電子書籍:小説『邂逅の街』を読んで頂き、ありがとうございます。【活動記録】
「邂逅の街」は、既刊「青い軌跡」を改稿した新装版です。この二作は、他のロマンス小説とは違い、異色作になります。
ツイッターで、著作の広報活動を定期的にしていますが、今年の1月に、フォロワーのTedokun様からツイートのリプライを頂きました。感想の内容がとてもうれしくて、その日のことを忘れることが出来なくて、noteに記すことにしました。著作の感想、どうも、ありがとうございました。これからも、よろしくお願い致します。
☆「邂逅の街」試し読み
土曜日の朝、小田(おだ)秀樹(ひでき)はスマホのメロディーコールで目覚めた。
サイドテーブルに手を伸ばしてスマホを掴み、ベッドの中で画面を見た。電話の相手は、幼馴染の森本からだった。
「秀樹か? 俺、森本やけど」
「めずらしいなぁ。ひさしぶりやんか」
「あのな、今度N小学校の同窓会するんやけど、小田も参加できるかなぁ?」
「いつ、するのん」
「四月二十七日の土曜日、午後六時から居酒屋『楓(かえで)』でするんや。知ってるやろ、商店街にある『楓』。来てほしいんや」
「うん、わかった。参加するわ」
「そうかぁ、来てくれるか! 南も来るらしいで」
通話を切ってからも、森本のよろこぶ声が耳の底に残った。
N小学校の同窓会は二十名ほどが集まる、という話だった。「店は貸し切りやからな」と、森本は自慢げに話していた。駅近の商店街にある『楓』は、秀樹が通っていたT工業高校の後輩が経営している店だった。
森本から『楓』で同窓会を開催することを聞いたとき、秀樹は後輩が店を続けていることを知った。秀樹が暮らした街では、小学校から高校までが自宅から徒歩圏内にあった。
秀樹は、最後の同窓会になるかもしれないと思うと、ちょっぴり感傷に浸りそうになった。
当日の土曜日、早めに自宅を出た秀樹は、午後五時頃にA駅へ到着した。郊外の小さな駅を思わせる駅舎から十分ほど歩いたところに、秀樹が生まれ育った区域があった。二十一歳でその街を出た秀樹は、駅前から周辺の風景を望むと、妙に懐かしさがこみ上げてきた。
秀樹は三十八年ぶりに、住んでいた場所に足を向けた。ゆっくり歩きながら街並みを眺めた。当時の光景とはずいぶん様変わりしていて、知らない街並みが目の前にあった。
当時住んでいた一角は、建売住宅が並んでいる場所に変わっていた。裏手のドブ川もなくなり、背中合わせのように建売住宅が建ち並んでいる。秀樹は辺りをぶらぶら歩き、立ち止まっては面影のあるものに目を向けた。
もとの区域に戻った秀樹は、建売住宅が並んでいる場所で佇んだ。古さを感じさせない住宅を眺めていると、在りし日の記憶が蘇ってきた。