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昭和と令和のはざまで

あつまれ!中間管理職

時代とともに働き方が変化していくなかで、“昭和”と“令和”、
それぞれの仕事観に挟まれながら働いた経験のある3名で座談会を行いました。

・Aさん(30代)
従業員500名ほどの電機メーカーの人事担当者。上司は親会社からの天下りが多かった。合う上司合わない上司どちらも経験あり。
・Bさん(40代)
毎年100名以上の新入社員が入社する飲料メーカーの人事部門の勤務経験あり。工場はザ・昭和感覚の男性が多い。直属の上司は女性が多かった。
・Cさん(40代)
看護師。500床ほどの病院で10年以上の勤務経験あり。20代から60代までいる女性社会の看護業界で揉まれてきて、今は小さなクリニック勤務。


働きやすい上司はいた?

――皆さんはこれまで何人かの上司と働いてこられたと思いますが、そのなかで働きやすかった上司はいましたか?

Aさん(以下、A):メーカーの直系子会社だったので、上司は親会社からの天下りが多く、3~5年で頻繁に上司が変わっていました。親会社は歴史が長くて大企業病というか、大きな変化を好まない硬直しがちな組織体質だったので、事なかれ主義の仕事スタイルの方が多かったのですが、そのなかで一人すごく良い上司に巡り合いました。「自分の権限の範囲内で好きなこと・やりたいことをやりなさい、最終責任は上司の私が持つから」と言ってくれる部長でした。そして、やったらやっただけ評価してくれて、子会社から親会社へ逆出向というかたちで引き立ててくれたりもしました。今思い出しても楽しかったし、提案力を一番鍛えられましたね。

Bさん(以下、B):相手の立場に思いを巡らせられる素敵な女性上司がいました。例えば、初めて産休を取る人に対して「引継ぎの準備が大変だよね」「両立できるか不安だよね」「私も産休を取ったから分かるよ」と気持ちに寄り添って環境を整えてくれたり、新人に対しては、自分が新人の時の仕事内容や研修を思い出しながら共感して話を聞いてくれたりしました。自分もそうですが、中間管理職は、「ちゃんと業務を遂行しなきゃ」と思いすぎると共感を忘れがちになるし、部下に共感しすぎると業務をおろそかにしがちです。その辺のバランス感覚が良い上司でしたね。部下も心を開いて、お互いが思いやりでつながっていました。

Cさん(以下、C):看護師は、上から部長・副部長・師長・主任の役職があります。私が働いていた病院では、基本的に部長が副部長を指名していました。部長自身が昭和の仕事観なので、副部長クラスも同じような考えの人が多いです。一方、師長・主任は、年功序列でなる人もいれば、実力や人望の厚さから昇任している人もいて、なかにはすごく働きやすい師長もいました。例えば、その師長は、医師から無理な依頼があった際に、御用聞きになるのではなく、矢面に立って、できること・できないことの整理をしてくれました。無理な注文には「無理です」とズバズバ断ってくれていましたね。追加で降ってきた仕事を部下へ振り分けるときも、誰か一人にだけ負担がかからないように調整したり、新人のヒヤリハットも個人の責任にせずに部署として共有し、対策をしてくれました。当時、その師長の病棟だけは離職する人がいませんでした。病棟全体が「師長のために頑張ろう!」という雰囲気でしたね。

働きにくかった上司はいた?

――素晴らしい上司がいらっしゃったんですね。反対に働きにくいと感じた上司はいましたか?

A:なんでも自分の思い通りにしたがる上司がいました。「何月何日から健康診断をします。こういうことに気をつけましょうね」くらいの社内文書でも、重箱の隅を楊枝でほじくるようなダメ出しが多くて、いつも修正で真っ赤にして返されるのです。指導ではなく、「いいから俺の言った通りにやれ」とコントロールしようとするので、やりがいもなかったですね。在任している間の4~5年で何百回も企画書や文書のやりとりをしましたけれど、結局一発でOKをもらえたことはありませんでした…。看護師さんはそういったことはないですか?

C:看護にはマニュアルがあるので、やり方はガッチガチに固まっていますね。だから、訳のわからない指導はあまりありませんでした。ただ、仕事量が多いので、「上司がこれだけの仕事を抱えているのだから、部下も同じくらい仕事をするのが当たり前」という風潮があり、それが大変でした。

A:うちの会社でも、営業アシスタント同士で、「私はこんなに辛いんだからあの人も辛くあるべき!」というような理不尽な雰囲気がありましたが、それと似ている感じですかね。

C:当時の職場では残業することが当たり前で、新人の時は、17時まで8時間働いた後、24時まで残業手当なし、休憩なしで働き、3交代の深夜勤で出勤してきた人に「お疲れ様です~」と挨拶することに疑問さえ持ちませんでした。学生時代に実習に行った病院もどこも同じ感じだったので、私もそれが普通だと思っていましたね。「手際が悪くてできなかった仕事は残って無償でやるべき」「先輩たちも一緒に残ってくれるし、後輩の私だけ帰るわけにはいかない」という風潮は、外から見たらおかしくても、中にいると「当たり前」と思い込んでしまいがちなのかなと思います。当時は上司も残業の習慣を変えようという意識はなかったと思いますね。

B:「俺たちの時はこんなに働いていたのに、お前たちは定時で帰るじゃん。そんなんじゃ成長できないよ」と、直接言ったり、匂わせたりしてくる上司もいますよね。昔はメールもインターネットも無いから時間が掛かっていたという面もあるのに、同じ感覚で押し付けていたら、若い子を困らせるだけかと思います。

C:そうですよね。最近は、働き方改革の波が医療業界にも広まってきています。「もう5時を過ぎたから帰って!」と新人に声をかけるようになったりして、上司も働き方への意識が変わってきていると思います。

A:でも、若い人も「働き方改革」という言葉にばかり甘えてはいけないですね。例えば、仕事が残っているのに「定時で帰ります」は違うかなと…。定時で帰るために、どうやって工夫して仕事を終わらせるかをちゃんと考えて、やるべき努力はしようね、と思います。そのうえで、必要な残業はしたほうがいいです。付き合い残業とか、生活費のための残業とかは論外ですけど。

C:私が以前いた病院は、今では残業代が出るようになりました。また、以前は看護師の世界は女社会でしたが、男性看護師が多い病棟が増えています。看護の現場も少しずつ変わってきていますね。

最近の新人について

――最近の新人のお話を聞かせてください。

C:一番びっくりしたのは、家族が大変だからとウソをついて、休んだり、早退したりする子がいたことです。1年弱ぐらい、周りが一生懸命仕事をフォローしていたんですが、たまたま彼女のSNSが見つかってプライベートがバレてしまい…。休んだ日も元気に出かけていたことが発覚しました。この子を筆頭に、ちょっと変わった子が増えているなという感じがします。

A:それはなかなか…。

C:あとは、「マニュアルにぴったり沿って仕事しますが、応用はしません」という子が増えてきた気がします。看護技術はマニュアルがしっかり決まっているので、若い人はむしろ得意な人が多いです。一方で、患者さんへの対応はマニュアルがなく、主体的に学んで応用しないといつまで経っても身につかないのですが…。患者さんへの対応にはホスピタリティの要素も求められますが、「それは仕事としてやらなきゃいけないのですか?」と若い人たちがもやもやしている感じもあって…。

B:確かに患者はつい看護師さんにホスピタリティや優しさを求めてしまいますが、求人票には「患者さんに優しく対応すること」みたいな内容って書かれていないですよね。

C:他にも、人のせいにしたり、ミスを隠したりする新人さんは指導する側としては困りますね。最初は仕事ができないのは当たり前ですが、多くの人は成長していきます。ただ、できないことの言い訳やごまかしをする子が、以前に比べると少し増えてきているように感じます。「え…でもこれって、先輩が『こうやって』と言ったからじゃないですか」と人のせいにしたり、ヒヤリハットをウソでごまかしたり、隠したりする子もいます。命を預かる仕事なので、指導する側としては本当に困りますし、他のスタッフにも迷惑がかかってしまいます。
皆さんの会社ではびっくりする新人さんはいませんでしたか?

A:基本的に面接の時点で、社風が合わなさそうだなと感じる人には内定を出さないですので、あまりいなかったですね。面接でびっくりするようなことは増えたかもしれませんが、それは会社が有名になって応募する人が増えたからなのかな、と思っていました。

C:私のいた病院は、人手不足で、面接はあってないようなものでしたので。同じように看護師の資格さえあれば採用するという病院も少なくないと思います。
看護師は基本的に筆記試験ができれば国家資格を取れてしまうんです。でも、看護の仕事は、患者さんへの対応や、多職種の方たちとの連携など、筆記試験でははかれないような能力を求められることも多いです。やっぱり向き不向きはあるので、時間に余裕のない総合病院で、適性がないと言われて辞めていく人もいます。環境が違ったら上手に看護師をやれていたかもしれないのに、精神を病んで辞めざるを得なくなって人生を棒に振ってしまう例を見ていると、入職する前にどうにかできないのかなと思っていました。

B:企業では面接のほかに適性検査等もやりますしね。ストレス耐性がとても低いから採用を見送ろう、といった判断をすることもあります。

A:適性検査は対策されてしまうこともありますが、面接と併用すればなんとなくわかりますね。「これは本当の性格と違うのではないか?対策したんだろうな」と思うこともあったので、面接は若手・中堅・経営層といろんな人の目が通るようにはしていました。

B:一度採用すると、会社側から解雇するのは難しいので、不向きな人が入ってしまうと、お互いに不幸になりますよね。人手不足だと仕方ないですが…。適性検査で「どういうタイプか」はわかるので、あの上司の下なら大丈夫かな、など人との相性を考慮できたほうがお互いに無駄がない、という観点はあるかもしれません。

C:看護師も採用時に適性検査を実施したり、面接も色々な工夫をしてほしいです!

板挟みの経験で一番大変だったことは?

――皆さん、上司と部下の板挟みになることもあると思いますが、その経験で一番大変だったことはなんですか?

B:部下から相談を持ち掛けられれば、解決に奔走するわけなのですが、実際は思っていることの30%ぐらいしか言ってくれていなかったということがありました。部下の本音を把握してすべて解決してあげたいけど、かといって自分も上司に全ては話せないから、結局9%くらいに希釈された解決しかできなくて。部下の不満はほとんど解決せず、上司は解決したと思っている、この板挟みは大変でしたね。ですので、部下が自分に話していることが全部だと思わず、本音がどこにあるか?をいつも探るようにしていますが、難しいです。永遠の課題だなと思います。

A:むしろ私は逆で、自分の上司から「あの新人の子、ちょっと問題あるんじゃない?」とダメ出しを受けた時に、本人にどう伝えるべきか悩みました。至らない部分は色々とあるけれど、それを全部指摘して変えさせようとして「もう私なんて何をしてもダメなんです」となってしまったら、目も当てられないですよね。それこそ100%伝えるのは難しいから、上司には「ここだけは直せるように指導します」、部下には「ここが変わるといいからさ、頑張ろうぜ!」と落とし所を探っていました。

C:新人の教育は大変ですよね。看護師は一通り仕事ができないと、夜勤や休日の日勤のシフトに入れることができないので、新人教育は病院にとって死活問題です。ですので、どこの病院でも、プリセプター制度という、先輩がマンツーマンで新人を指導する体制が整っています。また、教育制度としては「クリニカルラダー」という、看護実践能力開発システムがあります。ラダーに沿って、スタンプラリーのようにできることを増やしていくと、新人から中堅、ベテランへと一人前の看護師にステップアップできるようになっているのです。
ただ、このシステムは教育担当者にとっては、担当の新人が順調に成長しているか可視化されてしまうんですよね。思うように進まないと、指導する側は焦ってしまいます。その焦りが新人の子にも伝わって、「私は全然できないです」と思い込み、自信をなくしてしまう…。これは、看護業界のあるあるですね。
なので、そうならないように気を遣いながら新人を育てていくんですが、頑張って育てた若手が、古い体質が合わないといって辞めてしまうことも多くて、中間層としては辛かったです。

B:最近は転職のハードルもだいぶ低くなりましたよね。工場でやる気のある女性を採用して、男性陣が気を遣って必死に育てようとしても、ある日いきなり「私、転職しようと思っているので」と言われて、衝撃を受けたり…。若い人は、そもそも転職前提での就職だったりしますから。
一方、昭和世代は「一生かけて育てていくぜ」という考えなので、下積み期間だと思って若手に雑用をさせてしまい「こんな仕事をやりたいわけではない」と最初の数年で若い人に見限られてしまうこともあります。昭和と令和の感覚のギャップは大きいですよね。
看護師さんは国家資格なので、なおさら転職のハードルが低いんじゃないですか?

C:そうだと思います。看護師は急性期病院で5年間働いたら、もうどこでも働けるという認識があるので、そのあたりまで頑張ってから辞めてしまう子は多いですね。お給料を上げたいだけなら、他の病院に移ったほうがいいと考える人もいます。

B:看護師さんの5年は、長いなという感覚です。企業は3年が目安ですよ。私も転職をしているので、若い人の感覚もわからなくはないです。中間管理職としては上から「なんであんなに軽く転職するんだ!だから若いやつは信用ならない」と言われて、板挟みになりがちで辛いですね。

本日の感想

A:看護師さんの世界って本当にドラマみたいだと思ってしまいました。

B:看護師さんの仕事は、専門技術に加えて、ホスピタリティが無償でセットになっているから、大変だと思いました。

A:いわゆる「白衣の天使」のイメージがありますよね!

B:そうそう。私は今、海外に住んでいますが、こちらの看護師さんは患者に対して笑顔はゼロだし、話しかけても鼻であしらわれるといった感じです。それでも看護は成り立っているんですよ。それに比べて、日本の看護師さんのホスピタリティの高さたるや…!日本に帰ったら看護師さんにいつもありがとうございます、と言おうと思います。

C:異業種の方の話をお聞きし、似ているところもあるけれど、採用時の工夫などは企業の方が進んでいて見習える部分があるなと感じました。看護業界も、もう少し新しい風を入れていってほしいと思います。

――ありがとうございました。