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自分だけの”キャリアの掛け算”を考える 〜BeyondVET第3回開催報告〜

こんにちは!Beyond VET運営チームです。
早朝、夕方が涼しくなり、すっかり秋になっていますね。
10月16日には第4回のイベントも控えていますが、改めての復習として第3回のイベントの開催報告をさせて頂きます。

■参加登録者分析

・年齢  平均 23.2歳

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・所属  社会人:学生 = 1:3

学生:麻布大学、北里大学、東京農工大学、宮崎大学、日本獣医生命科学大学、日本大学、山口大学、酪農学園大学
社会人:勤務医、海外研修、家畜保健衛生所、動物用医薬品企業

・参加割合  初参加 or 第1回のみ参加:前回参加 = 7:9

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・Beyond VETを通じて学びたいもの、将来に関する悩み

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■トークセッション(パネルディスカッション)概要

第3回のBeyond VET のテーマは『自分だけ登れる山を見つけよう』という事で、初めてのゲストスピーカーとして、養豚経営コンサルタント獣医師として活動されている井上貴幸先生をお迎えし、色々お話をお伺いしました。

まずは、井上先生に今までの経歴や活動内容をプレゼンテーションでご説明頂き、その後は運営チームの在田とのトークセッションを行いました。

井上先生からは家族構成など含めた、丁寧な自己紹介からお話をして頂きました。

グローバルピッグファーム株式会社で働いている井上と申します。
養豚経営コンサルタント獣医師として獣医診療だけではなく養豚場の経営まで見るコンサルタントをしています。

まず自己紹介として僕の家族構成なんですが、両親と兄・妹と自分での5人家族です。父親はトヨタでモノづくりをしていて、兄・妹はデザイナーをやってます。(実は兄は在田さんと知り合いだったという事を知り、これも何かの縁かなと感じてます)

小学校から高校までは私立の学校に通っていて、そこで友人の家で初めて牧場の活動というものに触れる機会を偶然得た事で「こういう生活もいいなぁ」と思ったんですよね。家族を含め、高校の先輩や同級生にはモノづくりに関わる人が多い環境で育つ中で周りは才能豊かだが自分は凡庸だなと思っていました。

獣医学科へ進学した時も特別な理由はありませんでした。牧場で動物に触れた経験から動物に関わる仕事がしたいという思いと、母親からはお医者さんが良いんじゃない、という言葉もあり、麻布大学に進学するんですけど、大学ではアメフトばっかりやっていたので、勉強はそっちのけでしたね。でも、この時の経験で戦術・体力・チームワークを学べたのは今の仕事にも繋がっていると感じてます。

獣医の道を選択する方の中には、幼少期から獣医師になりたいという強い思いを持っている人が多い気がしていたので、井上先生が獣医の道へ進んだ際のお話は意外でした。

井上先生は続けて在学中の話をしてくれました。

在学中は薬物動態の研究をしていたんですけど、どういった道に進むにしろ役に立つと思って選びました。最初は小動物臨床を目指していたんですけど、自分には合わないと思って小動物の道は諦めたのでそこについては後ほどお話します。

2010年から産業動物臨床を検討していたんですが、当時宮崎で口蹄疫が発生して就職先も決まらず、とりあえず国家試験に受かればいいかなという思いでいたんですけど、2011年になっても就職先が決まらない事から大学の先生から製薬会社や養豚関連企業を紹介してもらって、1社目の太平洋ブリーディングというに入社してるんですよね。まぁコネですね。

さらっとコネという言葉が出てきたのも意外の連続です…。

最初は新潟県に出向して養豚での各ステージ(種場、分娩舎、離乳舎、肥育舎)の研修を受け、研修後は全ステージの補佐に加え、希釈精液作成や担当していた東北地区の巡回(取締役・社長のカバン持ち)などを通して現場経験を積みました。

2012年に成績改善の銘を受け本社から鹿児島の農場に出向して、1年半の期間を過ごしたんですけど、養豚の事を深く知りたいっていうのと、実家に近い土地で働きたいという事から転職を考え、太平洋ブリーディングを退職しました。

大学からの紹介で入社した太平洋ブリーディングを退職したので大学にその報告をしに行ったところ、グローバルピッグファーム(現職)を紹介されて興味を持ったことから入社する事になりました。

ここで再度の大学からの紹介!井上先生の話を聞いていると、周りの人との縁があっての井上先生という気がしますね。

ここからは現職での仕事内容を細かく説明してくれました。

グローバルピッグファームってどんな会社?
元々は小さい農場が集まって大規模農場に負けない経営をしようという思いから創設され、「和豚もちぶた」という良質の豚肉を製品を生産し、消費者に満足を届ける組織で、「日本一おいしい豚肉をつくろう」や「税金を払える経営をしよう」という想いを持たれている会社です。

企業名にある『グローバル』は「世界から養豚の事を学び、養豚生産と豚肉流通を一貫したシステムとして捉え、各層の意識改革と国内トップレベルの技術革新を行う」という意味に由来しています。(今は当たり前になっている『三元交配』の技術開発などもグローバルピッグファームは行ってきています)小規模農場を日本全国で79社(86農場)を管理するという事から経営強化(法人経営、生産&財務データの提出)や銘柄化(同じ種豚、飼料の使用、肉豚は本社へ一元出荷)を行い、2018年時点では年間56万頭の出荷をしています。
グローバルピッグファームでの仕事って何?  
2013年から群馬の農場に出向になり、2014年はPED(豚流行性下痢)の沈静化や農場の改善業務を経験し、その後直営農場(福島・山形・栃木)を担当する事になり、養豚経営コンサルタント獣医師の業務が本格的に始まり、今は秋田・長野・新潟を含めた農場管理をしています。

獣医コンサル部の仕事は、全国の農場への訪問・指導をする事ですが、健康な豚群づくり、高品質な豚肉生産の実現を目標とし、消費者に一番近い立場から生産者に美味しい豚肉を提供するために必要な情報を届けています。

主な業務としては、一般的な疾病対策・飼養衛星管理指導、生産データチェック、財務諸表チェック、生産予測・キャッシュフロー予測、ピッグフロー計算、機材設備・換気設定、図面レイアウト・業者打ち合わせ、HACCP・JGAPの勉強、技術研究(疾病対策、設備など)、社内外行事・仕事オファーへの対応など幅広い事をやっているんですが、各方面スペシャリストの協力が不可欠なので色んな人と協力して仕事を進めています。

最近は農場デジタル化プロジェクト(スマートアグリのようなイメージ)も行っています。豚舎の中の状況は豚舎に行かないと分からない事(温度、湿度、臭い等)があるんですけど、沿革環境モニターでセンサー管理をしてスマートフォンで生産状況をリアルタイムで把握出来るような事や疾病センサーも今取り組んでいます。

最終的には現場にいなくてもいろんな豚舎の情報が自動的に入ってきて簡単に管理出来るようになることを目指してます。

初めて養豚経営コンサルタントの実務内容を聞かせて頂いたのですが、
業務の幅がもの凄く広いことにビックリしました。

グローバルピッグファームが特殊なのかもしれないですが、
単なるアドバイスだけではなくて農家(生産者)の実務にもかなり入り込んでコンサルタントをしているのが驚きでした。

ここからは井上先生にはBeyond VETでも大切にしている『WHY?』に関してもお話頂きました。

なぜ養豚の仕事をやってるのか?
僕の趣味は料理なんですが、一番好きな事は仕事にしたくなくて、獣医コンサルタントの方が関わり方としては良いと思ってるんですよ。

イチローも言ってたと思うんですけど、それを嫌いになる意志があれば趣味も仕事にしても良いと思うんですけど、僕はその選択はしなかったという事ですね。それに養豚は国境を超えて仲間との技術研究も出来る事が面白いと思ってます。
やりたかった仕事とは何なのか?
獣医師が働いている事での社会的貢献って何だろう?っていうところは獣医師や獣医学生なら皆考えると思うんですよね。

僕はその中でも病気を治すだけで依頼者はハッピーなんだろうか?治すだけではマイナスがゼロになるだけなので、その次を考えたんですよね。
そういう考えの中で学生時代には獣医師業務自体に持続可能性ってあるの?っていう疑問が拭えない事もあって、当時はやりたい仕事が決め切れなかったんですよね。

養豚業界では農家の戸数も50,000戸から4,900戸まで減っているんですけど、グローバルピッグファームは農場の数は減らず出荷頭数も右肩上がりになっていて、養豚不況の時代にも常に黒字を出しているのが凄いと思って入社しました。

井上先生は自分がなぜ養豚経営コンサルタントをしているのかに関しても
整理して説明してくれました。

周りの影響もあってモノづくりに携わりたい思いがあったので、社会貢献としてモノづくりに携わって社会に商品として送り出したかったのと、その中でも病気を治すだけではなくて予防も大切だという思いは豚舎設計に携わる事だと考えています。

これはある人から言われた言葉なんですけど『ヒマな獣医さんほど偉い』っていう事が衝撃だったんですよね。しっかり予防が出来て疾病を前もって抑えられている人ほど時間が出来るじゃないですか。確かにそうだなと思ってそれが養豚では出来るっていうのも面白いんですよね。

あとは、ただ頑張るだけっていうのは好きじゃなくて、とにかく次に繋げられる仕組みのコーディネートや技術研究にも興味があったんですけど、一人では出来ない事でもその分野のスペシャリストと一緒に取り組めるのが楽しいっていうのも養豚コンサルでは感じられますね。

最後に井上先生が大事にしている格言を教えてくれました。

「歩」は敵陣に切り込まなければ「金」に成らない
売り手良し、買い手良し、社会良し、三方良し
金を残す者は下、事業を残す者は中、人を残す者は上
1つ目の言葉に関しては、獣医師は専門分野に特化している分、獣医療以外のことは他の分野の人達から学ぶ事が重要だと感じているんですよね。経営の事なんかは全く分からなかったので、今の会社に入ってから自分でも勉強はしましたけど色んな人から教えてもらう事はすごく大切だと思います。

2つ目は色んな視点を持って社会に貢献出来る仕事をするのが大切だと思うし、そうでないと仕事は続かないと思いながら働いています。

最後の言葉はある生産者から聞いた言葉なんです。『金を残すのは当たり前。その金を使ってどう事業を起こすのか、そしてその事業を他の人とどう続けていくのかが大切』だと教わりました。養豚も製造業でありながら設備も新しくして人が残っていく仕組みを作っていく事が必要だと思うので、新しい設備なども学んでいるところです。

■Q&A概要

プレゼンテーションの後には運営チームの在田がモデレーターを務め参加者からの質問を含め井上先生の考えを聞かせて頂きました。

在田:ここから井上さんに質問をしていきたいんですが、まずはプレゼンテーションに関する質問を頂いているのでいくつか伺っていきたいと思います。
質問:「豚舎の設計の際に一番重要視して考えていたことは何ですか?」

井上:
一番重要視しているのは、投資をしてどれだけ利益が変わるのか費用対効果を見込んで投資をすることですね。具体的にはピッグフローの計算が非常に重要になります。その計算に沿った豚舎を作っていくというイメージになります。
最終的に回収出来なければ意味がないし、次の投資にも繋がらないので単純に投資をすればよいという事ではないという事ですね。獣医学的な設計の観点からは換気設計や温度が十分取れる断熱の装置かどうか等を網羅的に見ています。
質問:「養豚業界ではアニマルウェルフェアについてどのように考えていますか?」

井上:
JGAP(食の安全や環境保全のための認証)がアニマルウェルフェアを遵守していないと取れない資格になるんですね。現場で特に遵守しなければいけないのは使用密度ですね。海外だと規制はもっと厳しいですね。
質問:「養豚コンサルをする中での理想のコンサル像はありますか?」 

井上:
今もずっと考えている部分ではあるんですが、生産者の方たちが自分で考えられるようになって欲しいんですよね。農場での問題解決をするのはコンサルの仕事だと思うんですけど、それだけではなくて農場が成長する機会を与えたり、情報を伝えたり、チャンスを与えるのがコンサルの仕事だと思います。最終的にはその方が農場もハッピーになるだろうという考えですね。
質問:「養豚コンサルの立場から、家畜保健衛生所の役割に関してどのように考えているのか?」

井上:
僕らは仕事を通じて豚コレラなどの問題に直面しているので家畜保健衛生所(家保)の方とやり取りをしているんですが、僕らはあくまで企業の雇われの獣医師なので、国の話を聞いて法律を勉強しながら家保の方とすり合わせをしなければいけないんですよね。

地域を最終的に守っているのは家保の方々なので連携して取り組みをしなければ病気はいつまでもなくならないと思ってます。こちらからも情報提供はしながら協力してお互い高め合いながら出来れば良いと思ってます。お互い話を理解しながらやっていけるのが一番かと。
在田:ありがとうございます。今日は学生の方もたくさん参加しているので、井上さんの学生時代を振り返って頂いて、その頃の話もいくつか質問させて下さい。
質問:「学生時代の進路の決断時に何を大事にしていましたか?」

井上:
当時から研究は好きだったので、製薬会社も考えた事はあったし、そちらにいけば収入も今より良かったかもしれないけど『自分が何を作りたいのか』を考えた時に、養豚が面白いと思ったんですよね。年に2.5回産んで、生む時には20頭産む。そんなに産むんすか?!っていうね。あとは一頭の値段としては高いけど、消費ニーズが高い食品という事で商品としての面白さで選んだのもありますけど、根本には「美味いモノを作るのって楽しいよね」という思いがありますね。
質問:「実際に社会人になると学生の時に想像していたイメージと現実とが違う事があると思いますが、これから社会に出る学生の皆さんへのアドバイスがあればお願いします。」

井上:
これは僕個人の話かもしれないんですが、社会不適合者なんですよね(笑)。本当に社会の常識を知らなかったし、獣医は病気治せば農家は儲かるだろっていう感覚だったんですよ。

今の会社に入ってから投資や経営の事も獣医とは違う方々から学ばせて貰ったんですね。要するに学生のうちに獣医だけじゃなくて色んな分野の人から学ぶのが良いと思っています。僕は兄妹や母親から学んだり、前職の上司だったり、研修時代の先生や高校時代の友達から他の分野の事を学んだりしてます。

幸いにも自分の周りにはおかしな人達がいたのも良かったですね。小学校の頃の友達まで遡っても学べる事ってあると思うし、実際消費者ニーズを探るっていう意味合いでも獣医じゃない人達を知る事は大切だと思います。
在田:最後に僕から今日のワークにも紐づけての質問になるんですが、色々な出会いや経験をしている井上さんだからこそ意識している自分なりのブランディングやキャリアの作り方があると思うんですけど、今日のワーク内容でもある「キャリアの掛け算」はどのように考えていますか?

井上:
自分の青写真、将来やりたい事としては、農場の責任者をやらせてもらうか、大学院で研究論文を書きながら技術研究をやっていくっていうところが一番やりたい事なんですけど、そこを目指していく中でのコンサルっていうのが今なんですね。

今の会社で色んな農場を指導している事や将来を含めて考えると掛け算としては「獣医師 × ニーズ調査 × 食」になるんですかね。それを意識する中で、仲間との一緒にやる活動を重要視しているっていうところですよね。

■トークセッションを終えて

養豚業界で働いている方からお話を伺える機会は珍しく、運営チーム含め貴重な経験をさせて頂きました。
養豚経営コンサルタントの立場からの、『獣医業界としての社会貢献性』や『獣医師業務の持続可能性』なども興味深く、特に『ヒマな獣医さんほど偉い』という言葉には驚かれた参加者の方も多かったと思います。

意外にも学生時代にはそこまでキャリアに関して深く考えていなかったという点も、現時点で自身の進みたい方向性が定まっていない学生の方にも勇気を与えるキッカケになった気もします。
また、井上先生の実体験のエピソードから「人との出会い」で学びを得て、行動に起こし、自分の経験に繋げて来られたという事が感じられました。

今後もこのようなトークセッションを通じて、Beyond VETでは様々なゲストの方のお話が聞けるような機会を作っていきたいと強く感じる事が出来ました。

■ワーク内容(キャリアの掛け算を考える)

トークセッションの後には「なりたい自分を知る」という事を大きなテーマに置いたワークを行いました。
具体的には第1回、第2回イベントを通じて見つけた自分のコアな行動指針に加え、『自分だけが登れる山を見つける』ことを意識したキャリアの掛け算について考えるワークを行いました。

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キャリアの掛け算については以下の記事を参考にして下さい。

まず、参加者の方には自分だけが登れる山(将来の目標)を見つけるために、自分の強みや興味などを幅広く沢山の項目を書き出して頂きました。

次に、書き出した項目の中から『1万時間の投資をしても良い』と思える項目や『その分野なら私に任せて欲しい』と自信を持って言える(または言えるようになりたい)項目に絞り込んで頂きました。

一般的に人間は1つの仕事をマスターするのに1万時間かかると言われています。(以下、参考)

今回のワークでは自分の強み・長所・興味などをキャリアの掛け算として考える事をして頂いたので、今後の自分が求めている理想の自分の姿を少し言語化出来るようになったのではないでしょうか?
上手く言語化出来なかった方も、まずは考えるきっかけになったと思います。

『なりたい自分を知る』という事に関して、次回イベントではより明確に出来るプログラムを考えているので、前回参加された方は次回も参加頂けると嬉しいです。

■次回イベント予告

次回は10月16日(金)の開催です。外資企業で働く獣医師の方をゲストを招きトークッションを行い、その後はマーケティングのフレームワーク(BASiCS)を利用して今後の自身のキャリアをどのように作っていくかを考えるワークを予定しています。

<イベント詳細>
【対象】 進路や転職などの将来に不安を抱えるUnder32の獣医師・獣医学生
【日時】 2020年10月16日(金)20:00~22:30
(22:30からは自由参加のオンライン飲み会を実施します)
【場所】 Zoom
【參加費】 無料
【登録方法】 **以下のnote記事内Googleフォームよりお申し込みください**

■過去イベントの開催報告

第1回、第2回の開催報告は以下からご覧ください。


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