1 脳がぶち切れた! ~脳出血を患った旅行会社社長が一組限定宿をつくるまで
あれは2021年10月15日(金)12:30、zoomミーティング中。
まさに、宿泊新規事業の事業計画策定に向けて、経営コンサルや建築士の面々揃ってのミーティング真っ最中だった。
ここで少し「事業再構築補助金」について触れておこう。コロナ禍で影響を受けた中小企業を、新しい事業分野展開などで経済を活性化させる挑戦を応援しますという国の施策だ。
元々、コロナ以前からの夢であった、カウンター越しにうまい食事を出す店を持つこと。プラス、これまで多数の海外視察で、海外の一流リゾート、一流ホテルでの温かいホスピタリティの心地がなんともすばらしく、かけがえのない非日常体験ができたことから、おいしいカウンター料理を提供する、お客様にフォーカスしたおもてなしの癒やしの宿を作れたら、と考えていた。
コロナの影響により海外旅行事業の収益を望めず資金に余裕があるわけではないが、宿泊事業で大きな補助金を得ることができたら、単一事業のリスク回避になり、結果損益分岐点を下げられる可能性があるのではないか。ここはやってみよう、チャレンジしてみよう、と会社のために考え抜いて決断をした。
そんな「究極の一日一組限定宿を作る」宿泊事業の補助金申請のための大事なミーティングである。
ふうーっと意識が朦朧としてくる。よだれが出る。マウスが動かせない。マグカップが持てない。横になりたい。その前にトイレに行きたい。途中で倒れて、それからようやく横になる。
そこから先の話は、その場にいた「千春さん」にバトンタッチします。
彼女は会社のスタッフであり、妻です。
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迷わず救急車を呼びました。
年光さんは朦朧としながらも「呼ばなくていい」と。
搬送先の病院で緊急手術をすることになり、直前にもベッドの中から「大げさだ」と。この期に及んでなんと彼らしい発言!
高血圧による左被殻脳の出血。幸い手術は成功し、翌日から早速麻痺した右側身体のリハビリが始まりました。
コロナ禍で面会はできないため、毎日何かしら届け物をしたり、看護師さんに様子を聞いたりし、彼の生かされた命にただ感謝しながら過ごしました。
3週間後、引っ越したばかりの自宅近くのリハビリ病院に転院、そこで約1か月のリハビリ生活が始まりました。
決められたリハビリメニューと食事以外はほぼ、フリータイム。そこで彼は、この新しい宿泊事業についてあれこれ妄想を繰り広げていたようです。考える時間はたっぷりあるのです。
健康診断とセットになった、おいしい食事を提供する宿なら、自分も泊まりたい。元々健診が苦手、かかりつけ医に長年通っていたのに今回の病気を防げなかった後悔。でもこんな宿なら進んで行きたくなる!
またこんなアイデアも。廃校を利用した高齢者施設で、外国人のゲストや一般の若者も泊まれるところ。一人暮らしのお年寄り、誰もが集い交流する宿。これは、ほぼ高齢者ばかりのリハビリ病院に長くいたからこその発想です。家に帰っても一人でさみしいという、若い介護士さんたちとのコミュニケーションを楽しみにしておられる高齢の患者さんを多く目にし、感じたようです。
時々、入院中の年光さんと携帯電話の画面越しに話すとき、ヒートアップして話が止まらなくなることがありました。いけない!血圧を上げては。以前の彼は熱くなりすぎた。本当に血管がぶち切れたんですから。
2か月程度は入院するものと誰もが思っていましたが、彼の「一日も早く退院したい。退院してからが本当のリハビリ!」という連日の熱すぎる要望に根負けて、ついに12月3日、退院の日を迎えました。
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さて。入院で中断していた宿泊事業申請、どうするか。
やりたい。やりたい気持ちはあるが、脳出血の後遺症で、以前のようなパフォーマンスが難しくなっている。自信がない・・・
そんなときに、力をくれた人がいた。→2に続く