アキュフェーズ、P-7500

アキュフェーズのP-7500の試聴機をお借りして、P-4600の購入に至るまえに両機を比較することができた。今回もP-4600同様に非接地である。(『アキュフェーズ、P4600①』を参照)


アキュフェーズのHPより

アキュフェーズのHPにあるアピールポイントは以下の通り。

・定格出力300W/8Ω、600W/4Ω、900W/2Ω
・パワー・トランジスター『10パラレル・プッシュプル出力段』
・『インスツルメンテーション・アンプ』採用
・増幅部に『MCS+回路』と『カレント・フィードバック増幅回路』を搭載
・『バランスド・リモート・センシング』、『3段ダーリントン接続』を採用
・高ダンピング・ファクター1,000を達成
・4段階のゲイン・コントロール機能
・バランス入力端子の極性切替機能
・バイアンプ接続とブリッジ接続への切替機能
・スピーカー出力のショート事故を防ぐプロテクション回路
・伝統的なシャンペン・ゴールドのアルミ・フロントパネル
・フロントパネルの取手は厚みを加えた力強い意匠を採用
・アルミ材ヘアライン仕上げのトッププレート
・-50dBの指標が追加された高感度大型パワーメーター
・振動減衰特性に優れた「ハイカーボン鋳鉄製」インシュレーター
・OFC導体5芯構造の電源コード「APL-1」

P-7500のケーブル、アキュフェーズのHPより

さて、出力はP-4600の2倍であるが、2Ωまでリニアにならないのは同じである。また、P-7500の消費電力は8Ωの定格出力で1050Wである(P-4600は565W)。凄い電力だなと感心しながらも、多くの市販の電源タップは15Aまでだが、数字上は大丈夫でも余裕はない。20Aくらいの大規模のやつに1台で接続したら、たぶんそれだけで音が良くなったりするんだろう。私のオーディオルームの従来の電源ボックスを使えばそういう贅沢というか潤沢な電源の取り方ができないわけではないのだが、今はできないので、普通に予備の壁コンに非接地で挿した。

アキュフェーズ、P-7500の試聴機

重量は49Kgである。P-4600(30Kg)であればなんとか持ち上げて、セッティングをしようという気も起るが、P-7500だと、死ぬ覚悟で持ち上げないとどうにもならなかった。ハイカーボン鋳鉄製のかなり立派な脚がついているのだが、ケーブルが当たるのでスペーサーを挟もうとしたが、びくともしないので、エアジャッキを使った。パワーアンプはそんなに動かして調整するものではないから、49Kgでもなんとか、、、と考えたが、修理になったらどうするんだ、、、。自分で管理できないオーディオ機器を買うべきではないのではないか。

背面。エアジャッキで浮かせるところ

色々と考えた。皆さんのパワーアンプの選定の一助となればと願い、長くなるが、以下に詳しく書く。


(1) 暖かい音

P-7500はP-4600の2倍の値段がして、2倍の出力である。P-4600と置き換えてみて、その大出力の暖かさを初めに感じた。出力が小さいアンプはぎすぎすした音になりがちだが、ハイパワーのP-7500の出音は暖かく、耳の当たりが非常に優しかった。音のオーラが漲っている。暖かい音というのは、色々な角度から追及できる特性なのであろうが、P-4600とはっきりと違うところだと一聴して感じた。

なお、AccuphaseのAB級というのはクールな表現で、それと比較して、A級はウォームだ、という内容のことをどこかで聞いた記憶がある。P-4600との比較においてP-7500は圧倒的にウォームだ。おそらくこの印象には、P-7500の純正電源ケーブル「APL-1」も大きいだろう。極太なのにとても柔らかい撚線ケーブルである。P-4600のケーブルの1.5倍近い太さかも。この電源ケーブルをP-4600でも試してみるべきだった。


(2) 音楽空間とその襞(ひだ)

パワーアンプはシングルエンドが良いという理屈は好きである。シングルだと純度の高い表現になるのは理解できるし、それ自体は望ましい。しかし、シングルプッシュと2パラレルと6パラレルと、今回のP-7500の10パラレルと、その場で同時に比較してきたわけではないのだが、私はこれまで注意深くは聴いてきたつもりだ。2~6パラレルはあってもいいのじゃないかと私は思う。シングルは確かに繋がりが良いのだが、音のレイヤーが形成されにくく、精緻な表現にはなりにくい。スピーカーを素早く正確に動かす力が弱くなるのだと思う。何事もトレードオフである。選択するしかない。

P-7500の10パラレルはP-4600の6パラレルと比べると、音楽空間を1.5倍くらい大きくして、包み込みながら、細かい音像を散りばめているように思われた。音数はさして変わらないと思うのだが、左右も前後も空間がより大きく広がり、リスナーを包摂しながら、P-4600と同じ精度で音の襞を作っているように思えたのだ。①値段と②重量と③5.1chサラウンドのことを度外視すれば、満足感は極めて高い。しかし、3つも現実的な条件を無視した満足などは妄想でしかない。困ったので、有名なオーディオマニアであるベルウッド氏に検聴してもらった。

(3) ベルウッド氏との検聴会

P-7500でクラシックのCDを4枚ほどかけて、その後、P-7500からケーブルを取って、P-4600とそっくりそのまま入れ替えて、同じ順番でま同じCDを聴いた。比較検聴時は、全く同じ条件である。それで、P-4600に変えて1つ目であったか2つ目であったか、すなわち、ヴィヴァルディであるか長富彩のピアノを聴いて、明らかにP-4600のほうが良かった!私はオーディオルームの後ろ壁近くで床に座っていたのだが、音の違いをはっきりと感じた。ベルウッド氏もP-4600のほうが良いとはっきりと言った。比較すると、検聴時のP-7500の出音は間延びしているかんじで、歪んでいるようにすら思えた。すっと音が伸びてこなかった。ヴィヴァルディがうららかでないし、長富さんのピアノが艶もなく、率直な打鍵の音もなかったのだ。

ベルウッド氏の検聴ディスクがクラシックだけだったので、一応念のためと、目に入ったビートルズの『アビーロード』50周年記念アニバーサリー・エディションの”Oh! Darling”も検聴に入れてもらったのだが、そのポール・マッカトニーに関しても、有意な差は感じられなかった、と私は思う。「ビートルズもP-7500の方が良いということはないですか?」としつこくベルウッド氏に確認した。(^^)


(4) 音質 : P-4600 > P-7500…?

混乱した。P-7500の音質は、少なくともクラシックに関しては、P-4600に劣る、、、こんなことがあるのだろうか。しかし部屋の後方であるとはいえ、P-4600の方が音質が良いように私もはっきりと思ったのだ。ベルウッド氏の説明はパラレル数の問題だというものである。それは理屈として理解できる。しかし、私が1人で聴いた時の感想は、上の(1)と(2)である。その(1)と(2)が、(3)の検聴時とあまりに食い違っていて、狐につままれたような気分になった。


(5) 混乱のなか

P-4600を購入することにした。たしかに実験結果には茫然とした思いになったのだが、そもそもその混乱の元は(1)と(2)の私の試聴体験が怪しかった可能性である。後で思い返したのだが、P-4600の試聴機はケーブルの長さが足りず、コモンモードノイズのフィルター付き電源ボックスで中継して、接点多目で、パワーアンプの力を出しきれない状態で試聴していたのだった。このフィルター付きの電源ボックスでP-7500を聴いて明らかに良くないと思ったので、(1)と(2)の自分の印象はP-4600が低く見積もられていて、相対的に、P-7500の方を高く評価していたということになるのだろう。


(6) 4600と7500とで、いったいどこで音質が違うのか

今さらに改めて考え直すと、P-7500とP-4600の主な違いは、おそらく、音量の問題ではないか。検聴はベルウッド氏が主体の音量である。パワーアンプのゲインはマックスで変えていないが、ベルウッド氏と検聴した時は、プリアンプのボリュームは60~65%くらいだった。私がP-7500の試聴機で素晴らしいと1人で思った時は70%かそれ以上にしていたはずだ。最近、私が気持ち良いなと思うのは音楽でも映画でも、例外もあるが、プリアンプのボリュームで65~75%くらいの位置である。

パワーメーターを見るとすぐに分かるのだが、P-4600だと出力の限界、レッドゾーンに簡単に突入するし、まだそうはっきりと経験していないが、レッドゾーンは音が歪むことになるおそれもある。当然、P-7500はP-4600よりもリミットが広い。このように、大出力の際にリミットを感じさせるかつかつの音楽体験となるのか、そのリミットがない大らかな音楽体験となるのかが、たぶん、私が最初に感じた(1)の「暖かさ」、P-7500の音質のウォームネスの正体であったのかもしれない。

しかし、もしほんの少しだけ音量を控えて72%の手前にしておくのを受け入れるのであれば、P-4600はP-7500よりも音が良い可能性がある。このことと、(2)で書いた①値段と②重量と③5.1chサラウンドという条件を合わせれば、P-4600のほうが私には相応しいはず。

パワーアンプを選ぶにあたり、自宅試聴のチャンスまで与えられても、この無様。しかも、2倍の値段差がある機器の比較でこれである。いやはや。ベルウッド氏と検聴できたのは自分の思い込みを是正する本当に良い機会となった。

パワーアンプの出力とリスナーの求める音量の関係を考慮しないといけないし、よく「音痩せ」というワードを見かけるが、「音痩せ」というより、音の歪みすら認識できてしまうほどの、逆転も局面によって起こりうるということかもしれない。パワーアンプにはそれぞれ固有に得意なボリュームゾーンがあるし、不得手なゾーンもある、ということなのだろう。

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