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これは「おわりのはじまり」なのか、「おわりのむこうがわ」はあるのか。:デレステ『Fin[e]~美しき終焉~』

『アイドルマスターシンデレラガールズ スターライトステージ』(以下『デレステ』)のアタポンイベント『Fin[e]~美しき終焉~』が終了し、エピローグまでのコミュを読了したのでその感想などを語る。


楽曲自体はデレステ9周年ライブ『THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS STARLIGHT FANTASY』DAY1で先行サプライズ披露されており、合わせてイベントの開催も発表されていたものだ。
作詞はお馴染みの只野菜摘さん、作曲・編曲は『アイドルマスター』シリーズ初参加の伊藤翼さん。
伊藤翼さんはサイゲームスつながりで言えば、ウマ娘やプリコネRへの参加経験がある。
歌唱するのは一ノ瀬志希黒埼ちとせ
同じく先のライブのDAY2でサプライズ披露された『EPHEMERAL AЯROW』の二宮飛鳥&白雪千夜と合わせて『Dimension-3』と『VelvetRose』のシャッフルユニットであることは想像がついた。

ユニット名はイベントアイテムから『MedeN』と判明した。

『meden』は一般的に「ミデン」と読み、ギリシャ語で「ゼロ」を意味する言葉だ。


イベントのオープニングコミュを読もうとすると、いきなり警告メッセージが表示された。
前代未聞の事態だ。

これは腹を括って臨まねばならん、と覚悟を決めた。
SNSでもトレンド入りするなど話題になり、「あのふたりのイベントコミュが平穏無事で済むわけがない」というファンたちの大方の予想が見事に的中したことが早くも証明されたわけだ。

オープニング「おわりのはじまり」


のっけからサブカルチャー界隈では有名なフレーズがサブタイトルとして来た。
場面は一ノ瀬志希の部屋だ。
明かりは点けられておらず、非常に暗い。
唯一の光源であるTVからは「ドクター・イチノセ」の名が流れる。
ひょっとしなくとも志希の父その人だ。
単身でアメリカに渡り、匂いの研究で高名だとか。
親子揃って経歴がとても似通っていたのは意外だった。

それを想起してなおさら気分を害したのか、志希は「寝よ」とTVを消してしまう。

場面変わって病院でのちとせ。
彼女の健康状態は良くなってはいるが、体質が改善したわけではないとのこと。
名前のない病気らしく、今なお油断は禁物。
検査入院していた彼女を迎えに来たプロデューサーが渡す台本を間違って持って来てしまったためにふたりで事務所に行くことに。
そこには志希の姿があり、共演した過去のイベントなどの話や思い出話でひとしきり盛り上がる。
イベントは『オウムアムアに幸運を』で、思い出の方はナイトプールでふたりではしゃいだ時のことだろう。

この時ちとせは救われる立場だった。
SSR[水底のアウィス]黒埼ちとせ(特訓前)

台本の内容は天使と裁定を待つ少女の話で、志希は一見いつも通りの様子に見えた。

1話「ごっこあそび」


舞台は天上界のような場所。
天使役は志希と北条加蓮
加蓮はちとせとデュオユニット『ローゼンティアーズ』を組む関係にあり、元病弱仲間として仲が良く、様々な意味でベストチョイスと言える。
少女役はちとせと森久保乃々
乃々はおどおどキャラ枠としての登板だろう。
白菊ほたるという選択肢もあったかもしれないが、ほたるには天使イメージが強いので今回は回避されたものと推理。

[ただ、信じる道を]白菊ほたる+

ちなみに「天使○○エル」ネタは以前からファンの間で存在していたが、公式ではモバマスの天冥公演で神崎蘭子に彼女が「天使・ホタエル」と呼ばれたのが最初だ。
それにしても4人構成という最少人数でのイベントコミュは久しぶりだ。

話を戻そう。
その世界には地獄というものは存在せず、天国に逝くか、生まれ直すかの二択しかない。
生死についてプロデューサーと我々が思案していると、乃々がすっ飛んで来た。
なんと志希の脈がないというのだ。
慌ててプロデューサーが現場へと駆けつけると、「役作りのために死んだフリをしていた」と言う志希はケロッとしていた。
「やっていいことと悪いことがある」とプロデューサーがたしなめるも案の定暖簾に腕押し柳に風。
ちとせの「おふざけで済む内はいいけどね」との呟きが妙に耳に残った。

2話「ひとりとみんな」


いつかの志希の夢(過去)。
いつも独りで本を読んでいる幼女志希。
周囲の子供たちは彼女を指して「しきちゃんといてもたのしくない。なにおはなししてるのかわかんない!みんなそういってるよ、『ツマンナイ』って!」と心なく評する。
この「ツマンナイ」が現在の一ノ瀬志希の口癖となっているのはなんとも皮肉だ。
それが意図的な自虐ネタなのか無意識なのかは彼女にしか分からないが。
「しきちゃんはテンサイだから」
子供には「天才(ジーニアス)」と「ギフテッド(授かりもの)」の違いなど分かりはしない。
かくいう志希自身長く「ギフテッド(授かりもの)」自らを嘯き続け、「天才(ジーニアス)」だと受け入れるには池袋晶葉とのデュオユニット『アイ・ジーニアス』までかかったのだから。

SR[ラジカル×コネクト]一ノ瀬志希(特訓前)

「パパの論文読もーっと」
この頃はまだ父親との関係が悪くはなかったのかもしれない。

プロデューサーはお人好しのスメルがする。
撮影疲れが出て立ち眩みでフラつくちとせ。
徐々に徐々に志希の中で小さなフラストレーションが蓄積されていく。
「……なんだろ、これ。タイクツ?」

志希演じる天使には名前がない。
乃々演じる少女にも名前がないが、かつてはあった。
ちとせ演じる少女には名前がある。

3話「にたものどうし」


ちとせ演じる少女の名前は「チセ」
ほんの少しずつ志希演じる天使との距離を縮める。
そんな天使(志希)を加蓮演じる天使が「逸脱している」と批難する。
悩む天使(志希)は夜の散歩でチセと出会い、「アナタはトクベツ」だと言う。
「もしかして君は誰かのトクベツになりたいの?君ってすごく純粋。異端でも無慈悲でも、それが君が抱いてしまった君だけの気持ちだとしたら大事にしてあげてよ」
そう返されてさらに困惑する。
「大事にしていいの?」と問うも「君の心が残っている内は」との答え。
「どういう意味?」とさらに問うも「こんな箱庭で君の心もずっと残っていられるの?」と問い返されて言葉に詰まる。
「ワタシはこのままでいいの?」に対して「いいよ」と言ってもらえたことだけが救い。

チセは「自分で自分を終わらせた」
それって。
コミュ冒頭の警告画面がフラッシュバックした。
つまりはそういうことだ。
「他の子たちは多分そうじゃない。だから他の子がわからないことが認識できるし憶えてる」
乃々演じる少女の「死因」は他にある。
彼女とは違う。
天使(志希)は「自分で自分をなんて許されない。けれど、だからこそ、そうすればアナタの天秤は傾くの?」と大いに心が揺らいでしまう。
「天秤」を傾けたいがための誘惑。
だがそれはあまりにも外道で危険すぎる。

平等なんてあると思う?」
事務所で台本を読み返していた志希はプロデューサーは「ないと思う」と即答。
さむありなん。
彼こそ誰よりもそれをよく知っている。
平等なんてものがあれば190人全員がシンデレラガールになっている。
「だよねー」
志希も即賛同。
「生まれも育ちも何もかもつり合うものなんてないよねー。終わり方なんて特に。でもさー、自分で終わり方を選べるなら、それって……ハッピーエンドじゃない?誰だって、いくらでも、希望を抱いて逝けるんだし」
なにやら不穏な方向に傾きつつあるのを感じ、プロデューサーは無言。
やはり大天才は危うい。
かの文豪・芥川龍之介は「漠然とした不安」に耐え切れず自害したが、そんな危うさが一ノ瀬志希にも感じられる。
「ちとせちゃんはわかるよね?ニタモノドーシだし。自分で選べる死はハッピーエンドだって」
矛先はちとせへと向く。
が。
「……私は甘いのがいいな。血も、目覚めも」
望んだものではなかったちとせの返答に「じゃあいくらでも甘くしてあげる。優しい欺瞞に満ちた夢が見られるように」と言い放った後、志希は寝た。
オープニングでTVで父親の話題が流れてきた時のように。
ちとせにとってみれば志希は子供でしかなかった。
本当に死を身近に感じたことがない、逃げの手段としての死に憧れるこども。
私はこの時の志希にSSR[メリーバッドユートピア]一ノ瀬志希+でディストピア後の世界で生きる彼女の姿が重なって見えた。

第4話「ひかりにおちる」


黒埼家の使用人が「もうすぐお医者様がいらっしゃいます」と励ます。
「お父様、ちよちゃん、おかあさまは?」といつかのちとせが訊く。
母親よりも白雪千夜の名が先に出るところに複雑な事情が見て取れる。
「可哀想だからみんな私を大事にしてくれる。いつ命が終わってもおかしくないから。後悔がないようにそばにいてくれる」
「大事にされたい。みんなに愛されたい。でも……可哀想だからなのは、いや。暗くて冷たい場所に独りにしないで」
「私もそっちに行きたい。生きて……誰かの希望に」
「独りきりの特別なんていらないの」
病床でうなされる彼女の胸の内に無数の感情がよぎる。

チセと天使(志希)は名前の意味談義を行なう。
天使は名前を自分で考えると宣言した。
そんなふたりを監視する天使(加蓮)はチセに「貴方は本来この揺り籠に落ちる筈のない魂」だと断じた。
天使(加蓮)は天秤の見守り手にして愛し子たちの標。
「天秤は均衡を保たねば。あの子も。貴方(志希)も」
彼女には『主』が乗り移っていた。

天使(志希)がチセを光の門の外へ送るとの裁定を下す。
チセは自死したので都合の良いことは起こらない。
「『シ(死)』はそれほどまでに罪なのですか?」
概念すら知らない天使(志希)がチセに教えを請う。
「私は全然後悔してない。必要とされない世界にいたってなんになる?むしろ一矢報いてやったの……あいつらに」
「あいつら」とは家族だろうか。
それとも取り巻く環境全てか。
「私、どこにいってもいらない子だったの。家族はデキソコナイの私に落胆。結局ここでも私はここでも落ちこぼれでイラナイ子のまま。そういう運命ってどこへ行っても変わらない」
「わかってる。私の命は復讐になんかならないって。なんで私、こんなところに紛れ込んじゃったんだろう。……いやだな。もっと生きたかった、なんて考えたくないのに」
天使(志希)への返答のはずが、いつの間に自虐に。

「主、チセは光に迎えられないような罪を犯したのですか?ワタシにはとてもそうは思えません。ワタシの心を、異端で異様で奇異な歪んだ感情を許してくれた子。彼女の願いを叶え、救いを与えたい」
芽生えた願い。
チセの願いを叶えることが天使(志希)の願い。
しかし。
「天秤はつり合わせなければなりません。捧げられますか、貴方自身を。彼女の光への道の礎となる祈りを」
天使と少女の存在価値が等価だというのか。
それはチセが罪を犯したが故か。

志希の様子がいつにも増しておかしい。
プロデューサーはすぐにそれに気付くが、「今回作品の内容が内容なので人によっては引きずられるけど、志希がまさか」と首をひねる。
よりによってあの志希が。
「今の志希ちゃん、貴方からの肯定も否定もだめ。志希ちゃんがおかしいのはわかってる。貴方の魔法はあたたかくて優しいけど今の志希ちゃんにはそれはきっと劇薬。お話してみるからちょっと待ってて?大丈夫、ああいう子の面倒看るの経験豊富だから♪」
「ああいう子」って誰のことだろうなあ。
ねえ千夜ちゃん?
プロデューサーは「一回だけ見守ることにする」と断腸の思いで約束。
「それで十分♪心配しないで、お友だちの助けに私もなりたいんだから。魔法はとっておき『ここぞ』って時に」
実に頼もしい。
任せたぞ、ちとせ。

5話「あたしとわたしとあなた」


「あたし」は志希、「わたし」はちとせ、「あなた」はプロデューサー。

またしても警告メッセージが。
いや、むしろここでいよいよか。

ちとせと志希は夜の海に。
かつてはナイトプールだったが今度は海。
危険度は段違いだ。

志希がどんどん海へと入って行く。
「いつか訪れるツマラナイ終わりを迎えるくらいなら、楽しい内に終わらせた方が。ちとせちゃんも来る?」
そんなことを言いながら。
アスリートがピークアウトを迎える前に引退するのとはわけが違うというのに。
「いいよ。そんなに言うんだったら」
そう言ってちとせも入水し、「どうしたの?」と逆に挑発。
「こんなの違う」と駄々をこねる志希に「美しい終わり方なんてないって私がはっきり否定してあげる。終わり方なんてただ苦しくて残るのは醜い抜け殻だけ。みんなそう。あるのは程度の差。逃げれば楽園があるなんて、他の誰が夢を見るのを許したって私は絶対に認めたりしない」と「知る者」としての正論を放つ。
まるであちらの世界の『主』だ。
「美しい終わりはあるよ……あるんだから。こんな、もろくてすぐ壊れる世界よりも、ずっと……!」
自らの妄想にして理想にしがみつく志希。
「もろくさせているのは志希ちゃんでしょう?大切にしないのもそう。自分で壊してるの」
世界を簡単に壊せるのは一ノ瀬志希にその力があるからこそでもある。
「そんな綺麗事、いらない」
「どうして?志希ちゃんの方がよっぽど綺麗事を夢見てるじゃない」
いともあっさりと論破される天才・一ノ瀬志希。

「本当、ちとせちゃんは……傲慢なんだ。ずっと愛されて育つとそうなるんだ」
いつかのちとせがどれほど愛されることを望んだかを知りもせず、志希は言い放つ。
「そうだよ、わがままで、貪欲で……だって私はその夢が、明日にでも消えちゃうかもしれないんだもん」
ちとせはなおも畳み掛ける。
「でも貴方はいつでも手にできる。ちょっと勇気を出して訴えれば。羨ましいなあ。寂しくても、いつか誰かが気付いてくれるまで待っていられる時間があるなんて。簡単に手放しても、いつかの次がある。待ってるだけですぐに降ってくる」
ちとせのことが羨ましい志希と志希のことが羨ましいちとせ。
「降ってきたことなんてない。待ってても全部いなくなる。『お前は違う』って消えていく……。だからあたしは自分から手放すの。あたしから終わらせちゃえばツマンナイことから解放されて……傷痕が残る。あたしがつけたい形の、深い爪痕。だから寂しくなんてない。あたしは寂しくなんてない」
ちとせに言っているようで、その実自分に言い聞かせているかのよう。
そして手放せるのは自分で手にしているからこそできるからである。
ちとせにはできないこと。
「誰に残したいの?」
無表情でちとせは尋ねる。
「あたしを『イラナイ』って言った人たち」
呆れるほど幼い本音。
これがあの一ノ瀬志希の本性か。
「ああ、だから志希ちゃんは傷だらけなんだね。全部返ってきてるのに強がって」
その言葉を残してちとせは倒れる。
追って志希も海へ。
「独りは嫌!」
ふたりで、海へ。

「馬鹿!!何やってるんだ!!死にたいのか!?ふたりして!!」
デレステP史上最大の怒声。
ちとせは「来るの遅いよ」と余裕の苦笑。
一方の志希は放心状態。

「何が『貴方は劇薬だから待ってて』だ!『ここにいる』って連絡だけですぐに駆けつけられるわけないだろう!」
仰る通りです。
「不可抗力?誰も『私が劇薬じゃない』なんて言ってない」
暖簾に腕押し糠に釘。
さすがは千年女王、人間如きの威ではとても届かないか。
「屁理屈を言うんじゃない!真っ青になって……!それから志希、今回はやりすぎだ!」
そうでもなかった。
このPかっこいい。
「ちとせちゃんを巻き込んだから?」としか返せない志希。
いつもの面影はそこにはない。
「そうじゃない!逃避に君自身の命を使おうとしたことだ!どれだけ、こっちが心配してたか……!とくにかくよかった無事で」
本当だよ!!!!
「タクシー捕まえてタオルとかも買ってくるからふたりともおとなしく待ってて」
と言い残して即行動する敏腕P。
って、自分の車で来たんじゃないんかい。

「なんで助けてくれたの?」と志希に質問するちとせ。
彼女にしてみれば当然の疑問だったのだが、「そりゃさすがの志希ちゃんも目の前で溺れそうな人がいたら助けるよ?」と真人間の答え。
なんとチグハグな人物か。
「私のことを無視すればそのまま終われたのに」ってちとせ、それは人としての終わりなのよ。
志希は言う。
「あたしが見たい終わりはハッピーエンドだから。違うでしょ、あれは」
うーわ、まーじでめんどくせー。
「そうだね。あの人の傷になっちゃったらただのバッドエンド。でも、よかったね。救われちゃって。これからは『寂しい』って言えば構ってくれるよきっと♪」
死ぬ思いをしたんだ、これぐらいの意趣返しは許されよう。
あのプロデューサーならそんなことになったらもうプロデューサーをきっと辞めてしまい、一生自責の念に駆られることだろう。
「ちとせちゃんは……ついてきてくれるんでしょ?いつかちゃんとした、もっと遠くの終わりの日なら」
「その時も志希ちゃんが寂しくて、どうしようもなかったらついていってあげる」
果たしてその日は来るのか。
プロデューサーが意地でもそんな日はやって来させない気がするが。

「ハッピーエンド」の定義は人それぞれ。
志希のそれとちとせのそれとプロデューサーのそれはもちろん違う。
だがそれをどこまでこれから近付けられるかが今後の鍵になる。

一ノ瀬志希にとっての黒埼ちとせの立ち位置とは。
二宮飛鳥でもなく、『LiPPS』の仲間たちでもちとせにしかできない役割ができた。

エピローグ「おわりのむこうがわ」


ここでやっとユニット結成の話が持ち上がる。
映画がかなりの反響を呼んでおり、ふたりで歌った「主題歌のシングルカットはないのか」との問い合わせやオファーが殺到しているという。
ありゃ、「歌唱:一ノ瀬志希、黒埼ちとせ」みたいにそれぞれの名義で歌ってたってことか。
志希は「プロデューサーが決めたのならいいよ」といつもの調子。
大いに裏切られたばかりなので慎重な姿勢のプロデューサーに、「どうして(ちとせと)組んだの?反響だけが理由なわけないでしょ?……あ、やっぱナシにしよー」と一旦消えて戻って来ての「安心してよ。しばらくは逃げるつもりないからさ。美しい終わりじゃなくて、美しい日々のために」。
その「しばらく」ってどれくらいなんですかねえ。

ちとせは自らが志希を留めておくための「鎖」としての役割を期待されているものだと推測していた。
「いくらでも、どれほどあっても足りないくらいなんだ。志希だけじゃない。ちとせ、君にとっても。体が弱いのに無茶をして毎回主治医に怒られているどこかのお嬢さんも昼の世界に留めておきたいから」
プロデューサーの答えはこうだった。
「大切なものがたくさんあれば、それらが君を守ってくれると信じているよ。何度だってゼロから満ちていけると」
Re:ゼロから始まるアイドル生活。
「ゼロ……だから『MedeN』なんだ。貴方の優しい魔法で繋ぎ止めていてね、私たちを」
明かされたユニット名の由来。
ギリシャ語であることに特に理由はなく、「ゼロ」を由来とした名前は溢れかえっているので単にその中で珍しくて響きの良いものを選んだのだろう。

そしてあの世界では。
少女(乃々)が卒業の時を迎え、チセに「一緒に出て行くって聞いた」と言い、チセは天使(志希)が自分のために身を捧げたことを知る。
「そんなの頼んでない!私がもう一回生まれ直したってどうせ誰もイラナイんだよ!どこに行ってもずっと!ずっと!いやだ!いやだよ……貴方を犠牲にする生なんていらないよ!」
半狂乱のチセ。
「泣かないで……それは犠牲ではないのです。いつか、きっと……ワタシもアナタのもとへ行くから。光の門の外へ。トクベツが、トクベツでない場所へ」
確かにチセのためだけではなく、自分も彼女の元へ行くためでもあるのならば、単なる犠牲ではないだろう。
それでも。

「名前……『シキ』にしたの。アナタのくれた希望を標に、アナタのもとへ行くから。アナタも、ワタシを探してくれる?希望を、志して
希望を志すから「志希」
いやいやいやいや。
一見美談だがそれはさすがに無理があり過ぎる。
そこで漢字由来は世界観ブチ壊しでしょ。
しかも「一ノ瀬志希」の由来としても絶対後付けだし。
「私も、私を許してくれたシキを探すから。そしたら私もシキにだけ教えてあげる。私は本当は……『チトセ』っていうの。込められた願いは……千年もその先も、永遠に心に残ること。誰かの……シキの心にも。ねえ、呼んで。そしたら私、絶対に見つけるから」
こちらにはまだ無理はない。
なにしろチセは元人間であり、その記憶を維持しているのだから。
致命的に失策だったのは、ここに至るまでの間にチセが天使(志希)に人間界の言葉を漢字まで含める描写がなかったことだ。
それさえあればラストに絶大なるカタルシスを得られただろうに、肝心のそれがなかったばかりに画竜点睛を欠いてしまった。
もったいないどころではない超絶ボーンヘッドだ。
せっかくここまで良かったのに、最後の最後でこれとは。

<総括>

こうして全て読み終えたわけだが、ラストの台無し感に目を瞑れば全体を通してのシナリオは悪くなかった。
センセーショナルな警告メッセージも今の御時世のコンプライアンス的に必要だったというだけの代物であったことだし、刃傷沙汰の描写などは杞憂に終わって安心した。

だが。
さて。
なぜ今このタイミングでこのシナリオだったのだろう。
以前から温められていたものなのか、曲の方が先に出来ていてその世界観に合わせたものにしたのか。
いちユーザーの端くれでしか身にはこれ以上は公式からの供給がない限り永遠に知り得ない。
奇しくもデレステは10周年、シンデレラガールズコンテンツのラストイヤーとも囁かれる現状になぞらえたとするのは邪推が過ぎるか。
10周年から先があるのかないのか。
「おわりのはじまり」か、「おわりのむこうがわ」があるのか。
このイベントコミュの最終評価を下せるのは、その時となるのかもしれない。

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