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サンタでアイドルはやさしくて幸せな嘘をつく。:デレステストーリーコミュ第78話『Santa Claus Is Here !』

『アイドルマスターシンデレラガールズ スターライトステージ』(以下『デレステ』)に2024年7月12日にイヴ・サンタクロースのストーリーコミュである『Santa Claus Is Here !』が追加され、それを読了したので感想などを記す。

イヴのソロ曲を製作することとなり、それに併せてソロLIVEの実施も決定。
プロデューサーからイヴに対して「要望があれば楽曲に盛り込むよ。バックダンサーも自分で指名して」との至れり尽くせりのリクエスト募集。
さすがは奇跡の第11代目シンデレラガールへの扱い。
ところでStage for Cinderellaって去年は7/25からの開催だったんですけどもうやらないんですかね? Stage for Cinderellaがたった1回って寂しいしもったいnうわーなにをするー!

……戻りました。
プロデューサーにイヴは「とってもハッピーな曲に。サンタがいっぱい出てくるステージ。煙突が登場したり、ソリに乗ったり、プレゼントもいっぱい配って交換もしたい!」と遠慮なくおねだり。
それが叶ったかどうかは『あの子が街に来なサンタ』のMVをご覧ください。

ブリッツェンの存在感よ。

バックダンサーとしてイヴが指名したのは、望月聖、向井拓海、市原仁奈、速水奏の4人。
イヴの看板ユニットのひとつである『ホーリーナイトウィッシュ』などでいっしょの印象が強い聖や、仁奈はジュニアアイドル代表(『アジイカコンブ』や『ル・リエーの呼び声』でいっしょでもある)として納得の人選だとしても、拓海と奏はなかなかに意外なチョイスだったか。
かつて『紅の隠れ湯』という温泉ユニットでいっしょでもあった拓海はモバマスのリフレッシュルーム『可愛いあの子を探して☆』でともにブリッツェンを探してくれた時の面倒見の良さを今回も存分に発揮してくれた。
奏は拓海が「参考になるかと」思って連れて来た起爆剤要員で、純粋無垢なイヴに必要悪としての甘いを注入する重要な役割を担った。
それではひとりひとりについて触れよう。

仁奈は一見人畜無害にサンタクロースを信じる枠としての採用に思われたが、イヴの根幹を揺るがすことになる一連の出来事のきっかけとなった。
冒頭仁奈と拓海が仁奈の友達の男の子からの依頼で猫探しをすることになるも、それは彼のついた嘘だった。
屋根の上から事の次第を見ていたイヴが「簡単なことで誰かを悲しい気持ちにさせるから嘘は一番ダメ」だと諭す。
が、男の子は「そんなことは知ってるよ。オレも親に嘘つかれたから。サンタはお父さんでニセモノだった」と返し、イヴは茫然自失。
そこで仁奈が「パパがサンタさんのおうちもあるでごぜーますか?」と疑問を呈して危うく追い討ちをかけそうになるも、拓海の「イヴひとりじゃ難しいから色んなサンタがいる」とのナイスフォローでその場はなんとか事なきを得る。
この「嘘」が今回のストーリーコミュの最大のキーワードとなっていく。

拓海は前述のようにその面倒見の良さでメンバーを姉のように母のように見守って助けてくれた。
さらには最後のメンバーでありピースとなる奏を引き入れた功績の大きさたるや計り知れない。
彼女の存在なくしてはイヴ・サンタクロースソロLIVEはあえなく早期に瓦解していたに違いない。

速水奏は「嘘のスペシャリスト」としての満を持しての参戦。
撮影現場にて奏はカメラマンとの丁々発止のやり取りの後、イヴに「今の私を見てどう思った?言われるがままに演じて表情を変えて、ずるい女だと思った?」「嘘をつくのが悪いことなら、私も悪い子?」と偽悪癖全開の先制ラッシュ。
言葉を失うイヴに「嘘のヴェールに包まれていたとしても、これが『私』だということだけは本当」と自ら助け舟。
嘘を絶対悪だと信じ込んでいるイヴに「ヴェール」としての嘘の使い方があるとのヒントを出す。
底意地の悪い奏は即正解を提示せず紹介した拓海をも困惑させたが、今となってはこの一件が転機となったことは確かだ。

今回最も人間的成長を実感させてくれたのが聖だ。
もちろん今回の主役であるイヴは本ストーリーコミュ中で大きく成長するのだが、聖はこれまでの経験での成長ぶりを我々に見せてくれた。
中でも新たな魅力として目を瞠ったのが観察眼で、奏に対する「奏さんはきっと嘘をつくのが得意。それがあの人の武器で魅力でもある」と「奏の嘘はとても美しい嘘。誰も傷つかなくて誰かに必要なもの」との評は、『ミステリアスアイズ』の相方である高垣楓ですら『Pretty Liar』完成のための共同生活を経てようやく辿り着いた境地だとすら言える。
それをあんな短期間で。
この「必要な嘘」は奏がイヴに投げかけた「ヴェール」としての嘘の明確なアンサーであり、イヴに先駆けて聖は本質を見抜いていた。
そして「必要な嘘」が本当に必要であることを認めたイヴは今度こそ迷子の猫を探していた仁奈の友達の女の子に、おそらくサンタになってから初めての嘘をつく。
「日本には『嘘も方便』という諺があってね」とプロデューサーが持ち出していればさらに綺麗に締まった気がするが、それは置いておいてブリッツェンの機転もあって結果オーライ。

聖はイヴについて「自分のことは後回しにしていつも誰かのことを考えている。だから自分のことを考えるのは苦手なんじゃ」と推測していて、まるでサンタクロースが空から眺めるように俯瞰で捉えていた。
「ついていい嘘もあるって簡単に割り切れる人じゃない」との言葉はイヴが「必要な嘘」をつくために内心どれほどの葛藤を抱えていてそれを抑え付けての行動だったかが見えてくる。
「優しいイヴさんにたとえ小さなことでも自分を責めたりなんてしてほしくない」
ここまでのアフターフォローまで考えてくれる人物がどれだけいるだろうか。
それを13歳の少女が。
もはや聖母、いや聖女のレベルではないか。

サポートメンバーとなるアイドルたちの他にもイヴにとっての重要人物がいる。
誰あろうプロデューサーである。
最終的にサンタクロースアイドル、イヴ・サンタクロースの背中を押したのはやはり彼だった。
アイドルがつく嘘もやさしい嘘。血がにじむような努力をしてきて、どんなに苦しくても笑顔でステージの上に、カメラの前に、人の前に立つ。知らない愛を歌って、知らない感情を演じて、見ている人を笑顔にさせる」
嘘。仮面。虚勢。意地。
表現はなんでもいい。
アイドルが「商品」である以上、表舞台ではキレイな姿しか見せない。
言うのは簡単だ。
だが実践するのは並大抵のことではない。
「イヴがひとりで嘘を抱えるのが難しいなら、プロデューサーとして自分が一緒に抱える。だから君なりの答えを自信を持って出してほしい」
二人三脚。
プロデューサーはサンタアイドルのソリになる。
いや、ならば引く者がいないといけないし、ブリッツェンも合わせての三人……え~っと、するってぇと何脚になるんだ?
細かいことはまあいいや、そんな感じ。
こうしてプロデューサーの熱意が伝わり、イヴは「あの男の子にも届くようにやさしくて幸せな嘘を」つくことを決意する。

ソロLIVE開始前、イヴは「私、これから嘘をつきます。本当にそうであってほしいな~っていう、願いを込めて」との宣言を仲間たちに向けて行なう。
そしてLIVE本番に告げられたのは、「突然ですが、サンタのひとりとしてここだけの話があります。この世界でサンタは私だけじゃありません。でもみんなみんな本物です」との”カミングアウト”だった。
「この世界には偽物のサンタもたくさんいる。でも想いはきっと本物で、その人たちにしか届けられない笑顔がある」
そのことを知ったからこその嘘。
偽物のサンタなんかいない。
サンタは全員本物。
本当は支部登録が必要だけど、想いだけならそんなのいらない。

シルエットではない貴重なブリッツェン。

豊かなヒゲの男性から手渡しされたイヴのLIVEを観た男の子からの手紙にはこうあった。
「お父さんは身分証のないサンタなんだって」
やさしい嘘はやさしい嘘を生む。

イヴがここまで嘘に対して過敏になっていた原因としては、自身のトラウマのようになってしまっていたことが挙げられる。
なんでもサンタクロース業界には毎年更新される「よい子リスト」なるものが存在するらしい。
なにそれ怖い。
逆ブラックリストですやん。
イヴの両親もそれを作成していて、ある年幼少期のイヴの友達が悪い子認定されてしまう。
その子のことが気の毒になった彼女は両親に嘘の欲しいプレゼントを報告し、もらったものをこっそりと友達へと渡した。
が、罪の意識に耐え切れずイヴは両親に自白、笑って許され、友達も反省して翌年からはよい子リストに復帰してめでたしめでたし。
……とはならず、イヴの心の奥底にずっと棘として刺さったままになっていた。
この度のことで氷の棘はようやく雪解けの時を迎えたのだ。

LIVE後、プロデューサーはイヴに謝罪をした。
「元はといえば、二足の草鞋を履かせたのが原因だから。イヴの優しさに甘えて、いつの間にか君に苦悩を強いていた。悩ませてしまってすまない」
サンタの長靴とガラスの靴。
そう。
イヴ・サンタクロースは専業アイドルではない。
あくまでサンタクロースでありアイドル。
アイデンティティであり、同時に枷でもあった。
それにイヴは首を横に振って答えた。
「起きているみんなの笑顔を見られるようになったのは絶対にアイドルにしてもらえたおかげ。アナタが私を見つけてくれたから見られた」
サンタクロースの主戦場はクリスマスの夜。
プレゼントを心待ちにしてワクワク顔で眠る子供たちの顔は見られても、それを受け取って開封してはしゃぐ姿までは見られない。
だがアイドルは違う。
365日24時間、ファンの笑顔を見ることができる。
サンタクロースでは得られない喜びがそこにはあった。
サンタクロースの仕事には誇りを持っている。
でもどうしてもあった寂しさを、アイドルのお仕事は埋めてくれた。
プロデューサーがイヴ・サンタクロースをアイドルにしてくれたから。
「これからも兼業で頼む」
プロデューサーのその依頼は、まさに双方にとってWin-Win。

ストーリーコミュ第78話『Santa Claus Is Here !』は、イヴの過去を精算し、現在を肯定し、未来へとつなげた。
彼女がアイドルのきっかけとなる有名なエピソードであるプレゼントも衣服も盗まれてダンボールにinの補完がここで来ようとは。

帽子は生き残った。

イヴを騙したのは日本人女性だったのか。
「チョロいなこの子、外国人か」には腸が煮えくり返った。
日本人の恥め。
ここでも登場したのが銭湯エピソード。
なるほど、身ぐるみを剥がす流れに持っていくのにはうってつけのシチュエーションだ。
これはライターが巧い。
このコミュを読んで改めて『神様!絶対だよ』のイベントコミュを読み返すとまた受け取り方が違ってくることうけあい。
ここで騙されたことによって嘘が嫌いになったのではなく、元々正直な人格だったいうのも1つのポイントだろう。

前述した『神様!絶対だよ』もそうだが、その前の『WINTER and WINDOW』でかなりイヴのバックボーンを掘り下げたことによって「いざ本番のストーリーコミュで語ることってまだストックある?」と心配していたのだが、そんなものは全くの杞憂だった。
過去のストーリーコミュの中でも珠玉の逸品ではないかとの読了感まである。
いやはや、実に望外のプレゼントだった。
ありがとうサンタさん。

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