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スパージング【ビール用語辞典】麦汁を綺麗に、そして無駄なく。クラフトビールがより楽しくなるコアな知識

今回は麦汁の抽出について!

前回糖化についてお話ししました。今回はその次のステップについてお話します!
前回の記事はこちら

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スパージングって?

そもそもスパージングって何?と思われる方も多いかもしれません。スパージングは簡単に言えば”マッシングで糖化が終わったマイシェから麦汁だけを取り除く作業”です。糖化が終わった麦汁は現時点ではモルトと混ざり合いお粥状態です。このままつけておくとモルトのエグミがでてしまうため、モルトと麦汁を分離させる必要があるのです。
しかし、ただ抽出するだけだとあまりにももったいないんです。なぜならマイシェから麦汁のみを抽出すると、残ったモルト粕の中にまだまだ糖分が残っているからです。そこで、モルト粕の中に残っている糖分を無駄にしない為にモルト粕にお湯をかけて糖分を無駄なく使う事、それがスパージングです。

ロータリング

スパージングを実施するにあたって、やらなければいけない作業があります。それが”麦芽層=グレインベッドを作る”ことです。麦芽層を作ったうえでスパージングを実施することでモルト粕全体にスパージングウォーター(スパージング時にかけるお湯)が通り、より無駄なく糖分を抽出する事が出来ます。その麦芽層を作る作業をロータリングと言います。

ロータリングの手順

麦芽層を作るために必須なものがあります。それが”ロイタータン”です。”ロイタータン”とはタンクの底面少し上に”ロイター板”という小さな穴が無数に空いている板が引いてあり、麦芽と麦汁を分ける事が出来るタンクです。
モルトがロイター板の上に乗り、ロイター板のすき間から麦汁が出て行く事で麦汁とモルトを分ける事が出来ます。
しかしこのまま麦汁を取ることはあまりお勧めできません。なぜならこの時点で取れる麦汁はロイター板のすき間を通れる程の小さなモルト粕が麦汁と混ざったものが出てくるからです。
そこで、ロイター板から出てきた麦汁を、タンクの上から戻すという作業を行います。この作業により、ロイター板に近いモルトの方が粒が大きく、逆に遠いモルトは細かいモルトになり、綺麗な麦芽層が出来ます。
綺麗な麦芽層が出来るとその麦芽層がろ過装置となり、結果的に出てくる麦汁は少しずつ綺麗に透き通ったものとなります。この綺麗な麦汁を作ることで、完成したビールがよりクリーンなものになります。
麦芽層を作りながら麦芽の殻を利用してろ過を行うことを”バーロフ”とも呼びます。

ロイタータン

”バーロフ”時の注意点

バーロフがうまくいき綺麗な麦芽層が出来ればできるほど、スパージングの糖分回収効率は高くなり、また完成するビールもエグミの無いものになります。したがって麦芽層をうまく作ることが完成するビールのクオリティに大きくかかわってきます。
万が一、この時点麦芽層に穴開きやヒビが入っている場合、麦汁はその穴やヒビから出てきてしまうため麦芽層はうまくできず、麦汁もいつまでたっても濁ったままです。また、スパージング時のスパージングウォーターもその穴やヒビからばかり通ってきてしまうため、糖分回収効率が悪くなってしまいます。
また、麦芽層の厚さも均一でなければいけません。なぜならば麦芽層はある程度固まってくるとフィルターとしての役割を担い、麦汁の流れがゆっくりになっていきますが、その際に厚さの違いがあると麦汁は通りやすい麦芽層が薄い部分からばかりでてきてしまい、結果的に麦芽層全体から糖分を抽出する事が出来ないからです。
したがってバーロフ時は

①穴やヒビが出来ないようにする
②麦芽層の厚さは均等にする


が重要です。この2点を気を付けていると10分~20分ほどで出てくる麦汁は綺麗に透き通ります。また、麦芽層がしっかりできていくため出てくる麦汁の量も減ってくるのです。したがって、どんなにバーロフを行っても麦汁が濁っていたり、スピードが変わらない場合は①②を疑わなければなりません。
その場合は麦芽層を一度崩し、かき混ぜ全体を均等にしたうえで再度バーロフを実行することが必要になります。

ロータリング後の麦汁比重=FirstWortGravity

ロータリングが終わって麦汁が濾過され、麦芽層が出来た時点での麦汁のことを”First Wort”と言います。”1番絞り麦汁”と言えば分かり易いかもしれません。この段階の麦汁はビール醸造において最もクリーンでエグミが無く、そして最も濃い麦汁になります。この次の工程がスパージングであることを考えるとこ後の工程で麦汁が薄くなるのが分かると思います。したがってこの段階での麦汁の比重はビール仕込みを行う中で最も高い必要があります。この段階での麦汁比重を”FirstWortGravity”と言います。
※ただしスパージング後の工程で糖分を追加する場合は除きます。

”FirstWortGravity”は中間答え合わせ

このFirstWortGravityを計測することがビール醸造においてとても重要になります。なぜならば、このタイミングでの比重計測はマッシングでの糖化及びロータリングの精度の答え合わせになるからです。例えばOG(発酵直前の比重)が1.050を目標としているにも関わらず、FirstWortGravityが1.051だった場合はこの時点で今までのビール仕込みが失敗していることを表しています。FirstWortGravityが低い場合に考えられる要因は

①レシピ作成時の想定OGの計算ミス
②モルト量の誤投入
③マッシング時の糖化失敗
④ロータリングの失敗


が考えられます。特に①~③はこの時点になってしまってはどうすることもできません。したがってFirstWortGravityが想定外の値だった場合は何かしらかの対応をここで行わなければならないのです。
逆に言えば、FirstWortGravityを計っておくことによってそのビールを修正する事が出来るということでもあります。例えばマルトースやブドウ糖などを追加投入して比重を上げる、煮沸時間を延ばし麦汁を濃くする、ホップやイーストの種類やスケジュールを変更して違うビールを造る・・・・等々、この段階であればいくらでも調整が聞きます。これがもしも発酵直前で気づいたり、ましてや発酵終了後に気付いてしまうともうどうしようもありません。付け焼刃程度で方向の修正はできるものの、完成したものはとても中途半端なものになっていしまいます。
したがって、FirstWortGravityは理想のビールを造る中間答え合わせであると同時に、ビールの方向性を大きく変える最後のチャンスでもあるのです
FirstWortGravityの基準ですが、一概には言えませんがOG(発酵直前の比重)が1.050程度の場合、FirstWortGravityは1.060程度となります。しかしこの数値もあくまで想定の数値であり、絶対ではありません。マッシング時のお湯の量やスパージングでの追加湯量によって大きく変わっていきます。
したがって、FirstWortGravityが今までに比べて高かったり低かったりで一喜一憂する必要はありません。一番大事なのはOGと比べた時にこの後お湯が追加されることを考慮したうえでもある程度比重が高い事がとても重要なのです。

ここからやっと”スパージング”!!

FirstWortGravityを計り問題なければここから”スパージング”という作業に入っていきます。最初に軽くご説明しましたが、スパージングとは麦芽の糖分を可能な限り洗い流す工程です。もちろんロータリングが終わった直後のFirstWortでもビール造ることができます。しかしながらFirstWortだけでは麦汁の量が少なく、麦芽層にはまだまだ使える糖分が多く残っている状態です。また、この時点での麦汁はとても濃く、5%のビールを造る材料の場合だとこの時点での麦汁を発酵させると8%のビールが出来てしまいます。もちろんそれを狙ってFirstWortのみでビールを造ることはありますが、毎回それをやっていると非常にコストがかかってしまうため、麦芽層の糖分を無駄なく回収しつつ、麦汁の濃さも調整していきます。
マッシュタンの上からお湯を追加することにより、麦芽層の中の糖分を洗い流し、麦汁として使います。湯温は77℃より高くなると穀皮のタンニンが抽出されて渋みがでてしまいます。逆に、温度が低いと糖分を効率良く洗い流すことができなくなりますので、スパージングの湯は約74~76℃になるように用意します。
スパージングの方法は以下の2通りです。

①バッチ・スパージング

ロイタータンのコック部分から抽出が始めると、マッシュタンクの麦汁が減ってきます。しばらくすると麦芽の表面が麦汁からでてくるのでその直前に、上からお湯を掛けてスパージングを行う方法です。湯量に決まりはありませんが、マッシュタンの大きさや、湯を用意する鍋の容量に応じて決めて構いません。麦芽の表面が麦汁に浸かっている状態を維持する必要があるので、もしスパージング水が追いつかない場合には、抽出を止めてしまっても大丈夫です。

②コンティニュアス・スパージング
煮沸釜に抽出している麦汁量と同じ量のスパージングウォーターを、マッシュタンクに追加していく方法です。別途スパージングを用意する湯量を全て鍋に用意しておき、マッシュタンの上から追加していきます。仕組みを作ってしまえば、手間がかかりませんが、それなりの道具が必要になります。

 スパージングで使うお湯の量ですが、これはマッシュタンの上げ底部分の水の量、麦芽の量、麦芽の吸水率、煮沸時間(蒸発量)、煮沸釜のロス、発酵容器でのロスなどによって上下します。スパージングの時間も同じです。設備の規模感やロイター板の浸透効率、糖分抽出効率などを実際に確認して時間を決めることが重要です。あまり長くやりすぎるとモルトのエグミが多く抽出されてしまいます。逆に早すぎると薄いシャバシャバな麦汁が出来てしまいます。自分の道具に合わせて基準となる量や時間が分かるようにしておくと良いと思います。BrewingAcademyのキットを使用する場合は約30分かけて必要麦汁量を採取できれば問題なく糖分を取る事が出来ます。

また、どちらの方法を行う場合も必ず麦芽層の表面がむき出しになって空気に触れないように注意して下さい。麦芽が空気に触れている時間が長くなると酸化が進んでしまいます。

醸造キットが無くても作れちゃう!?”BIAB(Brew in a Bag)”

ここまで一通りスパージングの流れをご説明してきましたが、「設備用意するのが大変だな」「もっと簡単にできる方法ないの?」と思われる方もいるのではないでしょうか。ご安心を。もう少し簡単な方法もあります。それが”BIAB(Brew in a Bag)”というものです。バッグ(袋)の中に麦芽を入れて、鍋1つでビールを仕込むやり方です。用意する物はモルトを入れるメッシュバッグ、鍋、ザル。スパージング用のお湯。これだけです。鍋一つでできるため高額かつ複雑な設備を導入する必要がありません。また、簡単なやり方になりますが、味の質もうまく仕込めば通常のビール醸造と遜色が無いものを作ることもできます。
”BIAB”でのローターリングも通常と同様の考えですが、若干工程が変わります。マッシュの終わった麦芽を、メッシュバッグごとマッシュタンから引き上げます。これが結構重いんです笑。マッシュタンの上に吊るすか、マッシュタンの上にザル等を設けて、バッグが麦汁と触れないようにしておきます。そこまで準備できたらバッグの上からスパージング水をかけることで、麦芽に残った糖分を洗い流します。これだけで通常のスパージングと同じように麦芽の中の糖分を抽出する事が出来ます。
ただし、”BIAB”ではいくつか注意が必要になります。まず、麦芽が空気と触れることが多くなってしまうので、なるべく素早く手際よく抽出することが大事です。また鍋1つで仕込むため、糖分の回収効率がかなり低下します。したがって”BIAB”でビールを実施する場合は少し多めにモルトを用意する必要があります。

まとめ

出来上がったマイシェをロイタータンに移し、麦芽の殻を利用してろ過を行う(バーロフ)。麦汁をケトル(煮沸釜)に移し、麦芽の殻に残った糖も温水をかけることで洗い流し回収する(スパージング)ことでモルトを無駄なく使用した麦汁をつくることです。

次回は煮沸~WP

仕込みも終盤!次回は発酵タンクに入れる麦汁の最終準備についてお話していきたいと思います!!

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