ブランコ
両足を、小さな足場へとあずける。
ひとつずつ、ゆっくりと。
それほど高い場所にいるわけでもないのに、思わず足がすくむ。
こんなにも大きくなったのに、
地面から足を離すのはまだちょっと慣れなくて、どこか不安だ。
もう10年以上前になるだろうか、
小さなころの公園の景色が思い浮かんだ。
オレンジ色の西陽が射す公園。
ボールを追いかけてはしゃぐみんなの集まりに、いまいちなじみきれない私。
公園の隅に追いやられた、さびついて小汚いその遊具は、
ひとりぼっちの私に、いろいろなことを感じさせてくれた。
冷たく不安定な特等席から、公園の全体を見回す。
少しずつ色づき始めた木々。
まきあがる砂ぼこり。
井戸端会議をよそにじゃれあう子犬たち。
だいじょうぶ。
世界はこんなにも広くて、やさしくて、うつくしい。
なんにも怖がることなんてないんだ。
まわりに馴染めないモヤモヤした気持ちがかき混ぜられ、
ほんの少しだけ薄まったような気がした。
目を閉じ、ゆっくりと深呼吸をして、
見えない力に押されるようにして、地面をける。
ふわりふわりと、ひとたび全身に風をふくめば、
お空に向かって飛びたつことだって、きっとできるんだ。
……。
あのころよりもずっと大きく育った手で、がっしりとロープをつかむ。
重量オーバーでぷっつり切れてしまわないかを、確認しておきたかった。
うん。
これなら、むだに成長した大きなからだでも、ちゃんと支えきってくれるだろう。
丁寧にしめきられた濃紺のカーテンのすきまをぬうように、
オレンジ色の光がもれる。
だいじょうぶ。
なんにも怖がることなんてないんだ。
やりきれない未練のようなものが、
夕方の霧と一緒になって、どこへともなく消えていった。
目を閉じ、ゆっくりと深呼吸をする。
かたん。
誰もいなくなった暗い部屋の中。
ブランコの揺れは徐々に小さくなっていき、
やがてぴたりと動かなくなった。