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酒場は人生劇場なり
「ベルリン酒場探検隊レポート」
酒場にはさまざまな物語を背負った人々が集う。いくつもの人生が交差する酒場は、ときに劇場と化すーー。
レポート提出者:久保田由希
酒場データ
店名:Rosel (Herthaner)(ローゼル、ヘルターナー)
入りにくさ度:★★★★☆
居心地:★★★★☆
タバコ:喫煙可
ビール:Schultheiss(シュルトハイス)、Berliner Kindl(ベルリーナー・キンドル)、Engelhardt(エンゲルハルト)すべて0.3L 2.00€
謎に包まれた店名
ときには、訪れる前から謎に満ちている酒場もある。
まずは松永探検隊員が「ここが気になる」と送ってきた写真をご覧いただきたい。
赤い看板に白い文字でRosel(ローゼル)と書かれている。いかにも酒場然とした佇まいだ。ここまでは謎ひとつなかった。
ところが、だ。
どんなところか調べようとグーグルで店名を入力したところ、なぜかHerthaner(Rosel)という表示が出てくるではないか。しかもそこに載っている外観写真の看板は青。その上に白抜き文字でHerthaner(ヘルターナー)と書かれている。
どっちだ。どっちなんだ。Roselなのか、Herthanerなのか。
ヘルタ・ベルリンのオフィシャルファン酒場なのに、名はRosel
やがて店のサイトらしきページを見つけた。こちらはRoselだ。しかし同店のものと思われるフェイスブックページにはHerthanerと書かれている。住所は同じなので、違う店が2軒並んでいるわけではあるまい。
HerthanerのHertha(ヘルタ)とは、ベルリンのサッカークラブ「ヘルタ・ベルリン」のことである。店のサイトには「オフィシャル・ヘルタ・ファン酒場」とある。なのにサイト上の店名はRoselだ。ややこしい。
ちなみにヘルタ・ベルリンは、ブンデスリーガ1部の下位をさまよっている年が多い。
(写真はヘルタ・ベルリンの広告。モデルは実際のヘルタファンで、応募者の中から25名が選ばれたという)
バーレスクダンサー、エロチカバンブー嬢も参戦
混乱していても仕方がない。入店して店名の謎を聞くのみだ。
今回の酒場探検では、ベルリンを拠点に世界で活躍するバーレスクダンサー、エロチカバンブー嬢をゲスト探検隊員にお迎えした。エロチカバンブー嬢はベルリンでポップアップの「スナック人生」を開いている、いわば酒場のプロである。
ピッチリと閉じられた店の扉を勢いで開くと、中には数人の客がいるだけだった。
(テーブル席の老人は、店にボトルキープしてあるブランデーを小瓶に詰め替えてもらい、ビールとチェイサーで飲んでいるという。大きなグラスを持ち上げられないらしく、ビールをストローで飲む姿がなんとも好ましい)
がら空きのカウンター席に座るわれわれ3名。すぐさまカウンターの中にいる店の男性が何にするか聞いてきた。
これは馴染めそうな、よい兆候だ。樽生ビールはベルリンの銘柄が3種類あるとのことで、各種小サイズを頼むことにした。
(左からBerliner Kindl(ベルリーナー・キンドル)、Schultheiss(シュルトハイス)、Engelhardt(エンゲルハルト)。いずれも0.3リットル)
(ゲスト探検隊員のエロチカ・バンブー嬢(中)を囲んで、ベルリン酒場探検隊松永探検隊員(左)、久保田探検隊員(右))
エロチカバンブー嬢は、ほかのお客との距離をノリのよさで縮めていく。バーレスクダンサーとして世界各地の劇場やキャバレーを回っている彼女にとって、アウェーな空気を一瞬にして自分のものにすることなど朝飯前なのであろう。
店名の謎が解けた
エロチカバンブー嬢が場の空気を和らげているのに乗じて、入店前からの質問をぶつけてみる。最初にいた男性店員は奥の部屋で客とダーツに興じていてカウンターにまったく戻ってこないので、近くにいた女性に聞いてみた。彼女が店員かお客か微妙にわからないが、そんなことはどうでもよい。
ベルリン酒場探検隊「この店の名前はRoselなんですか、Herthanerなんですか?」
女性「前はHerthanerだったんだけど、Roselに変えたのよ」
ベルリン酒場探検隊「どうして?」
女性「Herthanerだとヘルタファンしか来ないから」
もっともである。
あっけなく謎は解けた。
酒場は人生、人生は劇場
やがてエロチカバンブー嬢が、カウンターの端に座っていた男性客と踊り始めた。
店内の大きなスクリーンで放送されている「ユーロヴィジョン・ソング・コンテスト」の予選をバックに手を取り合って踊るふたり。さすがだ。
その様子をすかさず動画に収める松永探検隊員。さらにそれを撮影する久保田隊員という構図。
踊り終えた男性は、自身の歴史を語りはじめた。
ユーゴスラビア紛争で負傷したらしいこと。でも今は家族がいて、孫もでき、幸せに暮らしていること。
スマホに保存された家族写真を見せてくれる。まだおむつが取れない年齢であろう小さな子どもが、画面の中で笑っている。
「人生だねぇ」と、バンブー嬢。
「人生は、ときには劇場にもなるもんさ」と男性。
酒場、それは人生
スナック、それは人生
ラララ、人生は劇場
ようこそ、酒場という名の人生劇場へ
(誰かメロディーを付けていただけないだろうか)
ひと通り会話を終えると、期せずして新たなビールが目の前に置かれた。その男性が笑顔でこちらを見ている。
「じゃあまたね」
グラスの液体を飲み干すと、われわれは店を後にした。
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