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PCオーディオに挑戦⑱:canarino DC power supply12V

☆プロローグ

シリーズ前々回、『PCオーディオに挑戦⑯』でUSB外部電源オプションのDCラインをFINEMETでコモンモードチョークしてみると良質な結果が得られた。その時点では、FINEMETコアにエルサウンドの特注リニア電源(5V、9A仕様)のDCケーブルを1巻きしたものから始めて、その他のスイッチング電源(iFi audio、iPower2)や、コトヴェールなどを足し算、引き算しながら、様子を見てみようと思っていたのであった。しかし、FINEMETトロイダルコアにDCケーブルを1巻き通しをすると、一聴して静けさは感動的。スイッチング電源やその他のアイテムを繋ぎかえて比較モチベーションをほぼほぼ無化するほどの改善だった。これはUSB外部電源オプション(USBセルフパワー)の2次側、つまりDCラインに手を加えた成果である。次は1次側、AC電源側となる。エルサウンドの9V5A出力仕様の特注リニア電源には、コトヴェール(最大5A)が合わなかった。別のことを考えるとしよう。

ところで、「ゲイン探求」シリーズで3本の記事を書いた。自分の中では出涸らし感はまったくなく、ゲインの調整を相変わらず模索している。仕事と家の事情から小音量で映画や音楽を視聴することが大半になってきたから。小音量帯の場合は、ゲインを少し下げて、プリのボリュームをできるだけ開放するという仕方で聴くと、S/N比を高く保ち、小音量なりに立体感を保持できる。そこでルノー・カピュソンというグァルネリ使いの超絶美音ヴァイオリスニトのトラックで「ゲイン探求」をしていた。

ルノー・カピュソン"Cinema" (FLAC 96/24)

もちろんカピュソンのヴァイオリンは信じ難いほどに美音であったが、どうもピンとこない。下の引用は、試聴時の私のメモである。(笑)ゲインを最大(M)から最小(-12dB)にしながら、比較試聴していた。けっこう酷いことを書いている。しかし試聴しながら確かにそう感じたのだ。このメモを書いた時点での私の結論は<<録音が悪い、編集も悪い。特にオケの色彩感がない>>というものである。

②ルノー・カピュソン
M:x、-3:△、-6:◯、-12:△

ゲインM、プリ11時スタートしたが、煩く感じたのでプリを9時40分くらいに下げた。当たり前だが音量差はある。しかしルノー・カピュソンとオーケストラを分けるのがそれだけなので、前景が塗りつぶされてしまう。ゲイン-3で、プリをリモコンでワンプッシュアップでは、ヴァイオリニストが半歩出たか。オケが取り巻いているが、そちらも少し奥行き方向に空間が拡張される。前景は見えてきた。が、背景はべたのまま。ゲイン-6、プリをワンプッシュアップは、少し改善したが、やはりオケの様子は見えず。ベタな感じは薄れたが。ゲイン-12、プリをツープッシュアップすると、ボリュームポッドは10時30分くらいか。オケばかり聴いてしまって、カピュソンはそっちのけになった。指揮者かなあ。オケのほうのマイクセッティングかな。オケの分離感があまりに乏しい。指揮者か?

ということでリトライ。
-12&ボリュームツーアップ→オケがちょっとマシになったかな。今度はカピュソンが引っ込んだかな。

さらにトライ。
ボリュームは変えずにゲイン-6。→ たんに録音が良くないのか。音量差以外の情報をカピュソンとオケの関係に対して与えられていない。カピュソンはこのレコーディングが「嫌」だったと(display of reluctance)、roonのINFO欄にある。このアルバムはカピュソンのこてこてのクラシックアルバムよりも音圧が高い。持ち上げているので、ダイナミックレンジも低い。やれやれ。
なんだかんだ言って、今またリピートしたから、通しで7回連続。超美音だね、グァルネリのカピュソン。それを伝えるためだけの録音ならば、成功なのか。

数日前の自分の試聴メモ(爆)

こんな風にメモを書いてみたものの、単に他人のせいにしているだけの気がして、まったく得心がいかない。そこで今、『Accuphase、P-4600:ゲインの探求』の第4回を書くかわりに、canarino DC power supply12Vという電源について記事を書いているのは、さっぱり納得がいかなかったので、この電源の出力側と入力側の両方に手を加えたのだ。

そして、この一連の施行の最後に、私は、自分の書いたメモと正反対の結論に到達した。録音が悪いせいで、オケの色彩が乏しくなってしまっているのだと思ったわけだが、悪いのは私のシステムのほうだった。

今話しているのはPCの電源である。それを以下のような変更を加えた経過観察が、今回の記事の主旨である。
①電源の2次側のDCケーブルにFINEMETを巻き付けた。
②壁コンを家の分電盤の専用回路から、他の全ての音響・映像機器と同じ専用アースを持つ専用回路のコンセントに差し換え、全面的なタコ足、かつ、全面的専用アース接続にした。
③電源の1次側からノーマルモードフィルター付き電源タップを取った。
④電源の1次側からコトヴェールを取った。
⑤電源の1次側のリアルアースを切断した。

⑤で、カピュソンの「ニューシネマパラダイス」の録音はオケの楽器の音色が混ざってしまって、区別のつかないべた塗の録音には実はナッテイナカッタことがわかった。

オケの色彩が聴こえたのだ!

アース切断で!PCのスイッチング電源から、接地抵抗が極めて低いアースを切断してみて、音質が良くなるとは、いったいどういうことなのか?

まず使用している電源、canarino DC power supply12Vの紹介。



☆オリオスペックの挑戦

canarino DC power supply12Vを今一度紹介することにしよう。以下の画像は商品ページのもの。

フロントパネル この画像は銀がてかてかしてみえるが、実物はもう少し高級感があるマットな風合い。電源スイッチは1~2秒だがゆっくりとソフトに入る感触はその値段に相応しい。ただし、寝起きは快調そのものである。
リアパネル 12Vで12.5Aをハンドルするハイパワー。4ピンのDCケーブルを挿してから、リングを回して固定する。
サイドに大規模な放熱フィンを持つが、触ってみると発熱はほとんど感じない。色味はこれが実物に近い。
専用DCケーブルはDiretta Contorno FLUSSO-CODA for canarino DC power supply ごついアダプターでがちっと固定。酒井氏は4ピンであるのは日本の規格の問題であると言っていた気がする。オヤイデの102SSC導体を採用しており、ケーブルは軽くしなやか。
canarino DC power supply12Vの背面。脚以外は底面にネジがないのがにくい。ネジは底につけるのはカッコつけてるだけ。4本の脚はスポンジ。マグネシウムのブロック2つを使って筐体を浮かしたところ、少しだが、風合いが上がった。この2つのブロックを1枚のボードに載せれば、また音質が上がると思われる。機材の脚やインシュレータは同一の平面に載せると質感があがるというのは別所での経験談。

オーディオ用PCのパイオニアであるオリオスペックは、電源部をどうするべきかを常に模索していたのは想像に難くないだろうし、実際にそのECサイトを見ると理想の電源をずっと探していたのが分かる。「製品企画担当より」と名打たれた製品案内を、襟を正して、今一度読んでみるとしよう。強調は引用者。

(前略)

スイッチング方式にしてリニア方式に比肩し得るウルトラローノイズを現実のものとするのは、細部にまで調整し尽くされたソフトスイッチングと呼ばれる振る舞いによるもの。それは、電圧共振と電流共振という二つの共振回路を組み合わせた“複合共振”と呼ばれるダイトロンオリジナルの仕組みで実現されています。電源ユニットが発する各種ノイズでオーディオ以上に厳しい要求を突きつける特殊且つ専門性の高いクリティカルな機器の分野において、リニア電源からのマイグレーションを目的に多くの採用実績を有しているのが、そんなダイトロン製スイッチング式電源ユニットなのです。

小型にもかかわらず大きく安定したDC出力が実現できるスイッチング方式のストロングポイントをそのままに、オーディオマニアを含めた“電源由来のノイズに対し厳しい姿勢を貫くユーザー”すら納得させるであろう常識外れの電源ユニットは、実のところ我々の目の前に存在していました。<<比較対象をリニア電源のそれとした方が望ましいDC出力側のリップルノイズレベル>>、<<仮にアイソレーショントランスを前段に追加したとしても事実上機能することは無かろうと言い切るAC入力側の雑音端子電圧(入力帰還ノイズ)レベルそれらの振る舞いと同じくする極少の不要輻射、対策が厄介なコモンモードノイズの低レベル化の実現>>。複合共振型によるソフトスイッチングの特長をして、ハードスイッチングとしてふるまう、即ち従来のスイッチング電源が示す様相とは全くオーダーを異にするもの。故に過剰なノイズフィルタリングの仕掛けすら無理なく省略出来た、と開発ベンダーは冷静に語ります。

(後略)

https://www.oliospec.com/blog/?p=3536

大出力でありながら、DC出力側もAC入力側も極めてレベルが高いスイッチング電源を作ったということである。この高級電源を数カ月前に導入することに決めた後で、他の人がどう思っているのかネットを参照したことがあった。さほどに好意的な反応は多くないようだった。PHILEWEBにはDC電源の比較試聴が掲載されているが、FERRUM AUDIO のHYPSOSが「圧勝」であるらしく、驚いた記憶があるが、今調べてみるとHYPSOSは連続6Aで瞬間最大9Aのようなので、そもそもcanarino fils9 Rev.5の電源には関係なかった。それにしても「圧勝」とはね。

私がこのcanarino DC power supply12Vの導入を決めたときの印象は『PCオーディオに挑戦①』に書いた。GaN FET搭載 ACアダタプー「ATM200TS-P120」 と比較したわけだが、ノイズフロアーがより低く、例えば生楽器の固有性が良く出る、透明で自由な電源であると思ったのであった。

canaririno DC power supply12VをGaN電源と比較した。

数カ月使った印象なのだが、もっと良くなるはずだと思う。もっと透明になる気がするのである。canarino DC power supply12Vは、どこぞの評論家を驚かせる能力を持つはずだが、まだその可能性は実現していない。セッティングの真似事はしてみたが、本決まりにならないので、電源ケーブルも動きようがない。今使っているのは純正っぽく見えるが、別の製品についてきたモールディングされた3Pのケーブル。2本は見た目が似ているが、同じものではない。


☆①2次側にFINEMETを装着

何かと言うと、FINEMETとそのオリジナルスタンドである。白黒の縞々のやつは特別なマスキングテープの芯を活用したインシュレーターである。これを下のように、ラックの裏側に設置して、FINEMETでDCケーブルをチョークしてやろうと。

結構頑張って中腰を維持して配線を試みたが、奇怪な蜘蛛の巣のように空中配線していた何かに袖が引っかかって、ケーブル軍団ごと崩れ去ってしまたのだが、奇跡的に下のようにオーディオクエストのFogにひっかかったので、その幸運に賭けて、試聴することにした。少し良くなった気がする。これであればFINEMETつけてもつけなくも変わらないか。悪くはなっていない。

キャサリン・ゼタ=ジョーンズのように美しくはないが、ぷるぷるしながら踏ん張ったので、太ももがぱんぱんになった。

『エントラップメント』(1999)のキャサリン様は非常に美しかったですね。

☆②コンセントを移動してタコ足化

canarino DC power supply12VのAC側。銀色のはKOJOのC2P2で、2口のコンセントは相互に非干渉で、ノーマルモード用のフィルターを搭載している。14Aがマックス。

画像の中央にある銀色の壁コンセントから、画像左側の黒い電源ボックスに移した。銀色のも黒ボックスも壁コンセントは同じFurutechのGTX-D NCF(R)である。極性はもちろん合致しているが、赤相/黒相の位相は確かめていないが、たぶん両方とも黒である。黒い電源ボックスは出水電器のEO-01である。低抵抗の専用アースはEO-01にのみ接続しており、音響システムの全部がEO-01で給電されている。

あまり変化がない。良くもなっていないし、悪くもなっていない。こういう場合は別のところにボトルネックがあるはずである。


☆③2口分岐型ノーマルモードフィルターを取った

KOJOのC2P2を外して、コトヴェールの3Pプラグを直接EO-01に挿した。やはりあまり変化がない。C2P2を取り去ったならば、バネ式の接点が2つなくなるのだから、その分は音質が改善されても良いのだが、あまり動きがでず。相殺されたのだろうか?C2P2の良かったところが減ったのと、接点が減ってたことで多少の改善がなされたことが。


☆④コトヴェールを取った

音質改善は少しである。少し良くなったような気がする。良くなっていないかもしれない。この時点でのcanarino DC power supply12Vに繋げていた電源ケーブルは別の機器のおまけで、モールディングされた3Pの電源ケーブル。しかも、その機器はそれぞれ別物なので、見た目は非常に似ているが同じケーブルではない。よく似たおまけのケーブルをcanarino DC power supply12Vの2台に接続&給電。このおまけのケーブルは導通をチェックしていなかった。まさかどちらかのケーブルでアース線が導通していないとかいう可能性は、排除できない。


☆⑤アース切断

アース線が生えているのが、canarino DC power supply12Vの<<純正>>モールディング、アース線付き電源ケーブル。

おまけのよく似た3Pモールディングケーブルを外して、純正ケーブルにしたので、両方のケーブルがアースなしになった。

試聴した。


冒頭の通りである。聴こえなかったオケの陰影があらわれた。コントラバスやチェロやその他の楽器の区別のないベタ塗だったのが、何色か固有の発色

しかし、S/N比があがった感じではない。むしろ下がった気もする。コトヴェールを取ったのだからねー。コトヴェールのノイズフィルターが与えてくれる高いS/N比は、滑らかな静かさで、再生音を縁取る背景が静かな湖面になる。あの静けさはなくなった。もちろんコドヴェールには限界があるのを分かっているから、今回の実験に及んだ。接点は増えるし、本体もかちゃかちゃだし、ヒューズも入っている。そうしたネガティブな部分に対してどう対処するか?そういう意味での拡張性は乏しい。

とにかく、canarino DC power supply12Vの1次側に関しては、上掲の開発担当者氏が説明している特性を持っていることは、はっきりしただろう。


☆まとめ

アースを切断して、音が良くなったのだから、アースループ的な障害があったのではないか?そう考えるのが普通ということになる。オーディオシステムは、全てリアルアースで接地していた(はず)。それがPCの電源からアースをカットして、この音質改善である。

アースはシャーシの電位を下げる。システムの各機がアースで繋がれば、外来のノイズを遮断し、かつ電位が低いところで揃って、電位の変動が起こりにくくなる。そして、特にスイッチング電源のような1次側にノイズを還流させる機器も、リアルアースを介して、大地に放出される。でしょう?

その際に、複数の機器がラインケーブルによって接続されており、かつ、一台一台を接地するならばアースループが形成され、電磁波を送受信するアンテナになる。だから、プリアンプか、何かシステムの不動の中心での、一点アースとなる。

このような話は、多くの人か聞かされていると思う。

でも、「アースループで音響障害が起こった、こ~んな音が出たよ」という経験がある人はいかほどだろうか?アースループは怖いゾっていう脅しはしつこいのにね。私はアキュフェーズのパワーアンプで専用アースじゃなくて、家のアースと繋げてエアコンをONにしたら、もの凄いノイズがでたけど、あれはアースループじゃないと思うし、それ以外はアースループだっ!ていう体験をしたことない。

ケーブルの導通を全部チェックして、シャーシの電位を測るとしよう。ノイズフィルターのアンペア容量も実験したほうがいいのかも。アンペアが合っているのと音質はイコールではないのだから。アースループ云々はそれからだな。アースループというならば、3PのEをカットすればいいだけで、簡単。

「おまけ」のモールディングケーブルがボトルネックになっていたのは間違いないはず。アースとフィルターを考え直そう。

canarino fils9 Rev.5(中段)と、canarino DC power supply 12V(下段)
canarino DC power supply 12Vの背面。この電源の可能性は無限だろう。可能性を現実にする方途を練るとしよう。まずは電源ケーブルを見直す。