その物語はどんな味?「物語」は濃厚な出汁みたいなもの。マラドーナとメッシの「物語」は感動と熱狂という旨味を存分に引き出した。物事の背後にある「物語」を僕は最高に美味しく料理できるだろうか。
先週日曜、W杯とM-1の決勝をそれぞれ見た。どっちも詳しくないけど、どっちもすごかった。内容云々もそうだけど、彼らの持つ「物語」に心が震えた。サッカーやお笑いに詳しかったら、もっとすごい感動できたんだろうなと思って、結構悔しかった。僕たちは物事の背後にある物語に様々な感情を見出す。興奮や共感、同情などなど。物語は濃厚な出汁みたいなものだと最近感じるようになった。あるとないとでは目には見えなくても味わいに雲泥の差があるのだ。
W杯のアルゼンチンとフランスは文字通り死闘だった。試合内容をどうこう言う資格はないので何も言わないけど、何でこんなに興奮したのか。怒涛の試合展開もさることながら、アルゼンチンがもつ「物語」こそがここまでの興奮を作り上げたのではないかと布団にはいったときにふと思った。
簡単に言えばこんな物語を世界中の、特にアルゼンチンの人々が共有していた。だからこそみんな興奮して熱狂して感動したんじゃないかと。
36年前、最後にアルゼンチンが優勝した時、マラドーナという不世出のスーパースターがいた。そのマラドーナは2020年に亡くなった。今のアルゼンチンにはマラドーナに匹敵する国民的英雄のメッシがいる。でも彼はW杯だけ結果がでないまま最盛期を過ぎたと言われ始めた。そんなメッシの最後であろうW杯で、初戦に敗れるなど紆余曲折ありながらアルゼンチンは決勝まで勝ち上がってきた。対戦相手は若きスーパースター・エムバペ擁する前回王者のフランスだ。果たしてマラドーナが優勝して以来の優勝を果たせるか?
という完璧すぎる物語があった。人々を熱狂させる出汁になったに違いない。過去の最強プレーヤーを乗り越えるか、唯一残った最高の栄華、最後の敵となったチームメイトでもある若き英雄、、、お膳立てがすごい。そして、あのPKまでもつれ込んだ死闘とも言える試合内容。うーん、事実は小説には描けない奇跡がある。
アルゼンチンは「メッシ殿と10人のプレーヤーたち」と言えるほどメッシ中心のチームに見えた。TVで見ていてメッシはどこにいても一発でわかる。何故ならひとりだけちんたら歩いているから。一人だけのんびり歩いている(ように見える)。でも、ボールがくると誰も止められない。パスを打てば必ず仲間に届くし、シュートを打てば枠内に飛ぶ。何なら決めてしまう。スーパースターがスーパースターたる所以。そんなスーパースターが最後の最後に優勝を飾ったのだ。そりゃ盛り上がる。
ところで僕がいま売り出しているBespokeWashというオーダーメイド洗顔料にも「物語」がある。でも、この物語はどれほど強い旨味を出しているだろうか。出汁は煮詰めるほど濃厚により美味に芳しくなる。でも時間は物語の味方になることも、敵になることもある。アルゼンチンの物語には優勝を逃してから今日までの36年間という時間が味方になった。でも、時を逃すと物語は陳腐になりとてもじゃないけど味わえたものではなくなる。そこが難しい。
物事の背後にある物語。アルゼンチンの物語は感動であり興奮だった。僕の物語はコロナ禍になって初めてリモート会議をしたときに自分の肌のあまりの汚さに愕然としたときから始まった。詳しくはこちらから読んでみて欲しい。この物語はいま、どのくらい美味しいのだろうか。どんな味がするのだろうか。たぶんまだまだで全然美味しくなのだろう。経営者なる料理人の悩みは尽きない。でも、必ず最高に美味しくなる瞬間が来る。僕はそれを信じている。絶対に諦めない。その瞬間まで物語を磨き続けていきたい。いつかこの文章を最後まで読んでくれている奇特な方にBespokeWashが届く、その日まで。