事業戦略ニュース
戦略的生き残りのためのシナリオプランニング
経済情勢が非常に不安定になっています。
ギリシャのEU離脱、上海ショック、日本株の下落、どれを取っても良い兆候はありません。
戦後の成長はバブル崩壊と共に立ち止まり、作れば売れる、という時代は終焉を迎えました。
あらゆる事業体は時代の潮流に乗ったビジネスでなければ生き残れない、"レジリエンス"
(復元力)が求められています。
先行き見えない時代において、事業の方向性を再度見直すことはどの企業にも求められていますが、実際にできている企業は少ないと言えるでしょう。
そうした中、かつて軍事戦略の方法を事業戦略に取り入れて成功したシナリオプランニング、
という手法でこの不確定な未来を生き抜くことに成功している事例をご紹介します。
シナリオプランニングは1970年代のオイルショックにおいて、"オイル価格が下落する"というシナリオを描き、その際の対応方法をダッチシェルが取ったことで有名になりました。
誰もがオイル価格は下がらない、と考えていた時に、オイル価格が下がる、下がらない、
といった複数のシナリオを描き、それにどう対応するかをあらかじめ決めておくことです。
いざという時シナリオ通りに対処できる方法論です。
未来は予測できないけれども、予想することはできる、という考え方に基づいています。
自動車学校の事例をご紹介します。少子高齢化に伴い、立地が良い学校を除き、多くの自動車学校の経営は厳しいものとなってきています。18歳人口の減少と共に教習所経営は難しい業態となっているのです。
教習所経営をシナリオプランニングするとどうなるでしょうか。 シナリオプランニングでは、最初に自社を取り巻く環境を考えるところからスタートします。
①社会、②テクノロジー、③経済、④環境、⑤政治、これらの5つの環境で自社に影響を与える要素を抽出します。
さらに、5Forcesと呼ばれる分析によっても同様に自社に影響を与える要素を抽出します。5Forcesは、①直接競合、②間接競合、③得意先、④仕入先、⑤新規参入の5つで構成されます。
自動車学校を取り巻く環境の中で自社に影響を及ぼす要素は、少子高齢化・自動運転技術・石油価格・行政の動き(認可事業のため)・競合との価格競争、といった因子 が抽出されました。この中で"自社でコントロールできない"、且つ"動きが読めない"要素を抽出します。
少子高齢化などはすでに既知でこのまま進むことが見えているので除外しますが、自動運転技術はそもそも事業体を脅かす存在のため、選択する、といった感じで選ぶ作業を行います。
結果、①自動運転技術、②行政の動きという2つの要素が選ばれました。
ここから4つシナリオを考えます。
・自動運転技術が進み、行政の動きが良い方向に進む(規制緩和)
・自動運転技術が進み、行政の動きが悪い方向に進む(規制強化)
・自動運転技術が進まず、行政の動きが良い方向に進む(規制緩和)
・自動運転技術は進まず、行政の動きが悪い方向に進む(規制強化)
縦軸と横軸に影響要素を置いてクロスすると見やすいでしょう。
これらそれぞれのシナリオを描き、そうした場合に自社は何をしておかなければならないかを考え、具体的なアクションに落とすのです。
当事案の自動車学校は「規制緩和が進む可能性を考え、行政の動きを常に観察する」、
「18歳をメインとした顧客構造では生き残りは厳しいため、
法人のドライバー教育という新サービスを立ち上げる」というアクションを実行しました。
結果、規制緩和が進み、運行管理者教習、適正診断といったこれまで独立行政法人が行っていた事業が民間に移管されることになり、県内で最初にこのサービスを受託することに成功しました。
また、営業ドライバーを多く抱える製薬会社・運送業者などドライバー教育に力を入れることで、これまでの収益構造では明らかに利益を圧迫していたところを乗り越えています。
自動車教習所の事例を紹介しましたが、方法論は方法論でしかありません。
実際には社長と幹部が一緒になって将来を考える時間を取り、幹部が自ら"今動いておかなければ将来はない"という危機感を持ったから成功した事例と言えるでしょう。
社内の共通認識を作るためのツールとして考えてシナリオプランニングの導入を検討してみてください。
◆執筆者紹介◆山本広高(BFCA経営財務支援協会)取締役
群馬大学工学部大学院卒業後渡米し、フロリダ国際大学にてMBA取得。外資系コンサルティング会社にてERP導入などITコンサルティングに従事。退職後、経営財務支援協会取締役、株式会社THINCESS代表取締役に就任。大企業から中小零細企業まで規模、業種を問わず、事業計画策定や、サービス開発のプロジェクトに携わっている。
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