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ルームチューニング①

☆プロローグ

大きなキャンバスに音場が伸びやかに広がりながら、頭や肩の裏くらいまで包摂されると、スピーカーで音楽を聴いたり、映画を視聴するのが楽しい。そうなってくると、耳で注意深く聴くこともちろんできるのであるが、全身の皮膚で部屋の空気を伝播する音の波を感じることができる。また、伸びやかで濃密な音場とともに、正確に音が配置されて、正確に動き回る、こうしたダイナミックな音像の定位も重要である。音場と定位。これは好きとか嫌いとかいうまえの、スピーカーによるピュアオーディオの大切な前提であるのではないだろうか。音色という概念もあるが、音色は個人の趣味趣向に帰着してよいのではないだろうか。
 
気に入った音色の機械を買った後から始まる、音場と定位を再現するための種々のセッティングは、どうも、終わりのない道であるらしい。この道をできるだけ丁寧に辿れる人は素晴らしい体験をすることになるのだと思う。その音場と定位をどのように改善したら良いのか?これまた、流派というのか、様々なやり方があるようだ。今回、私のやり方を提示しよう。それは他でもない吸音である。

☆反射系、3つ

スピーカーが音を出す。するとバッフルが反射音をだす。もう一台のスピーカーのエンクロジャーも反射音をだす。側壁、背後壁、床、天井、あらゆるものが反射音を出す。音速で飛び散る反射音が何度も反射を繰り返してエコーになり、尾を引く残響が混濁の度を高めていく。このようなフラッターエコーと呼ばれる現象の対処は、割と単純であるのではないだろうか。壁面に凹凸を出すべく、拡散材を取り付けたり、壁のダンピングをしたりである。INAXのエコカラットを部屋中に、、、なんていうのはお洒落でいいかもしれないが、その壁面は他に何もやれなくなるので勧めない。エコカラットではオーディオルームの諸問題はほんの一部分しか解決しない。

4年前の工事中の天井である。座布団みたいに天井に貼り付けてあるのは、arteの吸音拡散材。この写真では3つしかついていないが、4つであるし、今もついている。後には、さらに増殖したし、取り付け方も変えた。おまけに吸音拡散材のダンピングまでした。ところで天井の表面材が格子状になっているのが分かるだろうか。黒く塗装したソーラトンである。ソーラトンにもバリエーションがあり、キューブ状のものにして有孔の吸音部の表面積を稼いでみた。《小さな》凹凸に音響障害を解決する力があると信じていたのだ。しかし、ここまでしても天井のフラッターエコーがまったく消えていないことにはすぐ気づかされることになった。問題の正体はフラッターエコーではなかったのだ。

フラッターエコーに関して、吸音系のアイテムはどうなのか?もちろんある程度の効果は期待できる。ウレタン系のもの、ポリエステル系のものが安く、アマゾンでは大量に安価で販売されている。ウレタンは無音に思えるであろうが、固有の音を出すので注意したい。とにかくこれらは、反射の緩和にはそこそこ役に立つ。自作した拡散材の表面は毛氈(100%ウール)で覆っているので、フラッターエコーに関する私の対策はソフト系の拡散材によるものである。

大中小のうちの中のやつ
たくさん作って
たくさん付けた。今はもっとたくさん。(^^)
中身は、ニードルフェルトとシンサレート。様々な形で無数に作って、無数に設置してやっと、天井のフラッターが消えた。順番が間違っていた、と思う。フラッターエコーの対策から始めるべきではなかったのだ。


ブーミングと呼ばれる現象もある。ブーミングは閉所で起こりがちであるので、やはり反射がもたらす音響障害なのだと思われる。ブーミングになると低域が膨張して、ぶおん、ぶおん、とくぐもった音が出る。これはフラッターエコー対策に効果を持つ比較的小型の拡散材(例えばエコカラット)や、質量の軽い吸音材(例えばホワイトキューオン)では効果がでないのではないかと思う。ウレタン系のものは気をつけないとそれ自体がヘルムホルツ共鳴器と化して、ブーミングを始めるので気をつけたい。
 
こうした反射系の諸問題と定在波は同じものではない。一緒になって到来するが、たぶん、同じではない。部屋のある箇所である周波数の音、例えば100Hzの音圧を測定する。同じ場所で、周波数を上げたとしよう、例えば104Hzに。その時に定在波の影響下にあるならば、100Hzで70dBであったものが、104Hzであると80dBであると同じ場所であるのに計測されたりする。こういう事態を招くのが定在波なのだと思われる。定在波によって音が歪んでしまい、ある音が極端に大きく膨張したり、逆にゼロ、音が消滅してしまったりするのである。また音が混ざり合ったまま移動してしまう。このような音響障害が壁から離れた宙空や中間地点でも起こるのが定在波のなすところなのでしょう。

これは94Hzを出して、ある瞬間にマイクには96Hzで入力され、99.19dBであると測定されたことを示している。部屋の縦・横・高さの各方向に対して中央の位置で測定した。2年前のこと。
これは96Hzを出力して、ある瞬間にマイクには97Hzで入力され、85.91dBであると測定されたことを示している。94Hzの測定と同じ場所であり、15秒後のことである。比較すると、急激に音圧が下がっているのが分かるだろう。13dB以上の落差である。定在波によって音が歪むというのはこのような現象のことなのである。繰り返すが、測定は部屋の中心においてである。私のルームの天井高は約3m50cmなので、台座に乗って計測した記憶がある。

進行波と反射波が一体化して、そこに住み着いてしまっているかのように思える定在波は、音を歪めるのであるが、音を移動もさせる。ある箇所で鳴っているはずの音がそこで聞こえず、別の場所から聞こえるのである。このオーディオルームに巣くう定在波を緩和しないと、定位と音場という基本的な前提をクリアーすることが難しくなってしまうのである。
 
定在波とフラッターエコーを混同しないほうがよい。ブーミングの対策は定在波の対策と一部重なるのではないかと思うので区別しなくてよいかもしれない。定在波はフラッターエコーやブーミングを混ぜ合わせ、移動させて、悪化させる。他方で、フラッターエコーで効果を発揮するだろう〈小さく〉て〈軽い〉ものは、定在波にもブーミングにも効果を持たないまま、中高域だけを抜いてしまうリスクがある。
 
また、チケットがお高い映画館であってもブーミングを起こしているのをしばしば体験するであるから、電気的な補正が定在波に対して発揮する効果などあまり期待しないほうがよい。個人的な体験では、反射で嫌な音が出るなら、最初から出さないようにしちゃおうという程度のもので、音を歪めたくないから、最初から歪めておきました、という調子である。
 
重要なことは、中高域の音響障害にはぐっと堪えて手を出さず、最も困難な低域に対する対策を徹底することであると、私は自分の失敗談から思うのである。実は、備長炭系の多孔質の吸音系アイテムも使っているのだが、確かに音は澄むのだが、これも局所的なフラッターエコー対策と捉えたほうがよいのではないかと思う。下で書くように空気の分子の運動を阻害するが、その構造体の中に分子が侵入できる量塊の吸音材が重要である。数十cm3になるであろう狙ったポイントに対して、十分な空間を満たす量を各ポイントに炭系で用意するのは、あまり現実的ではないのではないか。

☆定在波

繰り返すがフラッタエコーの話と定在波は混同すべきではない。フラッターエコーに効果を発揮する対策をすると、これが世間では非常に多いように見受けられるが、中高域が無くなるのである。低域の問題に対しては小さなものは無意味であるし、軽いものは共振に拍車をかけるだけである。だからフラッターエコーの対策をすると、対策しないほうがよい!という倒転した結論が出てくる。こういうのは、哲学的には、反射ならぬ反動というのである。
 
定在波は、進行波と反射波の合成波である。この反射波を可能な限り遅延させて、合成波の形成を抑制する必要があるのだ。ところで音というのは、空気の振動である。したがって、まず第一に反射ポイントは空気の振動が大きくならないように、振動を抑え込むような処置が必要なのである。空気の分子が通過すると、粘着して、完全に停止させられないとしても、進行波と反射波が切り離されるようにする対策なのだ。
 
グラスウールである。一部のウレタン系のように、ブーミングも起らない。ロックウールは200Kの超重たいやつを現に今も使っている。何かの資料で最も低域に対する吸音効果が高いように書いてあったのだ。200Kというのはたぶん市販されているもので最も密度が高いもので、とにかく重い。持ってみるとこれは効きそうだなと。しかし、大したことはないというのが、私の評価。密度が高すぎると、空気が構造体の中に入っていかないのかもしれないね。消音力は強いのかもしれなが、定在波に対する部分的な対策(完全は狙わないほうがよいのでは?)を進めるには、内部に入った空気の分子を留めおき、その運動を遅延させるような物体なのだ。 

☆グラスウール、約40K、任意の一辺が20cmオーバーの立体

40Kというのは密度の問題である。ホームセンターにあるのはたぶん20Kくらい。予想だがフラッターエコーにしか効果を発揮しない。密度が低すぎると、かすかすで空気分子の運動が阻害されないのではないか。しかし、ロックウールのことで上に少し書いたように、密度が高すぎると(グラスウールで言うと80Kとか96Kとか)空気分子が入っていかない可能性がある。ということで、しつこいし、あくまで私の個人的経験に基づく予想ではあるが、40Kくらいなのではないか。私は32Kを主に使っているが、入手し易かったからという理由である。
 
グラスウールによる吸音は、グラスウールに背後空気層を持たせることで、低域に対する吸音能が劇的に向上する。しかし、背後空気層を持たせるのは、自作の場合は難しい。だが、安心してほしい、20cmの厚みであると背後空気層の有無は有意な差ではなくなるという実験データを読んだことがある(記憶ではオランダ人の書いた英語の論文)。
 
そういうわけで、定在波が入射する方向に対して厚みを20cm以上にした立体をグラスウールで形成すればいいのである。大半のオーディオルームの定在波は斜めにも入ってくる。なお、多くのホームセンターには売っていない密度やサイズのグラスウールやロックウールは建築資材を扱っているアウンワークス等で入手できる。

☆対策の前に、ニアフィールドの用意を

これも自分の体験談に由来するのだが、定在波の対策を進める前に、ニアフィールドリスニングに移行した方がよい。ニアフィールドとはあくまで相対的なものだが、少なくとも壁や天井よりも早く自分の耳で音を拾えるようにしておかないと、自分のやった対策に自分自身が気付かずに余計なことに金と時間をつぎ込むことになってしまうかもしれない。また、リスポジを背後壁からできるだけ離すことも重要だ。壁際は、定在波という条件下ならば、必ず歪んでおり、壁の音にやられている。とにかく定在波が厄介なのは、ある程度の対策をして、定在波の外に足をかけてみないと、自分が定在波の支配下にあることに気付けないのである。

壁から離れて、ニアフィールドリスニングをしながら、2曲くらいのレファレンス音源を聴きながら、吸音による定在波の緩和を進めてほしい。基本的に定在波の対策を進めないといけないと思っている人には、ニアフィールドを勧めるが、定在波の対策が一段落したら、徐々にリスポジから距離をとってみてもいいと思う。

ニアフィールドはやり過ぎ?と思うくらいでもいい。トールボーイでも1m50cmくらいはいけるはず。私はクラシックのライブ音源でも1m10cmくらいの距離で一応定位することは確認できた。ただ、スタジオ録音されたボーカルものは、半ば強制的に定位するので、それで確認しながらやった方がよい。そのようなスタジオ録音のボーカルだけだとクラシックやJAZZをかけた時に全然定位していないとなるが、これらは正解が分かりにくいので、スタジオボーカルを勧めている。そのスタジオ録音のボーカルでもし定位しないならばニアフィールドをやり過ぎである。こうしたことはスピーカー同士の距離や、スピーカーやアンプの左右chの位相、等々も関係するのだが、細かいことは気にしないほうがよい。何も進まなくなる。

このようなスピーカーセッティングを極端に動かす実験は、部屋という動かないものの特性を知るのに極めて有効である。壁から離す。自分も壁から離れる。ニアフィールドで、絶対にセンター定位を確保。センター定位を確保しないまま、ルームチューニングしてはダメですよ!左右の位相合わせという無限地獄に落ちますからね。

続きは、さらに具体的なやり方の話であるが、また今度。(^^)