ピボットすればいいじゃん?
事業を構築する上では、ピボットと呼ばれるステップを踏むことが時々あります。大きく成長したスタートアップも当初の目論見が外れ、ピボットした後に大きくブレイクした例も少なくなく、ウェブサービスなどの業界ではよく聞かれるキーワードです。しかしながら、バイオテックをはじめとする、ディーブテックではこのピボット、そんなに簡単ではありません。
そもそもピボットって?
ピボットとは、ある軸を起点に軌道修正をする戦略のことを言います。バスケットボールの経験のある方は聞いたことがあると思います。左右どちらかの足を軸に反対側の足を動かしても歩数にカウントされない、あれです。
事業を構築する上で、問題と解決法が合致しているのか(Problem-Solution fit)、製品と顧客が合致しているのか(Product-Customer fit)など市場や顧客に対して用意しているソリューションや製品やサービスが合致していないと、いわゆる「だれも欲しくないものを作る」状況に陥ってしまい事業がうまくいかない、ということを避けるための考え方です。
有名なスタートアップの多くもピボットをしています。
ディープテックではそんなに簡単にピボットできない…
ウェブサービスであれば、顧客の反応を見ながら軌道修正をして=ピボットしてあるべき事業の姿を模索することはさほど難しくないかもしれません。しかしながら、バイオテックをはじめとしたディープテックの事業はそれほど簡単ではありません。いくつかの理由をみてみましょう。
「技術ありき」だから…
まず、多くは「技術ありき」で事業構想をスタートするからです。
たとえば、ある技術をA大学から技術移転(ライセンス)を受けて事業を進める場合を考えてみましょう。この場合、「solution」が固定されてしまいます。また、一度ライセンスを受けてしまうとライセンス契約を解除することが、不可能ではないにしても、難しいケースが多いようです。
また、技術の後ろ側にはほぼ間違いなく「研究者」がいます。事業を構想する際に、この「研究者」が共同創業者あるいは技術顧問など何かしらの立場で参画していることが多いでしょう。ニーズ(顧客や市場側)を見てみると、実はこの技術ではない方が事業として好ましいということが判明しても、この技術と研究者とお別れすることは容易ではありません。ましてや研究者が出資者である場合は、ほぼ不可能でしょう。
そうすると、ピボットは片側の足でしか行いづらい、という状況になります。つまり「技術」を固定して、「市場・ニーズ」をピボットしていくことになります。
まずどの市場を狙うかよく考えよう
では、どうすれば良いのでしょうか。
まず「技術が優れているから」という理由でいきなり事業を始めないことが重要です。技術的に優れている場合、複数の市場が想定されます。特に基盤技術の場合は様々な市場に対してのソリューションを提供することができるでしょう。しかしながら、資金と時間というリソースが限られたベンチャーの場合は、すべてをカバーすることはできません。自動的にどれか一つに絞ることになります。
その際に、どのようなアプリケーション、市場が考えられるかチームでよく検討することをお勧めします。いくら技術が優れていても、市場によっては既存の技術ですでに十分であったり、あるいは全く違う技術が同じ問題を解決していることも考えられます。
技術ベースで事業を考えると、どうしても自社の技術がオンリーワンのナンバーワンだと考えがちです。アプリケーションや市場をよく検討し、「どうしてもこの技術でないと解決できない」という「課題」を見つけることが重要です。複数のアプリケーション・市場が議論に残った場合は、市場性や参入障壁などを要素として加えても良いでしょう。
Problem-Solution fitとして見ると
Problem-Solution fitとして見てみると、これは「Solution」に合致するように「Problem」を探すプロセスと言ってもよいかもしれません。実は技術がそのままsolutionになることはあまりないかもしれません。技術だけでなく、提供方法や顧客の設定も併せてfitを考えていく必要があります。
ありがちなのは「〇〇病の患者は世界で##万人いる」というマクロな指標で市場性を語るケースです。その技術はそのまま「〇〇病」の患者さんに届けられますか?もちろん患者はいるでしょうが、それはビジネスとしての相手ではないかもしれません。技術を「お金を出して買う人」は誰でしょうか?そこまで考えてfitを作っていく必要があります。
このfitの精度を精度を段階を経て上げていくわけですが、少なくとも「この課題でなければ解決できない課題」が見つからないうちは、もう少し事業を立ち上げるのを待ってみても良いのではないでしょうか?