「タイに旅行した」と話しかけられて
レポート提出者:久保田由希
さて、いったい何を書いたらいいものか。リレーエッセイでは「自分は日本人だなと思った話」がお題として出されている。じつのところ、そうしたエピソードがまったく浮かばない。
そもそも日本人とは何か。日本国籍保有者なのか。日本国籍でなくても日本で生まれ育ち、日本の学校で教育を受けた人はどうなのか。そんなことを考えるようになったのも、海外暮らしがもたらしたものの一つだろう。
ベルリンで暮らしていたときに「日本人か」と聞かれたことはほとんどなかったように思う。現地人からすれば自分は日本人以前にアジア人であり、アジア内での出身国にこだわる人はさほどいないと感じていた。
ベルリンの酒場で「タイに旅行したことがある」「おすすめの中華料理レストランはあるか」と話しかけられたりしたのは、その表れだろう。ヨーロッパにいれば、アジアは遠い。遠い場所についてよく知らなかったり興味がないのは当然で、それに対してネガティブな感情を持ったことはない。
そんなわけで、ベルリンの酒場ではことさら日本人として行動していたつもりはなかった。
しかし、自分は日本で生まれ育った日本人であることには違いない。となれば、自分の行動や考えかたには日本での経験が下敷きになっていることだろう。それが日本特有のものか、ほかの国にも当てはまることなのかはわからないが。
「自分は日本人だなと思った話」。
しばし考えるとするか。ふむ……。
・ビール好き
いや、これは完全に個人の嗜好で、日本とか関係ないだろう。「とりあえずビール」という言葉はあるものの。
・飲むと陽気
これも国籍は関係ないだろう。
・飲酒量の減少
これは年のせい。
・飲むときにはつまみもほしい
これだ、ドイツ人と違うのは。ドイツ人は食べずにひたすら飲んでいる。しかし自分は飲むときには何か食べものもほしいのだ。
結論。飲むと食べるはセットの行為。
見つかった、自分の中の日本人。
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前回走者はアルゼンチンの奥川駿平氏。
デスクでのウトウト。隙あらばうたた寝をしている知り合いに言わせると、最高に気持ちがいいものらしい。しかし自分は、「眠たいならベッドで眠ればいいじゃない」という奥川さんのラテンな妻さんと同じく、時間を問わず布団でぐっすり寝る派である。妻さんと気が合いそうだ。
次回走者は元ベトナム在住のネルソン水嶋氏。前回記事はこちらだ。
自分がベルリンの街が目まぐるしく変化する様子を見つめたように、ネルソン水嶋氏もまたベトナムで同じような経験をしていた。ザ・日本食料理店しかなかった状態から、ラーメン、お好み焼き……と細分化していった現象もまったく同様である。しかし、ベルリンにはいまだに大戸屋も吉野家も一風堂もない。カモン、一風堂。