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【登場人物評】マルク・ラーベ『17の鍵』

このたび東京創元社さんの先読みキャンペーンでドイツミステリー小説、マルク・ラーベ『17の鍵』を拝読しました。

あらすじは東京創元社さんのnoteで書かれている通り結構なボリュームなのに一気に読んでしまうエンターテインメントです。いきなりホラー映画の中に放り込まれたような生々しくて前後不覚な空気感。それでいて人間関係や伏線はしっかり頭に残りつつ、どんどんストーリーが進んでいきます。その辺りプロットが上手いんでしょうね。ねっとりとした残虐描写と嫌な予感しかしない風景描写はドラマ『ハンニバル』の美意識系の恐怖感、子供時代のシーンは瑞々しくて『スタンド・バイ・ミー』的な甘酸っぱさがあって、読んでいて映像が起ち上がってくる。それにしても、かつての旧東ドイツの相互監視社会と現在の混迷社会、どっちも怖いです。

ただ、私は話の筋と関係ない細かい人物設定について、話したくて仕方ない。

主役のトム・バビロン

まずは主役のトム・バビロン上級警部。すごく長身。メルセデスベンツSクラスを乗り回す。しかも10歳の妹の幻影が助手席に乗ってます。まるでピノコの如く。私が10歳の時は、誰も社会も信じないけどヘアセットには時間をかける思春期さんでした。なのに、トムの妹は精神年齢小学1年生くらいです。アルプスの少女ハイジ並みの子供っぽさ。絶対本人はもっと大人だっただろと思うけれど。

相棒ジータ・ヨハンス

次に、暴走トム警部の御目付役に引っぱり出される臨床心理士ジータ・ヨハンス。彼女もすごく長身。お母さんはキューバ人。部屋の片付けは苦手。そしてヘアスタイルは五分刈りのジータ1号とさらさらロングヘアのジータ2号を使い分けてます。トムの暴走に振り回されてムカつく時は1号。上司からの抑圧に耐えてムカついてる時は2号。これだけでも私はジータが大好き。草葉の陰で応援するお母ちゃんの気持ちになります。トムが危険に遭遇する場面はスイスイ読み進めるのに、ジータが危うい時は早く逃げて!と耐えられずコーヒー飲みに行きました。
ちなみに私も二十代で坊主にしたことがありました。今はバズカットというらしいです。当時はシネイド・オコナーという歌手が坊主を貫いてました。家族が本気で悲しんだのを覚えてますが、当時はどうしても髪が要らなかったわけです。世を捨てたいわけでも、スキャンダルを反省したいわけでもなく。

ブラック上司モルテン警部

そして次はヨーゼフ・モルテン首席警部。イラちです。口が悪いです。ジェンダー差別も人種差別もします。声もデカいに違いない。単純なセントバーナード野郎め!(犬に失礼)と思っていましたが、いろいろ複雑な事情を抱えています。悪徳刑事といえばそうかも知れないけど、根は真面目で家族を娘二人をとても愛してます。まあ、煙草くさいので娘がいつまで受け入れてくれるかは分かりませんけど。

ひっかかる二人

イッヒッヒとほくそ笑んではなかったけど、違和感があった二人。

トムと同様に家族の失踪に執着して警察の出世コースを外れたシュライアー。被害者宅の捜索に当たる捜査官の一人。重要なことは何ひとつ言わない。でも気になる。登場人物表にも出てないけど。

そしてヴォルター・ブルックマン部局長。部下に敬語で指揮するが、怒るとおまえ呼ばわりになる人。ブルックマンがジータを引っぱりだしてきた張本人、いわば「バビロン&ヨハンス」コンビの生みの親です。でも、この人はトム・バビロンの直接の上司ではないし、対人犯罪担当で殺人課ではない。むむ、ひっかかる。マルク・ラーベの文章はさらさら読めるので、なんとなく違和感を感じたら伏線だったりするし。次作絶対買お!

最後に、これだけは言いたい。
物語の根底には旧東ドイツの影があるのですが、日本人として見逃せないのはアルプスの少女ハイジの影。ペーターのお母さんもいるし、ハイジの親友もいるし、犬もいる。ロッテンマイヤーさんらしき小うるさいオバサンも。

まだまだ、あれこれ話したい。でもこれ以上はネタバレになるので止めて寝ます。

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