コロナウイルス、閉ざされた酒場
「ベルリン酒場探検隊レポート」
コロナウイルスの影響で、すべての酒場が営業停止になってから3週間近くが経過した。酒場のない毎日を持て余すベルリン酒場探検隊である。ひとりの家飲みもわびしいので、今回は現在のベルリンの状況をご報告しよう。
レポート提出者:久保田由希
めくるめく措置の続出で、数日前が遠い過去
ベルリンの酒場に対して、営業停止の通達があったのが2020年3月14日。しかしそれは序章に過ぎなかった。「こんな日が来るとは思わなかった」と悲嘆にくれるまもなく、感染者数の上昇に伴い日々新たな制限が出されていった。あまりの現実の速さに、こちらの頭がついていけない。目まぐるしく変化する毎日に、数日前のことが遠い過去に思える。
学校や幼稚園・保育園は休校、博物館や市民センターなどの公共施設も閉鎖、不要不急のイベント中止要請などが次々と飛び込んできた。日常生活に必要不可欠な一部の店舗を除く多くが閉鎖、子どもの遊び場、スポーツ施設、宗教的行事もすべて禁止となった。
(写真:子どもの遊び場は閉鎖)
細かい措置は州によって若干異なるが、ベルリンでは2020年4月2日現在、自分を含め3名以上で集まることは禁止(家族を除く)。飲食店(酒場やバーなどアルコール主体の店を除く)は現在は営業可能なものの、テイクアウトとデリバリーのみで店内飲食は禁止。必要最低限の外出はできるが外でくつろぐのは禁止と、非常に制限された状況である。この措置は導入当初の予定より延長され、現時点では少なくとも4月19日まで続く見込みだ。都合約1ヶ月続くことになるが、現状を見ればそれも致し方あるまい。
(写真:公園の散歩やジョギングはOKだが、敷物などを敷いてとどまるのは不可)
ちなみにドイツ全国の感染者数は2020年4月2日午前10時の時点で77,981名、うち回復者は20,928名で死者は931名だ(ベルリーナーモルゲンポスト紙より)。イタリアやフランスに比べると致命率が低い(つまり死亡する患者が少ない)理由は不明だが、医療体制がよいのではないかとも言われている。
自営業者へ国と州が現金給付
日本のツイッターでは「#補償と自粛はセットだろ」というハッシュタグが盛んに飛び交っているが、これは実際にそのとおりだろう。補償なしに休業して、お金はいったいどこから入るというのだ。
酒場に営業停止の通達が出た当時は、なにがしかの援助が出るかどうか不明だったが、その後になって自営業者らに対する補償が国と州から出された。申請から給付まですべてネット上で完結するもので、申請受付後わずか数日という驚異的スピードで対象者の口座に現金が振り込まれた。
金額は申請者の事業規模によって異なるが、最低でもベルリン州から5000ユーロ(1ユーロ=117円、2020年4月1日現在)で、場合によってはさらに国からの補償も受けられる。
この補償は外国人も受けることができる。店舗経営者だけでなくフリーランスも対象だ。
たとえ営業停止状態でも、店舗の家賃や人件費の支払いは待ったなしでやってくる。酒場やその他個人店の経営者にとっては、補償はありがたい話だ。
(写真:店を閉めても、支払いはやって来る)
そのほかにも各種の補償があり、どれが最善かは店の規模や業態によって異なる。ある飲食店経営者からは上記の補償ではなく、別の補償を申請していると聞いた。
もちろん個人的な意見だが、コロナウイルスをめぐるドイツ社会の対応は心強い。国と州政府のメッセージが明確で、納得できることが大きいだろう。われわれ酒場探検隊のような外国人にも等しく対応するドイツ社会に、改めて感謝をしている。
いつか収束したとして
現在の制限がいつまで続くかは状況次第だ。4月中旬から下旬に事態が多少落ち着けば、現在よりも制限を緩めるのだろうが、そのときにならないとわからない。収束するまでは長期間かかる見込みであるし、それまで一切営業ができないとなれば今度は経済がままならない。どの国も同じジレンマを抱えているだろう。
ベルリン酒場探検隊が活動を開始した昨年1月以来、訪れようとしているうちに廃業してしまった酒場も数軒ある。後継者不足や酒場という業態そのものが廃れてきたなど、もともと酒場にとって逆風の時代であった。
そこにきて、このコロナウイルスだ。
いつの日か収束した暁に、酒場に再び明かりは灯るのだろうか。1杯2〜3ユーロのビールで語り合う、あの日常は再びやって来るのだろか。
酒場探検隊は待っている。だからどうか、酒場よ戻ってきてほしい。