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親友のまえでオナラできますか?

本でも映画でも内容を全く知らずに鑑賞するのが嫌いじゃない。「スイスアーミーマン」も無で観た。大変面白かったが、スイスの軍隊はとうとうどこにも出てこなかったなあと見終わって首をひねる。どうやら「スイスアーミーナイフ」をもじって「スイスアーミーマン」だったらしい。確かにダニエル・ラドクリフ扮する死体は十徳ナイフのようにあらゆる便利機能を兼ね備えている。

それにしても(ハリーポッターの)ダニエル・ラドクリフが登場した時からすでに死体なのには驚いた。深刻なようでシュールなコメディのよう、時にファンタジックで、どういう意気込みで観たらよいのか視聴者をドギマギさせる映画だ。下ネタ満載、秘密基地ごっこ、サバイバルゲーム、とまあ男の子が好きそうな要素もてんこ盛り。

「人生」と同じくらい「オナラ」もこの映画のまじめなメインテーマになっている。なぜかしゃべることのできる死体は主人公のハンクに「おまえは隠れてオナラをするのか?」と問う。「人前でするもんじゃないんだ」と答えると「親友(ハンクは死体におまえは親友だと告げる)なのに隠れてオナラをするのか」と死体。「ほかに隠し事は?なぜなんでも隠す?」とぐいぐい詰め寄る。

ハンクは自分に自信が持てず、思いを寄せる女性に話しかけることができないどころか、唯一の肉親である父にさえ素直な気持ちを伝えられない。胸に抱える思いを打ち明ける勇気が持てないまま、日々悶々と生きている。冒頭の海のシーン、波間に空のジュースパックが漂っている。箱には「Help me」と書かれている。次いで流れてくるペットボトルには「I don’t want to die alone」ハンクは無人島に漂着していたから助けを求めているんだと思ったが、観終わってから、彼は無人島に流れ着く前からずっと誰かに助けを求め、孤独な人生から抜け出したいと願い続けていたんだと気づいた。

死体は十徳ナイフにはならないし、腐敗だって進むはず。第一気持ち悪い。突っ込みどころは多々あるけど、なぜかあまり気にならない。ただラストはどうも納得できない。辿り着いた家が密かに思いを寄せていた女性の家だったというのはあまりにも都合が良すぎる。死体の力をみんなに見せつけるのもやり過ぎな気がする。無理にオチをつけない方が良かったんじゃないか。まだ若いんだもの。もっともっと悩んでほしい。死体から生きるヒントをたっぷりもらったんだから。

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