Accuphase、P-4600⑥:続・ゲインの探究
☆プロローグ
先回の『Accuphase、P-4600⑤:ゲインの探究』で、片chモノラル化したP-4600のゲインを「-6dB」、また、「-12dB」にして、プリアンプのボリュームを大き目にして、(当社比で比較的)小音量帯でのS/N比の変動に着目して音質を探求した。
「-6dB」では確かにS/N比に改善がはっきりと体感でき、ボリュームを上げないと体感できなかったような、コントラスト比の高い音像の陰影が再生音として現れた。また、定位が若干修正された。「-12dB」だと全体の音量が低すぎてあまり面白くなかった。また、定位が大幅に崩れたような気がした。そこで比較試聴をやめたのであった。
今回は、BTL、パワーアンプをブリッジモードにして、ゲインの調整によって再生音がどう変わるのかを比較していく。前回とは違って轟音HRラインナップで試聴するので、ボリュームコントロールとゲインコントロールが、歪みとプチ爆音の再生音質の改善にどう関わってくるのかを観察しようと試みた。以下は試聴記である。パワーアンプのゲインコントロールとS/N比については『Accuphase、P-4600⑤』を参照のこと。
アイキャッチの画像はウェス・クレイブン御大の『ショッカー』(1989)から。ウェス・クレイブンを知らない方は『鮮血の美学』(1972)から始めるとよいでしょう。御大が製作にまわったリメイク(2009)は確かにサウンドとカメラが良い。そしてかなり勉強したのだと思われるのが好感をもてる。しかし、どぎついオリジナルが吉でしょう。本稿とは特に関係はありませんが。
☆ブリッジ x 轟音 x ゲインコントロール
試聴は全てPCM。以下の①はCDからのリッピング音源で、WAV 44.1/16。③と④と⑥はFLAC 96/24。②と⑤はFLAC 192/24である。(注、投稿時のスペックに誤りがあったので修正した)
これらの楽曲をゲインが低いところから始めて、各ゲインステージにおける最適なプリアンプのボリュームを探して、これが良かろうと思うところで評価した。
①The Beatles「I Am the Warlus」(from『マジカルミステリーツアー』)
②ピンクフロイド「クレイジーダイヤモンド」(from "WISH YOU WERE HERE")
③THE BLUE HEARTS「パンクロック」(from『THE BLUE HEARTS(デジタル・リマスター・バージョン)』)
④メタリカ「Hit The Lights」(from "Kill 'Em All (Remastered)")
⑤ニルヴァーナ「Smells like teen spirit」(from “Nevermind”)
⑥スリップノット「アイオワ」from "IOWA")
今回の影の主役はHEGELのプリアンプ、P12。値段を考えるとかなり良い。パワーアンプとけっこう近いのではないか。DCなのかは不明だが。音質とコスパのみ重視するマニアが使うべき正統派のアンプなのではないだろうか。下の画像は3時まで開放したところ。ヘーゲルのプリアンプのボリュームはそんなに細かくないので、細かく調整できるところと大雑把なゾーンがあるようだ。
アキュフェーズのパワーアンプ、P-4600はBTLモノラルにした。「ブリッジモード」である。
MAY DACはNOSモード。iPhoneで撮ったのだが、けっこう歪むんだね。右chがまるでセンタースピーカーの位置に見える。。。
下はリスポジから撮った。相変わらず今治タオル仕様。増やそうかと思っている。今度はワイヤーで吊るそうかと。写真は歪んでいるので2等辺三角形の底辺上にSPがあるように見えるが、実際には正三角形法で、バッフル中央⇔中央と、中央⇔耳の3辺はほとんど同じ長さであり、耳とスピーカーのバッフル中央までの距離は2mない。音は逆二乗則に従って距離が倍になると6dBずつ減衰していく。効率的な距離にスピーカーを置くか、リスポジを動かすかだ。私は音源に込められているだろうものを全部聴いた上で、感動について語りたい。そうでないリスニングスタイルはいったい、想像や空想の類と、真に自らを区別できるのか?
以下、x、△、◯、◎の4つの記号で評価する。この評価は相対的なものであり、-12dBより-6dBのほうが良いから、-6dBを◯にするなら、-12dBはxにしよう、いや△だなと、振り返ってつけており、最終的にもう一度聴き直して、記号を改めていたりする。また、「M」は上掲のP-4600のマニュアルの「MAX(通常)」を表している。
しつこく繰り返すが、各ゲインでプリアンプのボリュームを上げたり下げたりして、そこで見つかった最適値を比較し、かつ、次のゲインステージを聴きながら前のゲインの評価をするというように事後的に評価しているので、各ゲインの値そのものが良いとか悪いとかいうことを言っていない。ゲインの値がいくつであると望ましいのかは、自分のスピーカーの能率やインピーダンス、プレイヤーないしDACとプリの出力特性、そしてどんな密閉度の空間で、どんな距離感で、どれくらいの音量を出して視聴したいのか、という無数のパラメーターの1つと考えなければならない。
①ビートルズ -12:△、-6:◯、-3:◯、M:◎
「ゲインを上げていったほうが歪み加減が良い?Mは声の波形の潰れが目立つが、暖かくエネルギッシュなのがよく合っている。ラストに向けて錯乱が進んでいく展開をもつ曲だが、-12は生真面目すぎて、楽しめない。」
②ピンクフロイド
-12:×、-6:◯、-3:◎、M:◎
「やはり-12はプリのボリュームを3時まで開いたが面白くない。-6はバランスが良いと思ったが、-3と、何よりMはリチャード・ライトのハモンドオルガンやシンセサイザーが漲り、部屋の空気がオーラに変わる。この充溢する《M》のサウンドは堪えられない最強のエレクトリカだ。しかし、ギルモアのギターの歪みも多くなり、甘さがマックスの最中で嫌な音もちらほら。それをどう捉えるか。私はぎりぎり愛する。」
③ブルーハーツ -12:×、-6:△、-3:◯、M:◎
「ビクターのエンジニアが一生懸命にリマスターしたのだという。《僕たちの青春》の復活をまず喜びたい。しかし、手を加えたところで相当な歪みはどうにもならず、楽しみで仕方なかったのに、「うるさくて」聴いていたくないとなる。ゲインが1番低いところから高いところへ行くにつれて、「うるささ」が増すのではないか、ゲインのコントロールなどしても意味がない。古い映画(小津安二郎や木下恵介やベルイマンや)は今試聴するなら音量を上げられないのだ。それと同じだろうという予想に反して、最後、ゲインマックスでほんの少しボリュームを絞ったところで、ヒロトの声となんとか向きあうことができた。吐き気がすーるだろう、みんな嫌いだーろう、あーあーあーあー、、、ぼく、パンクロックが好きだあー!なお『Train - Train』までの3アルバムがデジタルリマスターがなされている。『人にやさしく』も単品でいいのでやってもらえませんか?ハイロウズもぜひお願いしたい。m(._.)m」
④メタリカ
-12:△、-6:◯、-3:たぶん◎、M:たぶん◎
「スラッシュ伝説の幕開けも、ゲイン-12dBからである。プリのボリュームを相当に開放した。エレキギターは火を吹かない。-6で、恐々とプリを開放すると、《聴いていられる》。というのは、SHM-CDの新しいリマスターよりも、ジェイムズ・ヘットフィールドのボーカルがちっこくなく遠くない(ロックのHiFi再生でありがちなのがナイ)とか、ラーズの増幅なしのバスドラも前に来るし、スネアなのか響き線みたいな金属音がきんきんながらがんがん前に攻めてくるな、とかいうこと。ぎりぎりを見つけるのにかなりプリをコントロールしたが。-3以上になると、引っ込みがちなバスドラで腹がごんごんやられるが、それ以上に両肘をベースとリズムギター?の音圧で揺さぶられて、冷静に聴いてられない。カークのギターソロは火を吹くというより、むしろボイスコイルが燃え尽きそう。当然、プリのボリュームを下げながらゲインを上げてきているわけだが、P-4600(BTL)が伝達する強大な力にスピーカーが破壊されそうで聴きながら調整できない。FOCALのスピーカーで言うと2段階アップでスカラ・ユートピアEVO(572万税込)くらいでないと、操作的に振舞うのは難しいかも。まことに金とは第六感であるのでしょうか。」
⑤ニルヴァーナ -12:x、-6:△、-3:◯、M:◎
このアルバムは楽器の音がとてもリアル。ばすんって消える前に弾む躍動するエレキサウンド。ギターが羽を広げてエレキの幕で空間を覆う。試聴したのは192/24のFLACだけど、96/24の2chのBlu-rayが先行してたかも。Blu-rayもかなり良い。どんなシステムでもそれなりに楽しめる安定した設計なんだろうね、元が。だから、プリのボリュームを上げても、ゲインを上げても、音が良くなるのは微増かな。しかし、ゲインが低いとつまらない。毒々しさが薄れて、冷静な聴き方しかできない。しかしそれはこのバンドの聴き方ではなかろう。
⑥スリップノット -12:△、-6:△、-3:?、M:?
死ぬ。これ、無理でしょ。怖すぎる。恐烈ホラー映画と一緒。呪い殺されようとしているのか、スピーカーを破壊されようとしているのか分からんから、ゲイン上げてボリューム下げて、少しボリューム上げて、なんてやってられん。-6のところでプリのボリュームを上げたら、音が痩せていて上辺だけの大音量系になってるのは分かった。たぶんゲインを上げたら良くなるはず。しかし、それでは聴いていられない。スリップノットって見た目だけじゃなくて、けっこうしっかりとした作りの重厚ハードロックなんだよね。
☆感想
一連の比較試聴に本腰を入れたのは朝8時前だった。終わったのは夕方16時くらい。スリップノットを断念して、もう一度ビートルズを聴き直した。くたくたになった。ゲイン下げて、プリのボリューム下げて、ダイナミックレンジを確認して徐々に上げていけば、突然ドカーンとはならないはずと自分をおちつかせてみても、気が気でなかった。なぜなら、そもそも心配にならないような音圧帯ではまったくロックを感じず、面白くなかったから。必然的に、可能なマックス値に向かってポイントを探していくのはスリリングでそれ自体が楽しかったが、最後は疲労困憊。
こうした試聴の前日の夜、パワーアンプをブリッジモードにして、『THE BLUE HEARTS』をとりあえずかけてみた。一聴して、比較なんて無理かなと思った。ヒロトの声の懐かしさなんて感じなかった。「煩くて」聴いていられなかったのだ。そもそも片chモノラルからブリッジにすると、「煩く」なる。そしてクラシックやJAZZのリマスターではなくネイティブハイレゾファイルばかりを聴きつづけた耳には、いくらリマスターでハイレゾリューションに仕立てたとはいえ、厳しい。
厳しさの正体は、歪み、であると思われる。波形が潰れた途切れるような音。また、S/N比をあげるべくノイズを取ったのかもしれないが、中間の音がなくなっているので、ガサガサして、余計に「煩い」。今回の試聴では、この中間の音が比較的なくなっていナイのは、ニルヴァーナとスリップノットであろうか。中間とは聴こえる音と聴こえない音の中間に薄く広がるファジーな領分の音のこと。
ゲインを下げると、このような「煩さ」は、いくらか緩和する方向になる。しかし、それに比例して、楽曲がつまらなくなっていく。もはやボリュームによっては取り戻せない活気やエネルギッシュさが、ロックで薄めてはならないものが、薄まり、消失していく。熱いエモーションが、せいぜい分析的であるにすぎないディスタンスによって、疎外される。
ハードなロックは、本質的にロックが胚胎する《歪》を、ゲインという名の《熱》で乗り越えないといけない、、、S/N比など、そもそも気にしてはいけない、、、のか。。。