94章 ANCA関連血管炎
94 Anti-neutrophil Cytoplasmic Antibody–Associated Vasculitis
キーポイント
● 抗好中球細胞質抗体(ANCA):基本的にはANCA関連血管炎(AAV)の診断に用いる、疾患活動性評価での有用性は「?」
● AAVは小型血管炎、おもな疾患は多発血管炎性肉芽腫症(GPA)・顕微鏡的多発血管炎(MPA)・多発血管炎性好酸球性肉芽腫症(EGPA)
● 治療:寛解導入はステロイド+シクロホスファミド(CY)orリツキシマブ(RTX)、寛解維持はメトトレキサート(MTX)・アザチオプリン(AZA)や低用量RTX、現在のレジメンだと7-9割の患者は寛解
はじめに
ANCA関連血管炎は複数臓器の中小血管を標的とし、特に副鼻腔、肺、腎の病変が多い。多発血管炎性肉芽腫症(GPA)、顕微鏡的多発血管炎(MPA)、多発血管炎性好酸球性肉芽腫症(EGPA;Churg-Strauss症候群としても知られる)、および腎限局性血管炎などがある。これらの疾患は好中球の細胞質に存在する抗原であるプロテイナーゼ3(PR3)およびミエロペルオキシダーゼ(MPO)に対する抗体との関連ならびに臨床症状・検査・治療戦略の多くが重複していることから、ひとまとめに分類されている。
Pearl: 黄色ブドウ球菌の鼻腔内保菌はGPA発症に関連している
Comment: However, the only clear association is seen with Staphylococcus aureus, where nasal carriage of S. aureus has been associated with an increased risk of relapse in GPA.
・62人のGPA患者を対象とした黄色ブドウ球菌およびそのスーパー抗原(Sag)とGPA再燃の関連について調査した過去起点コホート研究から、S. aureusの存在はGPA再燃と関連し(RR 3.2; 95%CI 1.2-8.4)、Sagのなかでもtsst-1は再燃リスクの上昇と関連していた(RR 13.3、95%CI 4.2-42.6)(Rheumatology (Oxford). 2007 Jun;46(6):1029-33.)。
・GPAに対するST合剤の有用性とも関連しているのでしょうか。
Pearl: オマリズマブの使用はEGPA発症と関連している。
Comment: Use of leukotriene antagonists and omalizumab has been linked to the development of EGPA. These agents may unmask underlying EGPA by allowing corticosteroid tapering or are prescribed to patients with undiagnosed and worsening EGPA, but a direct causal link cannot be excluded.
・ロイコトリエン拮抗薬がEGPA発症リスクになるというのは添付文書にも記載があるのですが、オマリズマブ(OMZ)についても同様なのですね(添付文書にも書いてありました、恥ずかしながらしりませんでした)。
・製薬会社(Novartis)の気管支喘息患者に対するOMZデータベースから抽出したEGPA患者13例中8例(62%)でOMZ投与前にEGPA症状を有していたか、ステロイドの離脱直後に症状が出現したと記述されていた。13例中6例(46%)は重症の喘息と思われる症状に対してステロイドによる治療を受けていたことが確認され、OMZ治療と同時にステロイドを漸減したところ、漸減直後にEGPA症状が出現した(Chest. 2009 Aug;136(2):507-518.)。
・ACRガイドライン2021だと抗ロイコトリエン拮抗薬は条件つきで継続を推奨。
2021 American College of Rheumatology/Vasculitis Foundation Guideline for the Management of Antineutrophil Cytoplasmic Antibody–Associated Vasculitis
推奨事項: 新しくEGPAと診断され、ロイコトリエン阻害剤を受けている患者については、ロイコトリエン阻害剤を中止するのではなく、条件付きで継続することを推奨します。 ロイコトリエン阻害剤の導入後、EGPAの開発との関連について懸念が生じました。その後の遡及研究では、ロイコトリエン阻害剤と EGPA の間に因果関係があるとは結論づけられませんでした ( 52 )。したがって、新たにEGPAと診断された患者は、喘息や副鼻腔疾患の管理に有益である場合には、ロイコトリエン阻害剤を継続する選択肢を持つ必要があります。 グレードなしの 見解表明: ロイコトリエン阻害剤の使用は、活動性喘息および/または副鼻腔疾患を伴う EGPA 患者には禁忌ではありません。
Pearl: AAVの遺伝素因は、臨床症状よりもANCAのタイプと強く関連する。
Comment: Genetic studies also indicate that associations based on ANCA specificity may be stronger than associations with specific dis- ease phenotypes or the overall cohort.
・AAVのGWASで同定されたSNPの関連の強さは、ANCAのタイプ>血管炎のタイプ (NEJM. 2012 Jul 19;367(3):214-23.)。
・ほかのメタアナリシスでも、臨床診断と比較してANCAサブタイプとの関連が強いことが示されている (Ann Rheum Dis. 2016 Sep;75(9):1687-92.)。
・「MPO-ANCAかPR3-ANCAか」「MPAかGPAか」の2×2表で考えてよいのでは?
Pearl: GPAの声門下病変はとくに小児や若年成人にみられるlife-threateningな病態である
Comment: Subglottic involvement occurs in approximately 15%,56,69,70 and often causes obstruction (Fig. 94.3) due to either active inflammation or subsequent scarring, which can be life-threatening. It is observed particularly in children and young adults.
・声門下病変は約15%にみられ、しばしば、活動性の炎症またはその後の瘢痕化により閉塞を引き起こし、生命を脅かすことがある特に小児や若年成人にみられる。
・ちなみにKelleyに引用してあった論文では、「気管拡張療法+局所ステロイド注射したらよかった(気管切開にならないor離脱できる)」って書いてありました(Arthritis Rheum. 1996 Oct;39(10):1754-60.)。
Pearl: 日本と欧州ではMPAの疫学・表現型が異なる。
Comment: most interestingly, there appear to be important differences in MPA between patients in Europe and East Asia, particularly in the type of lung involvement.
・日本のMPA患者は欧州と比べて「高齢」「MPO-ANCA陽性多い」「血清Cr低い」「間質性肺炎多い」(J Rheumatol. 2014 Feb;41(2):325-33.)
Pearl: コカイン/レバミゾール血管炎の場合、免疫蛍光法で観察されるANCAパターンと特異的抗原の検査との間にしばしば断絶がある。
Comment: In the case of cocaine/ levamisole, there is often a disconnect between the observed ANCA pattern by immunofluorescence and testing for the specific antigen.
・そもそもレバミゾールってなんなのかという話なのですが、抗寄生虫薬でフィラリア駆虫とかに使うようです。本邦だと現在は動物用しかないようです。
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001feaz-att/2r9852000001ffns.pdf
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AC%E3%83%90%E3%83%9F%E3%82%BE%E3%83%BC%E3%83%AB
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001feaz-att/2r9852000001ffns.pdf
・コカインのなかに不純物としてレバミゾールが入っているようです。
・好中球減少を伴う、あるいは伴わないコカイン・レバミソール関連皮膚血管炎3例と、口腔粘膜潰瘍を伴う重症好中球減少症1例を報告した。さらに血清学的検査を行ったところ、ANCAの最大力価はほとんどが核周囲パターンであった。我々のコホートでは、抗ミエロペルオキシダーゼは陰性または軽度上昇であった。好中球減少症の患者3人は抗顆粒球IgM抗体が陽性であった(Semin Arthritis Rheum. 2011 Dec;41(3):434-44.)。
Pearl(?): RTXのAAVに対する有効性にANCAのタイプは関係ない?
Comment: No difference was found in remission rates based on type of renal involvement, presence of alveolar hemorrhage, ANCA specificity or disease type, or whether patients became ANCA negative during the course of treatment.
・とRAVE study(N Engl J Med. 2010 Jul 15;363(3):221-32. PMID: 20647199.)の結果を引用してKelleyには書いてあります。いろんな変数を入れてロジスティック回帰分析した結果のようです(論文内にデータなし)。
・しかしその後RAVE studyの追加解析では、PR3-AAV/MPO-AAVとGPA/MPAそれぞれのグループでRTXとAZA/CYCの寛解導入効果を比較したところ、PR3-AAVであればRTX>AZA/CYCだが、MPO-AAVやGPA/MPAではその差はなかったという結果が出ています(Ann Rheum Dis. 2016 Jun;75(6):1166-9. PMID: 26621483.)。
・自分としては、RTXいれるひとでPR3-ANCA陽性だったらしっかり効くかなーと思うぐらいの解釈をしています。
Pearl: RTXとCYを併用するとステロイドを速やかに減量できる可能性がある。
Comment: A combination of rituximab and cyclophosphamide, analogous to the RITUXVAS regimen, has never been compared with rituximab alone. Uncontrolled studies have shown patients on rituximab and cyclophosphamide for remission induction are able to taper glucocorticoids rapidly, but controlled trials are needed to confirm these findings.
・そもそもRITUXVAS(Rituximab versus Cyclophosphamide in ANCA-associated Vasculitis)試験(N Engl J Med. 2010 Jul 15;363(3):211-20. PMID: 20647198.)というものがあります。「GC+CY3-6ヶ月→AZA」群と「GC+CY2回+RTX4回」群を比較して、CYとRTXで1年後の寛解維持率や死亡率に差がなかったという試験です。
・その後RTXとCY併用してステロイドを1-2週間で終了するという、かなりアグレッシブな研究結果も報告されています(Rheumatology (Oxford). 2019 Feb 1;58(2):260-268. PMID: 30239910.)。
その内容:6ヵ月目では、49人中47人(96%)がGCを追加投与することなく疾患寛解に至った。活動性血管炎の症状のために4週目と6週目にGCの再導入が必要であった第1群の患者は、2例とも6ヵ月目までに寛解を達成した。 12ヵ月目には、44/49例(90%)がGCの追加投与なしに寛解を維持した(7ヵ月目、9ヵ月目、9ヵ月目に3例の死亡例があり、7ヵ月目と12ヵ月目に2例の再発があった)。RITUXVAS(AAVにおけるリツキシマブ対シクロホスファミド)試験と比較して、CYCとGCの総曝露量が少なく(P<0.001)、重症感染症の発生率が減少した(P=0.02)。EUVAS試験で8.2%であった糖尿病の新規発症率は、最初の1年間は認められなかった(P= 0.04)。
・いまならアバコパンなどほかの選択肢もあるので無理してCYとRTXを同時に使わなくてよい気はしますが、超重症例では併用も選択肢のひとつとして残しておいてよいと思います。
Pearl: ステロイドはより積極的に減量しても、死亡や末期腎疾患のリスクは実質的に増加しない
Comment: Therefore, the PEXIVAS study (NCT00987389) was conducted in part to examine the efficacy of a reduced dose glucocorticoid regimen (<60% of the standard regimen by 6 months) in patients with severe AAV. Initial abstracts indicate that using a reduced dose glucocorticoid regimen did not substantially increase the risk of death or end-stage renal disease and resulted in fewer serious infections when compared with a standard dose regimen.134 Thus, it is possible that standard glucocorticoid schedules developed over the past 50 years have used unnecessarily high doses.
・PEXIVAS試験(NCT00987389)は、重症AAV患者におけるグルココルチコイドの減量レジメン(6ヵ月までに標準レジメンの60%未満)の有効性を検討する目的で実施された。最初の抄録によると、グルココルチコイドの減量レジメンを使用しても、死亡や末期腎疾患のリスクは実質的に増加せず、標準量のレジメンと比較して重篤な感染症も少なかった。 したがって、過去50年間に開発された標準的なグルココルチコイドスケジュールでは、不必要に高用量が使用されてきた可能性がある。(N Engl J Med. 2020 Feb 13;382(7):622-631. PMID: 32053298.)
・ただACR2023でPEXIVASレジメンだと死亡率などが増えるという報告あり(Arthritis Rheumatol. 2023; 75 (suppl 9). https://acrabstracts.org/abstract/real-life-use-of-the-pexivas-reduced-dose-glucocorticoid-regimen-in-granulomatosis-with-polyangiitis-and-microscopic-polyangiitis/.)
Pearl:ST合剤はGPA患者の寛解維持に有用で、とくに鼻/上気道病変を持つ群で有益である。
Comment: After reports of a beneficial effect of trimethoprim/sulfa methoxazole (TMP-SMX) for the treatment of GPA, a double blinded clinical trial randomized 81 patients with GPA who were in remission to receive either TMP-SMX (800 mg of sulfamethoxazole and 160 mg of trimethoprim) or placebo for 24 months. A higher proportion of patients receiving TMP-SMX remained in remission compared with placebo (82% vs. 60%). A subgroup analysis showed that patients with nasal or upper airway lesions benefited the most from TMP-SMX use.138 Thus, although TMP-SMX is not commonly used for remission maintenance in patients with ANCA-associated vasculitis, it may be beneficial for patients with nasal or upper airway manifestations.
・トリメトプリム/スルファメトキサゾール(TMP-SMX)のGPA治療に対する有益な効果が報告された後、二重盲検臨床試験が、寛解状態にあるGPA患者81人をTMP-SMX(スルファメトキサゾール800mgおよびトリメトプリム160mg)またはプラセボのいずれかを24ヵ月間投与する群に無作為に割り付けた。TMP-SMXを投与された患者では、プラセボと比較して寛解が維持された割合が高かった(82%対60%)。サブグループ解析では、鼻または上気道病変を有する患者がTMP-SMXの使用から最も恩恵を受けたことが示された。したがって、TMP-SMXはANCA関連血管炎患者の寛解維持にはあまり使用されないが、鼻や上気道に病変のある患者には有益である可能性がある。(N Engl J Med. 1996 Jul 4;335(1):16-20. PMID: 8637536.)
Pearl: CYC投与後にETN投与したAAV患者では固形癌発生率が高い。
Comment: However, the incidence of solid cancers was significantly higher in the etanercept arm (six cancers vs. none, P = 0.01), sug- gesting that following cyclophosphamide therapy with anti-TNF therapy can substantially increase one’s risk of cancer. Based on these results, TNF inhibitors are generally not used to treat ANCA-associated vasculitis.
・WGET(Wegener's Granulomatosis Etanercept Trial)では、174人の患者が標準的な寛解導入療法(シクロホスファミドまたはメトトレキサート)を受け、エタネルセプトを併用する群とプラセボを併用する群に無作為に割り付けられ、寛解維持期にも継続投与された。エタネルセプト群とプラセボ群の寛解維持率(69.7%対75.3%、 P= 0.39)および寛解までの期間に統計学的な差はなかった。しかし、固形癌の発生率はエタネルセプト群で有意に高く(6例対0例、 P= 0.01)、シクロホスファミド療法後に抗TNF療法を行うと、癌のリスクが大幅に上昇することが示唆された。 これらの結果から、TNF阻害剤は一般的にANCA関連血管炎の治療には使用されない(N Engl J Med. 2005 Jan 27;352(4):351-61. PMID: 15673801.)。
Myth:ANCAのtiterはAAV再燃の絶対的は予測因子である。
Reality: Persistent and rising c-ANCA/PR3-ANCA titers were associated with increased risk of flare in some but not all studies. In a meta-analysis, the likelihood ratio was approximately 2, that is, below the level considered to be “diagnostic” for making treatment decisions with confidence.
・ANCAのtiterと疾患活動性の関連については多く報告されているが、Pro/Con両方ある。
・2012年に出版されたメタ解析の結果だと、寛解中のANCA上昇がその後の疾患再発に及ぼす正の尤度比(LR(+))および負の尤度比(LR(-))の要約推定値は、それぞれ2.84(95%CI 1.65、4.90)および0.49(95%CI 0.27、0.87)であった。検査前の再発リスクが40%と推定される場合、上記結果を踏まえると検査後の再発リスクは、ANCA上昇があれば69%、ANCA上昇がなければ23%となる。さらに、ANCAの上昇が再発に1年以上先行することもある研究が含まれているため、ANCA上昇の要約リスク推定値は即時再発と関連していると解釈すべきではない、としている(Rheumatology (Oxford). 2012 Jan;51(1):100-9. PMID: 22039267.)。
・個人的には以前の再燃時にANCA上昇した症例では、参考になるかなと考えて診療しています。