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PCオーディオに挑戦⑫: DAC…MAY KTE

2ch用のDACを導入した。Holo AudioのMAY DAC KTEである。

漢字で「梅」の名を持ち、独自に組んだR2R方式と、1ビットの回路を併設するMAY DAC。
MAY DAC KTEは、DAC側は穏やかに発熱する。電源環境に敏感に反応する。また、電磁波対策はさほどに効果を出さない。ノーマルの脚はカエルのそれに似た、ユニークな形状をしているが、しっかりしたインシュレーターの3点支持にすると、かなり音質が向上する。


かなり迷った。SPRING3 DACにしようか、あるいは、GUSTARDとかを試すべきか。既成のDACチップを使ったものであるなら、ESSのものは少し飽きてきた。また、全部が1 bit処理や、逆に、なんでもマルチビットでも困る。DSDとPCMの違いが分からなくなるから。違いが分かったうえで楽しみたいのである。そしてまた、USB入力に強みがあるという点も譲れない。BULK PETに対応するLUXMANの新作は、チップはROHMであるし、買えない値段でもないので良いのではないかと候補にした。下に特性の抜粋をしたが、その④の機種である。そこで非常に気になったのが、以下の特性である。

〇バランス 出力インピーダンス600Ω
2.4V (DSDフォーマット再生時 2.3V)
●アンバランス 出力インピーダンス300Ω
2.4V (DSDフォーマット再生時 2.3V)

DSD再生で出力電圧が0.1V下がるというのは、どういうことなんだ?しかしまた、逆に、DSDとPCMの出力電圧を明示しているのはLUXMANとHolo Audioだけである。私は音源としてDSDが好きだが、市場の大部分がPCM系なので、PCMも重要である。しかるにDSDとPCMの特性を個別に表現できるDACが望ましい。ということで、LUXMANとHolo Audioの選択を理性的にやればいいし、他のメーカーのDACはその特性を明示していないのだから、選択の余地はない。スペックは明らかに全てではないが、スペックにないものから始めることはできない。

④のラックスはバルク伝送というのができる。オリオスペックの酒井氏が(酒席で)言っていたのだが、Bulk Petは素晴らしい、Direttaと同じ趣旨のことをUSB伝送でやっているらしい。USB伝送に拘っている私としては、大いに試してみたいところ。しかしLINUX系はBulk Petが使えないらしく、結局、Holo Audioしか選択肢に残らなくなった。悩んだのだが、最後はあっさり消去法で解決した。

①DSDとPCMを別個に扱える仕様であるかどうか
⇒ Holo AudioのDACは精妙に作り上げたR2R回路でPCM系を処理し、DSDはそのR2Rを介さない1bit処理をするメーカーオリジナルのDACモジュールである。

②USB伝送に強みがあること。
⇒ まず物理的な保持力の高いKycon社製のオレンジのコネクターを搭載している。USB伝送をやりたい側からすると、このコネクターは非常に好感が持てる。もう少しややこしい部分に関しては、長くなるが引用しておこう。
The May DAC (all three models) will also support DSD1024 native and PCM 1.536MHz output! Theoretically it can do DSD2048 and PCM 3.072Mhz however is untested at this time. Also, we have worked hard to reduce the common click noise with all dacs when switching from DSD to PCM. This sound click sound has been reduced significantly with a special circuit design. The May DAC has the new and exclusive USB Enhanced module (L2 and KTE ONLY) which has our FPGA with the new Titanis 2.0 and custom firmware to improve USB Eye Pattern and reduce latency to near zero as well as reduce jitter to very very low levels. The USB module has completely new code written to optimize performance and reduce latency significantly. Low frequency performance (-40db) is also improved. The “enhanced” USB xmos module is twice as powerful/capable as the one that is used in the Spring2.
「May DACの全3モデルはネイティブDSD1024、及びPCM 1.536MHzの出力する!理論上、DSD2048とPCM 3.072Mhzを出力することも可能であるが、現段階では検証していない。また、私たちが懸命に努めたのは、DSDからPCMに変換する際に全てのDACに共通に見られるクリックノイズを減衰させことだった。このなかなかご立派なクリック音を特別な回路設計によって著しく減衰させた。L2とKTEだけであるが、May DACには新しい、唯一の(exclusive)強化型USBモジュールを搭載しており、このモジュールの私たちが作成したFPGAはUSBアイパターンを改善し、遅延をほぼゼロにまで減らし、ジッターを極めて低いレベルにまで減衰させるために、新型のTitanis2.0とカスタムファームウェアを搭載した。このUSBモジュールは全く新しいコードで書かれており、パフォーマンスを最適化し、遅延を著しく減退させるのである。低周波数のパフォーマンス(-40db)もまた改善している。強化されたUSB xmosモジュールはSpring2で用いられていたものの2倍の能力を持つ。」

この画像は私のMAYに搭載されているEnhanced Generation 2.1 USB Moduleではなく、GEN2.0のもの。2.0と2.1の違いはモジュールの性能差ではないようだ。2.1はSPRING3 KTE、MAYのL2とKTEに搭載。

勢いのある文体だが統辞構造が崩れているせいなのか、単に私が技術系の語彙に不通であるためなのか、不明な箇所は多い。しかし、USBに色々と工夫したんだと信じることにした。こうしたHoloのUSB入力がだめであったとしても、I2Sに逃げることはできなくはないので、ここはとにかく好意的に判断した。(-_-;)

RoonにはMAYの登録がないようだ。上に挙げたUSBモジュールの名前が表示される。Canarino fils9 Rev.5に搭載したSOtM、tX-USBx10GからMAY KTEに、I2S接続するために各種の介在を用意するのは蛇足にならないのか?この非常にシンプルなUSB接続の完成度は極めて高いと感じる。

☆DSDとPCMにおける出力電圧

上に述べたようにLUXMANのDA-07Xという新型を検討していて、各機種で出力電圧の違いがあったり、なかったりするのがとても気になった。以下に私が検討した機種の特性を抜粋する。

①TEAC UD701N 

(コスパの高いネットワークDACプリ)
〇バランス 出力インピーダンス220Ω
2.0Vrms (1kHz、フルスケール、10kΩ負荷時、固定 0dB設定時)
4.0Vrms (1kHz、フルスケール、10kΩ負荷時、固定 +6dB設定時)
12Vrms (1kHz、フルスケール、10kΩ負荷時、可変設定時)
●アンバランス 出力インピーダンス180Ω
2.0Vrms (1kHz、フルスケール、10kΩ負荷時、固定 0dB設定時)
4.0Vrms (1kHz、フルスケール、10kΩ負荷時、固定 +6dB設定時)
6.0Vrms (1kHz、フルスケール、10kΩ負荷時、可変設定時)
◎周波数特性:5Hz〜80,000Hz (+1dB/–5dB)
△全高調波歪率:0.002% (1kHz、LPF: 20〜20kHz)
◇S/N:108dB (A-Weight、1kHz)
☆DNR:不明
・消費電力:40W


②ESOTERIC N-05XD

(ネットワークDACプリ)
〇バランス 出力インピーダンス220Ω
最大5.0Vrms(PCMフルスケール信号入力、アナログ音声出力レベル設定 FIX時)
●アンバランス 出力インピーダンス60Ω
最大2.5Vrms(PCMフルスケール信号入力、アナログ音声出力レベル設定 FIX時)
◎周波数特性:5.Hz〜75.kHz.(−3.dB)
△全高調波歪率:0. 0015%.(1.kHz)
◇S/N :105dB
☆DNR:不明
・消費電力:38W


③Accuphase DP-770 

(一体型のトップエンドSACDプレイヤー)
〇バランス 出力インピーダンス50Ω
2.5V
●アンバランス 出力インピーダンス50Ω
2.5V
◎周波数特性:0.5~50,000Hz +0、‒3.0dB
△全高調波歪率:0.0004%(20~20,000Hz)
◇S/N :121dB
☆DNR:119dB
・消費電力:30W


④LUXMAN DA-07X

(Bulk Pet対応のROHMのチップを積んだラックスの最新USB DAC)
〇バランス 出力インピーダンス600Ω
2.4V (DSDフォーマット再生時 2.3V)
●アンバランス 出力インピーダンス300Ω
2.4V (DSDフォーマット再生時 2.3V)
◎周波数特性:5Hz~20kHz (+0、-0.4dB)、5Hz~47kHz (+0、-3.0dB)
△全高調波歪率:アンバランス 0.001%、バランス 0.001%
◇S/N:124dB (IHF-A)
☆DNR:不明
消費電力:17W

DA-07Xの内部 どうもD-07XからSACDドライブをなくしただけではないようだ。

⑤SOULNOTE D-2

(Bulk Pet対応のUSB DAC)
〇バランス 出力インピーダンス?
5.6Vrms
●アンバランス 出力インピーダンス?
2.8Vrms
◎周波数特性:2Hz~120kHz (+0/-1dB)
△全高調波歪率:0.008%(NOS/176.4kHz) < D-1は0.003 >
◇S/N:110dB
☆DNR:不明
・消費電力:56W


⑥SOULNOTE D-3

(外部クロック専用でZERO LINK搭載した、Bulk Petにも対応する本体重量が約28kgのDAC)
〇バランス 出力インピーダンス?
5.6Vrms
●アンバランス 出力インピーダンス?
2.8Vrms
◎周波数特性:2Hz~120kHz (+0/-1dB)
△全高調波歪率:0.008%(NOS/176.4kHz) < D-1は0.003 >
◇S/N:110dB
☆DNR:不明
・消費電力:48W


⑦MARANTZ SACD-10

(マランツの最新旗艦SACDプレイヤー)
〇バランス 出力インピーダンス?
4V
●アンバランス 出力インピーダンス?
2Vr
◎周波数特性:SACD: 2 Hz - 50 kHz (-3 dB) CD: 2 Hz - 20 kHz (±1.0 dB)
△全高調波歪率:SACD: 0.0004 % CD: 0.0015 %
◇S/N:SACD: 118 dB CD: 116 dB
☆DNR:SACD: 112dB CD: 98dB
・消費電力:55W


⑧MARANTZ SACD-30n

(コスパが高いと評判になったSACDプレイヤー)
〇バランス なし
●アンバランス 出力インピーダンス?
2.5V
◎周波数特性:SACD: 2 Hz - 50 kHz(-3 dB)CD: 2 Hz - 20 kHz(±1 dB)
△全高調波歪率:SACD:0.0008 %、CD:0.0015%
◇S/N:SACD:112 dB、CD:104 dB
☆DNR:SACD:109dB、CD:98dB
・消費電力:48W


⑨Holo Audio May DAC

〇バランス 出力インピーダンス?
5.8V(PCM)、 2.9V(DSD)
●アンバランス 出力インピーダンス?
2.9V(PCM) 1.45V(DSD)
◎周波数特性 ?
△全高調波歪率:0.00017%(PCM/48KHz NOS)、0.00025%(DSD128)
◇S/N:115dB(PCM)、112dB(DSD)
☆DNR:130dB(PCM)、115dB(DSD)
・消費電力:60W

Holo Audio, MAY DAC KTE

⑩Holo Audio Spring3 DAC

〇バランス 出力インピーダンス?
5.8V(PCM) 、2.9V(DSD)
●アンバランス 出力インピーダンス?
2.9V(PCM) 1.45V(DSD)
◎周波数特性 ?
△全高調波歪率:0.00032%(PCM/48KHz NOS) 0.00025%(DSD128)
◇S/N:110dB(PCM)、112dB(DSD)
☆DNR:127dB(PCM)、115dB(DSD)
・消費電力:40W


⑪GUSTARD DAC-R26

〇バランス 出力インピーダンス100Ω
5.0Vrms
●アンバランス 出力インピーダンス100Ω
2.5Vrms
◎周波数特性:20〜20kHz /+-0.2dB(オーバーサンプリング)
△全高調波歪率≤ 0.003%@ 1kHz
◇S/N:122dB
☆DNR:115dB
・消費電力:> 30W


⑫OPPO UDP205

(コスパ最強のリアル・ユニバーサルプレイヤー)
〇バランス 出力インピーダンス?
4.2±0.4Vrms
●アンバランス 出力インピーダンス?
2.1±0.2Vrms
◎周波数特性:20Hz – 160kHz (-3dB/+0.05dB)
△全高調波歪率≤ 0.00018%
◇S/N > 120dBr
☆DNR:> 120dB
・消費電力:65W


バランスとアンバランスで電圧が1/2にならないのは、TEACの①と、アキュフェーズの③とラックスマンの④である。とはいえ、XLRとRCAの出力電圧を合わせる意味は私にとってはさしてないので、そこは触れないでおこう。

DSDとPCMでの出力電圧の違いを示しているのは④のLUXMANと、⑨と⑩のHolo Audioである。⑨と⑩は電圧が倍違う。いったい何を意味するのか、MAYを所有しているオーディオマニアに質問すると、DSDはPCMに比してダイナミックレンジが広く、出力電圧でヘッドルームを作っておかないと、つまりPCMよりも電圧を落としておかないとピークでクリップしてしまう、という調子の内容の返事で、海外サイトの引用をつけてくれた。

DACのアナログ出力部の電圧がDSDの場合にPCMよりも低く設定されているのは、DSDのダイナミックレンジを生かすためである、というHolo Audioの出力設定に関する解釈が的を射たものであるならば、それこそが私が望むDACである。

そのオーディオマニアが引用してくれた海外サイトの文は、「一部のESSチップはDSDに6dBのゲインを割り当てており、+3dBの瞬間的ピークを迎えた時には電圧を上げる余地がもはやない」というリスクについても語っていた。実際、ESSのチップを積んだ⑫UDP205のDSD再生は、ピークに対応する電圧が不足しているからなのかは不明であるが、再生音が歪んでいたと、MAYと比べると分かる。UDP205は65Wの消費電力で、上に挙げた12の機種の中では最も大きい。UDP205の大規模なリニア電源によるPCM系の再生音は、販売当時20万を切っており、HDMIの出力どころか入力まで備えたマルチプレイヤーであることを考慮するならば、超絶のクオリティーである。しかしことDSDは「PCオーディオに挑戦①」でも薄く書いたが、不足がある。それがES9038proの電圧設定の問題に起因するヘッドルームの不足であるのかどうかは、繰り返すが、分からない。

なお、⑨Holo Audio、MAY DACは上に挙げた全11種の内で、UDP205についで消費電力が高い。発熱もUDP205なみにしっかりある。PCMの出力電圧はSoulnoteよりも高い。強大な電源部とセパーレーションを徹底して文字通りディスクリートなMAY DACが生み出す低音は、サブウーファーでかさ増ししたような外付け感は皆無。メインSPのウーファーやパワーアンプよりも、もっとずっとずっと内側から到来する、本質的で内的な低音なのである。古いCDからのリッピング音源でも、こんな低音が入っていたのかと驚く。内的で本質的なドスの効いた低音と、とろけた銀線の甘く流麗な音色の中高域が融合した出音がMAY DAC KTEなのだ。

ひとまず、高額だったがDACの選択をまちがえなかったと、溜飲が下がった。

1976年のネイサン・デイビスの『If』はハードバップのライブ録音。ガツンとくる低音は初めて聴いた20数年前の感動を振り切る。とても50年近く前のライブCDが元とは思えない。クラシックも80年代のグルダのディスクが、艶を取り戻していた。古い音源のCDのリッピングが楽しくなるMAYのNOSモードは、オーディオマニアというよりも、音楽愛好家にとってこそ、僥倖となるDACだろう。