【“自己満足”BLマガジン『ss』】第3回：オメガバースの歴史

BL愛好歴15年、商業BLマンガ大好きなライター・あべゆうかが、BLに関する知識を自分用にまとめたり、自己紹介としてBLの趣味嗜好をまとめたりする、“自己満足”BLマガジン『ss』です。

今回は『オメガバースの歴史』についてお送りします。（前回は以下リンク参照）

『オメガバース』という特殊設定をご存知でしょうか？　オメガバースは商業BLで専門のレーベルがあるほど、一つのジャンルとして確立されています。

前回の予告では、「オメガバースを分かりやすく伝えよう！」と思っていましたが……調べていくとオメガバースの歴史的背景がおもしろく、まとめがいがあるぞ。ということで、まずはオメガバースの歴史からお送りします。

※以下の文章は全て個人の見解、個人の意見です
※BLに苦手意識のある方、ご自身の解釈以外は敵と判断される方は回れ右でお願いします

1. オメガバースとは

はじめに、『オメガバース』の説明を簡潔に記します。

オメガバースとは、「男性」「女性」という2つの性別に加えて、「アルファ」「ベータ」「オメガ」という独自の性別“第二の性”の概念を持ちます。そして、“第二の性”による「階級社会」が構築されている世界観が特徴となっています。

また、オメガバースには「両性具有」「男性妊娠」「男性の発情期」など、さまざまな要素があります（詳しい説明は別のnoteで公開します）。

しかし、基本的な設定以外は書き手によって変化する……というか、オメガバースは自由度が非常に高いのです。細かい設定や解釈がある程度違っても問題ないのがオメガバース設定のおもしろいところ。

一方で、なぜ、ちゃんとした設定が決まっていないのか、気になる気になる……そこで辿り着いたのがオメガバースの起源でした。

2. オメガバースの歴史

実は、オメガバースは正確な出どころが分かっていません。一つだけ分かっているのは、海外の二次創作BLが発祥ではないか、ということ。現在、日本でも「商業BL」や「百合（女性同士）」「NL（男女）」作品でオメガバース設定が用いられていますが、最初は「二次創作のBL」で流行していました。

詳しく調べてみると、米国の非営利組織OTWが運営するFanlore（※）の「Alpha/Beta/Omega（海外サイト）」ページに辿り着きました。内容を抜粋して記載していきます（英語が苦手な私ですが頑張って翻訳してみた）。

※スラングが多かったため、訳が間違えている可能性あります。また、ファンサイト（Wikipediaのようなサイト）なので、信憑性の高さは不明です。ご了承ください。

● 2010年5月
海外ドラマ『スーパーナチュラル（以下、SPN）』の海外ファンが投稿サイトへ設定が投稿される。『SPN』のとあるBLCP（一応ナマモノなのでCP名は割愛）の攻めを「alpha male（特別な性器の持ち主）」、受けを「bitch male（発情する）」と例えた設定。

● 2010年8月
上記のCP、設定でファンが作品を投稿。設定は同じなものの、「alpha male」「bitch male」ではなく「Alpha」「Omega」という表記になっていた。そして、「Omega」が性行為に使用する穴は勝手に濡れる、といった設定が追加されている。

● 2010年11月＆2011年1月
いまの基準となっている「Alpha」「Beta」「Omega」の設定が投稿された。「Alpha」は特別な性器と犬歯を持ち、「Beta」は普通の男性で性器も普通、「Omega」は出産可能な男性なため雌として扱われるという設定、「heat（発情）」などの設定だった。

……ということみたいです。

さらに、2010年以前から同じような設定が出ていた説もあります（参照元 正確なソースか定かではないですが…）。それは、2007年に放映された『SPN』の狼男回（シーズン2 第17話）が発端という説です。狼の群れの中には「階級制度」があるのですが、その階級が「アルファ ＞ ベータ ＞ オメガ」といわれていました（現在は違うといった意見もあります）。そして、「アルファ男性の特別な性器」という設定は、狼の性器（通称：knot）がモチーフと言われています。狼男回から、ファンが狼の特性を用いた設定を生み出した可能性も大きいでしょう。

ほかにも、二次創作界隈では1980年代に「男性妊娠」、1990年代に「男性半分がフェロモンを放ち繁殖する性になった」といった設定が用いられていたらしいです。

いま市場に出回っているオメガバース（という名称）が構築されてきたのは2010年以降かもしれませんが、同じような設定はそれ以前からあったと考えます。

ちなみに……オメガバースのバースは「verse ＝ Alternate Uni“verse”（パラレルワールド）」という意味だそう。海外の二次創作界隈で用いられる言葉で、本来の作品とは異なる設定や世界観を指しています。

（※）Fanlore…さまざまな分野のファンのためにOTWが立ち上げたまとめサイト。海外版のニコニコ大百科やpixiv百科事典といった感じ（参照：Fanlore – 変形的作品のためのNPO）

3. オメガバースの歴史（日本）

一方、日本では海外とは少し違った形で「男女以外の区別」「階級社会」「男性妊娠」「発情」などオメガバースと同様の設定が浸透していました。

● 2003年
上記設定を用いた商業BL作品『SEX PISTOLS（著：寿たらこ）』が連載開始。同作品はBL界隈に大きな影響を与え、のちにさまざまな作品の二次創作で「セクピスパロ」として設定や世界観を模した作品が多く描かれた。そのため、日本でのオメガバースの原点なのでは…といった意見も。

● 2013年
作品投稿サイト Pixivで「オメガバース」タグを用いた投稿が最初にあった年。海外では2013年はすでにオメガバースが飽和状態だったので、日本には少し遅れてやってきたということになる。しかし、ここから日本でも二次創作を中心に人気の設定へ。

● 2015年
商業BLへ参入。1月にKADOKAWA（エンターブレイン）が『B's-LOVEY アンソロジー オメガバース』を、3月にふゅーじょんぷろだくとが『オメガバース・プロジェクト（1）』を発売。それ以降、さまざなま出版社やレーベルがオメガバースの設定を用いている。

となっています。海外ではオメガバースと同様の設定が二次創作から生まれていたのに対し、日本では商業BL（一次創作）からの可能性は無きにしも非ず。

また、それぞれの設定を調べていくと、以前から存在する設定もあります。BL要素と「男性妊娠」設定を持つ作品には、1970年代の漫画『パタリロ！（著：魔夜峰央）』や1980年代の漫画『マージナル（著：萩尾望都）』がありました。どの国が発祥か定かではないものの、このような表現は日本でも昔からあったと考えても良いでしょう。

新しい設定が生まれる背景を追っていくと、多くの発見があっておもしろい……。何よりBL好きなお姉さま方の想像力、すごくないですか？　新しいジャンルを生み出してしまうなんて。尊敬に値します。

次回は、オメガバースをより詳しく説明するため『オメガバースの基本設定』についてお届けします。

それでは！