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今更OPPO、UDP-205②〜映画Blu-ray再生

☆プロローグ

現状、ケーブルを繋げばスピーカーは4.1chでなかなか上等なサラウンドシステムを組めるのだが、2chしか繋いでいない。サラウンドは2chを完成させなければできないということはない。しかし、2chをやりこむほどに「また見つかった」となるのである。それが19歳のアルチュール・ランボーのように《永遠》を再-発見するのならばよいが、残念ながら、そうはならない。

先回、roonがおかしくなって、お蔵入りしていたOPPO、UDP-205を担ぎだしてSACD、2chの音質レビューを書いたのだが、今回は映画用のBlu-rayの2ch再生音が主題である。

井口奈己の『ニシノユキヒコの恋と冒険』のBlu-ray。井口奈己の撮影日記つき。

☆映画ソフトで高音質を狙う

身も蓋もない言い方をすると、AVアンプやユニバーサルプレイヤーを使わない、あるいは、それらが果たすプロセスをできる限り減らすこと。これが映画ソフトにおいて高音質化を狙う最も単純で、最も効果的なやり方なのではないか。AVオタク(映画オタクではない)の方々は怒るだろうが。

ここで先に結論を述べておくが、映画Blu-rayの場合には、UDP-205のES9038PROによるアナログ出力は、ES9038PROを黙らせたUDP-205からデジタル出力にし、値段の安いケーブルで繋いだMAY DAC KTEにおいてD/A変換した再生音に、大差で敗れる。その場合、画質のけっこうな改善まで付随する。これはいかにしたことか。


☆システム

<<UDP-205のES9038PROによるアナログ出力>>と、<<UDP-205からデジタル出力&MAY DAC KTEでアナログ出力>>の比較である。

今回、OPPOを使って、天才・井口奈己の『ニシノユキヒコの恋と冒険』(2014)のBlu-rayを視聴する。ソフトのメニュー画面で2chと5.1chを選択することができる。2chを選択して、およそ120分のうちの60分をOPPOのアナログ出力で、後半の約60分をMAY DAC KTEからの出力にした。このような実験的な視聴をしたのは、前半を観た時には、同軸ケーブルが届いていなかったというだけの理由である。

しかし、結果的に非常に面白かったし、軽く、挫折を味わった。この記事を読む人の内で、サラウンドに心血を注いでいる人がどれだけいるのか分からない。私は数年間、資源も心血を注いだ。だから挫折を今更に覚えるのだ。サラウンド通の人に理解してもらいたいが、理解してもらえないか。理解したくないのだ。私もそうだった。

◎映画前半 : アナログ出力

UDP-205 → XLR → HEGELプリ → XLR → P-4600(片chモノラル)

中段の黒い筐体で、「TOP MENU」と表示されているのがOPPO、UDP-205。右側に細いケーブルが通っているが、映像の信号をプロジェクターに伝送する光HDMIね。それで、このプレイヤーの自慢のアロナログ出力回路はes9038PROを使ったバランス回路の方である。このバランス回路、つまりXLR出力は確かにアンバランスのRCAよりいくらか良いように思われる。そのXLRを下のシルバーの筐体のプリアンプ、HEGEL、P20に接続する。HEGELプリは謎が多い。実はDCカップリングかもとか。入力側をXLRにするのがポイントなのかもとか。極めてシンプルな構成のアンプであり、たぶん信号はトランジスタとボリュームしか通らない。弄れるのは音量調整とセレクターだけというのは、他のアンプと比べて音が悪くなるはずがないのである、製作者の狙い通りに使うのならば。しかし、その狙いはどうも謎が多いので、「素晴らしい」と声を上げる人が少ない。

◎映画後半 : デジタル出力

UDP-205 → 同軸ケーブル → MAY DAC KTE → XLR → HEGELプリ → XLR → P-4600(片chモノラル)

MAY DAC KTEのDAC部の背面、中央に挿してある白いケーブルが今回使用したBELDEN1506A。UDP-205側の終端をカナレのRCAコネクターで、DAC側をBNCコネクターにしてもらって3,000円程度だからね。長い説明書き付き。我田引水ぎみだが。なお、この写真だとぐちゃぐちゃで接触しまくりで、高級機器を使う意味などないノイズだらけ配線に思えるであろう!しかし、上のケーブル群は全て「相互に非接触」を維持した奇跡の空中配線なのである!また、このハヤミのラックは背面に鉄パイプが通っている。レアルシルトでダンピングしてある。システムが決まって、ケーブル長を調整したら、鉄パイプのなかに砂を入れてやるぜ!いやいや、水晶にするか。加工無しの天然もので1kg、5,000円程度とか。よしよし。そうしよう。水晶を鉄パイプに入れるとか思うとさ、楽しくなるよね。作業がさ!
カナレのBNCコネクターのメス側。これではないが、こういうのがMAY DACの"COAXIAL 2"についている。ところで、MAY DACの製作者はSPDIF伝送というのは古い規格で、、、とそのジッター特性に関して文句を言っている。その話はI2S(HDMIケーブルを使う伝送)の正当化にまで至る。面白いので下に引用しておく。ジッター問題への対処は、おそらく、MAY DACの5つのストロングポイントに含まれるであろう。

SPDIF usually is a not a good protocol because it’s very old and dated! It was designed in 70s together with CD with Sony and Philips. As you may know, It encodes the data signal together with clock signal so it can be transferred by a one-core cable. It makes the cable easy to source, but to encode the data to clock at the transmit side and decode the clock from data at the receiving side, creates jitter... So people will see clearly that I2S is usually better than SPDIF because I2S has 4 separate signal, 3 clocks 1 data. So it does not have encoding-decoding stuff thus has a better jitter performance. This is important to know this.

https://www.kitsunehifi.com/product/holo-audio-may-dac/

「SPDIFが普通、優れたプロトコルだと言えないのはそれがあまりに古いからだ。CDとともにSonyとPhilipsによって設計されたのである。ご存知のようにそれはデータの信号をクロックの信号と一緒にエンコードするので、1芯のケーブルで伝送できるのである。だからSPDIFは使いやすいケーブルであるのだが、送り側でデータをクロックにエンコードして、受け側でデータからクロックをデコードすることで、ジッターが生じるのである。(中略)そういうわけだから、I2SがSPDIFよりも通常はより優れている理由は、I2Sはシグナルを別々に4つ、クロックに3つ、データに1つ(のピン)で伝送するからであり、エンコードとデコードを繰り返すといったこともないので、ジッターに関してより優れた性能を発揮するのであるということを、はっきりと理解していただけるだろう。」( )内は引用者

上の記述ではUSBの話は出てこないが、同じ理屈(ピンの数)でI2Sのほうがジッター特性が優れているのであろう。ここで私のシステムの話をすると、ジッター特性の高いMAY DAC KTEはPC付の大判の自家製USBモジュールを積み、送り側はSOtMのtx-USBx10Gである。この2つの間に挟むべきI2S変換用のDDCとはどんなレベルのものなのだろう?ところで、その電源は?そしてそれのクロックは?そのクロックの電源は?と、DDCの導入にはLAN系と同じ類の悪無限が容易に想像できる。巷のDDCのなかで、銀線を張り巡らして銀ハンダ付けしたMAY DACと50cmのUA3で接続したSOtMのtx-USBx10Gの間にあえて入れるべき精度を持つ機械のイメージが湧かない。だから『PCオーディオに挑戦』ので、USB伝送のケーブルに並行する電源線の対策を模索してきた。この方面での探求がうまくいった暁には、オッカムの剃刀に即したシステムが、おのずと見えてくることだろう。

閑話休題。同軸デジタルケーブル接続による映画Blu-ray再生の話に戻ろう。

カナレのBNCコネクターのオス側。これそのもではないが、プロケーブルは追加料金なしでRCA-BNCの端末の同軸ケーブルにしてくれる。接続するとかちゃっと嵌り、ロックがかかる。抜くときは、外側のリングだけを軽く引いてロックを外してから抜く。

☆OPPOで映画はアナログか、デジタルか?

話がそれまくった。映画の話であった。

UDP-205の音声出力はアナログ出力よりも、デジタル出力のほうが音が良くなり、かつ、映像も良くなるようだ。

まず、たとえES9038PROによるものであろうと、HDMIで伝送される映像信号を分離しきれない音声信号よりも、安物のデジタルケーブルを介してであろうとも、ピュアオーディオ用のDACでアナログ変換したほうが音が良いのである。それくらい音の良いD/A変換というのは微妙で難しいプロセスなのだろう。

次に、OPPOでD/A変換せず、アナログ出力しないということは、アナログ回路を停止することになる。UDP-205って回路が切り替わるパキとかパチとかいう音を出すでしょう。あれね。可愛いよね。で、Blu-rayの再生においては、映像のデジタル出力回路とMAY DACに出力する音声のデジタル出力回路だけとなる。UDP-205はアナログ出力でだいぶ発熱するが、それと共起するノイズがなくなるので、映像も美しくなるのである。

成海璃子、尾野真千子、木村文乃、麻生久美子、本田翼、阿川佐和子、みんないつも魅力的だけど、いつもよりも遥かに魅力を発散する。ここには顔がないけど、17歳の中村ゆりかもね。井口奈己(監督、脚本)&鈴木昭彦(撮影)のなせる技ですな。

改めて、映画の前半は<<OPPOの2chアナログ出力>>であった。

冒頭のシーン。左の窓に海が映っている。もし5.1chサラウンドならば、画面手前方向から海の音に包摂され、穏やかな光景のなかに封じられた異界を感じることができたのかもと、観ながら思った。つまり、あまり面白くないと感じたのだ。
3番目のシーンかな、たぶん。このシーンで、井口&鈴木が3脚を使った定点撮影で、ほとんどタル・ベーラのようなロングテイクで、ゴーストと<<女たち>>をやろうとしているのだと気付く。ソープオペラをぎりぎりで離脱しているのは感性なんだろうな。ロングテイクによって鑑賞者のなかにシーンが定着していく。たくさんの女たちが刻まれていく。あの顔、その声、この背中が溢れてくる。まだ観るまえから溢れてくるようだ。
線路上を曲がってきて、側道の車は追いすがるから、遠ざかるのは右側奥の海。カメラは電車の中でやはり定点撮影でロングテイクだから、画面は引く。カメラは動かないで、運動を導入する。目立たないが、遠ざかる運動。それはたぶんあまり語られることはないゴーストのエモーションなのだろう。井口奈己が映画監督として天才なのは、そんな風にエモーションをショットに乗せるから。あるいは、エモーションをそこに注入する穴の空いたショットというべきなのか。

約60分観て、ひたすら井口&鈴木のショットに心を奪われて、サウンドの薄さは気にならない。こんなものだろうと。考えてみると、パワーアンプをモノラル化(片ch使用)しているのだから、なんぼか音は良くなっていたのかもしれない。しかし、このBlu-rayには5.1chサラウンドサウンドがあるのだから、メニュー画面で2chを選択した時点で、ハードルは下がっていたのだ。最初から期待などしていなかったということ。断言するが、5.1ch仕様の映画を2chでわざわざ観て楽しいことなどない。一定のレベルのシステムを組んだことがある人ならば、誰でもそう思うだろう。私もそう思う。今でもそう思う。

さて、映画後半はケーブルが届いたので<<デジタル出力>>& MAY DACによるD/A変換で視聴した。その違いは圧倒的である。OPPOのデジタル出力はリニアPCM48を指定。最もアップサンプリングや圧縮から遠いであろう形式にした。ばっと世界が上に横に、背後に広がるのである。携帯の着信音であったか、車のクラクションであったか、スクリーン上で人物は背中を見せており、左後方から音が鳴りだして、こちらに顔を向ける。当たり前の話だけど、映像の世界と音声の世界が同期して、映画の世界にすっと入っていけた、この映画を観ていて、初めて。。。映画を視聴することそのものの気持ちよさ。そんな感触を与えてくれるデジタル出力である。

こうした幸せな感触には、既に述べたように、再生映像の改善も大いに関わっている。音が良くなると同時に画質が良くなったのだ。こうであろうとしかいいようのない色彩で、存在の耐えられない軽さの周辺で女たちが輝いている。オフビートな映画で、ともすると竹野内豊に、特に男の鑑賞者にとっては、えぐいあざとさを感じることになるのではと思っていたし、前半の視聴ではそこはかとなく感じていた。ただ、そういうネガティブな反応は、後半ですっきりとなくなる。

映画の終わりしな、あれだけ心血を注いだサラウンドサウンドって、もはや不要なのかと私は思い始めていたのであった。完全にやめて、ルームに置くスピーカーは2本にするかと。

もう画像はださないが、映画のおわりしなで冒頭のシーンが反復される。背後はやはり海。2chではさすがに海を背後に感じることはなかった。それに同期して(非同期になって?)、ラストで17歳の涙のクロースアップは素晴らしいがシークエンスとしては気に入らないな、と感じることにもなった。あざとさを感じたのだ。冒頭にもあったCGも反復されて、それもいまいちだと。2chで完全に映画のサラウンドを不要にするのは無理なのだろうなと半ば胸をなでおろしながら、映画の世界から少し気が逸れた。サラウンドで初めから観返すとしよう。

2ch用のDACを使うことで、音質は圧倒的に改善するし、映像も良くなる。しかし、サラウンドスピーカーを無用にするほどではなかった。しばらく、2chで収録されている映画は、同軸デジタルケーブルを使ったスタイルで観ることにしよう。