【古典ギリシャ語をはじめませんか?】第4回:学習を続ける工夫あれこれ
堀川宏
なんとなく心惹かれるけれど「難しい」とも言われる古典ギリシャ語ですが、実際に学んでみると楽しいことが色々あります。このnoteでは私が面白いと思うことを中心に、あれこれ記してみようと思います。ぜひくつろいだ気持ちでお読みください。
英語で"It's Greek to me." が「ちんぷんかんぷん」を意味するように、古典ギリシャ語の学習は、お世辞にも容易であるとは言えません。馴染みのない文字の読み方から始めて、文法の学習に入ると毎回のように覚えるべき変化表が出てきます。はじめはやる気に満ち溢れていても、続けてゆくうちに次第に面倒になり、また消化不良の項目も増えてきて、気づいたら学習から遠ざかってしまう ―― そのような学生を毎年のように目にします。しかし学習の仕方次第で、挫折を避けることができると思います。よろしければ以下のヒントを参考にしてください。
ギリシャ語の学習をスムーズに進めるためには、何よりもまず「発音しながら勉強する」習慣をつけることが大切です。はじめは独特の文字を読むのに四苦八苦すると思いますが、読み方の不確かなものを教科書でひとつひとつ確認してゆくうちに、自信を持って読める単語が少しずつ増えてゆくはずです。ギリシャ語の文字と発音の関係はとても規則的なので、このようにして慣れてゆけば、初見の単語でも文章でも ―― それがホメロスであってもプラトンでも ―― 自在に音声化することができるようになるのです。とても心躍ることではないでしょうか?
発音しながらの勉強は、変化表を観察したり覚えたりするのにも役立ちます。ギリシャ語を学んでいるとアクセントの移動や綴り字(あるいはそれが表す音)の変化・省略といった面倒なことによく出会いますが、それらの現象には往々にして発音が関係しています。教科書などで説明される理屈を参考にして発音しながら練習すると、なぜそのような現象が起こるのかを身体で理解できることが多いのです。言語の運用というのは人間の身体的な営みでもありますから、古典ギリシャ語のようないわゆる「死語」であっても、口や喉などを実際に動かしながら学習を進めることが効果的だと思います。
これらのことに気をつけながら、教科書の内容をなるべく毎回きちんと積み上げるようにして勉強していってください。教科書のはじめの方で学ぶ内容にはその後の学習に繋がる「古典ギリシャ語のエッセンス」がつまっているので、そこをしっかり踏み固めることで、この言語をどのように勉強してゆけばよいのかを掴むことができると思います。たとえば『しっかり学ぶ初級古典ギリシャ語』では、第12課までの学習事項(動詞、名詞、形容詞の基本)がひとまずの基礎になります。ぜひご自身にσπεῦδε βραδέως.「ゆっくり急ぎなさい」と言い聞かせつつ、手や口を動かしながら繰り返し練習に励んでください。
その一方で、上記のアドバイスとは一見矛盾するように思えますが、文法の全体像を大きく捉えることも大切にしてください。それによって文法学習のための「地図」を手にすることができます。たとえば教科書をパラパラめくって拾い読みをしたり(その際には変化表を覚えるなどの細かな作業は不要です)、目次を眺めたりすることが有効でしょう。先ほど述べたような勉強を「しっかりモード」と呼ぶとして、こちらは「まったりモード」と呼んでみます。自身の気力の充実具合や忙しさなどと相談して、両方のモードを使い分けながら勉強を進めてゆくのがよいと思います。
最後のアドバイスは、学習の苦労や喜びを誰かと共有できるような場をつくることです。仲間と一緒に勉強できるような環境 ―― 勉強会はとてもよい学習の場です ―― があれば最高ですが、それが望めなければSNSなどを活用するのもよいかもしれません。そのような場所になればと思って、私も最近Twitter(@graecamdiscamus)で情報発信を始めました。古典ギリシャ語にまつわる面白い話題や学習のヒントを紹介したり、ときには学習者の声をシェアしたり、読者からの質問に答えたりもしています。よろしければ覗いてみてください。
記事を書いた人:堀川宏(ほりかわひろし)
獨協大学専任講師。1981年山梨県生まれ。2012年京都大学大学院文学研究科博士後期課程研究指導認定退学。2016年京都大学博士(文学)。訳書として『古代ギリシャ語語彙集 ––– 基本語から歴史/哲学/文学/新約聖書まで』(共訳、大阪公立大学共同出版会)と『アポロニオス・ロディオス アルゴナウティカ』(京都大学学術出版会)、著書として『しっかり学ぶ初級古典ギリシャ語』『反「大学改革」論 ––– 若手からの問題提起』(共著、ナカニシヤ出版)がある。
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