祝50周年!ご夫妻よ、いつまでもお元気で
「ベルリン酒場探検隊レポート」
なんと素晴らしい晩だったことだろう。
老夫婦が切り盛りする酒場がこのたび創業50周年を迎え、記念パーティーを開いたのだ。老若男女、あらゆる人々が押し寄せ、夫妻と抱き合い、語り合う。そんな夢のような一夜の様子を、みなさんにお届けしたい。
レポート提出者:久保田由希
酒場データ
店名:Zum Stammtisch(ツム・シュタムティッシュ)
入りにくさ度:★★★☆☆
居心地:★★★★★
タバコ:禁煙
ビール:Engelhardt(エンゲルハルト)0.3L 2.00€、Passauer Löwenbrauerei Urtyp Hell(パッサウアー・レーヴェンブラウエライ・ウアトュープ・ヘル)0.3L 2.00€ほか。
夫婦ふたりで50年
(店の一角に50周年のプレート。この数字は毎年1年ずつ増していく)
ベルリンの酒場で、長い歴史を誇る店は少なくない。中には創業100年以上のこともある。しかし、当然かもしれないが、オーナーは代替わりしている。
「ツム・シュタムティッシュ」が素晴らしいのは、レギーナさん・クラウスさんご夫妻が50年の長きにわたり、ずっとふたりきりでこの酒場を続けてきたことにある。
創業は1969年。みなさんの中には、生まれていなかった方も大勢いることだろう。そのときからずっと、ずーっと、おふたりでビールを注ぎ、料理を作ってお客にふるまってきたのだ。
国籍も年代も多様なお客たちが
(早い時間帯から既に大にぎわい)
数週間前にこの酒場を訪れたときに「パーティーは30日の夕方ごろから始めるつもりだから」というレギーナさんの言葉を受けて、私は当日17時半ごろに到着した。
どの程度の規模なのか想像もつかずに行ったのだが、店の前にはテントやパラソルが立ち、まるでストリートフェスティバルのような賑わいである。入り口左右に数メートルも並んだテーブルとベンチは当然のようにすべてが埋まり、客席は道を挟んだ向かい側まで設えられていた。
とにかく次々とお客がやってくる。その間を縫うように、レギーナさん、クラウスさんのふたりはお客と挨拶を交わしている。
(お客一人ひとりに挨拶をするクラウスさん)
「あぁ、来たんだね」
私を見かけるなりクラウスさんは近づいてくる。
「50周年おめでとう」
この言葉を言えたことが本当にうれしい。
抱き合って喜び合うと、クラウスさんは「こっちへおいで」と私の手を取り、ひとつのテーブルへと案内してくれた。そこには外国人の先客たちが話に花を咲かせていた。
「彼女は日本から来たんだ。私たちの店を記事に書いてくれたんだよ」
と、ほかのお客に紹介する。
そうなんだ、ひとり客が淋しくないように、こうしてさりげなく気を配ってくれる。ふだん私が店に行くのは、お客の少ない早い時間。ひとりでいるときは、いつもご夫妻が話し相手になってくれる。優しいのだ。
案内されたテーブルの外国人客たちは、国籍も、年代も、ベルリンに来た時期もさまざまだった。
50代ぐらいの男性。タトゥーが見事な若い女性。黒の上下でシックに決めた女性。面白いほど何のつながりもなさそうな人々が、一つのテーブルを囲んで飲んでいる。
共通点はひとつ、ご夫妻の酒場が好きなことだ。
(レギーナさん(中)、後から駆けつけたゲスト隊員(左)、私こと隊員久保田由希(右))
(クラウスさん(中)と)
交差点を挟んでブラスバンドが!
やがてご夫妻がマイクを手に、店の前に立った。
「今日はみなさん、楽しんでいってください」
(「楽しんでいってください」とクラウスさん)
70年代、80年代と、店が歩んだ時代のヒット曲を奏でるエレキギターの弾き語り。
ふと気がつくと、店の対角にドラムセットや譜面台が並んでいる。これは……?と思っていると、奏者が現れた。ブラスバンドだ!
(「ベルリーナールフト」。ベルリンの夏)
交差点をはさんで、対角上に店とブラバン。演奏中もときおり車が走り抜けていく。
なんて楽しいんだ。
やがて日が暮れ、明かりが灯っても、お客は減るどころか増える一方だった。
(日が暮れて、増える一方のお客)
(エレキギターの弾き語りをバックに踊りだす)
いつまでもお元気で
(お祝いの花でいっぱいのテーブル)
ご夫妻は70代。レギーナさんは引退しようと思ったこともあるそうだが、クラウスさんのやる気に支えられて、おふたりとも店頭に立っている。
私の両親も70代と80代。ありがたいことに健在だ。ご夫妻を見ると、両親の顔が浮かぶ。
どうかどうか、みんないつまでも元気でいてほしい。
だから、これからも飲みに行く。