ルームチューニング④
☆プロローグ
「ルームチューニング③」で、ステレオ再生のセンター定位がズレるようになった、そして10分もかからずある程度の補正ができた、という話をした。それは、主に定在波用に自作した各種の調音材が左右でズレてしまっていたのが原因なので、調音材をルームの左右で均等にすればよいだけなので、床の上で無造作にどかされたままになっていた調音材を動かしたわけである。そんな程度で、音は動く。
ポジティブに受け止めてほしい。ルームチューニングというのはそんなに難しいことではない。素材への拘り次第ではあるが、費用は大したことはない。メンタリティとして大胆さと粘り強さがあればいい。不器用でも、見た目はよくないが、売っているものより良いのではないか。というのは部屋もシステムも皆それぞれに違うのだから。
床面は前回やったので、今回は側壁と天井の調整をした。再調整のゴールはルームの位相を左右空間で均等にして、音像のセンター定位を確立する、である。
天井と側壁で再調整が必要なのは6箇所。これらは7尺の脚立で作業するので、ゆっくりやらないといけない。
☆I’m on the top of the world, looking down on the creation…
☆右chの2/6
合計6箇所を再調整する必要があり、ルームの右側の空間の2つを手当した。つまり、2/6をやったのである。そこで脚立をしまって試聴してみた。
スタジオ録音のボーカルを再生すると、センターに定位している。気持ちよく聴ける。いつも聴いているいくつかの曲では鳥肌が立った。例えば、チャベーラ・バルガスの"Si no te vas"である。これは当時84歳のチャベーラ・バルガスがカーネギーホールで敢行したライブ録音である。
カーネギーホールに詰めかけた観客たちも自らの幸運に興奮を抑えられない様子も録音されており、恐らく大きなステージにはお婆さんとクラシックギターの奏者を合わせて、3人である。スタジオ録音のボーカルの半ば強制的なセンター定位はしないであろうと思って、テストに選んだのだが、バルガスの声はあっさりとセンターに定位し、しかも、以前よりも良かった。右側の調音材を調整したからなのか、右側のギターの定位が以前よりも右スピーカーの内側に入ってきて、ステレオ的に結束した空間性をより強固なものとして、老婆の圧倒的なパファーマンスをサポートする本来の役割をいっそう忠実に果たしている。そんな再生音になった。
このカーネギーホールでの録音は、スタジオ録音のものよりも定位しづらいであろうと思って選んだのであった。念のためにボーカル以外の楽曲も試聴してみると、JAZZで爆音にすると、センターのサックスが、右隣のトランペットに引きづられたり、獰猛なドラムに食われたりと、完全にセンターは確立されていなかった。もちろん、まだ2/6をやっただけである。ただ、残りの4/6を再調整しても、おそらくパーフェクトなセンター定位の確立とはならないだろう。まずスタティックな次元で左右の位相を作り出してからである。ダイナミックな次元へのアプローチは。
☆2/6のまとめ
チャベーラ・バルガスのライブ録音で、右ch側にズレていたボーカルが、右側の天井と側壁の調音材の再調整によって、センターに定位した。同時に、チャベーラ・バルガスが両脇に従えていたアコギ奏者2人の内、右側のギターがセンターに寄った。元々、このアコギはバッフルの前でモノラル気味に鳴っていたので、ステレオ的な再生の仕方が改善した。しかしセンター定位は完成していないので、作業は続ける。
6箇所の内、右側を2箇所調整して、音像が右に動いた。したがって、残る4箇所は右2、左2なので、右の2から再調整をやるべきである。次の右2の再調整の結果を細かく分析するとしよう。明るいミライのために。(^^)
☆ Si no te vas
ペドロ・アルモドバルというスペインの映画監督をご存知だろうか。性倒錯の人物たちを描いたいくつかの作品が有名である。日本では不評となった『ジュリエッタ』(2016)は、彼の素晴らしいフィルモグラフィーの中でも特筆すべき作品である。その『ジュリエッタ』では、チャベーラ・バルガスのポートレートを娘の部屋に貼り付けた印象的なショットで、オマージュとしていた。山間のドライブで車中の切り返しからロングショットでエンドロールを導出する。その時かかるのがチャベーラ・バルガスの”Si no te vas”である。目頭が熱くなる。なお、アイキャッチの画像は劇中の1コマであるが、鎮痛な面差しのエマ・スアレスの向うに、男の絵が見える。この絵を描いたのは画家のルシアン・フロイド。精神分析の開祖のジクムント・フロイトの孫であるが、イギリスに帰化してフロイ<ド>と英語読みにしたらしい。彼の油絵は何十億である。画集でしか見たことがないのだが、非常に素晴らしい。