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【スタートアップ資金調達・基本編】CFOが考えるべき資金調達戦略

「はぐくみ企業年金」を中心に企業年金・退職金制度の導入・設計をサポートする株式会社ベター・プレイスは、2023年6月にシリーズB 1stラウンドとして3.8億円、2023年12月にはシリーズB延長ラウンドとして2.3億円の資金調達を行いました。シリーズB合計で6.1億円の資金調達になりました。

シリーズBの資金調達では、全国の中小企業で働く人たちにあまねく「はぐくみ企業年金」を普及・拡大していくことによって企業年金制度の恩恵を届けていくための仲間づくりに主眼を置いた結果、地銀系VC9社から出資をいただいたことが特筆すべき点になります。

株式会社ベター・プレイス 取締役CFO 野崎 始

私はCFOとして、今回の資金調達で中心的な役割を担ってきました。前職では三菱UFJ国際投信(現 三菱UFJアセットマネジメント)のファンドマネジャーとして、国内株式バリュー運用等を担当してきました。

このnoteは「資金調達基礎編」として、私の前職経験も踏まえた投資する側の目線を含めた資金調達における重要ポイントをお伝えできればと思います。


どのくらい資金調達するか(調達規模)、いくらで資金調達するか(株価)を考える

CFOは資金調達に際して、まず財務ポリシーを明確にするべきです。現預金をどれだけ持つか、Debt Equity Ratio(デット・エクイティ・レシオ:負債資本倍率)をどのくらいにするかなどの財務規律を決めた上で、調達額を決める必要があります。もし財務ポリシーがまだなければ、大手上場企業の多くが統合報告書等に財務規律を明記しているので、参考にするといいでしょう。
 
例えば、当社では今後1年分の人件費と地代家賃を支払える現預金を保持するようにしています。保守的な財務ポリシーだと感じる人も多いかもしれませんが、大切にしているのは「従業員第一主義」です。コロナ禍を経て、予期せぬ・長期化する緊急事態に備える重要性を痛切に感じ、このような財務ポリシーを設定しています。
 
具体的な調達金額は、「ざっくり」ではなく、この財務ポリシーにのっとって、検討すべきです。その際には、事業計画の予想バランスシート・予想キャッシュフローが検討材料になります。事業計画はPLだけでなく、BS・CFも作成する。これは会社経営の基本です。PLだけ見ていてもゴーイング・コンサーン※1は達成できません。投資銀行出身のCFO様は得意分野でしょうが、経理・管理畑のCFO様は苦手分野でしょう。BS・CFも含めた事業計画の作成には、あの慎泰俊様著の「外資系金融のExcel作成術」が参考図書の白眉です。
※1:会社が将来にわたって事業継続していくとの前提のこと

また、DebtとEquityのバランスも大切です。自社のキャッシュフローの安定性とそれを左右する事業リスク(ビジネスモデルの堅確性、競争優位・参入障壁の高さ、業界特性)を鑑みて、最適な資本構成を考えましょう。例えば、当社は中小企業領域においては有力な競合がなく、年金・退職金制度という商材の性質からチャーンレート(解約率)が異常に低いです。本質的には、負債の積極的な利用が企業価値上昇につながるビジネスモデルと言えます。ですから、Equityによる資金調達だけではなくて、メガバンク様からの融資拡大にも力点を置いています。最適資本構成はややアートな世界ですが、資金調達方法や資金調達額の決定にあたって是非考慮に入れてみてください。

次に、いわゆるバリュエーションについてです。資金調達にあたっては、出資を受ける側が自ら企業価値評価を行い、投資家に株価を提示する必要があります。株価算定にあたっては、第三者機関に株価算定をしてもらったり、VCと意見交換を行ったりすることもできます。但し、最後に株価を決めるのはCFOの仕事です。投資家にとっての投資しやすさと創業者・既存投資家の希薄化影響のバランスに考慮しつつ、今後の資金調達やIPO時の株価も想定しながら総合判断をする必要があります。

バリュエーションの根拠は精緻・複雑である必要はありません。PER※2やPSR※3などプリミティブな評価指標を使用すれば良いと思います。但し、コンプス※4には注意を払ってください。コンプスがバリューションの説得力になります。上場企業の中に自社と類似比較ができる企業はないか、セカンダリー企業の事業内容・ビジネスモデル・バリュエーションを勉強しておくことが肝要です。コンプスの選定に当たって、VCや証券会社に知恵を借りることもありますが、あまり的を得た回答をもらった経験は残念ながらありません。将来のIPOも睨んで、CFOたるもの、グロース市場を中心に上場企業や新規上場企業に強い興味・関心を払いましょう。

※2 PER:Price Earning Ratioの略。株価収益率
※3 PSR:Price to Sales Ratioの略。株価売上高倍率
※4 コンプス:類似企業のこと

当社の今回の資金調達を例にあげると、シリーズAとの株価比較でいうと、2割強の株価水準と、欲張らずに投資家の投資しやすさを意識しました。一方で、IPO時の想定時価総額で4-5倍の利益が出る株価水準という点では強気の株価設定をしました。ビジネスモデルや足元業績から、バリュエーションの基になる業績予想への確信度の高さを投資家に理解してもらえると考えたからです。

「スタートアップ冬の時代」に資金調達は難しいのか

現在はスタートアップ冬の時代と言われており、先行きが不透明でVCの中には投資には慎重なところがあるのは事実です。しかし、慎重であるだけで、優良な企業に対しての投資は決して激減しているわけではないと思います。実際に当社のシリーズBにおける資金調達は順調に進みました。その理由を三点あげたいと思います。

第一に、シリーズAのリードインベスターである東大IPC様が引き続きシリーズB 1stラウンドでも追加出資をしたことで、サブインベスターの方も出資しやすい側面がありました。また、コ・リードのみずほキャピタル様の追加出資も力強い援軍になりました。

資金調達ラウンドをまとめるリードインベスターはとても重要な存在です。資金調達の中心的な役割を担うのですから、やはり名の知れた、強い組織力を持ったところにリードインベスターになってもらうのが理想的です。と同時に、資金調達のプロセスではさまざまな問題が起きるものですから、会社を理解し、増資を成功に導くことに熱意を注ぎ、なんでも相談ができる関係を構築できるところがベストです。レスポンスが素早いことも大切です。資金調達はいろいろな意味で時間との戦いであり、即座に決断すべき事案が多発します。

これらをすべて兼ね備えているという意味で、東大IPC様にシリーズB 1stラウンドでもリードインベスターを担っていただいたことは、弊社にとって重要な意味があります。実際、地銀系VCにしても「東大IPCさんがリードなら」と安心してくださるケースも多かったのも事実です。通常リードインベスターはシリーズにおける最大出資者が担うものですが、実はシリーズBにおいて東大IPC様は最大出資者ではありませんでした。Pay to play な世の中ですが、当社は意思を持ってあえて東大IPC様にシリーズリードをお願いしました。

第二に事業の成長加速局面であったことです(誤解のなきように、今でも成長加速局面です)。当社の23年9月期は売上高が前年比2.3倍に躍進しました。業績が低迷して資金が乏しくなってあわててお金を集めようとしても、下り坂の企業に出資をしようとする人はいません。プライマリーだろうが、セカンダリーだろうが、投資家は中長期の業績予想とそれに基づくバリュエーションに依拠して投資を判断します。ところが、中長期の業績予想は短期の業績動向に大きく支配されます。キャピタリストであれ、アナリストであれ、人は連続的・直線的にしか物事を予測できません。ですから、自社の事業フェーズをよく見て、調子が良い時に機動的に資金調達を考えるべきです。

第三にパーパスへの共感です。ビジネスモデルとか競争優位/参入障壁は勿論投資家にとって大事なことです。過去のトラックレコードや将来の業績予想も投資判断において大事な事には違いないでしょう。但し、本当に大切なのはパーパス、すなわち、何のためにこの事業をやるのか、どんな社会課題を解決したいのか、企業の世界観・経営者の思いを伝えて、投資家の共感を得ることです。

プライマリーだろうが、セカンダリーだろうが、投資家は一流になればなるほど、パーパスを重視します。その会社・その経営者が解決したい社会課題の大きさと難しさを見ています。何故なら、解決したい社会課題の大きさはTAM※4や将来の売上高の大きさに、解決したい社会課題の困難さは将来の利益額や利益率の高さにつながっていくからです。さらに、パーパスは経営者のエネルギーの源ですし、共にパーパスを実現する大切な仲間を呼び寄せる力になります。パーパスがしっかりしていれば、その企業はサステイナブルで、高いレジリエンスを持っていると一流の投資家は考えます。

※4 TAM:Total Available Marketの略。ある市場で獲得できる可能性のある最大の市場規模

当社は吹けば飛ぶような会社ですが、全国の中小企業とそこで働く従業員の皆様にあまねく企業年金をお届けするという崇高なパーパスを持っています。企業年金の恩恵を本来受けるべきなのに、既存の大手金融機関が儲からないので無視してきたマーケットに挑戦しています。投資家とファーストコンタクトをする際、当社では、可能な限り社長も同席させて、社長とCFOの二人でパーパスをこれでもかと語るようにしています。お陰様でコンタクトした投資家に出資を断られることはほとんどありません。

今後、シリーズCの資金調達も予定しています。シリーズC成功の暁には、さらに具体的なTIPS的な内容のnoteを発信できればと思います。乞うご期待!

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