してきたのだ。
そんなハイタワー三世が、ホテルの建築に市民の血税を使っていることや、パーティーでの裏金問題、さらには数々の略奪行為の疑いを暴き、その実態を世間に知らしめるため、「ニューヨークグローブ通信社」という出版会社も経営しているコーネリアス・エンディコット三世のもとを訪れたのであった。

ニューヨーク・グローブ通信社のメインオフィス

しかし、そこでストラングが1冊の本を落としていく。
それを興味本位で拾ったのがベアトリスだった。
本のタイトルは「ハイタワー三世 真実の冒険物語」というもの。チェスター・ファリントン・ウールプールという著者が執筆したものらしい。
ベアトリスは拾ったその本を、誰にもバレないように隠れて読むことにした。
その本には、ハイタワー三世のこれまでの冒険譚が事細かに記されており、その物語の中では、ハイタワー三世のことを「英傑」であるかのように記されていた。

…それもそのはず。
実はこの「チェスター・ファリントン・ウールプール」という人物は、実はハイタワー三世の従者であるアーチボルト・スメルディングであり、「ハイタワー三世 真実の冒険物語」は彼が執筆したものなのだ。
ハイタワー三世は「ダブルエイチ・ピリオディカル社」という出版社を持っており、その出版社から「ハイタワー三世 真実の冒険物語」を出版しているというわけなのだ。

ベアトリス自身は、自分の父親とハイタワー三世が仲が悪いことは既に知っている…。
しかしながら、幼い頃に見たハイタワー三世と、この本に描かれているハイタワー三世を照らし合わせた結果、彼女のハイタワー三世を想う(憧れる)気持ちは、より一層強くなったのだった。


ーーベアトリスがハイタワー三世への憧れを抱いたまま、時は「あの事件」が起こった1899年12月31日。
ベアトリスは自宅の自室で外の景色を眺めていた。
まもなく1900年になろうとしている。19世紀も残すところあと1年という時代だ。

彼女の自室からは、あのホテルハイタワーが見える。
19世紀最後の年越しに、彼女は自宅の窓からホテルハイタワーを眺めていたのだ。

ーーすると次の瞬間、突如ホテルハイタワーが緑色の光に包まれた。
煌々と灯っていたホテルの電気が次々と消え、緑色の稲妻がホテルの上階から下にかけて落ちていくのが見えた。
ベアトリスは、その時一体何が起きているのか、全く分からなかったが、その後の報道でハイタワー三世が謎の失踪を遂げたことを知る…。


〜第3部〜

ハイタワー三世の失踪事件から約8年が経った1908年10月21日。
ニューヨーク市のとある公園に、あのベアトリス・ローズ・エンディコットは居た。彼女はこの時、25歳になっていた。
ベアトリスは公園で、趣味のスケッチを嗜んでいる最中だった。

そんな彼女に、ある人物が突然話しかけてきた。
その人は自分の名を「アーチー」と名乗り、
「ホテルハイタワーでコックの助手をしていた者です」
と自己紹介した。

ハイタワー三世に強い憧れを持っていたベアトリスにとって、ホテルハイタワーに関係していた人物と話せるというのは、またとない機会だった。
ベアトリスはアーチーから、「ハイタワー三世の情報」や「失踪に至るまでの数々の功績」さらには「ホテルハイタワーがどのような想いで建築されたものなのか」を聴くことができた。
ベアトリスにとってアーチーとの会話は物凄く貴重な経験となり、同時に今までになく楽しいものだった。
そしてホテルハイタワーが如何に素晴らしいものなのか、彼女はホテルに対する興味に駆られていた。
アーチーはひとしきり話し終えると、「また話が聞きたくなったらいつでも呼んでね」と言い、その場を後にしたのだった。


ーーーそして、さらに時は流れ1911年。未だハイタワー三世の目撃情報は無い。
事件後のホテルハイタワーは荒れ果て、手付かずとなったため閉鎖され、「呪いのホテル」などと呼ばれるようになっていた。
最近では「取り壊した方が良いのではないか?」との意見も増え始めている…。

同年の4月15日、ベアトリスの28歳の誕生会が開かれていた。
彼女は自分の父であるコーネリアス・エンディコット三世に、少し変わった誕生日プレゼントをお願いするのだった。
それは、「ホテルハイタワーを買収してほしい」というものだった。

コーネリアスは、自分の娘の口からハイタワー三世の名前が出たことに驚愕すると同時にショックを受けた。
しかし、ベアトリスはそれも想定済み。その後、彼女はこう発言した。

「あのホテルを買収することで、このニューヨーク市の一等地に、我が社が管轄するホテルを開くことができます!
さらにここは港町ですよ!事業の拡大と成功を果たすには打ってつけの場所です!」

そしてこう続ける

「お父様が憎むべきハイタワー三世のホテルを買収し、さらにそれを利用し事業を成功させれば、ハイタワー三世への復讐になるのではないでしょうか!」

この娘の言葉に父であるコーネリアスは感激を受けた。
「それでこそ我が娘だ」と。

しかし、父と娘との間で、ホテルハイタワー買収の真の目的に大きく差異が生じていた。
簡単に説明すると以下の通りである。

ベアトリス:ホテルハイタワーを買収し、エンディコット家においてホテルハイタワーを存続し経営していく。

コーネリアス:ホテルハイタワーを買収し、その後解体。
エンディコット・グランドホテルとして新規事業を開拓

このように、買収という共通点を除けば、2人の方針は正反対にあるのだ。
しかし、父コーネリアスは、娘の真意に気づいていたが、あえて気付かぬふりをしてこの買収計画を進めることにしたのだ。

コーネリアスは、自身の計画を裏では「エンディコット・グランドホテル計画」と呼んでいた。
早速、ホテル買収に取り掛かるコーネリアスだったが、ここで一つ懸念事項が増える。
なんとホテルハイタワーの土地の権利書が5枚も発見されたのだ。
もちろん本物は1つだけであるため、他の4枚は偽物ということになる。

だがコーネリアスはこれを逆手に取り、娘のベアトリスに「権利書の取得に時間を要している。」という嘘をついた。
そして、権利書を集めている間に、ベアトリスに絶え間なく仕事を与えて、少しでもホテルハイタワーの買収計画から遠ざけようと考えたのだ。
ちょうどこの時期、U.S.スチームシップ・カンパニーの最新豪華客船であるS.S.コロンビア号を造船している最中であったため、ベアトリスに与えることのできる仕事は山ほどあった。
例えば、船内のレストランであるS.S.コロンビア・ダイニング・ルームの内装は、ベアトリスが担当したものだ。

レストランの入口
レストランの内装

このように、次々と仕事を与えていたコーネリアスだったが、権利書の取得に時間がかかり過ぎていることへの不信感から、ベアトリスに父の言葉が嘘だったということがバレてしまう。
そして、エンディコット・グランドホテル計画についても、娘の耳に入ってしまったのだ。
さらに、同じ時期にマンフレッド・ストラングの執筆により、「呪われたホテルハイタワーを取り壊すべき」といった記事が新聞に載ることになる。

ストラングの記事を読み、怒りを露わにするベアトリス

ベアトリスは、ホテルハイタワーへの想いがどれほどのものだったのかを父にぶつけた後、憤りを抑えきれず自宅を飛び出してしまう。
そんな彼女が向かった先が、あのホテルハイタワーでコックの助手をしていたアーチーのもとだった。

ベアトリスは父の計画を全て話し、ホテルハイタワーが解体の危機に晒されていることを伝えた。
すると、アーチーは冷静にこう答えた。

「ならば、私たちでこのホテルを守りましょう。私にいい考えがありますよ。」

そういって提案された計画こそ、
ニューヨーク市保存協会の発足」なのである。


ーーそして1912年6月5日、ベアトリス・ローズ・エンディコットを筆頭に、市民団体「ニューヨーク市保存協会」が発足される。

発足当日、ベアトリスは広場に市民を集め、団体の活動方針と設立に伴う経緯を話し始めるのだった。

ベアトリス「皆さん!たった今、ニューヨーク市議会はニューヨーク市保存協会を市公認団体として決定しました!
これで今この瞬間にも、解体の危機に晒されているホテルハイタワーを、わたくし達の手で守ることができます!」

周りからは拍手が巻き起こる。

ベアトリス「このホテルは様々な歴史的価値や文化的価値を持っており、解体することはニューヨーク市にとって計り知れない損失になります。絶対にわたくし達で阻止しましょう!」

スピーチは大変盛り上がった。
この発足をもって、ホテルハイタワーはニューヨーク市保存協会の管理下に置かれることになったのだ。
そして、ニューヨーク市保存協会は、このホテルの素晴らしさ、そしてハイタワー三世の失踪の鍵を見つけるべく、「ホテルハイタワーミステリーツアー」と銘打って、今日、ホテル見学ツアーを開催することになったのだ。

ホテルハイタワーの前で大衆にスピーチをするベアトリス



……そんな中、ニューヨーク市保存協会の発足を影で見守る人物がいた。
その人物とは、あの「アーチー」である。
アーチーは、自称「ホテルハイタワーのコックの助手」と自己紹介していた訳だが……こんな疑問は残らないだろうか。

たかだかコックの助手が、ホテルハイタワーに全く関係のないベアトリスのもとを、それもハイタワー三世に憧れていたというベアトリスの前に、こうも都合よく現れるものなのか??」と。

実はこのアーチー、ホテルハイタワーのコックの助手でも、ましてや従業員でも何でもない。
その招待は、ハイタワー三世の従者である「アーチボルト・スメルディング」なのだ。

彼は偽名を使いベアトリスに接近。ニューヨーク市保存協会の発足計画を視野に入れ、このニューヨーク市でも力のあるS.S.スチームシップカンパニーの社長令嬢を取り込もうとしていたのだ。
ちなみにアーチボルト・スメルディングは、ベアトリスがハイタワー三世に憧れているという事実を昔から知っていた。
それが分かるのがこの絵画だ。

アーチボルト・スメルディングが描いたベアトリス・ローズ・エンディコット

この絵画は、現在はタワー・オブ・テラーの待ち列に置かれているものなのだが、これは昔、ベアトリスがホテルハイタワーの前を通りがかった時に、その美貌に驚いたアーチボルト・スメルディングが、「スケッチの被写体にしてほしい」と頼み込んで描いたものなのだ。
その接触の際に、ベアトリスがハイタワー三世に強い憧れを持っているということを、スメルディングは知ったのだ。

ハイタワー三世の失踪後、行方が分からなくなっていたアーチボルト・スメルディングだったが、突如として姿を現した彼。
そして、ベアトリスを裏で操りニューヨーク市保存協会を発足させ、ツアーを開催させた。

さて、その真意とは…

①取り壊しの危機に晒されていたホテルハイタワーを守ること。
②アーチボルト・スメルディングが敬愛するハイタワー三世を救い出す方法を見つけること。
③ツアーを開き、大勢の人々をホテルハイタワーに集め、さらにシリキ・ウトゥンドゥにハイタワー三世の身代わりとなる生贄を捧げることで、ハイタワー三世を呪いから解き放つことができるのではないか?

これこそが、アーチボルト・スメルディングの真の狙いだったのだ。
つまり、タワー・オブ・テラーのツアーとは、「生贄を集めるため」のツアーなのだ!
当然、ニューヨーク市保存協会はこの真実を知らない。

アーチーことスメルディングは、この真実を秘めたまま、静かにホテルハイタワーのミステリーツアーの開催を見守るのだった…。


3.まとめ&次回

いかがでしたでしょうか。
今回はタワー・オブ・テラーのストーリーを中心にお話ししましたが、とても複雑で重厚に作られているストーリーなので、とても全てを1回でお話しするのは難しかったです…。
ただ、私たちはこの物語の続きを、実際に東京ディズニーシーで体験することになるのです!

さて、次回はハイタワー三世の収集品やホテルハイタワーの構造等の細かな部分にフォーカスしていきたいと思います!
全てを知った時、きっとタワー・オブ・テラーに並ぶことが楽しみになっていることでしょう。

いいなと思ったら応援しよう!