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さよなら、親知らず 2/2

親知らずが生えてきたよと歌ったのは
チャットモンチーだった。
誰も知らない間に私にも親知らずが生えていた。

左の親知らずを2本抜いてから2年が経った。
その時のことはコチラ

それから特に問題もなく過ごしていたが
年が明けてなんだか口の奥か耳の奥か解らないが
ズキズキとする気がしてきた。

我慢できない痛みとかではないが
ずっと押さえられてるような違和感。
これは知っている。
2年ほど前に親知らずを抜いたときのやつだ。

念のため耳鼻科に行ったが
前回と同じく自律神経が若干悪いとのこと。
2年間改善されていなかった。なんてこった。

自律神経のことは一旦置いといて親知らずである。
2年前に抜いたのは左側の上下。今痛いのは右側。
定期検診のついでに先生に聞いてみた。

「抜いときます?」

またそんな簡単に…
とはいえ、前回の経験から
そんなに痛くないと知っているので
抜いてもらうことにした。
すると先生は手のひらを返したように
親知らず抜く大変さを語ってきた。

「前の時は、つっかえるものが無かったから
(隣の歯が虫歯で大きく欠けていたため抜いていた)
簡単で僕が抜いたけど
今回は真横に向かって生えているからね、
ちょっと前より難しくて大変だ。
口腔外科の先生が来る日の方がいいね。
口腔外科の先生に頼もう。」

こ…口腔外科…

「横の歯がしっかりしてるから
歯茎も前より大きめに切らなきゃいけないね」

大きめに…

「ちょっとこれは大変かもね。痛いと思う。」

痛いの………。

…急に抜かなくても良い気がしてきた。
そもそも親知らずが犯人とも決まっていない。
そんなにものすごく痛い訳じゃない。
恐ろしい思いをしてまで
親知らずを抜く必要はないのではなかろうか。
きっとそうだ、うん、やめよう。

先生に抜かなくても良いですかね、と聞くと

「まぁ、状態も今のところ悪くないけど、
痛みが気になるなら抜いてもいいかな。
でも、年を重ねて抜く方が固まっちゃうから大変だよ」

……(´・_・`)

結局抜くことにした。
ほっといてあとから痛いの我慢する方がしんどい。
先生の腕を信じよう。

口腔外科の先生は月に二回いらっしゃるらしく
翌月のその日を予約し家に帰った。

二年前に調べているのでもう調べない。
どうせ痛いとしか書いてないもん。知ってるもん。

ソワソワしながら過ごしていたら
あっという間に親知らずを抜く日が来た。
恐いと思いつつも前回も痛くなかったしなと
ちょっとなめた気持ちで歯科医院へ向かった。

いつも通り治療室に案内されると
知らない先生がいた。
この人が口腔外科の先生か…
この人が私の親知らずの運命を握っているのね。

治療用の椅子に座り挨拶をし
説明が始まった。
前回抜いた時に聞いたと思うけど、という
前置きの元、これから始まる治療の危険についてを
レントゲンを見ながら詳しく説明された。
その説明が余りにも恐ろしくて
若干呑気な気持ちで決戦の場に来た私は
椅子の上で説明を聞きながら
何故こんなことを…!と
親知らずを抜かずに帰りたい気持ちになってきた。

先生の話をざくっと簡単にまとめるとこうだった。

下の親知らずの下には神経が通っているから
(白い線みたいなのがレントゲンに写ってた)
そこが上手くいかないと万が一の場合は
味覚に異変があったりなんか変な感じが
暫く残っちゃうかもね。

上の親知らずの上には
卵の殻より薄い骨があるらしく
この骨が割れてしまうこともあるらしい。
小さな穴なら歯茎を縫合したら問題ないが
大きな穴が空いてしまうと
そこから水分が入り込み
水が溜まったようになるらしい。
所謂、蓄膿症のような感じだと言っていた。

…そんなこと前の時に聞いただろうか。
全く記憶にない。本当に記憶にない。
抜くことへの恐怖で聞いてなかったんだろうか。
そんな危険を侵してまで何故、私は親知らずを…。

とはいえここまで来てやっぱやめまーす!とはよぉ言わん。
諦めて震えながら倒される椅子の上で
ハンカチを握り締めた。

最初に麻酔を受けたが、
私の記憶では前回は麻酔が聞くまで
15分くらい放置されたが
今回はチクッとしますよ~という案内で
数ヵ所に針をさされてすぐに
唇がピリピリとして腫れたような気分になり
麻酔が効いてくるのを感じた。
本当に一瞬だった。
これが口腔外科の麻酔の力か。
それとも2年の間に麻酔がとんでもない進化をしたのか。

先生はとても丁寧で、
この後の流れを逐一説明してくれた。
私の下側の親知らずは完全に真横になっているから
少しずつ割りながら根っこを引き抜くための
準備をするそうだ。

キュイーンという機械の音とともに
歯が削られているような押される感覚を感じた。
キュイキュイキリキリと痛そうな音が響いた。
私はいつ痛みが来ても耐えられるように
また、お腹の上でギュッとハンカチを握り締めた。

何分経ったのかわからない。
痛みはないが時折先生が
「ごめんね~時間がかかってるね~
もうすぐなんだけどね~」と、
子供に言い聞かすように私に言ってくる。

時間がかかっているのは仕方がない。
ただ、キュイーンという機械の音と
歯に感じる押し付けられるような感覚から
私の親知らずは今まさに
割られている最中なのだと哀しくなってくる。

歯は2度と生えてこないから大切にしなさいと
小さい頃から言われてきた。
それでも怠け者故に歯磨きをサボったり適当にして
虫歯にしてきている。
更に、何も悪いことをしていない親知らずを
抜き取ろうとしている。
抜くだけではなく、割っているのだ。
なんて非道なんだろう。
私の親知らずが一体何をしたというのか。
ちょっと真横に向かって生えていただけだ。
この子は何も悪くない。

私は今のところ何一つ痛みを感じていないが
親知らずは大層痛いだろう。
何せ鋭い(たぶん)機械で削られ
そして割られているのだ。考えただけでも痛い。

ごめんね、親知らず。
そして永久歯たち。
これからは真面目に歯を磨くし
定期検診もサボらず通う。

痛みに耐え続ける親知らずに思いを馳せていたら
先生が明るい声で「抜けましたよ~」と私に告げた。

嗚呼、これでお別れだ親知らず。
今までどうもありがとう。

下側の親知らずには時間がかかったが
上側の親知らずの処置はすぐに終わった。

椅子が起き上がりうがいをする。
まだ麻酔が効いているからか痛みはない。
診療の椅子の隣に置かれた銀色のトレーの上に
さっきまで私の口の置くに居たであろう
親知らずが置かれていた。
一本は下の歯であろう、
割られていくつかの破片になっていた。
以前も思ったが、人体とは
色々な素材で出来ているんだと
不思議な気持ちになる。
私の歯も象牙のような素材なんだな。
象牙のアクセサリーしか近くで見たことないけど。

うがいを終えた私に先生は言う。

「多分、結構腫れると思うから、
痛み止め処方するから飲んでね。
明日ちゃんと消毒に来て来週に抜糸ね。
お大事に~」

ありがとうございました、と言い
私は治療室を後にした。
そんなに腫れるのか。今度は痛いのかなぁ。

2年前と同じように処方箋を受け取り
翌日の消毒の予約をして歯科医院を後にする。
家に着いて、右頬が熱くなってきた。
手を添えると確実にいつもより熱い。
痛みはないけど腫れているのだろうか。
鏡を見ても普段との違いが解らない。

食事をしてその後は普段通りの生活。
翌日に消毒に行ったが特に問題はなさそう。
更に1週間後の抜糸でも問題はなかった。
正直、私から自己申告しないと
違和感や問題は解らないと思うが
本人である私が何分雑に生きているので
繊細な違いに気づくことができない。
多分、何も問題はないのだ。

抜糸後、再び定期検診を予約した。
もうすぐその日が来るが
この騒動でどうしようかと迷っている。
不要ではないが不急ではある。
来月に変えてもらおうかな。

2度の闘いを無事に終えた私が言えるのは
親知らずを抜くのは痛くはないけれど恐い。
あと、他の医院で親知らず抜いたことないから
どこでも同じくらい痛いかどうかは解らない。

そして私は多分、痛みに強い。


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Berico/ベリコ
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