I Love You の訳し方

「誕生日の予定なくなった〜!」と呟いていたのを見かけて声をかけた。めちゃ軽いノリで飲みに行くことになった。誕生日くらい、少しでも何か特別感を感じる日にして欲しいなと思っての誘ってみたのだった。

当日。用事を済ませつつ本屋に立ち寄った。何かちょっとしたプレゼントくらい用意するべきだろうと思った。初めて会う女の子に対して服とかアクセサリーを選ぶのは難しすぎるしちょっとヘビーすぎる。雑貨なんかも「こんなのいらな〜い」とゴミになっても哀しい。本なら金額的にもライトだし、不要なら売れば数百円になる(かもしれない)し、いいかなと思った。

23歳になったばかり。これから社会の荒波に飲まれていく若い子に、何か響くものがあげられたらいいなと本屋をいそいそとまわった。

最初は感動できる小説とか、面白みのあるミステリーとか色々チェックしてみたけどその子はどんなのが好きかもわからない。そもそも、本を読むのが好きなのかすらもわからない。創作ものはやめておくことにした。

言葉は思いのほか大事だと思っていて、友達からもらった何気ない一言がずっと記憶にあったりする。どんなありがたい言葉よりも、寝坊した僕に友達が「待っとるからな」と優しく元気に放った言葉がずっと記憶にあったりする。小学校の卒業式で校長先生がみんなに語った「人を愛し、人に愛される人生であれ」という言葉は当時親の離婚で不安定になっていた自分に強く響いた。

そういうこともあって、これから仕事が始まり精神的に疲れたり幻滅したり自信をなくすことがたくさん待っている若人に「無理しなくていいだよ」っていうメッセージ性のあるエッセイ的なものにしようかなと思った。もし疲れた時にその本を開いて心を持ち直してくれるようなことがあればいいかなと。

いやいや、ちょっと気が早い。というかそんな本必要ないくらい強い子かもしれない。うーん、どうしよう。本を送るというのはこれほど難しいのかと思い、浅はかだった自分を責めた。

店内をぐるぐると回って最後に候補に残したのは上のメッセージ的な本と「I Love Youの訳し方」という本になった。なんか自分が好きですと言ってるみたいで気持ち悪いかな、と不安だった。けど、女の子だから恋愛や愛情に対してポジティブであって欲しいという気持ちが湧いてきた。これから色んな男と出会って落ち込んだりするかもしれない。裏切られて冷めた気持ちになるかもしれない。もしそんなことが起こっても本の中にある色々な愛の形を思い出して、前向きな恋愛をしてくれたらいいなと思ってその本に決めた。

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